95_Report-koumei 東京都立光明養護学校

100校プロジェクト 1996年度 実施状況



○ネットワーク利用状況

 肢体不自由児を対象とする養護学校では,従来から,肢体不自由児の移動の困難という
社会的ハンディキャップを補う手段として,あるいは,児童生徒のコミュニケーションの
表出手段として,パソコン通信などの情報処理機器の積極的な活用がなされてきた。イン
ターネットでは,パソコン通信に比較して画像とか音声が容易に扱えるという利点がある。
 今年度は,高等部でも,文字だけによる表現活動が可能な生徒が少なくなってしまった
ということもあり(肢体不自由の養護学校では,従来から,児童生徒の障害の重度重複化
・多様化が指摘されてきている。また,普通学校に比べて児童生徒数が少なく,年度によっ
てその障害の様子は大きく変化する),一年生にはパソコン操作になれるという意味から
も,デジタルカメラで撮影した画像にコメントをつけるという形の通信を生徒が作り,そ
れを教員がホームページに書き込むという指導から始めた。最初は自分の受けている授業
の報告から入り,少しずつその報告の範囲を他の学習グループの様子の報告へと広げていっ
た。
 二学期の前半は,グラッフィック・ツールを用い校内の地図を作成,後半は初歩的なプ
ログラミングの練習もかねてHTMLの学習・データ量が増えてきてわかりにくくなって
きたホームページの整理をしながらの生徒自身の手によるホームページの作成に取り組ん
だ。
 また,光明では,修学旅行・移動教室などの宿泊行事は学年単位で行う事になっている。
従来から宿泊行事の際は,フィールドアクセスの一例として,移動端末としてノートパソ
コンを持っていき,現地から様子を逐次学校に送り,それを受け取った学校では,順次印
刷し,宿泊行事が終わったときには,報告集を配布するというような取り組みを行ってき
た。このことにより,報告を担当した生徒にとってはまたとない表現の機会を得る事にな
り,その報告によって,一学年の取り組みが他の学年の職員にも伝わり,結果的に,一つ
の行事を生徒・教員・父母の三者で共有する事が可能になる。今年度実施した高三の修学
旅行高二移動教室の時も,デジタルカメラで撮影した写真入りの通信を作成し,これを
ホームページにも書き込んだ。結果的に,このことにより,高等部のすべての学習グルー
プの活動がホームページで紹介された事になった。
 また,今では小学部の授業の中でも取り組まれるようになり,そのことを通じて,児童
の作品も発表されるようになった。
 さらに,今年度は,インターネットを経由して,滋賀大学付属養護学校の中にあるネッ
ト局で生徒達の交流も始めた(チャレンジ・プロジェクト)。ホームページが,基本的に
オープンな場であるのに対して,チャレンジの場合は会員制なので,常に問題となる肖像
権の事・プライバシーなどの事を考えても,相手が限定された場から交流を始めた方が,
生徒達も,より自分自身を出せると考えたからである。
 また,本校は,100校プロジェクトの中で唯一の肢体不自由児を対象とした学校であ
り,ある意味で,全国の肢体不自由養護学校のテストケースとでも言うべき立場にある。
そんな事もあって,上に書いたような児童生徒の教育活動の紹介だけにとどまらず,都肢
研(東京都肢体不自由研究会)で発表された研究資料なども本校のホームページで公開し,
全国の先生達の参考になるように閲覧した。


○1996年度の成果と課題

 今年度についても,<生徒自身の作品の発表の場としてのホームページ>をキーワード
に,ホームページの充実化をはかってきた。また,こういった情報発信ツールとしてのイ
ンターネットの利用の他に,インターネットの情報収集ツールとしての利用・・・例えば,
97年になって話題になった重油流出事故の記事の検索をしてみたり,飛行機の予約状況
を検索し,チケットを予約するまでを模擬的に体験してみたりした。
 コミュニケーションツールとしての利用としては,今年度は,前述したように,主に滋
賀大学付属養護学校のネット(インターネット経由で接続が可能)上で交流を行った。今
年度はクライアントの台数を5台に増やしたことで,生徒二人に一台という環境を構築す
ることが出来たという事もあり,比較的スムーズに授業が出来た。内容としては,ネット
ワークとは・ネットワークで出来ること(メール・BBS・作品の公開&鑑賞・テレビ会
議など)を解説しながらの授業となった。ホームページが基本的に公開の場であるのに対
して,このネット上では,「お互いの顔が見える」というメリットがあるので,生徒たち
も安心してネットの利用を楽しむことが出来た。障害児教育におけるコミュニケーション
の特殊性を考えても,今後もこのような利用形態の検討もすすめていく必要があると思わ
れる。
 今年度についても,主に高等部3グループ(教科学習対応グループ)の生徒を対象に実
践を進めてきたが,宿泊行事の紹介などを通じて,他の生徒たちの利用も少しずつではあ
るが進んできた。知的障害も合わせ持った児童・生徒への実践及びその公開については,
肖像権などのデリケートな問題があるので,引き続き検討を加えていく必要がある。
 また,在宅学習支援のためのテレビ会議システムの利用についても,今年度も引き続き
検討を加えてきたが,回線の太さからくる制約などがあり,検討課題が積み残されている。


〇プロジェクトに参加して

 一昨年の夏にインターネットに接続して以来,実質的には二年弱が経過した。今振り返っ
てみるに,長いようで短い期間であった。最初は,「子どもに・・・特に,体に不自由を
持った子どもにとっては必ずいいことがあるだろう」といった漠たる思いはあったものの,
当初インターネットに対して抱いていたイメージと,実際に日常的に使うようになって初
めて実感している感覚とは大きく異なった。特に,「肢体不自由児の移動のハンディを補
うためのツール・・・情報収集ツールとして有効であるはずだ」という予想は,「それも
もちろんではあるが,それよりは(それ以前に)教育的には,子ども自身の自己表現の場
として有効である」という事に気づかされた。他者を意識することによって初めて自分自
身の存在を実感できる・・・「人間は社会的存在である」とは,よく言われることではあ
るが,今更ながらそのことを実感した次第である。
 技術的な面から言うと,サーバーが校内に設置されていることにより,クライアントの
増設・アカウントの発行・管理・メーリングリストの作成などが,比較的簡単な手続きで
可能になった反面,「外部からのセキュリティに不安が残る」「メンテナンスのための人
的配置のないままの運用は問題が大きい」などの事を考えると,今後拡げていく場合には,
慎重な対応,わけても教員の本務とは何かをきちんと見極めながら,周囲からの強力なサ
ポート体制が必要不可欠だと思われる。
 そういう意味では,二年間にわたって展開された「特殊教育共同利用企画のためのメー
リングリスト」は,担当教員にとってよき研鑽の場所であり,そこでの議論を通じて,児
童生徒への日常的教育活動に大きく役立てることが出来た。 最後に,これまで物心両面
から強力に支援して下さった関係者各位に謝意を表しておきたいと思う。

 (文責:高等部 伊藤 守 E-mail:koumei@koumei-sfh.setagaya.tokyo.jp 1/26)