2.5 学校・地域における実践事例

環境問題・国際環境教育プロジェクト

北海道札幌市立幌南小学校

教師と子どもがいっしょに作れるものが
 100校プロジェクトに環境問題と国際交流というユニークな自主企画で臨んだ札幌市立幌南小学校。このユニークな自主企画は、どのように生まれたのでしょうか。
 企画した藤村裕一先生は「100校プロジェクトの公募を新聞で見て、回線とサーバがもらえるだけでも、まったく新しい教育ができるに違いないことを確信していました。そして、この北の果ての学校らしい、他校がやらないような企画を作ってみよう」と考えたそうです。
 札幌市立幌南小学校は、著名な教科研究校なのですが、コンピュータについては積極的な学校ではありませんでした。しかし、インターネットで新しい教育ができると確信したというのはどうしてでしょうか。実は、企画をまとめた藤本照雄 教務主任、藤村裕一先生、近田豊事務官の3人は古くからパソコンに精通しており、米国立のNEBBSという教育関連のネットに加盟して、テルネットでインターネットを使っており、ある程度結果を予想できたからに違いありません。
 そして、他校がやらないようなユニークな企画を作ろうということになり、“教師と子どもが一緒になって作れるもの”という基本コンセプトに絞って、案の中から“北国情報サービス”といった電子メールによる情報提供、その後に開始した“北国情報コーナー”というホームページの制作に決まりました。地域性を生かしながら4年生社会科「さまざまな土地とくらし」の単元で活用したり、大阪市立西淡路小学校などと、それぞれの土地とくらしについての質問や写真をメールで交換したり、テレビ会議システムを使ってリアルタイムな意見交換をするなどの共同授業を実施しました。その後、より高度な“生活・文化データベース”や環境問題のホームページの制作へと発展し、第2回スクールページコンテストで朝日学生新聞賞をいただくところまできました。

人のつながりの中で学ぶネットワーク教育
 札幌市立幌南小学校は、閑静な住宅街の中にあり、裏には豊平川の豊かな自然が広がっていますが、市電に10分も乗れば札幌市内の喧騒の真っただ中という立地です。まさに、都市と豊かな環境が混在するため、環境問題を考えるにはうってつけの場所と言えるでしょう。
 学校内のゴミの分別などを通して、大量の紙ゴミや使えるものを捨てる行為を見て怒った子どもたちは“地球を守り隊”を自主的に作りました。そして、“地球を守り隊”はインターネットを通じて、ゴミや環境問題の実態を世界の仲間とともに調べたり、リサイクル活動やボランティアについて意見交換しています。全体の活動としては“国際環境教育プロジェクト”と呼んでいるそうですが、内容としては「人とのつながりの中で学ぶネットワーク教育」を実践しようとしています。
 藤村先生は「生徒たちは、最初はインターネットを使っての情報収集に夢中になりましたが、3か月で飽きました。次にホームページを見て、電子メールを送って直接聞いたり、電子掲示板などを利用して不特定多数の人に教えていただくといったことが増えていきました。できあいの資料を使って調べると答えが限定されてしまうのですが、インターネットではさまざまな答えが返ってきます。語学の問題はあるのですが、翻訳ボランティアなどによって、それさえクリアすれば世界的にオープンな環境で学習できます。たとえば、古紙回収のとき、集めた古紙を業者に渡そうとしたら、いままでお世話になっていたところは廃業しており、ほかの業者では回収を断られ、有償回収になると言われ困り果てていました。しかし、掲示板で協力を呼びかけ、全国の消費者、消費者団体、行政、回収業者、製造業社などさまざま方からそれぞれの意見を寄せられ原因や関連を突き詰め、次へ進めました。授業が人のつながりによって進んでいくわけで、一方的に教師がもっともらしいことを言って信じ込ませる教育は立ちいかない」ことを実感したそうです。
 子どもが興味におもむくまま直接先方に連絡をしてしまうと困ることもあります。そこで、事前にお願いのメールを出したり、趣旨説明をしに行くようなコーディネートが重要になります。しかし、子どもたちに回線の先に人がいるということを理解してもらえれば、大きな問題は起こりません。ちなみに、幌南小学校はEU諸国と日本の交流プロジェクトであるNetdayやミクロネシアプロジェクトなどの海外交流に参加していますが、コミュニケーションの方法については基本的には変わりませんし、言語の違いについては翻訳ボランティアの方のおかげで苦労もほとんどありません。

OSの名前を聞いたときにはパニックになるかと思った
 当初、100校プロジェクトではA校には高速回線64KbpsとUNIXベースのサーバが入り、B校は28.8Kbpsのアナログ回線のみということだったのですが、情報処理振興事業協会(IPA)の担当者の方からB校にもサーバを提供すると言われて戸惑ったそうです。聞いたときには、サーバの管理なんてよく知らないし、搭載されているPANIXというUNIX互換のOSについてもまったく知識がありません。また、実際に納品されたのはサーバといってもパソコンで、24時間運用に耐えられるのだろうかという疑問もわいてきたそうです。
 UNIX関連の本を買ってきて読んだり、自宅のパソコンにUNIXをインストールして使ってみたりするのに加えて、北海道大学、北星学園大学などの近隣の大学関係者が、協力を申し出てくれたので心強く感じました。現実にはCEC、IPAのほうで用意していただいた三菱総合研究所の技術支援窓口を通して、メールの管理方法やリモートでサーバの管理をする方法など、基本的なことから専門的なことまで教えていただけたそうです。
 藤村先生は「将来的にどこの学校がインターネットに接続しても、こういった窓口は絶対に必要です。市町村レベルでは難しいのならば、県単位でもよいからこういった窓口がほしいし、無償が無理なら有償でもかまわない」と言います。
 そして、実際にサーバが動き出してみると、「サーバが各学校に入るということはすばらしい。自由度がまったく違うし、できることの可能性がまったく違ってくる」と実感したそうです。
 ダイヤルアップで接続しているところは、メールのアカウントが一つか二つ。この状況ではクラスごとに交流はできません。また、子どもたちが何かアクティブな行動を起こしたときにもアカウントを発行したり、メーリングリストを作ってあげられます。
 さらに、マルチメディア作品を作りたいという場合にも500MB程度の容量ならばすぐに用意できます。学校に入れるのならばダイヤルアップでよいだろうといわずに、管理する者がいるのであればサーバを入れるべきだと」実感したそうです。
 今後は、国から補助を受けながら、せっかく地域ごとに拠点校を作ったのですから、それを残していくような手立てを考える必要があるでしょう。

(取材対応者:藤村裕一先生)


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