1.提案プロジェクトの目的




 心の教育が叫ばれている背景には,知識習得としての学習と全人格教育としての学習の乖離(かいり)がある。学習とは本来,知識を通して人としての心と生き方を学ぶべきものだが,現代の児童生徒の学習は,知識の習得にのみ終始し,人格形成に結びつきにくいという問題が起こっている。本プロジェクトでは,児童生徒のイメージを広げ理解を助ける優れたディジタルコンテンツに,知識習得とともに心と生き方を学ぶことのできる「心も育つ理科コンテンツ」の制作と,その指導法・カリキュラムを開発実践することをねらいとする。

既存コンテンツへのさらなる願い

 我が国では「教育の情報化」を図り,各教科で「分かる授業」の展開と情報活用能力育成を課題としており,子どもの理解を助け,教師が手軽に使える教科教育用のディジタルコンテンツとその活用法の開発が手がけられてきた。現在開発されているアサガオやタンポポの開花のディジタルコンテンツなどは,紙メディアでは表現しにくい事柄や再現することができない事物・現象を容易に擬似体験でき,児童生徒のイメージを広げ,理科教育の基礎基本の定着を図る素材としては大変優れている。しかし,これらは単にイメージを広げ,理解の深化拡充,知識の定着という認知的側面だけにその有用性が求められて開発されたため,児童生徒は無機的にとらえがちであった。そこで,動植物の精妙さ,不思議さや動植物研究家の見方・考え方,願い等を収録したメッセージビデオを付加して「心も育つ理科コンテンツ」を作成する。このことにより自然への興味・関心を高め,理科の魅力を引き出せ,従来の認知的側面の育成に加えて豊かな価値や心情を育成することができると考える。

心も育つ理科コンテンツ

 児童生徒にとって身近な大人たちの中には,岡山県内在住の内山氏,難波氏等々,未来を担う世代に身近な自然のすばらしさ,自然の事物・現象の精妙さや不思議さを伝えることを志している方々が多い。内山氏は,岡山近郊の身近な自然の中を丹念に歩き,植物や野鳥の写真・ビデオを撮影している。児童生徒に,身近な自然のすばらしさを伝えたいと願って撮影し続けた結果,現在では写真5万枚以上,ビデオ数百本という膨大な資産となっている。難波氏はジョロウグモの精妙な生き方をアマチュア写真家として見つめ続けると同時に,動物のすばらしさ・不思議さを子ども向けに雑誌・新聞記事や生態図鑑等で伝えている。こうした方々の研究成果や撮影した写真・ビデオ作品のうち,小中学校の理科教材として利用できるものをディジタルコンテンツとして制作する。さらに,それぞれのコンテンツに関連した動植物の精妙さ,不思議さや研究家の活動のようすや見方・考え方,願い等をメッセージビデオにして「心も育つ理科コンテンツ」に再構築する。

活用と成果

 本研究で制作する「心も育つ理科コンテンツ」を,小中学校の理科・道徳等の授業に活用することで以下の2点をねらう。

  1. 児童生徒のイメージを膨らませ教科の内容を深める。
  2. 自然の精妙さや不思議さ,動植物研究家の見方・考え方,願い,メッセージに触れ,心の教育を推進する。

 具体的には,「心も育つ理科コンテンツ」を視聴して,伝えられた願いやメッセージを受け止めた感想や感謝の心を児童生徒同士で認め合い,豊かな心を育む指導を展開する。
 撮影された写真一枚一枚,映像一本一本に込められた動植物研究家の見方・考え方,願いやメッセージ等を併せて伝えることのできるこの新しいタイプのディジタルコンテンツこそ,人の心の通ったかけがえのない理科コンテンツへと価値を飛躍的に増すこととなる。この「心も育つ理科コンテンツ」は,児童生徒が教科の内容を学びつつ,人と人との心の通う体験を引き出し,世代間のコミュニケーション分断(ぶんだん)や,知識としての学習と全人格教育としての学習の乖離(かいり)という現代的な教育問題を解消し,全人格教育にむけたITのよりよい活用に大きく寄与するものと確信する。



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