東京都立光明養護学校そよ風分教室

100校プロジェクト平成8年度実施状況

○ネットワークの利用状況

(1)ホームページの作成

 ネットワークを利用して何をしたいかという児童生徒の話し合いから今年度はスタート

した。中学生を中心にホームページ作成の希望が出され小中合同で取り組むことにした。

<内容> 

1.分教室の紹介    

 中学生が紹介内容や紹介文を考え作成する。

2.各児童生徒のページ(自己紹介)

 ホームページに載せたいという本人の意思と家族の了解のもとに自己紹介を載せる。病

院内で療養中であることを考慮し、写真は載せない。絵や作文等の作品は掲載する。原則

として名前はイニシャルとした。

3.学習の紹介          

 院内展覧会等を紹介する。

(2)インターネット上の情報を利用しての学習

<学習例>    理科 小学5年   単元 太陽と月の動き

 本児の病室の窓からは全く月が見えず、その日の月の動きはもちろんのこと、どのよう

な形の月が出ているのかさえも観察不能であった。そこで月の形の変化の学習時にネット

上の情報を利用して学習した。理科の学習時にホームページに接続し、刻々と変わる月の

形や日数の経過と共に半月、満月等に変わっていく様子を毎回学習することができた。

(3)電子メールの交換

当初は本校と分教室の児童生徒、教員間のメール利用による交流を考えた。教員間では

事務連絡に活用されたが、生徒の実態の違いもあり児童生徒によるメール交換はなされな

かった。しかし、予定外の他の場でメールの交換が始まった。

<メール交換例> 

1.生徒と教員

 自宅療養中の生徒に対し学習プリントの郵送による通信教育を行ったが、本生徒の自宅

にはインターネットに接続されたパソコンがあった。そこで、プリントや学習への質問、

回答等、自宅学習を補うものとして電子メールを利用した。

2.教員と前在籍校教員

 早く退院して前在籍校へ戻ることを闘病の励みにしている児童生徒が多く、また転校後

の受け入れをスムーズにするためにも前在籍校との連携は欠かせない。前籍校教員との

メール交換が入院中に始まり、退院後も転校後の様子を知らせる手だてとして役立った。

3.教員と家族

 保護者や姉妹からのメッセージが届いた。15才未満の者との面会はできず、入院児童

の姉からメールが届いた。また、骨髄移植のため転院した生徒の保護者より、移植前後の

生徒の様子がメールで届けられ、分教室や医師で回覧した。

(4)ネット上の情報を見て楽しむ。

 主として中学部生徒や小学部高学年の児童であるが、休み時間や放課後の自由時間にイ

ンターネットに接続して楽しんだ。テレビ、スポーツ、タレント、音楽、動物関係等、自

分の興味関心に即しての情報を得ることが多かった。中にはゲームの攻略法を学んだり、

料理に関する知識をより深めたり、オールスターファン投票にネット上から参加したりし

て、情報の収集、発信にその子なりの意欲を見せた。

○平成8年度の成果と課題

(1)活用  

1.情報収集

 インターネットは経験や活動が限られる入院児にとって情報の収集のよい手段であり、

情報を活用しての学習は、理科、社会、各々天文、動植物分野と歴史分野で取り組んだ。

月の観察の学習ではリアルタイムの観察ができ、インターネットならではの情報を得て学

習に取り組んだが、全般にはまだ日本語情報が少なく、企画したものの教材研究の段階で

取りやめたものもある。例えば中学の歴史「ルネッサンス」の学習では調べ学習を企画し

たが、意図したほど情報を検索することができなかった。日本語情報の増加が待たれる。

2.情報発信

・インターネットについて理解し始めると、情報収集のみでなく情報発信の側にも興味を

持つことが多く、特に中学生や小学生の高学年にこの傾向が見られた。ホームページ作成

後、初めて自分の自己紹介をネット上で見る時はみな嬉しそうであった。分教室の在籍数

は30人前後で友達も少なく、病院内での掲示や展覧会では参観者も限られる。ホーム

ページは作品発表の場として、大勢の人に見てもらえる良い機会である。ただ、教員側の

技術力不足等のため子どもの発信の意欲を充分に伸ばすことができなかった。

・長期療養児は入院のみでなく、長期外泊、自宅療養となることもあり、この間の教育は

家庭学習とならざるを得ない。児童生徒の自宅に環境が整っていた場合は、電子メールで

自宅学習を補強できた。前籍校との連携等も含め病院内学級の教育を補うものとしてイン

ターネットは活用できよう。

・電子メールは使いなれてくると教員に利用されていった。電話と違い、プリントアウト

してベッドサイドへメッセージを届けられることも利点であった。今年度はアンケートや

調べ学習への協力依頼があったが、これらの依頼が頻繁になると対応しきれず、今後の課

題である。

3.最新の情報化社会に触れる

 少人数のため児童生徒がパソコン機器に触れやすい環境があり、インターネットを体験

できた。また結果的にワープロ入力の学習にもなった。但し、機器が設置されている教室

での学習が可能な場合で、より生活空間が制限されている病棟内やベッドサイドでは現在

これらの学習ができる環境にない。機器や回線の整備が必要である。

4.余暇の過ごし方

 ゲーム機器やまんがで長時間過ごす等、余暇の過ごし方が限られている中で、ネット

サーフィン等病院での新たな楽しみが増えた。

(2)教育効果

 長期入院のため児童、生徒は限られた空間の中で生活し、接する人や入る情報、また活

動、経験が制限されざるを得ない。入院児の制限された環境を、情報処理機器等で補える

部分があり、インターネットの活用も有効な手だての一つであろう。数年に及ぶ長期入院

児の中には、既にパソコンに関する多くの知識を持ち、ネット上での情報収集、発信に積

極的な意欲を示し、闘病意欲にもプラスしていた生徒もいる。また。どの子も全般に機器

に慣れるのが早く、インターネットの世界に抵抗なく入っていく。ただ、継続的な取り組

みが困難であることは病状や転学によるもので分教室の特質からやむを得ないだろう。

 一方、仮想と現実の違い、あくまでも道具であることの視点は大切で、外からの刺激が

少ない病院内だからこそ強調する必要を感じた。人と人との関係を基盤に築きつつ、機器

やネットを利用していくという姿勢を教員が意識的に持って指導することが大切である。

(3)技術的課題

 教員の技術力不足があり、本校の協力を得て研修やホームページ作成等実現できた。現

状では機器を担当できる教員が限られており、指導面、仕事分担面に問題がある。また隔

離病棟と教室との交流も考え、パソコン増設により使用できる児童生徒の範囲を広げたい

と考えたが、このためには機器購入だけでなく指導教員の充実が必要である。教員を対象

とした初、中、上級コース等の適切な研修の必要性を痛感した。 

(4)その他     貸与機器にプリンターも含まれているとよかった。

○100校プロジェクトに参加して

 長期病気療養児の教育は、近年話題となり徐々にその必要性が理解されつつあるが、ま

だ存在さえ知らない人も多く、院内学級の数も不十分である。分教室のホームページを開

くことにより一人でも多くの人に、病気療養児のための教育の存在やその様子がわかって

もらえたとしたら幸いである。将来は病院のホームページからのリンクもできるようにな

るよう望んでいる。