注)以下は、平成8年度100校プロジェクト成果発表会の資料より、 テキストデータを抽出してHTML化したものです。図表類や文字の大きさなど、 文書のイメージは、実物とは異なっていますので御了承下さい。

高等学校における生徒の自律的意見交換

北海道旭川凌雲高等学校
奥村 稔

1 ねらい

 インターネットが将来の学習支援環境として活用されるとき、その根底にお いて必要とされるのは人間同志の信頼関係である。そういった人間関係をどう 築き上げていくかが、高度情報化社会の教育に必要とされるであろう。この観 点に立って本企画では、それぞれの高等学校でのインターネット活用の実践を 基盤とし、それらが全国的に交流していくことでどの様なコミュニケーション が展開されるかに焦点を当てた。

  1. インターネットを補助的な手段として全国の高校生が コミュニケーションを持とうとするときに、生徒たちの内面や行動に どんな変化が生じて来るのだろうか。
  2. 高校生という自律性が高まる時期にあって、メーリングリストの 運営などに係わり、生徒たちがどの様にして自主的・自律的な運営を 行っていくのだろうか。
  3. 各学校においても、学年制度による従来の横割りの交流から、 新たに人間性を主軸においた人間関係の形成が期待できるかもしれない。
  4. 周囲の教師などからの支援は、どの様な場面において、 どの程度の働きかけが適当であるのか。
以上の視点を持ち、インターネットが「インターラクティブなコミュニケー ションを支援する環境」であるという立場から、その総合的な活用方法を探り 実践し、効果を検証する。

2 方針

 本企画は段階的に実施することで、実践におけるねらいの拡散を防ぐと同時 に、生徒のコミュニケーションが自律的に無理なく発展を遂げるよう考慮する。 また、発展の進行状況によってはその運営を柔軟に考えることとし、生徒を無 理に方向付けるような行為は厳重に慎むように留意する。

 交流の対象校をしぼり、情報交換の主旨の徹底や方法手段の定着を図る。参 加校については、研究グループが運営にあたっての細やかな眼が行き届くよう に配慮する。また、特定地域に集中しないよう全国的な散らばり具合を考慮す る。普通科・工業科・商業科などの校種も重要な配慮事項である。

 対象校の生徒たちがインターネットにおけるコミュニケーションに慣れ、コ ミュニティとしてある程度成熟してきた段階で、自由な参加へと展開する。こ こで期待されるのは、コミュニケーションがいままで生徒が経験したことのな い広い範囲にまで外に向かって拡張して行くことであり、逆に問題意識が個人 のものとしてしっかり内側に向かって自覚され始めることである。

3 実践内容

(1)ネットワーク上での交流

(a)手段

 メーリングリスト(以下MLと略す)を用いた電子メール利用を基本とする。 既存のコミュニケーション・ツールにつぐものとして、電子メールは生徒た ちにどの様に認識されるのだろうか。また、その利便性や危険性についても、 充分に体得させる必要がある。インターネット上のその他の手段(ビデオ会議 など)や、非電子ネットワーク的手段(電話・オフラインミーティングなど) を活用することも考慮する。

(b)体制

 対象校の教員と生徒から、それぞれコア(核)になるメンバーを選出しML を作る(コア教師MLとコア生徒ML)。一般の教員と生徒に対しても、それ ぞれML(一般教師MLと一般生徒ML)を作成し、各ML相互の働きかけに よって全体の運営を目指す。一般のMLはコアのMLを包含した形となってい る。

 本企画の運用内容をコア教師が検討し、一般教師やコア生徒への周知を図る。 一般教師は各自の学校において一般教師は各自の学校において一般生徒を支援 し、コア生徒はMLにおいて一般生徒が活動しやすいような具体化をしていく。 本研究の主題は、この一般生徒のMLがどのように運営されていくかにある。

(c)方針

 生徒によって自主的に考えられた様々なテーマについての、プレゼンテーショ ン・交流・討議・共同学習などが想定される。MLの交流の中からこれらのテー マや具体的な行動が出てくることが期待されるが、その動きが見られない場合 には、教師の側からの援助が必要となろう。その場合の教員の姿勢は、基本的 に生徒のコミュニケーションに直接口を出すことはせず、コア生徒へのヒント・ アドバイス程度にとどめる。

 生徒間のコミュニケーションは、原則としてML上で行うもの(個人間のコ ミュニケーションを禁止するものではない)とし、教師は常に状況を把握でき るように留意する。

(2)直接会っての交流

 仮想コミュニティとしてのMLでの交流ばかりではなく、現実に顔と顔を付 き合わした形でのコミュニケーションは、生徒にどの様な影響を与えるであろ うか。それらを別のものとしての論じるのではなく、互いの相互作用としてコ ミュニケーションの場にどんな効果を及ぼすのであろうか。

 これらのねらいを達成すべく、非電子ネットワーク的手段としてネットワー ク・リーダーズ・キャンプを開催した。内容としては、最新情報機器の見学や 実習、インターネットの先端で活躍する有識者の講義、生徒達による討論や提 言などである。

4 実践のまとめ

(1)問題点

  1. 日常生活とメーリングリストでのコミュニケーション空間を混同。
  2. 特定の話題に意見を出し合い、討論することへの不慣れ。 話題が収束せずに発散へ。
  3. メーリングリストの友達募集の掲示板化。
  4. メーリングリストの教師側からのモニターと、教育的指導。

(2)成果

  1. 参加した生徒は、電子メールと従来のコミュニケーションツールとの 相違点の実感としての理解した。
  2. すでに交流に参加している生徒の、新規参加者への暖かい配慮。
  3. 卒業してからもこのような交流を続け、在校生をサポートしたい という自発性。
  4. 教師と生徒のフラットな交流。
  5. メーリングリストでの交流は、教師と生徒の間の、 それぞれの持つ学校という枠組みを越えている。

(3)課題

  1. 日常的にインターネットを使える状態ではないので、 電子掲示板の有効活用の案は出なかった。
  2. 学校間にあるスケジュールの相違は、想像以上に実践に影響を及ぼす。
  3. 教師や生徒を問わず、企画に参加する上での、意識のズレを吸収する 仕組みが必要。
  4. Face to Faceの交流は、その後における交流に明らかに効果を及ぼす。 現実にあうことができない場合には、ビデオ会議等の活用が重要な 要素になる。
  5. 枠組みと道具立てさえ与えれば、高校生は何かを始めるだろう、 という期待は見事にはずれた。ある程度の方向付けが必要である。

5 広域学習支援環境の構築に向けて

 メーリングリストの活性化には、メーリングリストが議論や共同作業の場で あるという理解も必要であるし、自ら考えそれを公の場にさらして検討を加え て行くという、意志決定への態度の育成も求められている。そこに時間を要す ることにはなろうが、次の段階であるメーリングリストの細分化こそが、学習 支援環境としての成否に関わるものである。生徒の興味関心を上手に取り込む 形で、どう環境を構築するかが大きなテーマである。

 「高等学校における生徒の自律的意見交換」では、これを行ううえでの交流 のための構造について実証された。さらに、生徒の自律性を育てるためには、 教師の側の「自律性の種蒔き」が必要であることが分かった。この「自律性の 種蒔き」は、最初からその枠組みを作ってトップダウン的に行なわれても良い のだろうが、インターネットを一人一人の子どもたちが存分に使える環境が一 般的ではない現状では、最初は学校独自で、次ぎは地域に根ざした学校群とし て、そして最終的にはもっとグローバルにリンクされていくのが現実的かもし れない。