100校プロジェクト 平成8年度実施状況


○ネットワークの利用状況

1)インターネットを使った情報収集

 アメリカにおける聴覚障害者の情報、とくにギャローデット大学についての 情報を収集し、外国人に対する教育プログラムを見つけ、コンタクトを取った。 一人の生徒(専攻課生)は三学期末に短期留学した。

 北海道の修学旅行前にしおり作りのための資料収集と旅行後のまとめの文章 作りのための資料集めに利用した。文化祭の展示で発表したり、卒業時期に思 い出アルバム作りの一つの材料とした。

2)メール交換の実習

 聾学校の生徒の文章力やコンピュータの操作についての技術の向上を図るた めに、印刷科の生徒の実習の中で100校の学校や企業の方に依頼してメール 交換を実施した。本校の生徒が一人であったこと、内容が稚拙であったり、偏っ ていたこと、やりとりのタイミングが合わなかったなどで、長続きしなかった。

3)ホームページの改訂作業

 年度始めに各部の紹介記事を改訂・充実することを決めた。改訂作業に入り、 いくつかの原稿が届いたが、多くの改訂原稿は集まらなかった。そうこうして いるうちに、個人の識別できる写真を公開して欲しくないという意見が出てき たり、内容についての疑義が出てきたり、サーバーが不調になったりして、最 終的に頓挫した。一番大きな原因は、サーバーを復調する能力がなかったこと と職人にそれに携わる時間的余裕がなかったことである。

4)職員のインターネット研修

 職員の研修会も予定はしていたが、機器の不調のために何人かの自発的な研 修が行われたのみであったが、数人の教師が自発的にFTPやWWWの利用を 続けた。

○平成8年度の成果と問題点

1)ソフトの不調と職員の能力不足

 本校の構成はサーバにBSD/OS、クライアントにOS/2を走らせると いうものであった。OS/2で Windows3.1 を走らせていたが、まず Windows 上のプログラムで不調が出始めた。メイラーと WWW という一番メインのプロ グラムに不調が出始めて、職員の意欲を削ぐことにもなった。IBMに再三、 再調整を依頼し、一度はソフトの入れ替えに来てもらったが、その後も復調せ ず、クライアントがストレスなしに使える状態には最後まで復帰しなかった。 業界内の面子もあるのかも知れないが、ソフトの取り合わせに無理を感じてい たが、最後まで解決しなかった。教師が個人的にメンテナンスに対応するのに は時間的にも能力的にも負担が大きすぎるので、その後、活動を継続すること への大きなネックになってしまった。

 そのうちにBSD/OSの状態も悪くなり、root で入れない状態になって しまった。BSD/OSの再インストールも考えたが、これも時間と能力不足 で無理だと判断し、不調のまま運転を続けることにした。

 職員のうち二人がアップル製のノートパソコンを持っていたので、クライア ントとしてはマックを使うことが多くなってしまい、OS/2上の Windows は使われなくなってしまった。

2)個人情報の公開の問題、特に写真を掲示することの問題

 聾学校の社会的立場、あるいは聾者の置かれている立場、あるいはその親の 立場には、まだ厳しいものがあると再認識させられることが起こってきた。 「個人を特定できるものをHPに載せてもらいたくない」という意見である。 小さな写真ではあるが、何分少人数の学校なので、小さくしても分かるという のである。その後、高学年の生徒なら、本人に説明して、本人の意思を確認し つつ作成したのだが(生徒本人の場合は、多くは好意的で喜んで協力してくれ たが)、小さい子供の場合は本人の意思確認ができないので、親ということに なるが、親からの確認を取るのが、HPとはどんなものかも知らないというこ とや他の事情も絡まって、難しかった。HPや機器のメンテナンスを担当して いる者にも日常的な業務もあり、残念ながら担当者の意気を消沈させるものと なった。保育相談部、幼稚部から高等部専攻科まで0歳から20歳までの幅広 い学校であり、各部が相対的に独立して運営されているので、担当者にはその 各部を取り仕切る力量も要求されたのだが、それは誰でもできるというもので はなかった。

3)経済的な問題

 このことは最初から問題になっていた。事務担当者がインターネットについ ての理解が不足していたこと、将来のネットワーク社会についてのイメージを 持っていず、多少の経費をだしてでも実験的な取り組みに積極的に関わろうと する意欲は全くなく、できるだけ経費を削減して、「<無駄なところ>には出 費しない」ということを表明し続けていたので、(特に兵庫県の場合、震災後、 予算の2割カット、さらに1割の上乗せカットということがあったので、事務 担当者はたいへんであったことは分かるのだが)インターネット担当者とこと ごとく経費の問題で対立していた。

 平成八年度に、主に高等部印刷科の授業のために、十台余りのパソコンが導 入された。IBM互換機9台とマッキントッシュ2台であるが、それらはHU Bで接続されている。あと少しの出費で全機種をサーバに接続して、インター ネットを体験するシステムが構築できると考えたので、ケーブルとHUBを購 入してほしいと申請したが、経費は出せないといわれ、実現しなかった。これ が実現していれば、本校の取り組みも盛り返せたものと思っている。

○プロジェクトに参加して

 プロジェクトに参加していた兵庫県の他の三校、聾学校として参加していた 他の二校、あるいは大学のインターネットを運営している方々、CEC等の援 助で二年間のプロジェクトに参加できて、得難い体験ができ、感謝している。

 ただ、本校としては二年間だけの取り組みで頓挫するという事態になり、申 し訳ないとも残念とも言葉がない。

 こういう事態になったことを振り返ってみると、機器やホームページなどの ソフトウェアの保守管理をしながら運営を続けるのには最低四、五人のやる気 があり、能力のある職員が必要だと感じている。やる気があっても能力がない と対応できないし、能力・やる気があっても時間がないと維持できない。維持 管理に困難な状況なら、事務担当者や管理職の理解も不可欠だろう。本校の職 員のパソコン所持率は昔からかなり高く、多数の方が事務処理や文書処理にパ ソコンを使っておられるが、インターネットとなると後込みをされる方が多い。 プログラムを組んだり、自前でパソコンを組み立てたり、拡張したりした経験 がないと、なかなか管理者の仕事にはたえない。日常の業務が多忙であること も困難点であった。

 一般的にはインターネットがもてはやされているが、まだ個々の職員が取り 組むほど一般的にはなっていない。しかし、社会の動きの中で、生徒たちが興 味を抱き、職員より熱心だという逆転現象も出始めている。本校も新たな取り 組みに向けて再考していかなければならないと思う。ただ、インターネットを 使い始めると、スピードの問題がまだまだ大きな隘路であるように思った。聾 学校であるので、CUSeeMe などの取り組みを是非やりたいとは思っていたが残 念ながら実現されなかった。それと、ホームページ作成など、情報発信につい ての共通理解が足りなかったように思う。大学からの見学者などは「ホームペー ジをみました」と時々言っていたが、見学者には事前に学校の概要がもっとよ くわかるようなものにしておくべきだろう。学校案内や入試要項等、外部に公 表しているものをもっと表に出すよう、共通認識を深めておくべきだったろう と思う。いずれ、多くの学校にインターネットの機器が整備されるときが来る ものと思う。それに向けて新たな取り組みを進めておきたいと思っている。