実践普及をめざした授業では,それぞれの学校や学級の状況に応じて,理科など教科教育領域の他,道徳領域,総合的な学習の時間の領域など多様な教育領域で自由に活用していただき,汎用性を分析することとした。下記の各学校で,「心も育つ理科コンテンツ」を授業に活用して実践を進めた。
平成15年1月7日に打ち合わせを開始し,1月末から2月にかけて道徳の指導での汎用性を研究した。(表16)1月22日にプレ実践が行われ,2月19日の授業では,「一つのことに打ち込む」という難波氏の生き様に迫る形でコンテンツを活用した。岡山県内在住の専門家の活動を通して,その生き方や考え方に触れ,また研究成果の話を聞きながら互いの考えを高め,難波氏の心に迫る授業を実践した。当校は,岡山県生涯教育センターを活用しながら情報教育を進めている。県情報教育センターもその支援を続けており,教師,児童のスキルは十分といえる。
1 総合的な学習の時間領域での活用
岡山市立伊島小学校第6学年では,総合的な学習の時間の環境学習で,児童36名が「不思議な生き物オオサンショウウオ」のコンテンツから,オオサンショウウオのくらしと環境について学習を1月15日と22日の2時間をかけて行った。この総合的な学習の時間の取り組みでは,まず,「オオサンショウウオを見たことのある人はいますか?」という先生の問いかけの後,図109のように一人1台のコンピュータでオオサンショウウオのコンテンツを自由に視聴させながら,ワークシート(図110)に気づいたことを記入していた。まとめの活動では,図111のように,チャットで情報交換を行う体験の場を設定し,環境学習を通して情報活用の実践力とモラルを体験的に学習していた。この授業に参加した36名の児童たちは,一様に「動画に説明もあるのでとても分かりやすい。」と答えた。中には「とにかく動画が楽しかったし分かりやすかったです。オオサンショウウオが危険な状態にあることがよく分かりました。心配です。」「このことを調べてオオサンショウウオに会ってみたかったです。」とオオサンショウウオに親しみを感じる児童も現れた。
2 道徳領域での活用
2月19日に実践された第5学年道徳では,「むしたちのひろば」のコンテンツから,難波氏が障害を克服して昆虫の写真を撮影し続けている姿から,希望を持つことの大切さや困難を克服した人の強さを学習した。この道徳の取り組みでは,まず,難波氏が子ども向けの図鑑を作られていることを紹介し本時のめあてをつかんだ後(図112,113),一人1台のコンピュータで「むしたちのひろば」のコンテンツを視聴させながら,難波氏が昆虫の写真を撮影し続けている理由をつかませていた。
八尾市は,教育相談研修所が平成14年度集中的に学校及び教育の情報化を手がけている。平成14年8月には所長他5名が岡山県情報教育センターを訪れて情報化の進め方を視察した後,約3ヶ月で市内の学校のインフラ整備を実施した。また,11月には当センター主催のディジタルコンテンツ活用セミナーにも1名参加して研修を行なった。
平成15年1月8日に当情報教育センターから研修課長平松,指導主事太田が研修所へ出向いて打合せを行った。1月22日に再度,太田が八尾市へ出かけ,相談所の指導主事と共に実践校である八尾市立高美中学校へ出かけ,授業担当の近藤先生と打合せを行った。
【実践授業】
1 日 時:平成15年2月7日(金) 第6校時(14:20〜15:10)
2 授業者:近藤 節子
3 生 徒:中学校第2学年 選択理科 生徒21名(男子10名,女子11名)
4 内 容:「校庭や身近に見られる植物」
5 会 場:コンピュータ教室
6 指導計画
(1) 校庭の植物観察(スケッチ) 1時間
(2) 校庭の植物観察(デジカメとプリント作り) 1時間
(3) 画像を取り込んで,パソコンでレポート作成 2時間(本時)
7 本時の目標,指導の流れ
本時の目標 | 校庭で観察した樹木に関心を持ち,その特徴や名称を調べて,コンピュータを活用してレポートを完成させる。 | |
主な学習活動 | 教師の支援 | 準備・評価 |
1 各自の校庭での観察用紙と,デジカメで撮影した樹木の写真のプリントアウトされたものを見ながら,となり同士で話し合って思い出す。 2 本時は,デジカメ写真と観察内容,調べたことなどをまとめながら,レポートを完成させることを知る。 3 レポート作成の作業を始める。 ・ソフトを立ち上げ,写真を選ぶ ・写真を挿入し,観察内容を入力する ・学年・クラス・名前など入力する ・文字の大きさ,色を変更する。 4 内山さんの撮影した写真とデータベースから名前や特徴を知る。 5 教師が準備した写真や資料により身近な植物であるクスノキを知り,色や光沢,臭いなどを観察・体験する。 6 レポートを打ち出し本時のまとめを行う。 |
1 前時に生徒が作成したプリント類を返却して,各自が調べた樹木の特徴を思い出すようにする。となり同士で話し合うように指示する。 2 本時の作業内容,作業方法を口頭で説明した後,コンピュータを操作しながら説明し,内容を具体的なものにする。 3 各生徒の技能に合わせた作業が進むよう机間指導する。 ・上級者はフォントやレイアウトの変更を自由に選ぶようにする。 ・個々に必要な支援を進める。 ・操作法で困っている生徒に重点 4 起動と検索の仕方を説明する。 ・四季の変化に注目 5 校区にある神社境内のクスノキについてのプレゼンを紹介し,配付したクスノキの葉の臭いをかぐ。事前に校区内の歴史を調査し,わかりやすくプレゼンすると共に,調べることで新しい発見をした喜びを強調し,生徒のレポート完成の意欲を喚起する。 6 打ち出した後「やりとりフォルダ」への保存方法を説明する。 |
興味関心 プリントアウトした用紙 ローマ字入力表 知識技能 美しい写真への思い 体験と知識 操作技能 内山さんが撮影した四季折々の美しい植物の写真 身近な自然への興味関心 活動の成果と成就感 |
身近な植物の野外観察と簡単な画像処理ソフトを利用したレポート作りを通して,身近な植物を観察して発見することの喜びを味わわせ,コンピュータ等を活用した表現力を高めることをねらった選択教科での取り組みであった。生徒は,興味関心に応じて観察する植物を選んでディジタルカメラで撮影した後,その特徴を簡潔にまとめながら簡単なディジタルカメラの画像処理ソフトで楽しそうにレポートをまとめていた。コンピュータを活用してのレポート作りは2時間目ということもあり,操作に戸惑う生徒がいたが,となりの友達や先生に助けを求めながら粘り強く作業を続けていた。
授業の終盤では,「心も育つ理科コンテンツを視聴して,岡山の内山さんがすごくたくさんの写真をとられていて感動したので,先生も負けずにがんばって作ってみました。」と言って,指導教師自身も校区に分布するクスノキの大木を観察し,その歴史を調べて新しい発見をして親しみが一層わいたこと等を熱く語ることで,レポート作りの価値を伝えていたことが印象に残った。授業を行う教師自身が,まずコンテンツに込められた動植物研究家の見方・考え方や願いを受け止め感化されてこそ,生徒へ効果が期待できる点を示唆していただいたように思う。研究授業となると随所に指導の工夫を加味して大がかりになりがちだが,今回の実践授業は,普段通りの手軽な活用例を示していただいたことにも感謝したい。
内山氏の「四季の移り変わり」のコンテンツを活用して,第1学年5クラスで2時間実施した。2月21日の第1時は,植物の世界の単元で春に観察した植物の写真を提示したり,校外学習した山の季節の移り変わりをライブカメラの映像で提示したりして植物に対する興味関心を高めた。次に,内山氏の見方・考え方や願いをコンテンツからつかんだ後,2〜3人の班で協力をしながら四季の植物カレンダー作りに積極的に取り組んだ。(図121,122)
岡山市立西大寺南小学校以外の3校において汎用性を確認することができ,今回制作した心も育つ理科コンテンツの活用の広さを見ることができた。更に多くの学校で色々な形の授業の可能性をみたい。
開発した「心も育つ理科コンテンツ」を活用していただく際には,例としてあげたレシピどおりに授業をしていただくより,授業者がコンテンツを見て湧き上がった授業イメージを大切にして,自由に設計していただいた方がよりよい授業になることがわかった。
心を育てる教育は,心を育てる授業をすることによって進むと考えるが,心を育てるコンテンツを利用すれば,そういう教育が展開されるのではなく,心を育てる授業を意図的に実施しなければ進まないことも認められた。そこで,岡山市立西大寺南小学校で行った実証授業での児童の反応,成果と課題をもとに,実証授業で活用する際の教師の手助けを目的にした単元構成案・指導案を作成し,活用するコンテンツとともに「レシピ」と称してまとめてWeb上で公開した。この「レシピ」には,情報教育,理科教育の学習目標の他,自然の事物・現象に親しむ心を育てるための学習課題と学習活動の概要ならびに指導,支援の留意点を明記した。(資料−4,5,6)
グループウェア活用の目的
プロジェクト推進の円滑化と情報の共有化を進めるため,グループウェア(「SA@SCHOOL」富士通)の活用を行った。プロジェクトメンバーが,岡山県情報教育センターを始めとする教育機関や授業実践校,およびコンテンツ制作・システム整備を進める企業等,多方面にわたるため,メンバー間の意見交換やスケジュールの共有化を図る必要を感じたため,プロジェクトの推進ツールの適用が不可欠であると判断し,グループウェアの活用を試みた。
小規模グループでの活用
グループウェアの活用にあたって,まず小規模グループでの活用推進を図り,効果が現れた時点で,プロジェクト全体での活用を試みることにした。しかし,表17のとおり,極く一部のメンバーのみの利用にとどまり,十分に活用されないという残念な結果となった。
アクセス回数50件以上 | 3名 |
アクセス回数20件以上50件未満 | 0名 |
アクセス回数10件以上20件未満 | 2名 |
アクセス回数10件以下 | 17名 |
※利用期間:H14年10月16日〜H15年1月末
活用に至らなかった要因
掲示板への情報発信,スケジュールの把握,プロジェクト内文書の共有化を図る目的で取り上げたが,実際のプロジェクト推進は,主としてメールで運用されていった。メールの活用に至った理由は,普段使い慣れているツールであること,情報伝達の操作が簡単なことが挙げられる。メールとグループウェアとの併用は,作業負荷の増大に繋がり,活用を妨げる結果となった。
但し,グループウェアは,情報を共有化して蓄積・管理できるという点では,メールより優れている。今後,その特徴を如何に利用価値に結び付け,また,作業負荷の軽減に繋げるかが,利用促進を図る鍵となると考える。