注)以下は、平成8年度100校プロジェクト成果発表会の資料より、 テキストデータを抽出してHTML化したものです。図表類や文字の大きさなど、 文書のイメージは、実物とは異なっていますので御了承下さい。

特殊教育におけるインターネットの活用

東京都立光明養護学校
伊藤 守

<作品発表・自己実現の場としてのホームページ>

 一昨年の夏休み中にインターネットに接続した。二学期早々,社会科の時間 に,インターネットの概説の話をしてから,生徒たちにネットサーフィンを楽 しんでもらった。居ながらにして世界の情報に接することが出来る(肢体不自 由というハンディキャップを克服するツールとしての利用)などの理由から, 生徒たちの歓迎度の大きさが予想されたがさほどではなかった。

 しかし,一学期の間在宅療養していたO君。二学期早々の選択科の時間に, 家にあるパソコンを使って,あっと驚くような「迷路」を描いてきた。早々, Nifty-Serveの障害児教育フォーラムなどで紹介したところ,次の日の朝には メールが届いた。そのメールに励まされて,O君は,インターネットのホーム ページ上に,次々に作品を発表するようになった。他者を意識することによっ て初めて自分自身の存在を実感できる・・・「人間は社会的存在である」とは, よく言われることではあるが,今更ながらそのことを実感した次第である。

 さっそくホームページ、会社で拝見させて頂きました。みなさんいい顔して ますね。写真を取ったときの様子が思い浮かぶようです。

 迷路、絵、物語、詩、とてもすばらしい作品ばかりですね。迷路は、あの細 かさ、とても根気のいることでしょう。私は、分からなくて1つ答を見ちゃい ました。あれは、解答が絵になるのですか?

 絵は、夜の雰囲気出ていますね。電車が月明かりに照らされているように見 えたのは私だけでしょうか?

 物語は、実は全部読んでいないのですが、あれだけの物語書くのにどれくら いかかったのだろうと考えてしまいました。今度じっくり読ませて頂きます。

 詩は、胸を打たれました。ああいう想いを抱いているって、あのように表現 されるまで、分からないのかもしれませんね。考えさせられます。

 でも、みんな、なんかしら手段があれば、あれだけのこと出来るんですよね。 (わたしゃどれも出来ない)。それを世の中の人たちに知って頂けるだけでも 意味あるホームページだと思います。

 まもるさん、そしてホームページに載っていたみなさん、次の作品を期待し ています!!!

     (会社員:Hさん)

 早速見てきましたよ (^-^)

 我が家のPC環境はあまり良くないので(今月中に改造予定)頭の2人だけ見 てきました。

 写真入りというのがとてもいいですね。さすがはInternetですわ。中身はま だ完全じゃないようですから

 完成をお待ちしますね。

 それとe-mailのアドレスが有ればと思いました。「見に来たよ」とメールを 書こうと思ったら無かった(^-^ゞ

 では、また感想書きますね。

     (北海道のKさん)

<インターネット上に展開されたイントラネット:チャレンジキッズ>

 子ども達は,ホームページ上で作品を発表するだけでなく,インターネット 上に展開されたイントラネット(滋賀大学教育学部付属養護学校提案のチャレ ンジキッズ)で,活発な交流を行うことが出来た。滋賀大学教育学部附属養護 学校内には,児童・生徒用メイルサーバーFirstClassが設置され,Macintosh・ Windows両方での利用が可能となっている。

また,画像ファイル・動画ファイルや音声ファイルの添付も非常にわかりやす く,子どもたちが使いやすいGUI環境での操作ができるようになっている。

<教員支援ツールとしてのネットワーク利用>

 共同利用企画のためのメーリングリスト上で,石川県立七尾養護学校の実践 が紹介された。「七尾養護学校は,知的障害児のための学校であるが,ごくわ ずかではあるが肢体不自由をあわせもつ生徒もいること」「肢体不自由児用入 力装置は知的障害児にも有効であることが予想された」などの理由から,コン ピュータ入力補助機器のキネックスとインテリキーを貸し出し,共同研究をす るすことにした。「地方」こそ,子どもも教師も「孤立」しがち。ネットワー クの必要度は高いように思われる。

<今後の課題>

 共同利用企画のためのメーリングリストで情報交換・意見交換をしながら, 研究・実践を進めた。「インターネットは,障害児教育,中でも知的障害を伴 わない肢体不自由児には非常に大きな教育的効果を持つ」ことが明確になった。 しかし,知的障害を伴った児童・生徒への実践及びその公開については,彼ら をとりまく社会的背景などの問題とあいまって,肖像権などのデリケートな問 題もあり,未だに大きな課題として残されている。とはいえ,インターネット 利用の知的障害児への教育効果及びそのアクセシビリティについても,少しず つ研究・実践が進んできている。引き続き研究を深めながら実践をすすめてい く必要があるように思う。また,在宅学習支援などのためのテレビ会議システ ムの利用についても,検討を加えてきたが,回線の太さからく制約などもあり, 検討課題として積み残されている。

 教員支援システムとしてのインターネットの活用については,障害児教育に おいては,特に,周囲からの情報収集が困難な状況に陥りやすい「地方」にお いて,ニーズが高いと思われる。その意味で,特殊教育共同利用企画のための メーリングリストが果たしている役割は大きいように思う。

 障害児教育におけるインターネット利用は始まったばかりである。障害児学 校のインターネット担当者には,一般的な技術的支援が必要な事は言うまでも ないが,肖像権の問題・各種障害のアクセシビリティの検討など,一般的な問 題とは別に,障害児教育特有の問題もあり,その負担は非常に大きい。ハード・ ソフトの面からだけでなく,人的な環境整備も強く望まれる所である。

 さまざまな課題は残されているが,障害児教育においても,インターネット などの広域ネットワークシステムの活用に寄せられる期待は大きい。問題を一 つずつ解決していくという,地道な研究活動の重要性が指摘されるゆえんであ る。