人 と 生 活 環 境 ( 理科 )

学校名:久世町立樫邑小学校 (岡山県)
指導者:教頭 片 山  一 生
児  童:第5・6学年複式学級
     5年 女子5名 
     6年 男子2名女子4名 計11名


1 単元について

(1)単元の位置付け
     (理科 1月:5時間扱い)
 社会科・総合的な学習の時間の「米作り」の学習を受けて,理科の時間で,環境についてのまとめとして本単元を位置付ける。
 理科の教科としての特質をおさえ,本単元では,生活基盤としての「田んぼ」を,自然環境の一つの要素として捉えさせ,地球上の水の循環の一部分に「田んぼ」があることを意識させながら,人の生活と自然環境との関わりを,全体的な視野で捉えさせることをねらいとする。

(2)単元構成の意図
 本学年の児童は,地域の主要産業である農業に着目し,4月より,総合的な学習の時間と社会科の時間を使って,「米作り」に取り組んできた。その学習の中で,代々地域を支えてきた農業の知恵と苦労,地域の自然環境の大部分を占めている「田んぼ」の機能と価値,学習を進めるにあたって支援を受けたたくさんの地域の人々との関わり方等,地域に生きる「自分」を支えている多くのものについて学習することが出来た。
 本単元では,理科の視点から,その学習をまとめ,あらためて,自然環境の中の「田んぼ」の機能,自然と関わってきた先人たちの知恵,そして,脈々と伝わっているその知恵を大切
にしている「地域」のすばらしさを実感させ,郷土の自然を自分たちも大切に次の世代に受け継いでいこうとする意識を高めることが出来るようにさせたいと考えた。
 本単元を進めるにあたって,社会科・総合的な学習の時間に学習した成果をまとめたファ
イルを,個々の児童のデータソースとし,総合的に集めたそのデータを,改めて環境の視点からまとめなおす学習を仕組むことにする。
 その際,データの整理の仕方の指針として,
知恵図鑑のデータ登録フォーマットを使うことにする。

(3)知恵図鑑活用の意図
 知恵図鑑は,国内外の子ども達の学習成果の集大成としてのデータベースであることから,その内容と記述は,児童にとって大変身近なものである。また,自分たちの学習成果が,他の地域の児童の課題解決に役立ったり,自分たちの学習成果を,驚きを持って受け入れてもらうことで,その価値の高さを再確認することが出来,学習意欲の促進におおいに役に立つものである。
 つまり,自分たちの活動を,他の地域の子ども達の「評価・反応」という鏡に映すことによって,あらためて見直すことができるという利点は,本学級の児童の学習意欲向上のために活用できると考えている。
 本学級の児童は,文字入力や写真の処理,HPの作成など,学習成果の集積にコンピュータを利用することにはなれておらず,紙資料としてのファイリングに終始してきている。
 そこで,本単元で,自分たちの学習成果を,検索可能なデータベースに登録することで,学習の振り返りや整理に役立つことを知らせ,今後は,自らのポートフォリオとして,この図鑑を活用していけるようにすることもねらいの一つとしている。
 さらに,独自で学習成果をHPの形で発信していくためには,児童にとって大きな技術的障害があるが,知恵図鑑の登録フォームを活用することで,簡単に多くの友だちと学習成果を共有できる喜びも実感させたい。
 これらを総合的にとらえ,知恵図鑑は,今までともすると,「まとめる」段階で終わってきていた児童の「学習」を,「整理して伝える」段階,「伝えたことに対するフォロー」をする段階,さらに,「学習成果を基に議論する」段階へと発展させるためのツールとしても,活用していけるものだと考えている。

(4)コンピュータ環境
 コンピュータ教室(理科室兼用)  4台
 普通教室   1台
OS:Windows 98 / Me
通信環境:校内LANで接続。
外部には,光フィイバーでインターネットに接続(→町役場→岡山情報ハイウェイ)
 1.5Mbps ATM


2 単元のねらい

・地域の自然環境の中の「田んぼ」の役割に
 ついて理解することが出来る。
・調べたことを整理して伝えることが出来る。


3 評価

・「田んぼの学習」のまとめをすることで,地
 域の自然環境の中での「田んぼ」の役割を理 
 解し,それを守ってきた地域の人たちの知
 恵を進んで学ぼうとすることが出来たか。
・地球上の水の循環の仕組みを理解すること
 が出来たか。
・知恵図鑑を使って,学習成果を整理してまとめることが出来たか。
・進んで自分の調べた情報を発信し,伝えようとしたか。


4 活動場面の例(5時間扱い)

児童の活動と思考の流れ 教 材 等 教師の支援


















私たちは,「米作り」の学習でどんなことを調べてきたのだろう?
・古代米の苗をもらった
・学校の裏の畑を田んぼにした
・水を引き込む工夫をした
・現在地域で栽培されている苗を調べた
・古代米の苗とあわせて田植えをした
・苗の成長を毎日調べた
・昔の収穫の仕方を調べて実践した


自然環境の中の「田んぼ」の役割について知る。
・雨水をためて地下水をつくる
・小さな生き物の住処になる
・稲の葉に集まる虫,それを食べる虫


私たちの調べたことが役に立ったかな?
私たちが調べた脱穀
・もみすり
・精米の方法を教えてあげることが出来た。





他にどんなことが伝えられるのだろう?
・脱穀の仕方(昔の道具を使って)
・イネの品種の歴史(品種改良)
・田んぼの虫(益虫と害虫)
・ソフトボールでもみすり

情報の整理の仕方を考えよう
どんなふうにまとめると,分かりやすくまとめられるかな?
「タイトル」:何についての情報か
「報告者」:情報発信者を明確に
「要約」:内容の重要要素を抽出
「本文」:言葉づかいにも配慮して

まず,この点に気をつけて下書きをしよう

誰も情報を載せてない新しい部屋だ。
私たちの情報がみんなの役に立つぞ。

下書きを見ながら,知恵図鑑に情報を登録しよう。

(班ごとにコンピュータを立ち上げ,知恵図鑑に情報登録をする。)




【板書】
田んぼを中心とした地球上の水の循環










プロジェクタ
知恵図鑑
「たべものと農業」
今までの発信情報とやりとりから
学習ファイル

プロジェクタ
知恵図鑑
「地域のじまん」
新ジャンル
新規登録フォーム

コンピュータ
知恵図鑑
新規登録フォーム
4月からの「米作り」の学習活動を想起させる。



社会科・総合的な学習の時間の内容から,「水の循環」を視点として,理科の学習への意識転換を図る。

田んぼを含む自然環境の中の水の循環
田んぼの保水能力
田んぼに集まる虫たち田んぼの中の食物連鎖
 (益虫と害虫)




田舎の環境で育った自分たちだからこそわかることもあるということに気づかせ,情報発信の意欲を高めさせる。「米作り」の学習ファイルから,自分たちの発信情報のまとめと整理をさせる。




発信情報による
グルーピング



登録フォームの使い方
「タイトル」
「報告者」
「要約」
「本文」
それぞれの項目と,整理の仕方を関連付けて,読み手に分かりやすくまとめることを理解させる。
(情報整理の手順の確認)

下書きの段階で,正確に情報が整理できるよう助言する。
登録上の操作等の質問を受ける。

時間内に登録しきれない場合は,後日,登録情報の編集が出来ることを知らせる。以後は,時間いっぱい,班ごとで作用をさせる。



3





4





5

前時の続きを登録しよう

知恵図鑑の登録フォームやコメント機能について理解する。





他の地域の自然の特徴と,自分たちの郷
の自然を比較してみよう。

どんな違いがあるんだろう

世界に目を向けてみよう

これから,私たちは自然に対してどんな
かかわり方をしていけるだろう。

私たちのできることを発表しあう。

私たちの地域の自然について,自慢できることと,行動のめあてをまとめて発信しよう
コンピュータ
知恵図鑑
 編集フォーム








知恵図鑑
「地元たんけん広場」
「My知恵」
「世界の知恵」






知恵図鑑
「地域のじまん」
登録上の助言をする


出来た班には,知恵図鑑の他の学校の情報への質問や返事を登録させる。


自分たちの発信情報への質問等についての返事を書かせる。

それぞれのジャンルで,他の地域の自然への関わり方や情報を検索させ,それぞれの地域の特徴と比べならら,そこに生きる人たちの活動や知恵を読み取らせる。


それぞれの地域の自然環境と人々の暮らしの関係に気づかせ,自分たちの地域の自然を守っていこうとする意欲と行動のめあてを持たせる。

5 知恵図鑑活用のポイント

 本学級の児童にとって,知恵図鑑の活用は,まだまだ,児童の自主的な活動になるほど習熟していない点で,教科の時間以外での自主的な調べ学習の結果をそのまま登録するところまではいっていない。
 したがって,今後も,今回の実践例のように,授業時間の中で,まとめのツールとして,登録フォームを積極的に活用して,児童の習熟度を増していくことが,まず,必要である。
 また,情報内容にマッチした写真を選択することも,情報整理の重要なポイントとなることから,児童の撮影した画像ファイルを,LAN上でいつでも検索し,選択できる環境作りも重要である。
 本学級の児童は,デジタルカメラの操作は自由に出来るが,画像の処理や整理の仕方については,まだまだ指導を要する点から,今回は,まず,発信情報をまとめさせ,それに適合する写真を選択する活動も,課外で時間を割いて指導した。この点では,ひとつの情報を数日に分けて登録できる知恵図鑑の編集機能はおおいに役に立ったといえる。
 また,今回の改良で,登録情報に対するコメントツリー表示機能が付加されたことは,検索能力の低い小学生にとっては,自分の情報に関連する情報を的確に見つけられる点で,非常に有効な機能だと感じた。
 とにかく,自分が調べた情報の蓄積と学習経過の確認(ポートフォリオ)という使い方を出来るようにするためには,課外でいつでも自由に使えるハード及びシステムの環境構築と,児童の知恵図鑑に対する使い方の習熟度を上げることが必要であることを痛感した。

6 成果と課題

 情報整理や情報発信・情報交換の有益なツールとして,知恵図鑑を活用していくためには,それぞれの機能の利点を明確にし,児童に伝えていく努力が必要である。
 本年度の実践において,知恵図鑑の改良に関して,学校や地域で実際に子どもの活動に関わっている人間のニーズを的確に取り入れることが出来る組織作りをしたことが,最大の成果であり,今後もこの体制で,本当に現場で役に立つテクノロジーの開発が出来ていくことこそが,重要であることを確認した。
 従来,学校教育において大切にされてきた,子どもの認知過程を踏まえた系統的な指導を,最新の技術を駆使して,どのように実践していくのかという方法論については,まだまだ充分に確立されているとはいえない。
 よって,今回の実践は,「新しい技術を使って,いかに今までの教育の方法を発展させていくか」ということに取り組めたことに,大きな価値を感じる。
 教育における『不易流行』という観点から考えると,教育機器としてのコンピュータや通信インフラの進歩は,『流行』であり,我われ教員は,そこにいかにして『不易』の部分をのせていくかということにこそ,エネルギーを費やすべきだということを強く感じた。