共同利用企画「一本の樹」の実施


1 計画立案

 「一本の樹─SAKURA─は、平成7年度にも、共同利用企画として取り上げら れた企画である。7年度では、参加校が自分の学校にある桜の木を定点的に観 測し、「葉」「枝」「全体」の静止画像をWeb上に公開していき、全国版とし て、参加校3校の桜の「葉」「枝」「全体」を比較できるようにしてきた。

 前年度の報告書のなかで、私たちは、ネットワークを次のようにとらえてき た。「コンピュータを「思考の道具」「表現の道具」「コミュニケーションの 道具」としてとらえ、児童が自らの学習を省みて、再構成していくことが学習 の最も重要な一面の一つだと考え、それにコンピュータの特性である「階層性」 や「検索性」などを重ね合わせて児童が自分でコンピュータの機能を意味づけ しながら「自分らしい」使い方ができるようにしている。

 ネットワーク環境は、子どもたちにとって人と結び合う意味をもう一度再確 認したり、自分では当たり前に思っていたことを揺さぶっていく道具として活 用している。

 そして、課題として、次の2点があげられた。

(1) 子どもたちの活動、特にネットワーク環境を活用した取り組みが もっと積極的に取り組めないだろうか。
(2) 桜の木だけの観測にとどまらず、さまざまな関係性を取り込みな がら、発展性のある学習材として考えられないだろうか。
 以上の2点を考慮しながら、今年度のプロジェクトのねらいなどを考えた。

1.1 ねらい

 「一本の樹プロジェクト」は、「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみ よう。」と「一本の樹と人とのかかわりを見直そう。」というふたつのテーマ を持って、子どもたちが一本の樹を通して、植物の生きる力や植物と人間の文 化的な関係を知り、自分たちの生活を見直すきっかけになることを期待して取 り組んでいきたい。また、参加する子どもたち同士のかかわりを充実させてい くために、課外クラブ的な雰囲気で参加できる組織をつくり、その中で意見、 疑問を共有化していくために必要なことを子どもたちと共に検討していきたい。

 このねらいには、これまでの「定点観測の共有化」というデータの交換やそ れに付帯した交流ということにとどまらず、「関係性」という視点から見るこ とで、自然や文化がある必然のもとに人間とかかわってきていることに気がつ かせていきたいという願いが背景にある。

1.2 日程計画の予定と実施

 「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」は、日程的には、むずかしい面がある プロジェクトであった。桜の開花を追いながら、子どもたちがさまざまな活動 に取り組んでいくわけだが、桜の開花が学年の変わり目を挟んでしまうため、 子どもたちの活動の継続性や教師の異動などでの指導の引き継ぎの問題など予 想以上に大きな影響を受けた。また、この報告書も、プロジェクトとしては、 最盛期の段階でまとめていかなければならないということになってしまう。

2 実施

2.1 概要

 「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」の概要については、次のようにまとめ る。「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみよう。」の内容は、参加校が 自分たちの観点で「一本の樹」をマクロ、ミクロ的に観察をする。この観察は、 「一本の樹」を「自然の社会」とした見方でとらえていきたい。それぞれの学 校の「自然の社会」=「一本の樹」をインターネットを通して、「点」から 「線」、「面」に拡げ、自然をより立体的に見たり、考えたりできるようにな るようにしていきたい。

 また、植物は自然の微妙な変化を常に察知(感知)していること。先々の準 備が着実に進められていること。多くの障害に対応する力を持っていること。 植物は千年も二千年も生きられる力を持っていること。など、「植物の生命力 の強さ」を子供達が感じとってくれるようにしていった。

 「一本の樹と人とのかかわりを見直そう。」の内容は、昔の人々が「木」の 性質をよく理解し、生活の中に巧みに利用し、木のもてるよさを十二分に発揮 させている知恵等と合わせて「昔の文化」を探る学習やいま自分たちの生活の 中で、植物が必要とされている意味や背景など、人と植物の関係を見直してい くための活動にも取り組んでいった。

 このほかに、海外の学校に本プロジェクトに参加してもらい、海外の桜の開 花していく様子も紹介していきたい。

 ネット上に、参加校の子どもたちの中で特に植物の観察などに興味を持って いる子どもたちで「あまのじゃくクラブ」というクラブを作り、その地域の植 物に関した情報を交換し合う。特に、今回は、「狂い咲き」をテーマに、自分 たちの足で調べた事実の大切にして、事典などに書かれている開花時期ではな いときに咲いている花を、調査しながら、専門家とともに、この「狂い咲き」 の持つ意味(植物の適応性や地球の環境汚染、温暖化など)を探っていった。

 これらの概要をいろいろな視点から見直してみると

(1)ネットワークの活用場面

 「一本の樹プロジェクト」のホームページには、下記のページがあり、それ ぞれに掲示板などを備えて、参加している子どもたちの意見や観察結果を書き 込むことができるようになっている。また、子どもたちの意見や観察結果をと もに考えていく教師のかかわりも書き込めるようになっている。
・広がる一本の樹「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみよう。」
ここには、葉、根、樹皮、花、芽、枝に分かれた掲示板がある。
・広がる一本の樹「一本の樹から『かかわり』を見直そう。」
ここには、人と木のかかわり、木と木のかかわり、動物と木のかかわり、 木の一生などの掲示板がある。
・それぞれの「一本の樹」
参加している子どもたちが調べている「一本の樹」のわかるようになっている。
・今の神応の「一本の樹」
神応小学校で調べている桜の木を静止画像で紹介している。
・「一本の樹」で調べたこと
観察結果などのデータベース化したものを集めている。
・「あまのじゃくクラブ」のみんな
参加している子どもたちの紹介をしている。
・「あまのじゃくクラブ掲示板」
参加している子どもたちの掲示板である。
・みんなで見つけた「事典にない事実」
狂い咲きや北限を超えている植物などの情報を書き込む掲示板である。
・「だれでも掲示板」
子どもたちの活動を支援してくれる人たちの掲示板である。

(2)企画の対象 

対象とする学年 小学3〜6年  中学1〜3年 
教科      環境教育(総合学習)理科 社会 特別活動

2.2 活動報告

 「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」に参加した子どもたちが何をして、こ れから何をしようとしているのかを、本プロジェクトに参加している子どもた ちでつくっている「あまのじゃくクラブ」の募集の案内を使って、説明してい こうと考えている。

(1)「あまのじゃくクラブ」募集の案内

(a) 「あまのじゃくクラブ」では、こんな人に入って欲しい。

 あまのじゃくクラブは、インターネットでつながったクラブ活動です。「一 本の樹」をとおして、自然の不思議さを楽しく発見していきましょう。

 あまのじゃくクラブは、自分の目、耳、鼻、舌、皮膚と足を大切にして、自 然のことを自分の身体で確かめようとしている子どもたち。

 事典ばかりに頼らないで、自分の足で自然を見つめて、事典とは違う事実を 見つけていくことに興味がある子。

 会員は、観察を交代でやれたり、メールの返事を手分けして出せるように、 できれば3人〜5人くらいのグループで参加して下さい。それから、ときどき 助けてもらえるように、学校の先生にも一人入ってもらって下さい。仲間が集 まったら、グループに名前を付けて、担当者まで知らせて下さい。

(b)「あまのじゃくクラブ」では、どんなことをするか?

・申し込んでくれた人には、まず、「あまのじゃくクラブ」の会員番号を発行 します。できれば、会員証も送りたいのですが、今のところ計画だけです。

・自分たちの学校にある、あるいは近所にある桜の木を選んで、芽、花、葉の ことや人と木のかかわり、動物と木のかかわりなどについて、観察日記を付け たり、写真を撮ったりして調べていきます。そして、自分たちの観察したこと を「一本の樹」のホームページまでメールや郵便で送ってください。(週に1 回か2回くらい)

・すると、「一本の樹」のホームページに自分たちの観察の結果だけではなく、 ほかの地域の「一本の樹」の様子がわかるようになっている。
 自分たちのところでは、もう花が咲いているのに、ほかのところでは、まだ まだつぼみだったり、当たり前と思っていたことにどうもちがうみたいという 経験ができるかも、

・「あまのじゃくクラブ」では、「一本の樹」のことで、見つけたことや見つ けたいことなど、調べていくときに疑問に思ったことをクラブのみんなや先生 たちとメールを使って、話し合っていくようにしていきます。ときには、専門 の先生たちも参加してくれます。

・季節はずれなど、事典に載っていることと違う事実を見つけて、写真と観察 日記をみんなにおくります。(例えば、秋なのに桜が咲いた。へちまや朝顔の 葉の形が違っている。5本足のカエルがいた。)みんなで見つけた事実を専門 の先生に聞いて、どうしてそうなったのかをいっしょに考えていきます。もし かしたら、大スクープになるかもしれませんね。

・そのほか、「あまのじゃくクラブ」の会員は、自分たちの掲示板を使って、 自己紹介したり、学校のことや遊びのことなどを交換しあって、友だちになっ ていけるかもしれません。

・クラブのみんなは、調べ方や調べたことの見方や考え方についてもスタッフ の先生たちに相談ができます。

(3) 活動する期間は、

 今回の募集は、97年の前期分で2月の中頃から7月のはじめまでの約5カ月です。

2.3 参加校

 「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」への参加校は、次のとおりである。  の10校であるが、9、群馬県前橋市立第4中学校は、桜ではなく、「はな みずき」での参加である。また、10、アメリカ合衆国フォックスミル小学校は 部分的な参加である。

3 教育利用についての効果と課題

 平成8年度に本プロジェクトに参加した学校の子どもたちは、「一本の樹」 をインターネットを通して、さまざまな「かかわり」を知ることができたと思 う。このことは、子どもたちが自分にとって、当り前だったことがゆさぶられ たという事実と、自分が何気なく、とらえていることにも、それぞれの必然が あり、しかも、環境しての自然が日々変化し続けていることに気付いてきたか らとも言える。

 このような奥の深い学びをインターネットを通して、取り組んだことがそれ に参加した教師たちのメディエーターへの第一歩であった。

 つぎに、効果と課題について、できるだけ、詳細に紹介していきたい。

3.1 効果

 「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」は、現在、進行中のプロジェクトであ る。

 この点で、その教育的な効果や課題については、明言しがたい部分も残され ていることは、事実である。しかし、中間まとめ的な形になったとしても、 「定点観測の共有化」と「教師のネットワーク」の2点では、その教育的な成 果として、あげることができる。  

3.1.1 定点観測の共有化という視点から

 「定点観測の共有化」ということは、前年度の「一本の樹プロジェクト」で、 紹介した。ここでその主要な部分を引用すると、『「メディア・道具」として のインターネットは、同様の観察をしている学校を結びつけることによって、 お互いの観察結果の共有化の「場」として活用されることが望まれる。

 全国でいくつかの参加校が自分の学校の樹(桜)を観察して、その様子をホー ムページに登録する。当然、地域によって、桜の開花の時期が違ってきたり、 回りの様子が違ってきたりする。その違いをホームページなどを見ながら、い ろいろな角度から比べてみて、自分たちにとって当たり前であったことが他の 地域では、そうではないという知識ではわかっていたことを観察結果を共有す ることで再確認していくのである。』

 ここに述べられていることに加えて、平成8年度では、「関係性」という視 点を中心に据えて、実践に取り組もうとした。もちろん、この「関係性」とい うことは、一朝一夕で、子どもたちがつかむことができるものではない。しか し、「関係性」ということをインターネットを活用した本実践に組み込み、そ れに携わった子どもと教師が自分なりに「関係性」というものを捉え直してい けたなら、「一本の樹─SAKURA─プロジェクト」の効果は大きいものといえる であろう。

 この「関係性」を定点観測の共有化のなかに組み込んでいこうという意図は、 ホームページにあるさまざまなページの説明に色濃くにじみ出ている。

3.1.2 教師のネットワークという視点から

 インターネットを活用して、まず変わるのが先生だということは、この「一 本の樹─SAKURA ─プロジェクト」でもいえる。これまでだったら、なかなか 交流が進まない教師間のネットワークがインターネットによって、一気に崩さ れ、これまでにない新しい状況を生み出している。

 特に、今回のような共同利用企画では、単なる情報交換ではなく、他の学校 の子どもたちと一緒にさまざまな観察を続けて、子どもたちの興味の継続や学 習の内容の吟味などをネットワーク上でおこなっていった。

 「一本の樹─SAKURA ─プロジェクト」では、共同利用企画などのネットワー クを活用した実践になれている先生が多く参加していただいたこともあり、教 師間の意思の疎通は、うまくいっていた。

東京都港区立神応小学校 栗原 良夫
東京都港区立神応小学校 苅宿 俊文