前年度の報告書のなかで、私たちは、ネットワークを次のようにとらえてき た。「コンピュータを「思考の道具」「表現の道具」「コミュニケーションの 道具」としてとらえ、児童が自らの学習を省みて、再構成していくことが学習 の最も重要な一面の一つだと考え、それにコンピュータの特性である「階層性」 や「検索性」などを重ね合わせて児童が自分でコンピュータの機能を意味づけ しながら「自分らしい」使い方ができるようにしている。
ネットワーク環境は、子どもたちにとって人と結び合う意味をもう一度再確 認したり、自分では当たり前に思っていたことを揺さぶっていく道具として活 用している。
そして、課題として、次の2点があげられた。
このねらいには、これまでの「定点観測の共有化」というデータの交換やそ れに付帯した交流ということにとどまらず、「関係性」という視点から見るこ とで、自然や文化がある必然のもとに人間とかかわってきていることに気がつ かせていきたいという願いが背景にある。
また、植物は自然の微妙な変化を常に察知(感知)していること。先々の準 備が着実に進められていること。多くの障害に対応する力を持っていること。 植物は千年も二千年も生きられる力を持っていること。など、「植物の生命力 の強さ」を子供達が感じとってくれるようにしていった。
「一本の樹と人とのかかわりを見直そう。」の内容は、昔の人々が「木」の 性質をよく理解し、生活の中に巧みに利用し、木のもてるよさを十二分に発揮 させている知恵等と合わせて「昔の文化」を探る学習やいま自分たちの生活の 中で、植物が必要とされている意味や背景など、人と植物の関係を見直してい くための活動にも取り組んでいった。
このほかに、海外の学校に本プロジェクトに参加してもらい、海外の桜の開 花していく様子も紹介していきたい。
ネット上に、参加校の子どもたちの中で特に植物の観察などに興味を持って いる子どもたちで「あまのじゃくクラブ」というクラブを作り、その地域の植 物に関した情報を交換し合う。特に、今回は、「狂い咲き」をテーマに、自分 たちの足で調べた事実の大切にして、事典などに書かれている開花時期ではな いときに咲いている花を、調査しながら、専門家とともに、この「狂い咲き」 の持つ意味(植物の適応性や地球の環境汚染、温暖化など)を探っていった。
これらの概要をいろいろな視点から見直してみると
あまのじゃくクラブは、自分の目、耳、鼻、舌、皮膚と足を大切にして、自 然のことを自分の身体で確かめようとしている子どもたち。
事典ばかりに頼らないで、自分の足で自然を見つめて、事典とは違う事実を 見つけていくことに興味がある子。
会員は、観察を交代でやれたり、メールの返事を手分けして出せるように、 できれば3人〜5人くらいのグループで参加して下さい。それから、ときどき 助けてもらえるように、学校の先生にも一人入ってもらって下さい。仲間が集 まったら、グループに名前を付けて、担当者まで知らせて下さい。
・自分たちの学校にある、あるいは近所にある桜の木を選んで、芽、花、葉の ことや人と木のかかわり、動物と木のかかわりなどについて、観察日記を付け たり、写真を撮ったりして調べていきます。そして、自分たちの観察したこと を「一本の樹」のホームページまでメールや郵便で送ってください。(週に1 回か2回くらい)
・すると、「一本の樹」のホームページに自分たちの観察の結果だけではなく、
ほかの地域の「一本の樹」の様子がわかるようになっている。
自分たちのところでは、もう花が咲いているのに、ほかのところでは、まだ
まだつぼみだったり、当たり前と思っていたことにどうもちがうみたいという
経験ができるかも、
・「あまのじゃくクラブ」では、「一本の樹」のことで、見つけたことや見つ けたいことなど、調べていくときに疑問に思ったことをクラブのみんなや先生 たちとメールを使って、話し合っていくようにしていきます。ときには、専門 の先生たちも参加してくれます。
・季節はずれなど、事典に載っていることと違う事実を見つけて、写真と観察 日記をみんなにおくります。(例えば、秋なのに桜が咲いた。へちまや朝顔の 葉の形が違っている。5本足のカエルがいた。)みんなで見つけた事実を専門 の先生に聞いて、どうしてそうなったのかをいっしょに考えていきます。もし かしたら、大スクープになるかもしれませんね。
・そのほか、「あまのじゃくクラブ」の会員は、自分たちの掲示板を使って、 自己紹介したり、学校のことや遊びのことなどを交換しあって、友だちになっ ていけるかもしれません。
・クラブのみんなは、調べ方や調べたことの見方や考え方についてもスタッフ の先生たちに相談ができます。
このような奥の深い学びをインターネットを通して、取り組んだことがそれ に参加した教師たちのメディエーターへの第一歩であった。
つぎに、効果と課題について、できるだけ、詳細に紹介していきたい。
この点で、その教育的な効果や課題については、明言しがたい部分も残され ていることは、事実である。しかし、中間まとめ的な形になったとしても、 「定点観測の共有化」と「教師のネットワーク」の2点では、その教育的な成 果として、あげることができる。
全国でいくつかの参加校が自分の学校の樹(桜)を観察して、その様子をホー ムページに登録する。当然、地域によって、桜の開花の時期が違ってきたり、 回りの様子が違ってきたりする。その違いをホームページなどを見ながら、い ろいろな角度から比べてみて、自分たちにとって当たり前であったことが他の 地域では、そうではないという知識ではわかっていたことを観察結果を共有す ることで再確認していくのである。』
ここに述べられていることに加えて、平成8年度では、「関係性」という視 点を中心に据えて、実践に取り組もうとした。もちろん、この「関係性」とい うことは、一朝一夕で、子どもたちがつかむことができるものではない。しか し、「関係性」ということをインターネットを活用した本実践に組み込み、そ れに携わった子どもと教師が自分なりに「関係性」というものを捉え直してい けたなら、「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」の効果は大きいものといえる であろう。
この「関係性」を定点観測の共有化のなかに組み込んでいこうという意図は、 ホームページにあるさまざまなページの説明に色濃くにじみ出ている。
特に、今回のような共同利用企画では、単なる情報交換ではなく、他の学校 の子どもたちと一緒にさまざまな観察を続けて、子どもたちの興味の継続や学 習の内容の吟味などをネットワーク上でおこなっていった。
「一本の樹─SAKURA ─プロジェクト」では、共同利用企画などのネットワー クを活用した実践になれている先生が多く参加していただいたこともあり、教 師間の意思の疎通は、うまくいっていた。
東京都港区立神応小学校 栗原 良夫
東京都港区立神応小学校 苅宿 俊文