本国際交流の実験において下記システムを利用した。
- 翻訳機能付き掲示板
- フリー文翻訳機能
- テレビ会議システム
上記システムを利用したのは国際交流を実施する際に大きな課題となる言語の壁と距離の壁を越えるためのものであった。本機能を利用していただき交流を進める中で十分に利用された機能,利用されずに終わった機能,そして足りなかった機能がある。本章では実験を通して国際交流を実施する際に必要な機能を検証したい。
3章でも述べたように,本国際交流におけるシステムの大きな目的としては
(1)学校利用を想定したシステムを提供する
- 簡単に
- 安価で
- 誰でも
(2)交流をイベントではなく日常的に行えるものにする
という2点を重要視した。ここでは実際にどのように学校や授業で利用されてきたか,またはその中から交流を行う際のシステムの要件を検討していく。
(現状)
学校で新しいシステムやソフトウェアを利用する際に大きな問題点になるのはインフラの整備状況である。今回の国際交流を実施する際にも弊社が開発したシステムを学校に導入する必要があるが,国内外の学校の導入状況やシステム状況により左右されにくくメンテナンスが楽なシステムを導入することを検討していかなければならない。また最近学校の裁量で利用できる費用が増えてきたとはいえ予算は限られており,できるだけ学校側に費用がかからないシステムを作成した。
多くの学校では5年リースもしくは買い取りで機器を購入しており,古ければ未だにWindows95のマシンを利用している学校もある。今回の交流を行う学校の状況は下記のとおりである。
学校名 | OS | CPU | メモリ | インターネット接続環境 | 学校内LAN整備状況 |
時津東小学校 | Windows98SE | Pentium3 | 128MB | ADSL1.5Mbps | なし |
琴田小学校 | WindowsXP | Celeron | ADSL1.5Mbps | なし | |
平尾中学校 | WindowsMe | 光回線100Mbps | なし | ||
StatenIsland | Windows98 | Pentium3 | T1 1.5Mbps | ||
花家地小学校 | WindowsXP | Pentium4 | 256MB | 専用線100Mbps | なし |
光武女子中学校 | Windws98 | ADSL1.5Mbps |
表7−1のとおり,琴田小学校と花家地小学校は導入年度が新しいため,最新機種とOSが導入されているが,そのほかの学校ではそれほどほかと比較し最新球種や特別な機械が入っているということはない。
ただ全校ともインターネット接続に比較的高速な回線が導入されており,一斉に児童・生徒がアクセスしてもストレスがない環境を構築されている。
国の整備計画などと照らしあわせても学校におけるPCの導入は着実に進んでいるが,比較的古くから実施されているのでOSや性能にばらつきがある。それに比べインターネット整備に関しては比較的新しいため高速の回線が引かれていることが多い。またPCの新規導入や更新に比べ初期導入,ランニングコストも安価で導入できる。実際今回の交流にあたって平尾中学校では光回線の導入を行うことになった。
また海外での利用メンテナンスを考えるとOSやマシンに依存したソフトウェアを開発しインストールする作業を行うことは費用的な面からも人材的な面からも困難である。
そこで今回開発したシステムはOSやマシン性能にできるだけ依存しないよう,またインストールなどの現地作業ができるだけ発生しないようにWEBベースの環境を構築した。
以上の前提条件でシステムを作成した。WEBベースにしたため日本および各国のPCへの初期導入作業を行うことなくシステムを利用することができ,またサーバ側のメンテナンスでシステムをバージョンアップする事ができるため実験を行いながら随時メンテナンスを行うことができた。
一方,この後の掲示板での項でも述べるがWEBアプリケーション故の制限事項がある。
等がある。特にPCに対する制御が細かくできないため,児童・生徒の誤った動作をやり直しさせたり,記入した文字を制御することが困難であった。
以上の問題はあるものの運用面,環境面を検討した場合にはWEBベースで構築することはトータルコストを抑え負担を少なくする一つのアプローチであると考える。特に国際交流では遠隔地で行うためにそのコスト負担やメンテナンス負担は大きく削減されるものと考えられる。
またテレビ会議ソフトはOSにあらかじめインストールされているソフトウェアを利用した。ただしほかの無償ソフトウェアと同様,問題点も多かった。メリットとしては無償であること,OSに付属しているため各国語の環境が用意され,ある程度の説明資料などが用意されていることがあげられる。しかし無償のためメーカーのサポートを受けることができない,ソフトウェアが安定していない,などのデメリットもある。詳細は後ほど述べるが,今回の交流でシステム的な負担が大きかったのがテレビ会議であることも確かな事実である。
掲示板は交流のメインとして最初から最後まで通して利用されている。掲示板に求められる役割としては,児童・生徒にとってはコミュニケーション,意見交換の場としての利用である。先生方にとっては意見交換の場,連絡の場として活用されている。今回の国際交流における指導案においても,児童・生徒は自己紹介,聞きたいことに関して投稿するように考えられている。またほかの学校においてもまずは自己紹介からはじまり,意見の交換を行っていくという流れとなっている。先生方においても一部うまくコミュニケーションをとることができない場面も見受けられたが,平尾中学校では修学旅行やホームステイの打ち合わせ,琴田小学校ではテレビ会議の発表内容などを掲示板上で打ち合わせを行った。
学校での掲示板の利用頻度は学校や授業の取り組み方によって違うが,先生方は毎日投稿の確認を行っており,児童・生徒は授業時間もしくは休み時間,パソコン教室の開放時間に使用している。琴田小学校では教室にPCが設置されているため,メッセージの確認は児童たちも毎日行っているとのことであった。また韓国ではWEB上からアクセスできるため家から投稿したりしたようである。ただし,チェックはできても書き込みを児童が行うためにはそれなりの時間が必要になり,先生方の付き添いも必要となるため随時書き込みを行うというところまではいかないようである。さらに琴田小学校を除いては普通教室にPCがないために書き込むのはPC教室での授業時間に行わざるをえず,タイムリーに返信を書くことができない状況もであった。
各学校の利用状況を見ている限りにおいては掲示板が当初想定した日常的に簡単に利用できるという目的は達成していると考える。
一方,掲示板に対する理解と操作性に関しては,先生方や児童・生徒とも大きな障害がなく利用できるようになったとのことである。これは掲示板がもともと学校での利用を考えて作られたソフトウェアを改造して作成したため,汎用性のものに比べ利用しやすかったことも考えられるが,機能的に単純であること,ボタンが少ないことなどもわかりやすい要因であったと思われる。ただ今回は一つの画面上で4カ国語を表現しようとしたためテキストは各国言語にきりかえたもののアイコンは4カ国語をアニメーションGIFで切り替えて表現した。そのため最初はアイコンの意味がわかりにくく,わかってからも約2秒ごとに切り替わるため目障りであるとの指摘を受けた。また学校で利用するためにアイコンを猫のキャラクタで作成したが,利用者にとっては意味がわかりづらく,もっとシンプルな方が良いのではないかとの指摘を受けた。
先生方からは掲示板はほかのソフトウェアと異なり,翻訳を利用してコミュニケーションをとるための機能しか有していないため,直感的にわかりやすく子供たちにも理解することができたのではないかという意見があった。
IDとパスワードについては開発当初苦慮した。特に小学校においてID,パスワードを入力して利用するソフトウェアが少なく,児童にとってなじむかどうか危惧した。掲示板ではどうしてもID,パスワード管理をしなければ投稿の管理ができないため導入した。しかしながら予想に反して最初は戸惑いがあったものの数回利用しているうちに自然に慣れてきたようである。低学年ではキーボード入力もままならない児童もいるためパスワードの入力が難しいかもしれないが,高学年ではそれほど気にすることがないようである。
ただIDの振り方に関しては小学校ではグループ学習が多いため,グループに一つのIDを設定し,中学校では個人にIDを設定してだれが発言したのか明確化した。
メールソフトの利用についても検討している学校もあったが,小学校においては一般的なメールソフトの操作が難しいこと,中学校では送受信した内容のチェックができないことや情報を共有することができないことから児童・生徒に授業として利用させることは難しいとのことである。
学校教育においては個としての動きも大切であるが,情報を共有しまた比較検討,評価するという意味においてもコミュニケーションの場として掲示板を利用することは大きなメリットとなるようである。
・時差を気にせず交流することができる
一方,掲示板を利用することに対するデメリットも指摘されている。インターネットで掲示板を利用しての交流が基本となるために,交流がどうしても実感がわかないとの指摘がある。掲示板上の交流では動画,画像が利用できるとはいえ専らテキストが中心となること,あまり接することがない同世代の外国人に対してのイメージがわきにくいことも一因である。この問題を解決する方法としてテレビ会議や実際に絵画やビデオを送るなどの別のコミュニケーション手段を用いることも有効である。
また,授業を行う上での問題点として,掲示板上での発言に対して返信がなかなかこないという問題がある。相手国の言葉ができない先生や児童・生徒にとっては,コミュニケーションがどうしてもメールもしくは掲示板に頼らざるをえず,その結果返信がない状況に陥るとどうしても次に打つ手がなくなってしまうことになることが多かった。ほかにもメールで国際交流を行っている先生もメールなどで日常的に交流を行おうとしても,相手からの返事が来なければ交流ができず,授業を行うことができないので日常的な交流を行うことは困難であるとの意見があった。これはメールや掲示板の敷居が低く,束縛性がないことも影響しているようだが,掲示板のシステム上の問題よりもプロジェクトの進め方の問題もあると考えられる。この点に関しては8章の課題で述べる。
ほかのPC利用の授業でも同様であるが,授業を行う際に掲示板がうまく動作しないことがあり,せっかく投稿した文章が登録されないことがあったようである。WEB上のサービスのため,サーバの動作状況によって正常に動作しないこともあるが,ほかにも回線状況やクライアントPCの環境によっても動作しないこともある。しかし,授業を組んでいてPC教室を予定どおりにしか利用できない先生や児童・生徒にとっては,その時間に投稿ができないことは大きな問題であり,より安定した環境を構築することが求められる。なお,サーバメンテナンスはアメリカや中国の時差を考え,どの国の授業時間にも重ならないよう,日本時間で9時頃(中国時間で8時,アメリカ時間で前日の22時)もしくは18時以降(中国時間で17時,アメリカ時間で朝7時)もしくは土,日に実施した。
上記のデメリットはあるものの,掲示板を利用することが交流を進める上で大きな役割を果たしていることはアンケートの結果を見ても明らかである。