注)以下は、平成8年度100校プロジェクト成果発表会の資料より、 テキストデータを抽出してHTML化したものです。図表類や文字の大きさなど、 文書のイメージは、実物とは異なっていますので御了承下さい。

国境を越えた生徒たちの学習活動

下関市立長府中学校
中村 博尚

○はじめに

 本校は全校生徒数743名、教員数51名の学校規模です。
下関市は本州の最西端に位置する九州の玄関口として栄えた都市です。本校の 校区は毛利100万石の城下町に位置し、歴史的文化財に富み、観光・住宅地と して発展しています。

1 平成8年度本校実践概要

  1. クライアント・マシンの増設(計6台、コンピュータ室3台、職員室3台)
  2. 学級ホームページの立ち上げ
  3. 文化祭のライブ中継実施
  4. オーストラリア電子姉妹校の生徒来校
  5. 3カ国共同書道プロジェクトの実施

2 オーストラリア電子姉妹校の生徒来校

 9月29日(日)オーストラリア・ビクトリア州メルボルン近郊のブロードフォー ド・セカンダリ・カレッジより、6名が本校を訪問しました。

○生徒の感想より

 9月29日午後2時、オーストラリアの生徒5人と対面しました。みんな13歳か ら15歳の女子なのに、背が高く、とても私たちと同じ年代に見えませんでした。 私の家に泊まることになったのは、ケリースピーチレイという15歳の女の子で した。ケリーは日本語がとても上手で、私も英語で頭を悩ますこともありませ んでした。その日は、功山寺や覚恩寺などに行き、写真を撮ったりしました。 家に帰ってからは、ゲームをしたり、いろんな話をしたりしました。また、次 の日は一緒に学校に行って、共に体験学習をしました。

 住んでいるところや、生活習慣や言葉が違っても、私たちと同じなんだろう ということがわかりました。十分な時間もなかったのに、こんなに仲良くなれ るなんて思いませんでした。だから、とてもうれしかったです。本当にいい思 い出になりました。これからもいろいろな国と交流を深めていきたいと思いま す。

 また保護者の方から「本当に貴重な体験をさせていただきました。大変しっ かりしたお子さんで、日本語もお上手でした。日本人も見習わないといけない ことがたくさんあると痛感しました。」という声もありました。(Aさん)

 本校でインターネットを通して海外の生徒を迎えるという意味では、最初の 経験でした。

インターネットが人と人とのコミュニケーションの場であることを考えると、 これを通して究極のコミュニケーションと言える「出会いと対話」が実現でき たことは、やはり意義深いことだったと思います。

3 3カ国共同書道プロジェクト

○目標

  1. 海外の交流とのコラボレーションにより、日本の文化を発信する。これよ り、生徒自らが情報発信を行うとともに、お互いの異文化理解を図る。
  2. 平安時代の女流文学者たちが生み出した日本古来の「ひらがな」 を使った書道をテーマに生徒自らが情報の相互伝達の経験を行う。 これによって、日本の伝統文化を海外でも理解してもらうとともに、 書道の技術向上を図る。

○内容

  1. 長府中学校の代表生徒の書道のお手本を作りデジタルカメラで 撮ったものを画像ファイルとした、相手校に提示する。
  2. また、作品に書かれてある文字の意味については、 イラストで補足する。
    例えば「たこ」というお手本については、「Kite」と「Octopus」の 2つの意味を持っているので、2枚のイラストにそれぞれ英語のスペルと、 ひらがなの「たこ」をのせて提示する。
  3. さらに、ひらがなの書き順や書き方の要領については、 ムービーファイルをもとに、学習してもらう。「たこ」の場合には、 「た」「こ」それぞれの書き方の要領を英語で解説しながら、 実際に筆の動きを確認できるようになっている。
  4. こうして、要領と意味を相手校の生徒に理解してもらった上で、 作品を完成させてもらいたい、できた作品を本校生徒に送る。
  5. 本校生徒は、この作品の評価をし、赤で添削したものを 再度相手校に送り返す。
○ブラジルの生徒の感想
(略)

○本校生徒の感想

  1.  外国の人に、習字とはどんなものかを知ってもらいたくて、 お手本を書きました。

     習字は日本の文化でもあります。しかし、僕は外国の人にも興味を持っても らい、共に同じ文化を分かち合えることがいいと思います。僕は、このような 場で外国の人々とコミュニケーションをとられたのがとてもうれしかったです。 (B君)

  2.  私は、見本を書いたり、送られてきた作品の添削をしたりしてきました。

     正直言って海外の人たちの書道のうまさに感動しました。一心に 書こうとする意志が技を越えたのだと思います。私たちも日本の文化を もっともっと色々な国の人たちに広めていきたいし、また、私たちも他の 国々の人たちに負けないように頑張らないといけないなと 思いました。(Cさん)

○このプロジェクトで得られたもの

  1. 地球規模のエリアに日本の文化を伝承するという意味あいでは、 情報発信の内容としては意味深いものがあったと考えます。 たとえそれが生徒レベルの書道作品であっても、物理的な教室の壁を 越えて異文化を理解し合える場が形成されたことに大きな意義を 感じます。
  2. 書道を多面的に理解してもらうために、イラストを使って意味を 知らせたり書き順やこつをつかんでもらうためにムービーファイルを 利用したりと、様々な工夫を凝らすことができたと思います。
  3. 先生の生徒の作品については、ただただ感心させられるばかりでしたが、 本校の生徒からも適切なアドバイスと励ましが与えられたことで、 心が通じ合ったと感じました。また、本校生徒のイラスト、 特に「ゆめ」をテーマにしたイラストでは、ブラジルの生徒たちが 描いてくれた「ゆめ」のイラストとの共通点を見いだすこともできました。
  4. こういったコラボレーションの経験を通して、相互学習の楽しさや 自分の持つ意思を相手に伝達するための表現手段や方法、 さらには日ごろの授業には見られない自ら学ぼうとする意欲を 垣間見ることができました。また、大人にはまねのできない生徒らしい 発想が随所に見られたことも新たな発見でした。
 人間の持つ知識の量は、10年ごとに倍増しているといわれています。今後の 情報化が進展していったとき、知識の獲得よりも大切ないくつかの要素があり ます。一つは氾濫する情報の中から自分にとって必要な情報を取捨選択できる 「情報活用能力」、もう一つは、ネットワークの中でも相手の立場やマナーを わきまえることのできる、倫理観や道徳心の確立です。

 ネットワーク社会は、仮想空間上に広がるもう一つの社会です。ここでは政 府から個人に到るまで、すべてが対等なつながりをもった「連」の社会です。 これからの「連」の社会を担う子供たちを育てていくことが、私たち教育者の これからの使命と言えます。