注)以下は、平成8年度100校プロジェクト成果発表会の資料より、 テキストデータを抽出してHTML化したものです。図表類や文字の大きさなど、 文書のイメージは、実物とは異なっていますので御了承下さい。

「発信する児童をめざして」

・・・共同利用企画「全国おたずねメール」と「21世紀の授業」

大津市立平野小学校
石原 一彦

(1)共同利用企画「全国おたずねメール」

 今年度当初より本校で企画・運営している「全国おたずねメール」は子供た ちが主体的に学習を進めることを支援する学習環境の一つです。これは、小中 学生の疑問に 答えてくださる「メ−ルボランティア」を全国から募り、その リストを一覧にしたも のです。

 リストには「得意な分野」の欄があり、質問する子供たちはこの欄を見て誰 に質問 すればよいかを探して直接、電子メールで質問することになっていま す。万一質問す る子供たちにエチケット違反のようなことがあれば、ボラン ティアの方が直接ご指導 していただくことになっています。メールボランティ アには医師やエンジニア、大学 の教師など様々な職業の方に登録していただ いています。したがってこのページを利 用すれば、子供たちは直接社会の現 場から生の声を聞くことができます。現在メール ボランティアは100名近 くの方に登録していただいていますが、今後さらに多くの ボランティアの協 力を得て、一種の「バーチャルスクール」としてこのページが全国 の小中学 校で利用されるように願っています。

 またこの「全国おたずねメール」は日本の学校だけでなく、海外に居住して いる日本人の子供たちが日本の現状について調べたり、また、学校に行ってい ない児童、い わゆる不登校の児童が家庭やフリースクールから利用してくれ るようになれば、さら に価値は高まると考えています。

(2)「全国おたずねメール」を利用した授業実践から

-----インターネットで調べ学習をさらに豊かに(5年社会科「伝統工業」)

 5年の研究授業は社会科の伝統工業を調べる学習でインターネットを活用す る試みです。

 まず、子どもたちには自分たちが調べたことをホームページから「全国伝統 工業マップ」として発信することを伝え、この目標に向かって自分たちの調 べ学習を進める よう動機付けました。通常の社会科の学習では、子どもたち の調べ学習は資料集を見 たり、図書室で調べたりと、主に書籍にたよる学 習になりがちです。しかし、インタ ーネットを利用することでこの子ども たちの調べ学習をさらに豊かに、さらに深くす ることができるのではないか と考えられます。

 インターネットを利用した調べ学習を3つのステージに分けました。最初は 本校で 作成したリンク集「全国産物マップ」で調べる方法です。日本地図を クリックすれば 、調べたい各都道府県ごとにインデックスが表示され、そこ から各地の産物を発信しているサーバーにたどり着くことができます。

 次に、サーチエンジンを使って調べ学習を行います。サーチエンジンとは、 自分の 調べたい事柄に関するキーワードを考え、そのキーワードを入力して 日本中のサーバ ーに検索をかけるものです。「伊万里焼き」を調べている子 どもたちは、「伊万里焼 き」と入力し、検索キーを押すことによって、「伊 万里焼き」に関する情報が掲載さ れているサーバーの一覧 を見ることができ ます。この一覧から、自分の調べたいこと が掲載されていそうなサーバーを 選んで、そこにアクセスします。

 「全国産物マップ」でも「サーチエンジン」でも調べられなかった児童は、 最後に「全国おたずねメール」を使って、直接メールボランティアの方に質問 をすることに なります。(この「全国おたずねメール」については後述で詳 しく説明します。)日 本全国にいるメールボランティアの方に直接、電子メー ルで質問し、返事をもらうこ とができました。

 このようにインターネットを利用した3段階の調べ学習で子どもたちは全国 の伝統 工業品を調べ、その調べた結果を最終的にはホームページから「全国 伝統工業マップ 」として発信しました。

 これらの5年生の学習については,NHK教育放送の「教育トゥデイ」(9 6年11月)で紹介されました。

(3)「発信する児童をめざして」

------96年度の校内研究授業

(4)その他の取り組み

(5)「21世紀の授業」

1)「21世紀の授業」」を成立させる5つの観点

 インターネットの教育利用を進める中で、インターネットは既存の教科をさ らに 豊かにしてくれるだけでなく、「新しい学び」も可能にしてくれるので はないかと考えるようになりました。2年間の研究を締めくくる意味でも、最 後にインターネットを利用した「新しい学び」を「21世紀の授業」と名付け て構想しました。

 そのコンセプトを、従来の知識蓄積型の授業と比較して5つの観点別に述べ たの次の図です。

授業の観点 知識蓄積型の授業 「21世紀の授業」
1 学習課程 学際的領域からの縦割り教科/教える側の論理/教科別学習 児童自身の生活や興味から構成する/学ぶ側の論理/総合学習、 クロスカリキュラム
2 学習活動 知識蓄積型の学習活動 発信型の学習活動
3 教師の役割 知識や技能の伝達(内容知) 情報活用能力の育成(方法知)
4 教師と教室 教師は孤立し、教室は閉じられる/学級王国閉鎖型社会 教師は連帯し、教室は開け放たれる/外部からの風、 教師・専門家・保護/者・児童の協
5 学習集団と評価 教師を頂点にした階層構造/一つの基準をもとに等級付けをおこなう 児童それぞの良さを認める 並立構造/「自分見つけの旅」にいざなう共感的評価

2)実践の計画

(1)「21世紀の授業」をめざした

 6年生総合学習「課題研究」の授業

 上記で述べた「21世紀の授業」を、実際の授業としてどのように構 想できるのか 、というテーマで取り組んだのが6年総合学習 「課題研究」です。もちろん「21世 紀の授業」を成立させる5つの要件が すべて満たされているわけではないし、いずれ も不十分なことばかりです。 総合学習「課題研究」は今の本校の環境の中で少しでも「21世紀の授業」 に近づくために取り組んだ実験的な授業です。

 この授業は、今年度6年生が週1時間(年間35時間)の計画で実施したも ので、それぞれの児童が自分の興味・感心に基づいた課題を設定し、1年間を かけてその課題に取り組み、研究した結果を自分のホームページから発信しま す。以下は具体的な学習計画や授業の流れです。

(2)年間指導計画(全35時間)

時数学習内容メディアリテラシー
1〜5HTMLの基礎、自分のページ作成
  • テキストエディターによる文字入力
  • フロッピィーディスクへの保存
  • HTMLファイルの作成
  • 基本的なタグの理解
  • FTPの使い方
  • スキャナーを利用した画像入力
  • フォトレタッチソフトによる画像処理
  • タグによるページの装飾
  • デジタルカメラの使い方
  • CGの作成
  • リンク集の作成
6〜12平和への提言
13〜16課題研究のまとめ
17〜19発信内容の検討
20〜24HTMLファイルの作成
25〜35交流、反省

3)実践の概要

 この授業は研究主任と学級担任とのティーム・ティーチング(TT)の形態 で取り組みました。

 1学期には自分のホームページを立ち上げ、簡単な自己紹介を作成しました。 ここでテキストエディターを使った文字入力やフロッピィーディスクへの保 存、簡単なHTML文の構造などを学びます。

 また、5月に修学旅行に行くのにあわせてインターネットを用いた平和学習 を企画しました。WWWの平和教材を発信しているサイトにアクセスし、原 爆の惨状や被爆者のメッセージなどを旅行前に学習した。修学旅行先では、被 爆者の方から直接お話をお伺いして、原爆の痛ましさと平和の尊さを子どもた ちは実感した。修学旅行後、平和への提言を各自文章にまとめ、それを自分の ホームページから発信することにしました。

 また、夏休み前にいよいよ一人一人の課題を設定し課題研究に取り組み始め ました。

 2学期になってインターネットのリンク集やサーチエンジンを使ってさらに 詳しく調べたり、撮影した写真を整理したり、キッドピクスで絵を描いたりす るなどそれぞれの児童が思い思いの作業をしていきました。発信に関しては、 児童本人や保護者の方から発信してほしくないという連絡を受けた児童のファ イルについては発信を見合わせるよう配慮しています。

 本校の6年生の子供たちが取り組んだこのページは、来年の6年生に受け継 がれ、さらにすばらしい研究を生み出す土台になってくれるかも知れません。 また、運良く平野小学校のサーバーがこれからも存続していけたら、今の6年 生が大人になった時に、世界のどこかから平野小学校のサーバーにアクセスし、 自分が小学校で取り組んだ「課題研究」を懐かしく思い返してくれるかも知れ ません。

 デジタルデータは時空を越えて子供たちの成長を見守ってくれるからです。