注)以下は、平成8年度100校プロジェクト成果発表会の資料より、 テキストデータを抽出してHTML化したものです。図表類や文字の大きさなど、 文書のイメージは、実物とは異なっていますので御了承下さい。

数学科におけるインターネットの活用に関する実験的研究

− MATH−CUTSTUDIUM −

岡山大学教育学部附属中学校 数学科
大月 一泰/金光 一雄

1 はじめに

 1995年10月よりマスカットスタジアム(MATH-CUT STUDIUM)というホー ムページを作成して,数学科におけるインターネットの活用について研究して きた。(図)

ここでは,次の「挑戦状のページ」および「数学科の先生方へ」の2つの内容 を中心に発信し,情報の交流を行ってきた。昨今の「理数科離れ」という風潮 の中で一人でも多くの子どもたちに算数・数学のおもしろさ・楽しさを実感さ せたいと考えている。

2 挑戦状のページ

 数学に対する興味・関心や意欲を高めたり,それを評価したりすることの必 要性が求められている今日,教師が生徒に学習内容をさし示し,生徒はそれを 受け取るだけというような知識伝達型の授業からの脱皮が求められている。そ ういった取り組みの一つとして,「挑戦状のページ」は,本校だけでなく活用 してもらうための実験として作成している。WWW上に,2ヶ月に一度問題を 出題するとともに,本校の生徒たちにも自由な課題として提示する。生徒に出 題する問題は自主レポートとして提出させるのが原則である。

 問題の作成にあたっては,多様な見方や考え方ができること,発達段階に応 じて解決することができること,他の領域の研究者や興味を持っている人の助 言により,発展的に問題を変容させていけるものであることを前提としている。 もちろん,なによりも「おもしろそうだな」「やってみよう」という意欲のわ くような内容であることを大切にしている。1995年12月に第1問を発信 して以来,1997年1月現在第5問を発信中である。生徒たちが興味を持っ て解決した課題は,さらに多くの人々によって同様に解決される。

 第1回の課題に対して,同じ中学生からの解答,情報工学を専攻する大学院 生,Mathematica を使って調べつくしをしていった解答など多様であり,生徒 は,自分たちの考え方と比較し,さらに発展させることができた。このような 実践は生涯学習としての数学のあり方としても有効であった。

3 教育実践の公開

 数学教育の改善にあたっては,教師それぞれが持っているアイディアを交換 したり,共同で研究したりすることが必要である。このような教材開発や指導 法の研究をインターネット上で展開することが可能となれば,時間を有効に活 用しながら,密度の濃いコミュニケーションが可能になる。

 インターネットを活用することの最大の利点は,「インターラクティブ=双 方向性」にある。互いの実践を比較したり,批判したりすることも即時的に可 能である。は現場の視点を失うことなく,様々な情報を発信してきた。

 1997年1月現在,表のような情報を発信している。

○全体的な本校の取り組み
 -主体的な学習を目指して-
○こんな授業はいかがですか
  1. 正多角形のしきつめ
  2. 4つの4
  3. 連立方程式の利用
  4. 直線で曲線を
  5. 式の利用
  6. 一次関数の導入
  7. ダイヤグラム
  8. 星型正五角形の角の和
  9. 星型の謎
  10. 直角三角形の合同
  11. 宝探し
  12. 2つの正方形
  13. 平方根の導入
  14. ピタゴラスの☆
  15. 接線の長さ
  16. 2つの正方形を1つに
「こんな授業はいかがですか」がこの情報発信の中心となる内容である。ここ では,次の2つに重点を置いている。  
  1. 主体的な学習をめざした教材と授業の流れを紹介する。
  2. 写真や図を取り込むことにより,見ただけで授業の様子がわかるようにす る。
 ある授業実践を,実践者のみの個人的な経験に終わらせることなく,多くの 教師で共有することによってより充実したものとしていくことができる。少し ずつ実践記録を蓄積していくことが重要である。さまざまな実践記録をインター ネット上でリンクすることによってインターラクティブな交流が可能になった。 現在は,実践例を増やし学年別・領域別に体系的に示すことができるようにし つつある。

4 まとめ

 インターネットの価値は,さまざまな人がインターラクティブにコミュニケー ションできることである。そこで重要なことは,コミュニケーションの対象は コンピュータではなく,それを通してコンピュータの向こうにいる人間である ということである。

 数学教育においても,授業や教材についてのアイディアを持った人がそのア イディアを発信し,それを見た人と意見を交換をし,共同研究・共同実践のた めの共同体を,ネットワーク上で形成することが近い将来可能になってくるで あろう。また,学習指導においても,インターネットは,教室の中での知識・ 理解や技能偏重の数学から生徒の興味・関心を生かし,より創造的な数学へと 変化させる可能性を持っている。21世紀には,インターネットあるいはそれ に代りうる新たなネットワークは,数学教育において一つの有力な手段となる であろう。そのために,次のような活動を積み重ねていきたい。

  1. さまざまな実践を紹介したり,他の実践を追試した結果を紹介したりする ことにより,ホームページの充実を図ること。
  2. 同様の実践を行っているwwwとの連携・リンクをとりあい, インターネット上での数学教育のネットワーク化を図ること。
  3. 「遠隔授業」「仮想教室」等を実施するための実験・準備を 行なっていくこと。
 こういった新たなプロジェクトの一環として,和歌山大学教育学部附属中学 校等との選択数学を中心とした交流を1996年12月より開始している。