大阪市立聾学校
100校プロジェクト 平成8年度実施状況
ネットワーク利用状況
- 校内での教職員の組織作り
平成7年度の活動を更に前進させるために校内での教職員の組織作りに取り組みました。より多くの教職員がインターネットについての理解を深めることが、生徒の活動にいかされてくるという考えのもとに、次のような計画で研修・組織作りに取り組みました。
- 1学期の取り組み
1学期は各教科ごとにインターネット学習会を開き、現在、本校で公開しているホームページの内容を検討してもらったり、インターネットの授業での活用方法の可能性について、小グループでの学習会を実施しました。また希望する教職員にメールアカウントを発行し、「あいみての」などのメーリングリストを紹介しました。
- 2学期の取り組み
学習会終了後、1学期末にインターネット活用委員会のメンバーを決定し、2学期より個人情報の保護等の倫理的な問題の審議やホームページの更新などについて話し合いを進めてきました。
- 3学期の取り組み
2学期までの話し合いをベースに、ホームページの更新作業を多くの先生方の参加のもと、取り組んでいます。
- 生徒に対する取り組み
生徒一人ひとりが自発的にインターネットを活用できるよう、養護・訓練や授業の中で、カリキュラムに基づいた指導を進めてきました。
- ホームページ
1997年2月をめどにホームページの更新作業を行っています。聾学校として特色のあるホームページをスローガンに、指文字や聴覚障害児の福祉制度の紹介などを新たに取り入れ、生徒の学習の様子や作品がいきいきと感じられるようなページを目標に取り組んでいます。主に次のように更新を計画しています。
- 各科の紹介
被服科・産業工芸科・普通科・生活応用コース、専攻科等の学習の様子や生徒作品などを紹介しています。本年度2/15・16に行われる作品展に向けてページの準備をしているところです。
- 聴覚障害児教育について
「聞こえないていうことはどういうことなのか?」「耳の中の仕組みはどうなっているのだろうか?」「通常の学級で授業をする時、聴覚障害児に対してどんな配慮がいるのだろうか?」インテグレーションがますます進み通常の学校に通う聴覚障害児が増えてきています。はじめて聴覚障害児を担当される先生方を対象に聴覚障害児教育についての情報を提供しています。またメールを通しての様々な質問にもできる限り回答しています。なお、英文での説明をおこなっています。
- 指文字について
本校七代目校長大曽根源助先生が考案され、現在、わが国で広く活用されている指文字を、Gifアニメで構成しています。また、海外から日本の指文字について調べられるように英語での紹介も準備中です。
- 聴覚障害児の福祉について
聴覚障害児に対しては様々な福祉制度があります。福祉事務所の所在地や福祉制度のあらまし申請方法等についての情報提供を行っていきます。
- 共同利用企画への参加
- 酸性雨調査
- 平成7年度に引き続いて理科では酸性雨調査に取り組んでいます。現在の状況を報告します。
降雨ごとの酸性雨調査を平成7年度10月から酸性雨調査のホームページにデータを送り、掲載しています。今後とも調査とデータの公表は続けていきたいと思います。また、理科教育の一貫として、生徒が参加して酸性雨の調査と公表ができればと思っています。
平成8年度の成果と課題
平成8年度は校内組織を確立し、インターネットを活用した教育活動について、より多くの教職員が関わってきました。個人情報保護などについても、多くの目で検討できました。
- 電子メール実習
- 養護・訓練、授業の中での取り組み
昨年度の反省に基づき、本年度は高等部の生徒全員にメールアカウントを発行し、メール実習を行いました。最初は校内だけでメール交換をし、メールの概念について理解を深めました。普通の郵便と比べて電子メールは何が便利なのか?ポケットベルやファックスと比べてどうなのか?具体的に考えさせてきました。またネチケットについても体験的に学ばせました。
今年度6月より奈良県立高取高校のボランティア部の生徒と、メーリングリストを通した交流を始めました。'97年1月末で141通のメールをやりとりしてきました。生徒にとって電子メールが「第三の耳」になって欲しいと願っています。そして聾教育の大きな課題である「正しい書き言葉の習得」「豊かな言葉の獲得」ができるよう取り組んでいます。同年代の健聴の高校生と交流することによって、視野を広げることができたと思います。夏休みを利用して奈良から本校へ招き、よりいっそう交流を深めました。
- 問題点について
電子メールを使える場所が学校内に限られていることがあります。ポケベルやファックスなどが生徒の生活に密着して利用されているのに対し、電子メールは自宅から接続できないこともあり、利用は主に授業の中だけに留まっています。
- ホームページ実習
- 養護・訓練、授業の中での取り組み
インターネット上に溢れるさまざまな情報の中から、自分に必要な情報を得るために、サーチエンジンによる情報検索法を学習しました。はじめは自分が興味のあるキーワードをたよりに検索をさせ、徐々に学習に必要な情報の検索法へと進めています。
また、生徒自らの手で必要な情報がキャッチできるよう、サーチエンジンの使い方についても学習しました。自分達のことについても情報発信ができるよう、ホームページの作り方についても学習し、現在は今年度2月の作品展に向けてホームページを作成中です。
またインターネット上の各種イベントを授業に取り込むことも試みてみました。JASが公募していた飛行機の機体デザインでは応募総数10,364名、42ヶ国にわたって応募があった中で、本校として1名、JAS賞をいただきました。
- 問題点について
情報公開の流れのもと、個人情報の保護も広く認知されてきました。教育の中で生徒の活動をインターネット上で公開することが、個人情報保護の精神に照らしてどうなのか、慎重かつ大胆な取り組みが求められています。さらなる検討が必要です。
また今後、生徒がホームページ作成に本格的に取り組んだときに、著作権(知的所有権)・肖像権などの保護についての指導が必要になります。
- CU-SeeMe実習
- 今までの取り組みの様子
雑誌などで紹介されているサイトに接続し、テレビ電話を経験する授業に取り組みました。回線速度が細いため、まだカリキュラムに位置づけた指導までには至っていません。しかし聴覚障害を受けた生徒にとって、顔の表情がインターネット上で見え、手話によるコミュニケーションの可能性を感じたことは大きな成果となりました。
- 問題点について
他校と共同企画で授業を取り組む場合、日程調整や事前指導が難しく、反対に日常的に取り組もうとすると無目的な授業になりやすい部分があります。
- 技術的課題
端末の台数の不足から、授業で取り組みにくい、授業準備の時間がとれないなどの問題が起こっています。
また回線速度の制限が授業の内容にまで影響を及ぼし、ホームページを授業で活用したくても、待ち時間が生徒の興味をそぎ、予定の内容まで進めないこともあります。
- その他の問題点について
- インターネットを通じて、又は雑誌などの付録のCD-ROMなどから手に入れる場合もありますが、シェアウェアと総称されるプログラムに対するサポートをどうするかという課題もあります。学校予算ではなかなか支払いを認めてもらえず、個人のポケットマネーで解決しているケースが多いと思います。シェアウェアの中にはこのあたりの事情を考慮してか教育機関での利用に限り、料金は無料というありがたいものもありますが、いずれにせよ優れたソフトウェアの資産をより充実させるためにも予算での確保が求められています。またこのような料金の支払いもしていくことがネットワークの倫理教育にもつながっていくので、生徒にもこの精神を指導していく必要があります。
プロジェクトに参加して
平成7年度、8年度の2年間にわたって100校プロジェクトに参加しました。2年間の取り組みの中で一定の成果を得ることができたと考えています。
- 教職員の変化
インターネットが初めて導入された時はホームページのたちあげやメーリングリストの開設など技術的な問題だけで精一杯という状態で組織作りという所まで手が届かないというのが実状でした。平成8年度からは教職員に対する研修会を開いたり、倫理的な問題も含めてインターネットの活用法について企画、推進をするための組織作りもできるようになり、高等部全体としての取り組みへと拡がりつつあります。そのような流れの中で、インターネットに関心をもつ教職員も増え、授業の中で教材に関連づけてホームページの閲覧する取り組みも増えてきています。今、ちょうどホームページの更新作業の最中ですが、多くの教職員や生徒が関わってのホームページづくりに取り組んでいます。
- 生徒の変化
生徒については2年間のプロジェクトを通して様々な体験を重ねました。ホームページの閲覧から始まり、CU-SeeMeの実習では互いの顔を見ながら外国の人とチャットを楽しんだりしました。また、電子メールを通じて海外の聾学校の生徒との文通も経験しました。現在は奈良県の高取高校の生徒との交流を電子メールで、はかっています。インターネットの学習の中でネットワークでのマナーや個人情報の問題、著作権について等、今までに気がつかなかった問題についても学習することができました。これらの体験を通してインターネットは生徒達にとって非常に身近なものとなっています。最近では休み時間や自習時間などを利用して自分からホームページの閲覧をするようになっています。
- まとめ
「聞こえない」と言うことは単に耳だけの障害にとどまらず様々に影響をおよぼします。耳から入ってくる情報が少なかったり、不正確であるということは大きなハンディキャップの一つであり、言語力獲得のうえでも大きな障害となります。聴覚障害児教育の中で、情報補償は大きな役割を担うものだと思います。インターネットが生徒の「第3の耳」となって、生活に根付いた部分で使われいくことで、その役割の一部を担っていけるのではないでしょうか。今回のプロジェクトを通して、インターネットのすばらしさや便利さを実体験することができました。このような新しいメディアの恩恵をこれからの生徒が、特に聴覚に障害を受けている生徒達が活用すべきものだということを改めて認識しました。