注)以下は、平成8年度100校プロジェクト成果発表会の資料より、 テキストデータを抽出してHTML化したものです。図表類や文字の大きさなど、 文書のイメージは、実物とは異なっていますので御了承下さい。

学習資源・交流内容の充実と新しい評価方法について

富山県立大門高等学校
藤井 修二
 高校普通科での情報教育を利用した課題研究授業に取り組み、動機を持続し、 生徒が-主体的に活動する方策を考えた。本報告では、ネットワーク環境にお ける授業と評価法の実践例である。

1.はじめに

 インターネットは手段であり、教育の目的ではない。教育を、「考えるとい うことを通した自己実現への道」としてとらえ、より高いものをめざす向上心・ 自己を制御する力・社会の中での対応力の育成を目標に据える必要がある。そ の中で、インターネットの果たす役割は学習環境の質的変化をもたらす可能性 に意味がある。

 インターネットを使えば簡単に交流ができること、情報の入手と発信ができ ることなどが実践を通してわかった。しかし、教育効果を考えた場合、生徒に 対する質的に高い負荷とその負荷を乗り越える持続的努力をさせるため、単な る交流、情報の垂れ流し・表面的情報技術の習得に終わらないようにする必要 がある。

 また、交流の相手は無制限なわけではなく、中身を考えた交流を図る場合、 範囲は限られてくる。さらに、授業である以上、単位の履修修得に絡む評価を どうすればよいか考えなければならない。

 この発表は、次の2項目を紹介する。

2.平成8年度大門高校における実践事例

(1)数学・物理・化学の課題研究(カリキュラムとTTの工夫)

【1年】全員240名 週2時間

 情報教育を計画的に実施するため、「情報科学」という科目を設けた。授業 は,数学・理科各2名の教師が担当し, TT形式で行う。

 1学期の14時間は,数学・理科共通の教材を使用して,キーボード操作から始 まり、Excel、E-Mailをある程度使えるようになることを目標としてる。2学 期から、数学、理科に分けて実施している。数学は数学Aのプログラミング、 理科は実験を通したレポート作成方法を目的とした課題研究である。3学期に 入り、理科は、HTML作成を目的として、図書館などにある本を調査し、キーワー ドを調べ、図や説明を書き、リンクをはることを実施している。

【2年】情報コース54名 週1時間

 生徒が任意で選択した情報コースでは、数学班、化学班、環境班に分かれて 実施した。尚、課題研究成果はすべてWebにのせネットワーク上で公開してい る。教師は、できる限り生徒が自分の力で課題達成やWeb作成をするようにし ている。

数学班(遠隔授業)

 高校の数学教育に関心を持つ大学の研究者とMLを通して研究を深めるスタイ ルは昨年度と同じであった。今年はWeb を通した黒板を取り入れた。次年度か らは、JavaによるInteractiveなWebの利用も提案されている。課題研究成果は すべてネットワーク上で公開している。

化学(化学班)

 昨年度の「酸・塩基・塩」の課題研究(3月に発表)と同様な手段で「酸化・ 還元・電池」を実施している。

化学(環境班)

a.校外での活動、国際MLの活用
 2クラスにわたって環境問題について研究している。ゴミ・水質・自動車 (大気・オゾン層・開発破壊)・放射能の各分野毎に,外部資料だけではなく 自分たちで測定できるものがないかを考え実践している。また,アメリカ,オー ストラリア,イスラエル, 南アフリカ,ブラジルの6カ国との間でメーリング リストを使った意見交換を図ろうとしている。しかし、環境に対する意見が国 によって異なり、かみ合わないこともわかってきた。各国のスタッフMLで今後 の調整が必要である。

b.全国マルチメディア祭 環境問題プレゼンテーション
 この成果は、11月に行われた全国マルチメディア祭で一般の方々に報告した。 インターネットでつながった会場で、大門高校やリンクを張った環境関連Web を表示しながら自分たちの意見をプレゼンテーションした。

 1月からは、日本海沿岸に押し寄せたロシアタンカーからの流出重油に対す る意見をまとめている。

これらの成果をもとに、MLでの共同研究に参加し、今年、アメリカで成果を発 表する。

【3年】情報コース 50名 週1時間

 生徒が2〜6人程度の小人数に分かれ,グループごとに物理分野を中心とし た研究テーマを設定し, 課題研究を行う。4人の教員で担当している。1学期 はテーマ設定と実験データの収集,2学期はレポートの作成を行う。成果はや はりHTML化し,課題研究発表会を行う。

(2)パイロット電子図書館(国会図書館データ)の授業利用

 10月から、IPAのパイロット電子図書館をモニターとして利用している。

 日本史の近現代史を課題研究としてテーマ毎に調査内容をワープロで報告書 として作成、HTML化して公開、蓄積していこうとしている。「安保問題」「ロッ キード事件」「バブル経済」「ソビエトの消滅」など教師は当然のように知っ ていることも、高校生は全く知らないことが多い。パイロット電子図書館は近 現代史を扱うときに貴重な資料となっている。

(3)WWWを通した英語学習

 数学、物理、化学、日本史は課題研究としての事例であった。この他の教科 として英語では、話材として人間のしぐさ(ジェスチャー)をWebに取り上げ た。

3.評価方法の工夫

 課題研究授業は、内発的学習意欲を高めるなど、今後の教育の中に不可欠の 要素をもつ教育方法である。しかし、課題研究は、ややもすると生徒作品や発 表会の良し悪しに目が奪われ、生徒独自の試行錯誤の過程や自己評価による内 発的意欲を軽視することがある。高校段階は、生涯学習的視点に立ち、今後の 意欲的活動を活性化するため、問題意識を持ち続けたり、目的を芽生えさせた りする必要がある。評価は学習指導と表裏の関係にあり、課題研究授業を教育 課程の中で定着させるため、評価法を考え続けることが必要である。

(1)指導経過

 評価はペーパーテストにはよらず,レポートの出来によって決まる。そして, レポートの出来も,教師側からの一方的な評価のみでなく,校内LANを使って, 生徒相互で評価させ合う形も取り入れてきた。特に,2,3年次における課題研 究で作成されたレポートは,インターネットを通して校外にも公開し,生徒自身 が自己の研究報告・自己評価にその反響をフィードバックすることを体験して きた。さらに、課題研究発表会で,意見の発表・交換を経験してきている。

(2)3年生の課題研究の際の資料

_____4月の生徒配布資料から__________
【目標】
1)対象を分析し,目的を達成できるシステムを設計する能力
2)仕様に基づきシステムを実現・実装する能力
3)自作,他作のシステムを客観的に評価する態度や能力
4)他者に伝達すべき内容を正確に表現する能力
5)問題点を見極め,自ら工夫し,解決する態度
____11月生徒配布資料から______________
【評価について】最後の課題発表だけではなく、初めの頃の試行錯誤、試作品 の製作などホームページにのせたレポートだけで評価できない部分も担当の先 生方は評価しています。最終評価はお互いを評価し合うと同時に評価する人の 態度も評価されます。最後はその評価を評価された人がわかる形にします。後 で謗(そし)られることのないように誠実に評価しましょう。評価点として、 担当の先生方が約5割、生徒評価点が約3割、評価態度(担当者が評価票をも とに採点)が約2割です。

3.結果・考察

例として評価会に使った評価票を紹介する。生徒は建設的な評価、意見を述べ ている。

3133,b4,、弦の長さの比には規則性があるのですか。
3133,b5,実験結果がもっと詳しかったらいいと思った。8種類の記号にはどの ような変化があり、何が原因で8種類の違いがでるのですか。
3133,b6,3万ボルトも出さないとネオン管を光らせることはできないのですか? どのような放電の仕方をしているのですか。

(3)考察

 最終的に算出された点数と、生徒の努力・作品とが一致しているかという問 題はある。生徒は、研究の多くの時間、予想された結果が出ないこと、実験の 目標と結果の不適合、表現方法の稚拙さに悩んでいる。研究を深めれば深める ほど自分の力を知り、謙虚になっていくようである。自分の研究に対して揺る ぎ無い自信を持つ生徒などいない。2年次における聞き取り調査では、6割程 度の評価点に対して不満を感じることはないようである。

 また、作品をWebにのせる作業、イメージのグラフィック化、データの分析 過程、情報の収集(計測)において、コンピュータ・インターネットを適宜利 用する必要性を感じるような環境づくりをすることで、別段の指導をしなくて も全ての生徒が活用するようになった。

4.おわりに

 インターネットを使うことを目的とするのは無理がある。インターネットの 教育利用を進めていくためには、何のために学ぶか、誰のために評価をするか などを考えていく必要がある。受験というハードルはあるが高校教育の本質を もう一度問い直すことが必要ではないだろうか。

 最後に、担当者の一人宮池秀洋教諭の感想である。

 学校の授業は現在に至るまで,所謂「天下り式詰め込み授業」が主流である。 この課題研究では,生徒自身が疑問に思うこと,調べてみたいことを探し出し, 解決するためにはどうすればよいのかを自ら考えねばならない。そこでは,生 徒は,受身の姿勢ではなく,自分から動き出さねばならない。そして,その答は 見付かればよし,見付からなくてもよいのである。大切なことは,見付からなかっ たときに「もっと勉強しよう。大学へ行ってこの答を探そう」という気持ちを 持ってくれることなのである。

 我々は,このような意図を持って,この課題研究を指導している。一人でも多 くの生徒に,学問的目的を持って大学へ進んで欲しいと願うのである。

 ほとんどの生徒が大学進学を志し,大学への単なる通過点でしかなくなりつ つあるのが,現在の普通科高校の姿であろう。このような中で,課題研究的な取 り組みこそが,普通科高校の今後のあるべき姿ではないだろうか。________ (平成8年12月北陸東海 活用研究会資料)