高速回線によるリアルタイムコミュニケーション
子どもたちの疑問をその場で解決

神奈川県大和市立林間小学校・東京都港区立神応小学校

高速回線で何ができるんだろう?
 「インターネットをすべての学校に」ということで平成15年度を目標に学校へのインターネット導入が進められています。一方、平成11年度には、郵政省と文部省が協力して1,000校余りに1.5Mbpsの高速回線が導入されます。新100校プロジェクトでは、それに先立つ平成10年1月に「高度化に関する企画」として、神奈川県大和市立林間小学校と東京都港区立神応小学校との間で、高速回線を用いた授業実践を行いました。もちろん両校にはまだ高速回線がひかれているわけではないので、すでに1.5Mbpsの高速回線が敷設されている東京の情報処理振興事業協会本部と神奈川の情報基盤センターへ両校がそれぞれ出向き、実践授業を行うことになりました。
 この授業実践を行うにあたり、まず検討されたのが、「高速回線を用いて何を行うか」でした。100校プロジェクトが始まってから今までに、学校間でのさまざまな交流が行われ、さまざまな成果をあげてきました。しかし、64Kbpsという回線速度の問題で、やりたいこともできない、という声があがっていたのも事実です。インターネットを用いての映像と音声の双方向でのやり取りは技術的には何の問題もないのですが、なめらかで自然な表情や音声を相手に伝えるためには64Kbpsでは困難です。しかし高速回線を使えば映像と音声を用いたリアルタイムの共同授業がスムーズにできます。
 こうした高速回線のメリットを最大限利用した高品質のリアルタイムの共同授業を行えば、ただ単にその場での授業だけでなく、事前、事後まで含めて子どもたちに学習に対する興味を持続させることができることでしょう。
 テーマには「わが町紹介」が選ばれました。自然や社会や文化環境の異なった他地域の様子を知ることで自分の地域の良さも知ることができ、それが、自己理解、他者理解の第一歩になると考えたからです。

さすが高速回線
 この共同授業では、映像と音声の表示のほかに、発表用のWeb画面を共有し、さらに子どもたちが書き込んだ質問・感想文を書画カメラで取り込みコンピュータに表示するようにしました。これらを実現するために市販のブラウザソフトとテレビ会議用ソフトを使用しています。また、一つの画面に自校と相手校のビデオカメラで取り込んだ画面とWeb画面をまとめ、それを大型プロジェクタで表示するようにしました。
 映像と音声は高速回線では、なめらかに動き、リアルタイムの双方向通信を問題なく実現しました。今回の実験でいちばん問題になったのが質問・感想・意見の収集です。効果的な交流授業を行うためには、活発な意見交換が必須ですが、このことによって子どもたちの思考を中断するようではいけません。いくら映像と音声の双方向やり取りが可能でも、それによる意見交換は、限られた時間の中では無駄が多すぎます。また、現状では小学生がキーボードを使用して入力することは困難です。そこでカードに各自が質問や感想を書き込んでもらい、そのカード最大12枚をまとめて画像として読み込むことにしました。大画面に表示したときに読みやすくするために、できるだけ高解像度で取り込んだのでファイルサイズが非常に大きくなりましたが、その送受信でも高速回線では問題が起きませんでした。

あっという間の90分
 授業は9時30分から11時までの90分間で行いました。約1時間の各校の発表の後、質問を整理し、各校で質問事項に回答しました。途中、音声の品質が極端に悪くなりコンピュータをやむなくリセットせざるえない場面では、集中力を失いかけた子どももいたのですが、全体としては非常に熱心にこの授業に取り組んでいました。
 1.5Mbpsの高速回線による双方向授業は、質の高い学習を実現してくれます。なめらかな映像の中に子どもたちの表情が生き生きと映し出されます。今までの64Kbpsの回線からは想像できないほどのものです。しかし、今の子どもたちは、何でもあたりまえのこととして、すぐに受け入れてしまいます。子どもたちには、今回の授業にも何の違和感ももちませんでした。つまり自然な画像を実現できたため、画像のことを意識しないで学習に取り組めたということです。ほとんどの子どもたちは、今度は別の地域の子どもたちと同じような授業をやりたいといっていました。

基本は「何について学習するか」
 「1.5Mbpsの高速回線があれば、コンピュータのよいところだけをいただいて、コンピュータを道具として使うことができるということがわかりました。高速回線をどのように利用するか、何についてインターネットを使うのがいちばんよいのか、その辺りをさらにみんなで研究していかなければならないのでしょう。また、今までの100校プロジェクトの実践で行われてきた交流学習も、高速回線が使えるようになればよりスムーズになるでしょう。回線の事情で実現できないという話はなくなるのではないでしょうか。それによって、今以上に日常的にインターネットがストレスのない道具として使われるようになるのではないでしょうか。」と浅野先生は語っています。
 高速回線の活用によって「学習の質」が変わっていくかもしれません。そのためには、教師自身が教材を見つめる目を変えていかなければなりません。インターネットによって、子どもたちが、先生が、親が変わっていくためには、インターネットで何を教えるかということを、学習の本質的な部分としてとらえなければならないでしょう。
 今回の実践は2校間だけでしたが、1.5Mbpsの高速回線と、よりパワーのあるコンピュータを使用することで、複数の学校が同時にリアルタイムの交流学習をすることも可能です。しかし、今度は複数の画面を表示しながらどのように授業を進めるかが問題になります。各校の授業を効果的に進めるために、相手校との事前の打ち合わせをより密にしなければなりません。また、限られた時間の中で効果を上げるためには、技術的なサポート要員も不可欠でしょう。
 一口に高速回線といっても、その活用方法はさまざまなものが考えられます。通信手段としてのインターネットを最大限に活用するためにも、今後高速回線を前提にした実践の積み重ねが必要となってくることでしょう。

(取材対応者:浅野智子先生、佐藤慎一氏((株)三菱総合研究所研究員))


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