■e-黒板ニュース(第55号):IT活用で学力が向上(日本教育工学会調査)  e-黒板研究会の清水康敬会長(独立行政法人メディア教育開発センター理事長)を 訪ねて、いろいろとお話をお伺いしました。  昨年度、文部科学省の委託を受けて清水先生が中心になって実施した日本教育工学 会調査「ITを活用した教科指導の改善のための調査研究」で「ITを使った授業で 児童生徒の学力が上がる」と教員が考えていることがわかりました。 今号の目次: ===================================== 1.インタビュー:「IT活用で学力向上!」清水康敬氏 2.調査報告レビュー:「ITを活用した教科指導の改善のための調査研究」 =====================================  お友達への再配信またはご紹介は、ご自由にどうぞ。会員の皆様からの投稿もお待 ちしています。  現在募集しているテーマは、「私のe-黒板活用実践」「イベントのお知らせ」 「e-黒板普及のためのアイデア」等です。  e-黒板研究会のホームページ http://www.cec.or.jp/e2a/ekokuban をご参照ください。e-黒板ニュースのバックナンバー等もご覧いただけます。 1.インタビュー:「IT活用で学力向上!」清水康敬氏  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  8月19日にメディア教育開発センターを訪ね、e-黒板研究会の会長でもある理事 長の清水康敬氏にいろいろとお話をお伺いしました。 Q1.清水先生が座長をされている「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」  (第7回:7月22日実施)で、「ITを活用した教科指導の改善のための調査研究」  の調査結果についてご報告されたそうですが、「この調査の目的や背景、そして要  点」は何ですか? A1.英国では、「IT(ICT)が学力向上につながる」という大規模で統計的な調査結果が  得られているが、IT活用が英国に比べて5〜6年は遅れている日本では、同じ結論  がそのまま通用しないし、同じ手法も使えない。国や地方自治体に「教育の情報化  予算」をつけてもらうためには、先生方自分自身が使う場合、「ITが学力向上につ  ながる」と思っているかどうかを聞く必要がある。  そこで各校種・学年・教科ごとにIT活用の場面と評価の観点を示し、「学力が上が  ると思うか?」と聞いた。 Q2.「この調査でわかったこと」は何ですか? A2.わかったことの要点は、  @全ての項目のい関して、ITを使った方が使わなかったときよりも「学力が向上す   る」という風に先生方が認めている  A研修を受けた先生の方が、受けなかった先生よりも数段高い評価をしている  B年齢別(教員経験年数別とも言える)では、30〜35歳の中堅クラスの先生の   評価が一番高い。若くてIT活用が得意というだけでなく、ある程度の経験があり   指導力のある先生がITの効果を認めているという結果が出た。  C実践していない先生に比べて、実際にIT活用の授業をしてもらった先生の場合、   愕然とするほど高い評価をしている。使ってみると、その効果が実感できるとい   う結果が出ている。  ということです。 Q3.「今後の課題」は何ですか? A3.すでに、整備の状況や活用の実態において、各都道府県や各学校で「二極化」と  言っていいほど格差が出てきている。次の年度のゴールに違いがあってはいけない。  それをどのように解決するかが課題だと思う Q4.e-黒板にターゲットを絞った「ITを活用した教科指導の改善のための調査研究」  (WEB上でのアンケート調査)をされる計画はありますか? A4.昨年度の調査をそのまま使って、またはe-黒板用に少し質問項目を追加するなど  して、調査することはできると思う。調査に協力してくれる学校があれば、実施し  たい。 【◇e-黒板を活用されている学校におかれましては、今後この調査(Webアンケート) にご協力をお願いすることがあると思いますので、よろしくお願いします。】 Q5.ポスト2005年ということで、日本においてもっと「教育にIT活用を促進さ  せる」施策についてお考えをお聞かせください。 A5.「IT活用は学力向上に効果がある!」ということをアピールする必要がある。  今までは、アピールする材料が少なすぎた。また、管理職(校長・教頭)に読んで  もらえるようなものを作って、先生方が校長先生といっしょになって「ITは有効だ  から、予算をつけてください」と心から言えるような材料(調査結果)をまとめ  たい。また、研修を受けた先生方ほど高い評価をしていることから、研修を充実さ   せていくきたい。 2.調査報告レビュー:「ITを活用した教科指導の改善のための調査研究」  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  (この項は、毎日新聞の平野秋一郎氏がまとめた、MNS教育ニュース「IT活用は 学力向上に効果」 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/elearningschool/interview/news/200507 23org00m040010000c.html から引用・編集しました。平野秋一郎氏の了解を得て掲載させていただきます。) なお、本報告書の内容については、文部科学省のホームページ http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/027/shiryo/05073101/001.htm を参照ください。 情報教育:IT活用で学力が向上 日本教育工学会調査  ITを使った授業で児童生徒の学力が上がる、と教員が考えていることが、日本教 育工学会(赤堀侃司会長)が文部科学省の委託で行った「ITを活用した教科指導の 改善のための調査研究」で分った。  ITの使用頻度の高い教員、IT研修を受けた教員、また中堅教員がITの効果を より高く評価しており、ITに慣れ、IT活用の事例を知り、授業に生かせる環境を 整備することの必要性が見えた。ITと学力の関係を全国的規模で行った初めての調 査で、教員研修の充実など教育の情報化を進め、児童生徒の学力向上を図る上で大き な示唆を与える結果となった。【平野秋一郎】  調査は教員へのアンケート、実証授業などを組み合わせて行った。教員へのアンケ ートは2004年9月〜12月に実施、5000校に調査票を送り、2194校の 7800人から回答を得た。 (以下は、記事の要約) ◇アンケート◇  例えば、小学校の算数で「算数のシミュレーションやアニメーションを活用するこ とでイメージがつかみやすく、算数への関心を高め、より意欲的になると思う」のよ うに、教科指導の具体的な場面を想定し、そこでITを活用すると児童生徒の学力が 向上すると思うかどうか、について「たいへん(4点)」「すこし(3点)」「あま り(2点)」「まったく(1点)」の4段階で評価を求めた。それぞれの場面につい ては「関心・意欲・態度」「思考・判断」「知識・理解」など評価の観点を示した。  その結果、小学校では、 【社会】(関心・意欲・態度)の「産業や地理、歴史などについて調べる際に、子ど もたちにインターネットを活用させることで、より意欲的に調べるようになると思う」 =平均点3.75 【理科】(知識・理解)の「シミュレーションやアニメーションを活用して提示する ことで、直接観察できない現象をより理解させることができると思う」 =平均点3.55 【体育】(思考・判断)の「ビデオカメラやコンテンツを活用して、子どもの運動の 様子や模範となる演技を提示することで、子どもが課題や改善点を見つけることがで きると思う」=平均点3.45 などが高い評価を得た。  また、27項目のうち17項目で平均点が3点以上、すべての項目が中央値2.5 点を超えており、「IT活用によって学力が向上すると教員は評価している」と調査 は結論付けている。  中学校では、 【社会】(社会的事象への関心・意欲・態度)の「ITを活用した情報提示や情報検 索を取り入れて社会的事象に対する具体的なイメージを喚起することで、興味・関心 をより高め、より意欲的に追究するようになると思う」=平均点3.54 【理科】(自然事象についての知識・理解)の「シミュレーションソフトやアニメー ション、ディジタルコンテンツなどを活用し情報提示することで、直接観察できない 事象をより深く理解させることができると思う」=平均点3.55 【技術・家庭】(知識・理解)の「仕組みの理解にデジタルコンテンツを利用するこ とで、知識・理解をより高めることができると思う」=平均点3.37 【英語】(知識・理解)の「ITを活用して外国の様々な情報や資料を収集し、外国 の文化について考えることで、言語や文化についての知識・理解をより高めることが できると思う」=平均点3.56 などの評価が高かった。  中学では国語の「読む能力」を除いたすべての項目が平均点が2.5点以上だった。 調査は「中学の各教科でIT活用によって学力が向上すると教員は評価している」と している。  高校では、 【日本史】(関心・意欲・態度)の「プロジェクターを使って芸術作品や史跡・遺跡 の写真を多数見せることで、歴史に対する具体的なイメージを喚起して興味・関心を より高めることができると思う」=平均点3.62 【物理】(思考・判断)の「音の伝わり方の学習で、マイクから入力した音の波形を 提示することで、波についての性質を分析的・総合的に考察し、事実に基づいて科学 的に判断する力をより高めることができると思う」=平均点3.62 【生物】(関心・意欲・態度)の「カエルの胚発生など体内構造の変化過程をアニメ ーションソフトを利用して提示することで、生殖と発生の仕組みについての関心・意 欲をより高めることができると思う」=平均点3.54 などが高い評価を得た。国語の一部を除いたすべてが平均点2.5点以上で、3.5 点以上が8項目、3点以上が46項目だった。  調査研究チーム代表で前日本教育工学会会長の清水康敬・メディア教育開発センター 理事長は「ITの活用によ学力が向上すると、教員は評価していることが分った。評 価の低い項目については、IT活用の具体的な事例を示すことが必要」と話している。 ◇実証授業◇  ITを活用した授業を実際に行って、その結果を教員が評価した。「学習指導要領 に記述されている評価観点で評価してもらい、その観点での評価が高まれば学力が向 上したと考えることにした」として、教科ごとに「関心・意欲・態度」、「思考・判 断」、「知識・理解」、「表現・技能・処理」の4つの観点で、「1時限の授業」 「単元ごとの複数時限の授業」の2タイプ計134授業を行った。  評価点は 「関心・意欲・態度」が小学校3.80、中学校3.63、高校4.00、全体3.73 「思考・判断」が小学校3.43、中学校3.34、高校3.50、全体3.49 「知識・理解」が小学校3.78、中学校3.80、高校3.50、全体3.68 「表現・技能・処理」が小学校3.42、中学校3.50、高校3.50、全体3.47 という結果になった。  小学校では「関心・意欲・態度」が最も高く、中学校では「知識・理解」で高く ITの効果が認められた。高校では「関心・意欲・態度」が特に高く評価された。 「すべての観点で効果が認められた」と清水代表は述べている。 ◇教員のIT度  教員のIT使用の状況をみると、「校務などの事務処理」に使っている教員は 小学校86.3%、中学校85.6%、高校86.5%、全体86.2%、 「教材研究」は小学校63.6%、中学校72.2%、高校78.5%、全体68.7% とかなり使われている。 しかし「授業中の活用」では、 小学校54.9%、中学校42.0%、高校38.8%、全体48.4%と半数以下に 下がり、「家庭・地域との連携」では、 小学校でも26.9%、中学校12.7%、高校8.2%、全体19.6%と低かった。  教員のITの使用頻度は「学校でのIT使用」では、 「ほぼ毎日」は小学校51.5%、中学校66.1%、高校73.4%で、 「1カ月に1回以上」は小学校97.7%、中学校95.9%、高校96.8% 電子メールも8割程度が月1回以上使っており、ほとんどの教員がITを使えることが うかがえる。 月1回以上、「授業のためにITで資料収集をしている」は、 小学校86.8%、中学校83.4%、高校86.2%とかなり使用度は上がっている。  「ITを全く使用しない教員」と「1カ月に1回以上使う教員」では、「1カ月に 1回以上」の教員の方が、ITの評価が高くなっている。教員の経験年数を「5年未満」 「5年〜15年未満」「15年から25年未満」「25年以上」に分けてみると、 「5年〜15年未満」が最もITの評価が高かった。  清水代表は「中堅教員は授業でのIT活用も積極的と考えられる。授業のねらいや 学習内容も熟知しているので、効果的な活用ができるのだろう」と分析している。 また、IT研修を受けたどうかを評価の観点別にみると、すべての観点で、IT研修 を受けた教員の方が高く評価しており、教員研修の重要性を示す結果となった。                                以上 ========================== 編集:e-黒板研究会 関 幸一 発行:財団法人コンピュータ教育開発センター 荒木 豊 e-黒板研究会 ホームページ:  http://www.cec.or.jp/e2a/ekokuban/ ==========================