海外との交流より、まずは身近なネットワークの充実
保護者や地域を巻き込んで学習活動の輪を広げる

茨城県つくば市立桜南小学校

保護者から専門的な知識をもらおう
 つくば市立桜南(おうなん)小学校は、茨城県のつくば研究学園都市にあり、子どもたちの保護者にも研究職についている人が少なくありません。そのため、何か専門的なことを知りたいとき、そうした保護者に協力を仰ぐことが容易にできる環境にあります。
 インターネットは世界中どこにでもつながるので、最初は外国との交流を考えたそうです。そこで、保護者の中に語学にたんのうな人が多い点に着目し、翻訳ボランティアを募りました。韓、中、英、露、独、ポルトガルの計6言語、計30人以上が名乗り出てくれました。
 インターネットでお父さんお母さんの勤める研究機関にアクセスして、専門的な知識や資料を学校の学習に提供してもらおうとも考えました。子どもたちの質問に答えてくれるメールボランティアを募ったところ、こちらは約50人の保護者が名乗り出てくれたそうです。
 プロジェクトがスタートして回線が整い、サーバとクライアント1台ずつが設置されたのは平成7年の夏、実際に使い始めたのは秋からでした。当初、インターネットにつながるマシンは2〜3台しかありませんでしたが、先生方の奮闘もあって、海外の学校との交流や、わからないことをメールボランティアに質問するなど、学校から外へ向かうホットラインとして、インターネットは着実な第一歩を踏み出しました。
 平成7年度の3学期にWindows3.1のマシン20台が導入されました。当時Windows3.1は、インターネット接続の設定が厄介でした。しかし、このマシンを使って保護者を対象にインターネット講習会の開催を予定していたので、先生方が必死でインターネットにつなぎました。パソコンデスクもなかったので、児童用の机6個の上に大きなベニヤ板を貼って自作のデスクを作りました。この作業では、当時の校長先生が自らかなづち片手に陣頭指揮をとったそうです。

先生が自力でネットワークの工事
 Windows3.1では使い勝手が悪いということもあり、OSはWindows95にバージョンアップされ、校内ネットワークの整備も始められました。こうした作業もすべて先生方の手で行われました。当時は、ネットワークについての適当な参考書も見当たらず、作業はカンと手探りで進められたそうです。平成8年度になると徐々にパソコンの台数も増え、コンピュータ室の20台のほかに、各教室にも1台ずつ校内ネットワークでつながったパソコンが設置されることになりました。当初は高学年だけでしたが、平成10年度には3年生以上の各教室に1台ずつのパソコンが入っています。
 このように、校内LANが整っていくにつれ、桜南小学校のネットワークの使い方にも変化が表れはじめました。今泉先生は、その変化をこう解説しています。
 「校内のネットワークを使い始めてみると、隣りのクラスなど校内の仲間や、近くの学校との情報交換から始めるのがよいことがわかってきたのです。最初、海外の学校とやりとりして、それは子どもたちに大きな感激でした。しかし、隣りのクラスとやりとりをしても、同様の感激が得られるんです。子どもにとって、外国も隣りのクラスも、感覚としてそれほど違わないんですね。」
 そこで、子どもたちが学習に必要な情報は、子どもたち同士で提供させ合おうということになり、どうしても情報が足りないとき、インターネットで外へ出て、情報をもらってくればよいのです。
 たとえば、社会科などで調べ学習をするとき、子どもたちは自分で調べてわかったこと、わからないので知りたいことを掲示板に書き込んで交換します。自分の調べた情報をほしい人には与え、自分がほしい情報を見つけたときにはもらうのです。この学習が進んでいくと、やがて子どもたちだけの情報では不十分なことがわかってきます。その段階で、外部へ応援を求めることになるのです。こうした際、桜南小学校の保護者の勤める研究機関へアクセスすることも多いそうです。

子どもどうしでわかることがうれしい
 「子どもたちどうしのやりとりが可能になると、外部への質問はあまり必要ではなくなりました。同じ学年どうしだけでなく、下級生が上級生に教えてもらうということも多いようです。そこには、助け合いばかりでなく競い合いもありますが、子どもたちは、子どもどうしのやりとりでわかることが、とてもうれしいんですね。」森田先生は、このように子どもたちを見てきました。
 ところで、子どもたちの情報交換には、「スタディノート」という学校教育用のグループウェアが使われています。このソフトは、学習したことを書き込むノートをそのまま電子メールとして送ったり、データベースとして蓄積したり、掲示板に張り出したり、Web上で見ることもできます。
 6年生は総合科の「環境学習」で近くを流れる花室川の環境調査を行っています。桜南小学校のやや上流にある並木小学校も同様の調査を行っていて、その情報はインターネットを介してスタディノート上で交換されています。並木の子も桜南の子も、お互いの掲示板を自由に見ることができるのです。また、この学習には、専門知識をもつ地域の方が講師として参加しています。この活動について、森田先生は次のような構想を語ってくれました。
 「スタディノートとインターネットを組み合わせて追究的な学習を進めていこう、その中に地域の人々を巻き込んでいこう、最終的には保護者の皆さんにもノートを作ってもらおう、と考えています。今後は保護者も花室川の調査に加わっていただくとか、研究者に参加していただくとか、活動の輪を広げていこうと考えています。」

ホームページに自分たちの思い出を残す
 桜南小学校では、ホームページで学校の情報を公開するようになって、お父さんたちの教育参加が盛んになったといいます。お父さんたちは、職場で仕事の合間に行事の写真や作文などわが子の学校生活を見て、ときには先生宛てにメールを送ってくることもあるそうです。これに対してお母さん方からは、父親は見られるのに不公平だ、せめて学校へ来たときにはいつでも見られるようにしてほしい、という要望が出されたとか。
 ホームページには、子どもたちの顔から個人が特定できる写真は載せていませんが、とくに神経質になっているようでもありません。「子どもたちは、ホームページを情報の発信と同時に、自分たちの思い出を残すために作っているんですね。自分たちが大人になったときに見て楽しめるように、写真はたくさん載せておきたいようです。」
 今泉先生がこう言うように、桜南小学校では、子どもたちが作ったページはすべてサーバに保管してあるので、卒業生が検索すれば懐かしい想い出にひたれるようになっているのです。
 「インターネットによって、勉強が広がり、人の輪が広がり、自分たちの足跡が残っていく。100校プロジェクトへの参加は、苦労こそありましたが、マイナスになったことは一つもなかったと言えるかもしれません。」森田先生はこう締めくくってくれました。

(取材対応者:森田 充先生 今泉英樹先生)


CEC HomePageインターネット教育利用の新しい道