本年度は、利用端末45台、開発用5台の計50台の携帯電話を9月から2月末まで5ヶ月間レンタルし、実践を展開した。さまざまな形態の実践を試みるために、以下のように全体を5期にわけ、端末を必要なところへ移動して実践を継続した。
1)9月【主に班別野外活動】
・携帯の操作に慣れる
・1枚の写真
・南中高度の共同観測(秋分の日前後)
・修学旅行での活用(GPS実験)
2)10月【ひとり一台の活用】 1小学校での実践(40台)
・クラブ活動の紹介
・ニュース番組を作ろう
・防災学習と校区の防災マップ作り
・情報モラルの指導
3)11月〜12月上旬【主に学校間共同学習】
・ユニバーサルデザインを探せ
・伝えよう私たちの町
・冬の様子を伝え合おう
4)冬休み【全国特派員共同画像データベース作成】
・南中高度の共同観測(冬至前後)
・地域のお正月や正月の料理
・冬の様子を比べあおう
・全国植物データベース
5)1月中旬〜 【主に班別野外活動】
以下、その実践内容から代表的なものを、班別野外活動、ひとり一台の活用、学校間共同学習などに整理して、紹介する。
(1−1)「広島から学ぶ」平和学習(修学旅行における班別取材記録)
◆概要
日時 2004年9月30日・10月1日(修学旅行当日)
10月4日〜8日(事後まとめ)
実践校 三朝町立西小学校(田中靖浩)
対象学年(人数) 第6学年2クラス(48名)
教科 学校行事(修学旅行)と総合的な学習の時間 - 活動における携帯端末の役割
修学旅行先において、自分たちの学びの素材となる対象物を取材し、コメントをつけて送信するための情報記録並びに発信端末。画像とコメントの組み合わせにより、記録を残し、後の学習の整理の段階に生かす。- 期待された学習効果
学習の目的を意識した情報発信をする
整理された情報を元にして平和についての考えを深める。- 効果 および 改良点
現場から送信するということで、情報発信の意識が明確になった。
写真にコメントもつけることで、意図を明確にして情報発信することができた。
送信した画像とコメントを材料として、さらに考えを練り上げた。
学んだことを発表するプレゼン作成をする際に、これらの情報が役に立った。
校外学習で活用する際には、校内の教師がブラウザ上で送信状況の確認をしたり指令を出したりしていたが、校外で引率している教師がそのようなことをできるシステムがあるとなおよい。
◆実践の流れ(コンパクト版)
(1)修学旅行当日
- 班で分担した携帯端末を使って、指令に従って、取材し送信した。
【指令一覧】
- 広島で平和について考えさせてくれるものを見つけて、考えたこともつけて送ってください。
- 平和公園や資料館で感じたことを報告せよ。
- 宮島の美しさを伝えてください。
- チボリ公園の風景や乗った乗り物をレポートせよ。
- 帰着後、印刷したものを、迎えに来た保護者にも見ていただいた。
(2)修学旅行での学びをまとめる作業
- 送信した画像についてのコメントを付け加える。
- プレゼンに表すための、写真を選び、タイトル・キーワード・説明を考える。
- 画像を流用してプレゼンソフトで発表資料を作成する。
- 3枚のスライドを使って、修学旅行での学びについて発表をする。
◆実践の流れ
戦争を考える学習で、広島への修学旅行において取材活動を行った。平和公園の見学において、カメラ付き携帯で取材しコメントを付加して情報を送信し、帰校後の学習にそのデータを活用した。
当日は、「平和について考えさせられるものを撮ってコメントをつけて送りましょう」などという指示を出し、これに答えてメール送信する形をとった。
2日間の修学旅行から児童が帰着したときには、送信された画像一覧を印刷掲示し、迎えの保護者にも見ていただくこともできた。
事後に、書きたらなかったコメントを付け加えて、取材の記録をそろえた。
修学旅行の振り返りとしては、作文を書くなどの学習活動も行っている。これに加えて、取材し記録したデータを活用して、プレゼンソフトにまとめ、「広島から学んだこと」の発表会を行った。
プレゼン作成にあたっては、使う画像を3枚に限定して選択し、「タイトル」と「キーワード」のみを書き入れ、それらを使いながらどう話をするかに指導を絞った。その結果、子どもたちは発表原稿を作成していたが、中には原稿を見ずに画面を示しながら聞き手に話すプレゼンができた児童もあった。プレゼンスライドは印刷したものと原稿とをあわせて掲示し、参観日に保護者にも見ていただいた。この学習においては、自分たちの学習に生かすための取材であることが明確だったので、目的に応じた取材活動をすることができた。また、文字等についてもあとから修正できるというデジタルならではの良さがあり、満足のいく取材まとめをすることができた。プレゼンにあたっては、自分の伝えたいことを伝えるためにポイントを絞って話すという学習活動が成立した。
(1−2) さけの観察日記(動物の飼育観察記録)
日時 2004年12月〜2005年2月
実践校 柏市立増尾西小学校(笹間ひろみ)
対象学年 2年生1クラス29名
教科単元 国語:知るたのしさ「さけが大きくなるまで」 - 学習における携帯端末の役割
観察記録映像の撮影と観察記録の記述。観察記録作成時にWeb公開を前提とした文章作成が行われた。それに伴い、相手意識を持った文章作成が行われた。毎日、日直が取材し、教室のパソコンでいつでも見られる状態にしておいたため、学級のライフワークになった。- 期待された学習効果
観察記録作成時にWeb公開を前提とした文章作成(相手意識を持った)が行われた。- 効果 および 改良点
携帯電話の操作は低学年でも簡単に行え,自分が撮影した画像と表記した文章がすぐにWebになるため,遠く離れた祖父母等にも知らせ,観察の様子を広げることができた。- 実践の流れ
- 実感を伴う読みを目指した授業展開
- 鮭の遡上のビデオを編集し、導入に使う。
- 鮭の卵を教室の水槽で育てる。⇒ 観察日記に
- 実際の大きさの鮭や滝を作って、長さや大きさを体感する。
- 穴を掘ったり、崖を上ったり、鮭と同じ体験をする。
- 体験できないことは、本で調べて実感する。
- 鮭の観察記録
- 日直2人が担当し、担任と3人で、写真を撮り文章を書いた。
- 教室のパソコンで、放課後自由に見られるようにしておき、自分達の記録をすぐに確認することができた。
- 同時に学校のホームページでも公開し、家の人や鮭を飼育している他の学校の友だちにも見てもらった。
- 子ども達は、発信する楽しさを実感した。
(1−3) とびばこ(運動の映像記録と確認)
日時 2005年2月
参加学年 2年生1クラス29名
教科単元 体育語 とびばこ - 学習における携帯端末の役割
跳び箱を一人一人が跳んでいる動画を撮影、パソコンにつなげて見る。
自分が跳んでいる姿を客観的に見ることによって、フォームを修正したり、気をつけるところを再確認したりすることができた。
上手な友だちの動画を繰り返し見ることによって、上手に跳びたいという意欲につながった。
(1−4) 防災探検隊
日時 2004年11月
実践校 京都市立藤城小学校
参加学年 5年 54名
教科単元 総合的な学習 〜人にやさしい藤城をめざして〜「防災探検隊」 - 活動における携帯端末の役割
防災探検に出発するに際し,デジタルカメラと携帯電話を使用した。地域で取材した消火器や防火水槽などの写真や,地域の人へのインタビューなど携帯で送った。教師はそれに対して学校よりアドバイスを送った。- 具体的な活動内容
「地域の防災マップ作り」をして,地域の人に発信しようという思いを持ち,「避難場所・消火器・消火栓,道の広さや建物などにも注意を向けることなど」,探検の視点を消防署の方からアドバイスをいただき,地域探検に出かけた。クロスカリキュラムとして,理科で「台風と天気」を学習し,台風の怖さや被害の状況を調べた。- 携帯端末の効用
情報通信端末として携帯電話を利用するのは,初めてであるが写真や映像が簡単な操作で送れた。従来のデジカメなどを用いた方法では、
・子ども達が野外で調べ、体験している情報を、リアルタイムに集めたり、分担した役割をすぐに整理したり、一覧したり、比較したりすることができず、せっかくの情報が共有できない
・教師も様々な場所にグループで活動を行っている子ども達に適切なアドバイスをしてやることができない
などの難点があったが、今回は
○情報共有が可能で、すぐに確認する
○今回携帯電話を学習ツールとして活用したことで、発信場所に依存せず情報がリアルタイムで学校のパソコンに送られてくるので、全員の活動状況が分かり、教師は適切なタイミングで適切なアドバイスをする
○子ども達は教室にもどってからも容易に互いの活動状況が分かり、防災マップ作りに役立てることができる
と、大幅に学習が改善された。
(1−5) 地域のようすをつたえよう
日時 2004年12月3日
実践校 京都市立藤城小学校
参加学年 5年 54名
教科単元 わたしたちの生活と情報 2 情報と社会 - 活動における携帯端末の役割
取材班(各グループ2名)は、伝えたい写真を撮り、すぐに送信する。コンピュータ室で、送られてくる画像を待っている児童は、送信された画像を見て、適切かどうか話し合い、取材中の児童に携帯電話を使って連絡する。適切な画像がない場合や聞きたいことがあれば、すぐにメールを送るか直接携帯で連絡した。- 具体的な活動内容
本授業では地域や学校の自慢を取材し、 伝えたい情報を携帯電話を使って撮影し、それをすぐ学校のパソコンに送信し,学校で待っている児童が自分たちが伝えたい情報かどうか選択し取材している児童に連絡を取り,話し合いながらプレゼンテーション資料を作成していった。映像を話し合って取材しているので,取材していく視点が明らかになり,携帯電話で互いに連絡を取り合うことで,資料を作る上で方向性がより明らかになっていった。
学校に残った児童は,選択した画像をプレゼンテーションソフトに貼り付け,スピーチメモを書き,グループごとに発表の練習をした。その後取材から帰ってきた児童もプレゼンテーションに参加した。
この学習を通して,携帯電話の便利さと同時に携帯電話を使うときのルールやマナーについても指導できた。