共同利用企画「海を越え言葉と心のキャッチボール」の実施

１　はじめに

　本企画は(財)コンピュータ教育開発センターの共同利用企画の一つで、平成７年度の共同利用企画「地域情報交換」を推進した学校を中心に活動した。

　地域情報交換は戦後５０年を意識し、韓国、ハワイ、沖縄、関西の高校生の意識調査などを軸にインターネット利用を進めたが、今回はインターネットを中心とした各種メディアの違いの研究を中心テーマとし、対象地域にカナダを加えた。

　本企画の最終段階として、海外の生徒・教員を招くフェイス・ツー・フェイスの会議がもたれるが、インターネットと国際教育を視点に据えた教育は、インターネットを利用した教育を考える場合、一つの中心軸として位置づけられることになろう。その意味で、本企画は今後のプロトタイプとしての意味を持つことになる。

２　目的

　２１世紀日本にとって重要な地域と考えられるアジア太平洋、いわゆるＡＰＥＣ諸国の高校生をインターネットを介して交流させ、相互理解を深めるとともに、各種インターネット機能を使わせることを通じて、新しいメディアの違いや特徴を体験学習させる。国際交流では英語の壁が問題となるが、ハワイでは日本語を利用できる環境にあるので日本語を利用した交流と英語のそれとの違いも探る。

　また、韓国との交流では韓国語の扱いについても考える。

３　収得させたい能力

　本企画を通じて収得させたい能力としては次の３点が挙げられる。

ホームページ作成関連: (1)情報処理
ホームページ、画像・ビデオ編集とファイル作成、アンケート集計とグラフ化
テレビ会議: (1)国際理解、ハワイや韓国に対する生きた知識; (2)各種メディアについての知識; (3)テレビ会議での発表技術
質問事項や発表事項についての事前の詳細な準備。
フェイス・ツー・フェイス: (1)国際理解、ハワイや韓国に対する生きた知識; (2)ホームステイ受け入れの経験; (3)分科会に分かれたディスカッション

４　実施状況

テーマの設定

　実施にあたっては月ごとに活動テーマを設定した。流れとしては、まず、アンケートを実施して生徒の意識調査をするとともに、自己紹介、学校紹介を電子メールや画像ファイルなどで「キャッチボール｣交換する。次に、フェイス・ツー・フェイスなどで相手の国や地域を相互訪問することを念頭に、地域の一日旅行スケジュールを組み、地域紹介をホームページに掲載。その後、各種テレビ会議を使って情報交換やディスカッションを行い、１２月１５日に実施された大阪でのフェイス・ツー・フェイスに参加する。以上が、本企画の骨子であったが、回線幅の問題や回線状況の悪化などで、インターネットを利用した CU-SeeMeなどのテレビ会議が実施できなかった。このため、９７年１月に入って、商用プロバイダーのインターネット回線を利用して、各種テレビ会議や遠隔通信実験を行った。

・フェイス・ツー・フェイス

　また、フェイス・ツー・フェイスで当初ハワイから相当数の参加が見込まれていたが、費用の面から最終的には、ハワイからの参加者はゼロとなった。カナダからは、３名、韓国からは６名の生徒が参加したため、平成７年度の「地域情報交換｣企画の４名よりも増えたが、当初考えていた人数よりは少なかった。これは、教員個々の責任で参加しているため、当該校や教育委員会の支援が得られなかったためであるが、今後の課題として、組織対組織との交流の促進を考えた。

・プロジェクト参加の姿勢の違い

　ハワイ教育省の情報通信部のケリー・コイデ氏を招いたのは、そのためである。

　さらに、プナホウスクールのように、教員が本プロジェクト全体への参加ではなく、各自のクラスのカリキュラムに合致した部分で本プロジェクトに参加したため、トータルなコミットが期待できなかった。フェイス・ツー・フェイスへの参加は、プナホウスクールの場合、学校としては不可という方針が出されたので、同校からは、平成７年度と同じく参加者ゼロとなった。

・プナホウスクールのテレビ会議システム

　ただ、プナホウスクール所有のISDNテレビ会議システム（ソニー）を２回にわたって本プロジェクトのために使用させていただいたことは、CU-SeeMeが実質的には利用できなかった本プロジェクトを支える役割をになった。

・生徒間の情報交換

　生徒間の情報交換では、電子メールによる質問のキャッチボールが活発に行われた。また、沖縄の美里高校が開設した本プロジェクト用の掲示板でも興味深い書き込みの応酬が見られた。一般からの書き込みも許可していたので、本プロジェクトとは関係の無い、悪用されると危険性がある書き込みもあった。

・一日訪問コースと言葉の問題

　各地域の一日訪問コースのページ掲載については、言葉の問題があって、英語への翻訳など教師側の作業が大きくなった。

・ホームステイなどの受け入れ体勢

　海外の生徒を受け入れる場合、例えば、ビザ申請などに、受け入れ側の書類を要求されたり、ケリー・コイデ氏の場合のように、教育省の稟議に必要だと、本企画の趣意書・計画書の提出を求められるなどの作業が必要であった。

　また、韓国や沖縄の生徒の受け入れのためにホームステイ家庭を探す必要があった。今回は、沖縄、韓国、カナダから合計１１名の生徒を受け入れることとなり、大阪信愛女学院と帝塚山学院泉ケ丘中高等学校（以後、帝塚山）で引き受けることとなった。先生方の滞在については、ホテルとホームステイを組み合わせて、できるだけ、経費の削減につとめた。

　いずれにしても受け入れ側での上記調整とは別に、派遣する学校の方でも、保護者との打ち合わせが必要で、時間やエネルギーが相当割かれることとなった。

・参加校のインターネット環境の相違

　日本を含む４カ国１１校が参加しているため、インターネット環境も学校により大きく異なる。韓国の正義女子高校の場合は、ホームページは、サムソン電子に絵や文章を送って、これを掲載してもらっている。大阪信愛女学院では、まだホームページを開設していない。ハワイのワイパフ高校の場合も商用ネットワークに教育インターネット個人が契約しているダイヤルアップ接続で、ホームページ掲載ができない。　このあたりの調整を帝塚山学院が中心になって行い、帝塚山のホームページを利用する形をとった。

教育効果

・情報技術の育成

　ホームページを生徒が編集しているところでは、インターネットやコンピュータの各種機能を活用する必要があるため、実質３ヶ月の本プロジェクト実施期間中に、相当程度のインターネット技術が身についた。帝塚山の場合、男子中学生が、ホームページ掲載のため、アンケート集計のため表計算ソフトで集計したりグラフ化、デジタルカメラの取り込み、ftp、ムービーファイルの編集などを、自分たちで行っている。

　また、英文で書かれているユーティリティソフトなども、知っている単語をつなぎあわせて読んでいる。ホームページでも中学一年生が英語ホームページを開いている。

・テレビ会議と交流

　以上のような情報教育面以外にも、ISDNテレビ会議では、ハワイや韓国の理解が深まったり、距離感を感じさせないテレビ会議に驚いたり、大きな感動を与えている。

　パソコンの前に座り続けるタイプの多いコンピュータクラブの生徒が、他校に出かけ、他国の生徒と交流する意味は、少なくとも、帝塚山の生徒にとっては、大きな意味があった。

・遠隔通信

　TimbukutuProを使った遠隔通信で、相手端末を動かす実験に、帝塚山の生徒は、歓声を上げていた。カメラを固定してCU-SeeMeを立ち上げておくと、遠隔地の風景が２４時間見えることから、この応用面など考えられているが、相互のパソコンを遠隔操作することで、共働作業の可能性が一層広がっていく。今企画では、単なる接続実験に終わったが、次のステップを予感させるものとなった。

・ホームステイプログラム

　インターネットとは直接の関係がないが、インターネットと結びついたホームステイプログラムは、これから、あちこちで見られることになると思われる。今回のプロジェクトでは大阪信愛女学院に韓国・カナダの生徒を引き受けていただいたが、彼らのしっかりとした生きる姿勢に感銘を与えられたと感想を述べるとともに、通信技術の進歩に目を開かれている。

５　課題

　本プロジェクトを大きく総括すると、まだ、生徒が主体的に活動・参加したとは言い難い面がある。テレビ会議の進め方にしても、相当、教員の指導が入っている。これがないと、テレビ会議の限られた時間内で、充実した話し合いが持てないという状況がある。電子メールや掲示板の利用にあたっても言葉の問題もあって、自由に意見交換が行えるという状況にはなかった。

　インターネットの回線が細いため、多用したかったCU-SeeMeなどが使えなかった点も本プロジェクトの十分な展開を妨げた理由である。

　本プロジェクトに参加した国々は、日本の生徒にとっても、修学旅行や短期ホームステイプログラムなど色々な意味で関心が深いところであるので、上記課題を解決して、成果をあげていきたいものである。

　海外からの教員招待に対する支払い額が支出項目で最大となったが、この部分に対する支援を海外の人々と友好関係を築くという広い意味の国益を考えて、しかるべき機関で検討する必要があるのではないかと思われる。

ネットワーク利用の技術的課題

　本企画を、今後、もっと進んだ形で進める場合に、どのようなネットワーク環境が求められるか考えてみる。要約すれば、教室から、トラブルがあった場合に、相互に連絡が取れるように通常の電話回線が１本、インターネットを使ったリアルタイムのテレビ会議CU-SeeMeで相手の顔を見ながら討議を進めると同時に、別の回線で複数接続を行い、互いのコンピュータを遠隔操作で共同作業したり、技術の支援を行う。

　また不定期な行事としてイベント的にフェニックスやピクチャーテルなどを使ったISDNテレビ会議を実施するが、これは、一般の教室ではなく、コンピュータ教室など各種設備が整ったところを「スタジオ」的に使い、ここから会議風景を流し、各教室でキャッチできる環境を構築したい。

　共同利用企画は、他校、他国との共同プロジェクトであるから、例えば、会場校をスタジオとして、フェイス・ツー・フェイスの会議風景を他校・他国の参加校に流せば、フェイス・ツー・フェイスの会議（リアルタイムの直接会議）に伴う資金的・時間的な制約を取り払い、より多くの学校や国が参加できる。

　リアルタイムの会議や共同作業は、時差の制約を受け、対象国が限定されるが、例えば「スタジオ」的設備が整った施設があり、その施設または周辺に宿泊して、ネットワークキャンプを行うことができれば、はるかに多くの国々と接続できることになる。全国にこのような拠点を設置することで、大きな教育効果があがることであろう。以上を項目別に整理すれば、以下のようになる。

回線
1. 回線幅の増量
2. 複数回線の導入
3. 通常の電話回線の付設
4. ISDNの設置
システム・ハードウェア
1. ftpサイトなどを考慮してハードディスクの容量増量
2. 電子掲示板の設置
3. アンケート作成システムの設置
4. 端末の拡大
5. セキュリティ対策
ソフトウェアの整備
1. 遠隔通信ソフトとキット利用
2. 翻訳ソフトの利用
3. インターネット用統合ソフトの開発
その他
　「スタジオ」の設置で、幅広くインターネット「放送」を可能にする。

その他

　今回のテーマは、各種メディアの特色を探り、これに応じた活用方法を研究することや、海外との日本語通信の特徴、発信された内容の正確さなどをテーマとした。各種メディアの特色については、通信回線の状況から困難な面もあったが、考えられるメディアを利用可能な範囲でテストをして、実用性を調べた。結果、かなり、使えそうな感触を得たが、本格的な利用は、次回以降となる。ハワイでは日本語の授業があり、日本語のクラスとメッセージやアンケートの交換をしたり、テレビ会議でも日本語を交えた部分もあり、これが、日本の子どもたちの理解を助けるとともに、リラックスさせる役割を果たした。今後は、単なる座を和らげるという側面的な意味だけではなく、本格的な交流をどの程度、行えるか、研究課題である。

　ハワイの子どもたちの質問に、日本側で答えた返事の中に、間違いとは言えないが、一般的な正答とは認められない内容もあった。これは、海外からの情報提供においても同じ事がいえる。そこで、今後、インターネット上で流される情報の正確度を調査する研究も行う必要がある。

謝辞

　なお、本プロジェクトの実施にあたり、参加教員の打ち合わせ会などに対して、ＣＥＣや富士通株式会社の多大な協力があった。他にもISDNテレビ会議システムを借用した松下通信工業株式会社や会場を提供していただいた大阪信愛女学院メディアセンタ、テレクラスインターナショナルジャパンなど諸団体から、支援をいただいた。このような外部からの横断的な支援は、教室や学校、国境を越えた本プロジェクトに、ふさわしい支援と言えるかも知れない。紙面を借りて、お礼を申し上げたい。

帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校辻陽一