10.今後の取組み

■まちづくりの視点から

 まちづくりの分野で仕事をしている筆者の頭の中からぬぐい去ることの出来ない課題がある。市民のまちに対する愛着心、問題意識、批判精神などの欠落である。一般的には、各種ワークショップ開催時に、参加してくる市民は5%と言われており、残り95%の無関心層の目を如何にまちに対して向けてもらえるよう仕掛けていくかが課題となるのだが、その層を対象にするとひどくエネルギーのいる仕事となることが多い。

 今回の2つのツール、つまりカメラ付きGPS携帯電話と情報追記型GISをセットで活用して行けば、「まちに対する無関心層を関心層に変えていけるかも知れない」と言う可能性を感じたことが、筆者にとって最大の成果であったように思う。

 この2つのツールが授業の中で子ども達にどのように受け入れられるのか。当プロジェクトの初期段階で、これらのツールのプレテストという位置づけで、採集した昆虫の位置情報をカメラ付きGPS携帯電話で取得し、その分布状況と自然環境との関係を読み取っていく授業を進修小学校で行った。この際、昆虫嫌いの児童がそれを触るなど昆虫に対する関心を高めることができた。携帯電話に写っている写真をずっと見ていると実体が気になってくる・・・と言ったところだろう。カメラ付きGPS携帯電話は、ある種のゲーム同様、「その虚構性の枠組みの中で啓蒙したいことを滑り込ませる一手法」として極めて有効であると感じた。

 さらに、本論の中でも記述しているが、当システムは「まちに対する問題意識を『自発的に』芽生えさせることができる動機付けのツール」として評価したい。児童や生徒は1つのテーマに則し、あそびの延長として自由に町の中を歩き回る。その何気なく落とした情報(位置情報付き画像データ)がいつの間にか集積し、マスとしてGISマップ上に現れた時に、「おや?ぼくの家のまわりには遊び場が少ないな〜」「僕が思っていたお年寄りにとって優しい所って少し違うぞ!」などの気付きや問題意識の芽生えが観察できた。この意識は通常、育てようと思ってもなかなか育つものでは無い。是非ともこれらのツールを使って全国の先生方に子ども達の変化を体験してもらいたいものである。

 これからの展望を考えた際、いくつかのさらなる付加機能を付けていけると面白い。一つは歩行ナビゲーションシステムへの進化である。現行のシステムは「点としての情報」をカメラ付きGPS携帯電話で撮影し、その分布状況を把握するに留まり、身体感覚もまたランドマークを中心に認知領域を広げることとなったが、さらに「点の移動である線としての情報」を取り込むことで、お年寄りがよく通っている散歩道や女性に人気のない道など、まちを捉える視点に立体的な幅が出てくるように思われる。

 また、携帯電話を端末とする情報システムの特性上、自動翻訳機能を装備させることで海外とのコミュニケーションも可能となる。特に遊び場の調査などは地域の自然環境などを背景にしていることが多く、今回の調査でも海側と山側、都市と農村で遊びが異なっていたなど、相対的な比較の中で子ども達のまちに対するアイデンティティや理解は高まっていく。これら2つの機能が付帯されると、より厚みのある授業を展開することが可能になるだろう。

■自然観察の視点から

 GPS携帯と追記型GISは、今後の教育に大きな可能性を提供すると考える。今回の実践では、お年寄りの視点から町を見直したり、防災という視点で町を見直したり等々、地域の中で何気なく目にしているものを調査し、地図上にプロットすることで今まで見えなかった地域が浮かび上がってきた。また、その浮かび上がった情報をうまく活用すれば、町に改善を求めたり、地域と連携して町おこしの音頭を取るなど、新たな活動を生む可能性を秘めている。

 例えば、こんな活動も考えられる。小学校では、川を素材とした総合的な学習に取り組む学校が多い。上流、中流、下流にわかれ、パックテストの結果や水温、水生生物などの情報や周りの環境や支流の様子など、様々なデータを重ね合わせながら、調査対象の川の実態を考察し、結果によっては町にその結果を提出し改善を求めるなど、1つの調査をきっかけに様々な広がりを展開することが可能である。もちろん、川の大きさによっては近隣との共同研究も可能である。

 このようにGPS携帯と追記型GISは、単なる調査や情報収集だけでなく、「調査データのGIS解析という科学的な情報分析力」と「相関にあるものを包括的に捉えるという総合的な理解力」を養うことができ、課題設定→調査→分析→理解→新課題設定」というスパイラルが内発的に展開されることが期待できる。

 

 今後、これらのシステム&ツールは教育現場を越え、公園管理や観光振興、地域文化創造やバリアフリーを中心とした公共サービス、合意形成支援システム等々での活用が考えられる。境界を越えて、多分野における活用の可能性を検討していきたい。