共同利用企画「数学における多解問題」の実施


1. 企画の概要

1.1 はじめに

 普通部では、100校プロジェクト参加2年目の今年はインターネット教科 利用の方法はないかと思案中のある時、数学の図形の授業で、次のような問題 を考えてもらった。
問題
星形五角形の角の和が180°となる証明を考えよ。
Hoshi 三角形ADIを見ると、外角は内対角の和に等しいということを使って、 ∠a+∠dが∠iと等しくなる。
次に三角形BEGを上と同じ方法で見ると、∠b+∠eが∠gと等しく なる。
つまり∠a+∠b+∠c+∠d+∠eの和が三角形CGIの内角の和と 等しくなるので180°となる。
図1.1 図形問題
 同じ問題をいろいろな角度から解答を考え見つけ、喜んでいる生徒の姿を見 て、また1つの解き方に触発されて何通りも発見する生徒をみて、日頃の授業 では不足している自分自身で考えることの素晴らしさや発表することの大切さ を実感した。 既知の学習内容はわずかであるが、同じ規則を使って考えを深く、考え込んで いく大切さを感じた。 いろいろな学校間で1つの問題を考え解法を交流し、インターネットのインタ ラクティブな面も行かして新しい教科の授業活用になるというのが出発点であ る。

1.2 多解問題とは

(1)数学における多解問題

 数学の問題は解が1つと思っている生徒も多いが、まず解法がたくさんある 問題に取り組んでもらって、学校を越えて交流しよう。「数学における多解問 題」と決めた。 インターネット上での初めての試みであるので、問題のタイプを絞りすぎない ためである。 またコンテスト形式は正解がわかってしまうとおしまいとなる。できるだけ解 (解法)が1つではない問題を考えてもらい解法等を学校間で交換しあう。

(2)数学がわかるとはなにか。相手を納得させる説得術

 1つの問題をいろいろなアプローチにより考えると、本来の数学の自分で考 える楽しさや、自分で考える大切さを実感する。 自分のことばで、低学年の子どもにわかるように既習事項を説明する。 この過程において、表面的な理解ではなく自分のことばで、本当の意味での数 学の理解を促し、知識の定着を図ることができる。

(3)生徒自身がやる気をだす数学とは

 大学生や社会人となった卒業生にあうと「もっとまじめに中学の時に数学を やっておけばよかったです。今大切なのは数学ですよ。」と文科系の卒業生に いわれたりする。 今、教えている生徒にきくと、算数の四則計算は必要だが、関数や方程式なん か大切なの?と思っている生徒は少なくない。 受験とかではなく、自分の中で数学が大切であるという実感がおきることが大 切である。 そのために、社会人の方などから経験談を語ってもらう。

 以上のようなことをインターネット上で行う。

 具体的にはまず、問題を選定しインターネットのホームページ上にたちあげ、 問題を公開する。 それによって、各自の学校で取り組む、または個人で取り組んでもらい解答を 送ってもらう。 また、Web上に公開して、意見交換をする。 したがって、今回のインターネット上の意見交換で大切なのは、正解を登録す ることではなくて、意見交換のなかで自分で考えることや、人とのやり取りの 中で、吸収し、成長していくことである。

実施

2.1 実施日程

 9月中旬より開始予定であった。
1.多解問題の募集…解が何通りかある問題を募集する。
2.生徒の考えた解き方を募集 生徒に1.の問題を考えてもらい集約する
3.ホームページに立ち上げ公表する。集まった解き方を整理しコメント をいれたホームページに立ち上げる。このときに生徒の感想や別解など を後で、追加できるようにする。アクセスカウンターをつける。
4.ホームページの更新 定期的にホームページの更新を行い3.の反応 を公表する。
実際は、
11/10 問題選定 ホームページへのup
12/10 各学校での取り組み報告
1月 下旬  山梨大附、岡山大附、慶應普通部での取り組みup IPA への移行
2月 中旬  チャレンジ問題開始という流れであった。

2.2 問題選定

 教科書の問題とは少し違う色合いをだして、いろいろな分野で考えてみた。 ねらいとしては、表面的な理解では説明しにくい問題を考え、単に数学的な知 識を問う問題はいれていない。

 最終的に決定したのは、次の問題である。「数学における多解問題について」 のページ www.kf.hc.keio.ac.jp を見ていただきたい。

2.3 参加校

 今回のプロジェクトに参加したのは、山梨大学教育学部附属中学校 、 岡山大学附属教育学部附属中学校、北海道旭川凌雲高等学校、 熊本県天草郡大矢野町立湯島中学校である。
Home Page
図1.2 ホームページタイトル
Answer Page
図1.3 チャレンジ問題解答のページ

3 教育利用についての効果、課題

3.1 教育利用についての効果

 教育的な効果については、生徒の感想からみると多解問題を取り組んだ価値 があった。またインターネットを通じて、各学校の先生方と知り合えたことで、 学校は、一人の人から学ぶところではなく、いろいろな人との交流を通して、 生徒も教員も成長していくところであると思う。

3.2 生徒の感想文から

 数学は大切かどうか。多解問題を取り組み、身についたことを生徒にきいて いる
生徒A:
普段の授業は、先生が、生徒を教えるという一方通行的な感じだったが、 これは生徒自身が考えることなので楽しさが増す。数学は生きていく上でかな り重要だと思っている。それは、人類が進歩したのは科学つまり数学的思考に よるものである。今後、あらゆる分野において数学を使うものと思うので、 これからもがんばって身に付けていきたい。
生徒B:
多解問題は取り組むと当然、解がたくさんあるので、今まで一つの方向か らしか見ることのできなかったものが、いろいろな方向から見ることができる ようになり、柔軟な発想を生み出せるので良いと思う。数学がただ知識を詰め 込むだけのものなら、特定の職業に就かない限り大切ではないと思えるが、実 際は数学を学ぶことによって柔軟な発想が身に付くのだから、どんな職業につ いても、未来で何があっても数学は大切であると思う。
生徒C:
僕は数学は嫌いだ、いや大きらいだが、考え方を学んでいくためには、必 要だと思う。

実際にこの形では社会で役に立たないが、どう処置すべきかなどは数学の知 識が生きてくると思う。たまには、与えられた計算をやるだけではなく、多解 問題のように答えが一つじゃなく、考え方によっていろいろあるような問題を やれば、もっとみんなも数学が楽しくなり、自分から学ぼうとする意識が向上 してくると僕は思う。

生徒D:
数学,特に図形分野の方はとても大切である。これらの問題を解くには, ひらめきが必要である。このひらめきはどの教科でも養えるものではない。社 会などはこのひらめきや考え方はつかないのである。この学問は考え方を養う 学問であるのではないかと思う。この学問は,多の学問にも十分応用できるし, 頭が柔らかくなるので大切だと思う。
生徒E:
この問題を解くとき,いろいろな記号を使い,一つ作るとする。するとそ れを応用して違う答えが幾つか出てくる。このように,一つの分かったことか ら,幾つも別のことが分かるような力が付くと思う。数学の大切さについては, 例えば,日頃使う計算にも必要だが,他にもものを切り分けるときなどに使う 考え方が養われるんだと思う。
生徒F:
授業では問題の解き方,その理由などを学び,それを実際に役立ててみる ということはあまりしない。が,今回のプロジェクトでは自分の持っている知 識を使ったという実感があった。これからもこのような企画をするべきだと思 う。これから情報化社会がますます進んでいくので,いろいろな性能,機能を 持ったパソコンなどを開発する必要がある。そのためにも,数学が必要だと思 う。
生徒G:
定理のような昔の人が考え出したことを覚えるという決められたルールを 学ぶ普段の授業と違い,自分で答えを考えいくつもの答えが出るので,発想力 も身につけられる。そして初めて自分が結果を作り出していく力を養えると思 う。
生徒H:
普段の授業ではそうならなければおかしいけれど、多解問題は本当にそう なるのかワクワクしながらできる。数学は大切であるかというと大切だと思う。 それは、証明の場合いろいろなことを考えなければいけないので考える力が身 に付くからです。ほかにもコンピュータを扱うときは理数の力が必要だからで す。
生徒I:
普段の授業と違い、とまどったこともあったけれど、難しければ難しいほ ど出来たときの喜びは大きくなる。多解問題は、この答えはこれ、というよう に答えが決まっていないので、他の人が自分と違う答えをしたときに、それを 覚えるという楽しみもある。この二つから生活していて実際に使わなかったと しても、他の人が解けない問題が解けたときの喜びと、また頭の体操という意 味で数学は大切だと思う。

3.3 本プロジェクトの課題

(1)実施期間が短い

 今回のプロジェクトはCGIカウンターなどをホームページにつけて取り組 んだ期間が短く、十分な成果を確認できなていないが、次の2つ成果が期待で きる。
(a)問題分析
同じ解法のカウンターを増やし、新しい解法は更新すると、問題分析がで きる。
(b)掲示板の機能
メールをもらってホームページに立ち上げるのでは手間もたいへんである しリアルタイムな交流多できない。これは他教科での取り組みの際にも有効な 方法であると思う。

(2)インフラの整備

 教育現場でのインターネット環境の整備である。各学校でも、インターネッ トが自由に使える環境は整っていない。インフラの整備が急務である。

(3)数学の記述の問題

 インターネットで、解法を交換して検討する際に問題となるのは、数学記号 の記述と、問題や解法の図をスキャナーで読み込みGIFファイルに変換する という作業をしなければならない。

(4)情報の集約、プロジェクトの周知

 サーチエンジンなどで、検索しなくても教科での試みに対して行政、例えば 文部省などが情報を集約するなどの開かれた組織が必要である。インターネッ ト活用の個人の先生方は増えてきているが、残念ながらその情報を横に束ねて 一括している機関がない。

 基本は「数学における多解問題」を行いながら、今年も継続して取り組みた いと思っている。さらに今年は、いろいろな実験をする年にしたいと思ってい る。ぜひ、皆さんも学校、地域を越えた、インターネットスクールとして、と もにも学びましょう。

慶應義塾普通部 荒川 昭