オープンスペースの理念を生かす
校内イントラネットの構築と運営

神奈川県横浜市立本町小学校

地域とのネットワークを指向した オープンな校風
 校内イントラネットの実践のほかにも、本町小学校は全国的にユニークな学校です。「教室」という箱をなくし、各学年、各クラスは、オープンスペースで運営されています。全国から見学者が絶えないのだそうです。先生方の机、会議区画、応接区画など、「職員室」もオープンスペースです。校内案内に従って広い廊下を歩いていった先、開けた場所がそれです。校内の研修会、外部関係者と打ち合わせなど、一区画のオープンスペースに配置された会議テーブルで行われます。

ネットワークとのかかわり合い
 校舎は港・横浜をしのばせる先進的なデザインです。本町小学校と「ネットワーク」のかかわり合いには、かなりの歴史があります。平成6年、最初に設置されたのは、OSがNetWare 3.1J(IPX/SPX)のサーバ1台と15台のクライアントで、現在でいうイントラネットでした。学校のバックボーンを形成している、年代ものの10BASE-2ケーブルがこのときに敷設されました。ちなみに、ここから現在設置されているケーブルが延長されています。
 平成7年、「100校プロジェクト」に参加したとき、到着したサーバは「PANIX」でした。このUNIX互換のOSの前で、「外」とつなげるため、約半年間、試行錯誤をされたようです。
 出口先生は明るく、大変エネルギッシュな方との印象を受けました。朗らかに笑いながら、どうしたらインターネットメールを使えるようになるのかなどを「聞きまくった」のだそうです。
 ともかく、この時点あたりから、前述の15台のクライアントをベースに、TCP/IPのネットワーク構築が始まり、現在では、40台のクライアント、そして、それぞれ1台ずつ、生徒用、先生用、外部向けのサーバ用、プロキシーサーバ用というサイトとなっています。ちょっとした企業でも顔色を失うほどのシステムといえます。
 学校内にケーブルを張り巡らせたのは、OBのボランティアを募って、いわば、ミニ「ネットデイ」を実施したようです。配線は10BASE-Tケーブルで、屋内では天井に直づけ、校長室内への配線は換気扇のダクトのすきまを通して、というように、苦労がしのばれます。校舎は先進的デザインとはいえ、いわゆるインテリジェントビルではないからです。だからといってケーブルを通すだけのために、建物に穴を開けるなどということはできませんから、と出口先生はほがらかに笑います。

地域の協力がサイト運営に必要
 ところで、ケーブル敷設以外にもボランティアの方々は、本町小学校で重要な役割を担っています。
 本町小学校では、授業中に児童がWebページを作成することがあります。しかし、そうして作られたWebページは個人個人の作品がバラバラの状態になっています。まだそのままでは外部公開できる状態ではありません。これらのリソースを、外側から、WWWブラウザで閲覧できるようにする作業をボランティアにお願いしていることもあるそうです。
 見返りといってはなんですが、学校開放日、本町小学校の常時接続は地域に開放されており、地域インターネットサークル参加者が自由に使用できる環境を解放しています。
 地域とのかかわり合いについて、出口先生は、象徴的なお話をされました。
 実は、ご多分に漏れず、本町小学校も当初は、世界を視野にしたWebコンテンツ(英語版)を作ろうとがんばったのだそうです。ところが、父兄の一人から舞い込んだメールをきっかけに、地域との関係深化に方向を転換したのでした。その父兄は、たまたま、職場で本町小学校のWebサイトを発見、そして、その中に自分の娘の絵が掲載されているの見て、感激して出口先生にメッセージを送ったのだそうです。
 インターネット家電の普及が今後進んでいくと考えられています。そうしたとき、生徒の作品、学習成果をイの一番に見たいと思っているのは、両親ではないでしょうか。そして、学校と地域を結ぶのは、生徒とその保護者なのです。

PCなしでは仕事にならない
 本町小学校では、赴任してきた先生方はまずノートPCを購入します。そうしないと、この学校では職務自体が果たせないからです。各種年間計画の書類、日常の各種文書をワープロや表計算ソフトなどで作成するのは、もうさほど珍しいことではないと思います。本町小学校はその先に進んでいて、提出先は先生用サーバなのです。
 そういうお話を聞きながら、ふと気付いたのですが、先生方は自腹を切ってPCを購入されているのですね。今日一般的に平均的な給与所得者が一生の間に買い替えるノートPCの台数は、せいぜい2〜3台と言われていることからすると、この負担は大きいといえます。子ども用だけでなく教師用のPCも文部省や教育委員会から配当されるようになることが望ましいのではないでしょうか。

施設整備は重大な問題ですが・・・・・・
 とはいうものの、本町小学校は大変幸せな環境です。地域との連携についてもそうですが、新しいハードウェアやソフトウェアを紹介する、と通知しておくと、その日、その時間に、先生方が集まって来られ、その仔細を見学するというのです。
 誰か一人にノウハウ、スキルが集中するのではなく、グループ全員が、今、身辺で起こっているコンピュータリゼーションの内容を理解していこうという姿勢があります。これからの時代、これは大切なことです。
 もっとも、出口先生が、ほかの学校へ転出された後、本町小学校のイントラネットの面倒は誰がみるのでしょうか。現在稼動中のシステムの保守や拡張の作業は、残された先生方にとって切実な問題になるでしょう。
 出口先生は、クライアントのソフトウェアレベルのことは、ほとんどの教員が自力でできるので心配はないと話しています。しかし、サーバ管理だけは今のままの状態で私がいなくなったら困るでしょうとも話していました。
 そもそも、校内のコンピュータとそのシステムを保守する担当者は、先生方のうちの誰か一人なのでしょうか。本町小学校では、サーバ管理は先生がやらない方向をめざして、安定した自動化システムへの変更や前記の地域ボランティアへの委嘱を模索しているところだそうです。いつまでも地域の中の小学校ホームページ発信を続けていくことをができるように、みんなで応援していきたいものです。

(取材対応者:出口和生先生)


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