5.プロジェクトの評価について



5.4 総括評価(教育用ITの要件・活用法など)

(1)総括的な効果について 目的・ねらいに対する達成度 

 本プロジェクトの大テーマである「子ども達に"考える"ことを促進させる」に対しては特に編集会議シートを使った整理・分類のフェーズで大きく効果を上げることが出来たと考える。子ども達のアンケートでも「話し合ったことで新しく気づいたことやわかったことがあるか」という同一の問いに対し,12/5では,調べた事実に対し「他の班の意見を聞いてこのような事がわかった」という"気づき"の意見が大半であったのに対し,12/9では大半が「〜のようにしたら良いと思う。」「〜したい。」という"意思"に変化している事からも"単に調べて終わり"の授業ではなかった事が伺える。これは葉山小学校の坂本先生の指導法により,ディスカッション全体像をビジュアル化し,「結論自分達はどうしたいのか」へのベクトル付けを強く行った結果である。

(2)教育的効果

 上記の通り,本ツールを活用することで調べ学習において「情報を整理し子ども達が自ら考える」支援になることが判った。また使い方により,調べ学習等において自己の行動に結びつくモチベーションを上げる(情意面を重点とした使い方)=今回のケース,および情報整理や組み立てなどリテラシー技術(情報に対する知識取得(認知面)や情報整理技術(技能面)を重点とした使い方)の二種類の活用法があることが判明した。
 当初松下電器では,編集会議シートを発表成果物作成のためのストーリ検討ツールのように位置付けており,目的・原因・わかったこと・課題・結論等の別に取材帖のカードをグリッド線上に配置する仕様でいた。しかし授業形態・授業の目的によって微妙に活用法が異なることが判った。リテラシー取得が目標の授業であれば当初コンセプトのように分類の別を明確化し,判りやすいストーリを構成する事に活用できる。(この場合認知や技能面が向上する)しかし今回のような調べ学習において子ども達に意識付けをすることが授業目的であればカードを分類することに重点を置き過ぎると「分類のための分類作業」に陥る恐れがあり,分類する項目はシンプルで良く,それらを結論どうしたいかに方向付けてゆく(編集会議シートの右側の空白エリアを埋めてゆくこと)を強調する活用法が効果的であることが判った。(この場合は情意・認知面が向上する)このことから仕様からグリッド線を外し,フリーに配置できるようにした。
 また,フリーフォーマットにした分使い方が定まらなくなってしまうため,今回授業事例を小学校調べ学習のケースとして活用マニュアルに記録する。

(3)子ども達のディスカッションと質疑の記録性について

 "子ども達のディスカッション"に対するイメージも当初のイメージとギャップのあるものであった。大人の会議のレベル(質疑が連鎖的に展開してゆく)イメージで捉えていた。小学生の場合は想定外の質問を受けた場合,即座に代替案を出すということが難しく,教師に助け舟を求めるサインを出す。この攻防戦である"間"が長く続くことが特徴的である。これは学校現場では恒常的に見られる現象で,この"間"に我慢できず教えてしまう教師も少なくないとの事であった。教師がその場ですぐに教えてしまうと,判らない事に対して教師に依存するようになり自主的に考える事を行わなくなりがちである。しかしながらそのままであると議事がストップした状態になる。ここで一旦問題を書きとめ記録し,他の班の類似ケースなどのヒントと共に別途深く考える時間を設けることが非常に効果的且つ重要であると感じられた。このようにディスカッションの状態を記録し,回数を重ねることで"考える"事を深掘りできる事が判った。

(4)ツールのイメージについて

 取材帖の想定コンセプトを「ラフでもいいから思いついたことをどんどん書き込むメモ帖」であり,1画面(1カード)に書き込む量もシンプルに少なく。というイメージで想定した。授業開始時の子供たちの書き込みの文字の大きさから判断しても1情報/1ページ程度の書き込み量になると想定した。しかし子供たちは普段使い慣れているMicrosoftPowerPointのような「清書ツール」をイメージした模様で,授業途中で「綺麗に書かなくてもよいからどんどん書こう」と口頭で再三促しても自分たちの納得がゆくまで書き直しをし,たたき台で使用した書き込みツールにキーボード入力機能があることを発見すると当初手書きであった個所も見事に清書し直し,取材帖はPowerPointライクな仕上がりとなる結果になった。編集会議シートで検討するフェーズになるとアンケートにも「その場で意見や矢印などを書き込めるところが良かった」という意見が多くなったが,取材帖に関しては「書き込んだ字がきれいになるといい」等の意見もあり,子ども達にとっては"電子白板まで使ってみんなの前で発表する事なのに提示する資料がラフ"なのは心理的に違和感があったかもしれない。

(5)システム活用のシチュエーションについて

 評価会や子ども達のアンケート結果でも出たように,電子白板と書き込みツールは発表支援および討議支援としては一応の評価を得たが,グループ毎の調査結果を書き込む入力装置としては課題が残った。運用的には複数班が同時に書き込めないので,限りある授業時間内で全ての班の書き込みを終えることができない。またeスクエア委員会でご指摘があった"子ども達の取材現場で感じた源的な感想をできるだけそのまま記録できる"事に対しても白板という媒体であると"一旦持ち帰って振り返ったデータ"(一次整理したデータ)となってしまう傾向があった。ハード的にはプロジェクタ投影のために影ができて使いづらいという点である。今回は普通教室+電子白板という環境で実施したが,調べ学習の全工程をトータルで見た場合,データの入力は複数ある端末から同時並行的に(PC教室での各端末から,もしくはH14年度eスクエアアドバンスで他のプロジェクトが実施しているようなPDA端末を用い,取材現場で感じた直接的な感想などをその場で書き込むなど。全員で発表・討議の場合は普通教室で電子白板のような1箇所集中の環境で,個別に見たい個所を見たい時間に閲覧するのであればPC教室のような個別端末からなど,授業の目的やシチュエーションに応じ使用する教室や機器を選択すると更に効果が得られるものと思われる。

(6)2005年の学習環境について

 2005年はe-Japan教育の情報化の最終成果の年であり,ほぼ全ての学校でITを活用した授業が恒常的に行われているべく,本プロジェクトのような試みが行われている。
 本プロジェクトのテーマである「ディスカッション」「調べ学習」について考察すると、子ども達のアンケートの中でも意見の多かった,"ネットを介して他校と交流学習をする"場面で活用できる事が考えられる。学習素材を共有しながらTV会議などで討議を行ってゆくスタイルはコラボレーションラーニングとして一部運用が開始されている。ネットを介して互いに取材した情報を提示しながら質疑応答し,課題解決手法を考え出してゆくという事が可能になれば興味深い授業が実施できるかもしれない。
 ここで留意したいのは,先に述べた「子ども達のディスカッション」である。大人の討議と違い必ずしも闊達な討議展開になるとは限らない。しかし闊達な討議になることだけが目的ではないのでその場で出た疑問点や新たな課題・視点などは保存して,複数回討議を積み重ねてゆくことが効果ある授業につながると思われる。
 現在のところのTV会議授業は費用やスタッフなどの工数もかかり,入念に計算されたイベント的授業になってしまうケースも少なくないように感じる。スムーズな議事進行のため予め想定質問および回答を用意し、予定調和的な展開になってしまうなどの事もあるが,もっと常時接続などのネット環境が整備され,通常授業の延長線上で繰り返し交流学習ができるようになれば本当に"意見交換"→"考える"授業が実現できるようになるであろう。
 イメージを図11に示す。

図11 2005年の学習環境イメージ

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