子どもたち自らの課題解決に電子メールを活用
メールボランティアが疑問を解決

滋賀県大津市立平野小学校

「全国おたずねメール」を知っていますか?
 100校プロジェクト参加校が自主的に立てた企画が、共同利用企画へと発展したものの一つに平野小学校の「全国おたずねメール」があります。これは全国から子どもたちの質問に答えてくれるメールボランティアを募り、そのリストを一覧にしたものです。ボランティアのリストには「得意な分野」の欄があり、質問する子どもたちはこの欄を見て、誰に質問すればよいかを探して、直接電子メールで質問します。現在、250人あまりがメールボランティアとして登録されています。
 インターネットは情報の宝庫です。子どもたちはさまざまな情報を、インターネットを通じて手に入れることができます。ホームページからの情報ばかりではなく、たとえば、「全国おたずねメール」を利用して、その道の専門家から直接電子メールで回答を得られれば、生きた情報に触れることにもなります。
 しかし一方、それでは、答えの自動販売機になってしまうのではないかという意見もあります。「全国おたずねメール」を作られた石原先生は、それに対して、「全国おたずねメールは、人にたずねるという行為を学習化したいと思って作りました。答える人も生身の人間なので、1+1はと聞かれて、ただ2と答えるわけではありません。リアリティのある返事が来るわけだし、そこにはある種の交流が生まれます。それを学習に結びつけたいということです。メールボランティアの方にお願いしているのは、答えそのものよりも答えの導き出し方、探し方を含めて返事を出してくれるようにお願いしています。学習というのは子どもに負荷を与えることです。コンピュータを利用することで、その負荷を取り除くという考えは間違っています。適切な負荷をかけながら学習を進めていかなければならない。その点、おたずねメールの利用は、答えの自動販売機といわれるような安易な方向には行かないだろうと思います。」と語っています。

どうしてうさぎのみみはながいの?
 「全国おたずねメール」の誕生は、平野小学校がインターネットに接続されて間もないころに行われた1年生の生活科の研究授業「どうぶつとなかよし」が一つの契機となっています。子どもたちは直接動物と接し、しだいに動物たちについてさまざまな疑問をもつようになります。たとえば「どうしてうさぎのみみはながいの?」というように。
 従来の学習では、子どもたちのこのような疑問には、その場で教師が答えていました。しかし、この生活科の研究授業では、インターネットのメディア的な活用ということから100校プロジェクト参加校の高等学校の生物の先生、つまり専門家に子どもたちの質問をたずねてみることにしました。そして、子どもたちに直接語りかけてくれるようなていねいな返事をいただけました。
 こうした実践を通して、インターネットを教育に利用することで、「専門家の意見」を子どもたちに知らせることができ、従来の「教師と児童」の一方的な関係を変えることができることがわかりました。インターネットは教室に新しい風を吹き込むことができる、そんな新鮮さを実感することができたそうです。


インターネットは調べ学習の宝庫
 「全国おたずねメール」を最初に組織的に実践したのは5年生の「伝統工業」の授業でした。各地の伝統工業を調べるにあたって、まず、リンク集、その次にサーチエンジン、そして全国おたずねメールへという3段階に分けて授業を進めました。このインターネットを利用した調べ学習を通して「電子メールを利用したことが、コンピュータを通して相手との関係をもつことを可能とし、コンピュータの向こう側にいる暖かい人間を認識できた」ということです。
 平野小学校では、コンピュータ教室を「メディアセンター」と位置付けています。このメディアセンターから年間情報教育指導計画を提示していますが、それに拘束されることなく、担任教諭は随時メディアセンターを利用することができます。グループごとに調べ学習をする場合には、あるグループは図書館で調べる、あるグループはメディアセンターへやってきてインターネットで調べる、というように子どもたちの自主性に任せて利用させています。
 情報の収集手段としてのメディアが透明化してきたといえるのかもしれません。図書館がすべてのメディアを集約したメディアセンターとして生まれ変われば、「全国おたずねメール」も今以上に生きてくるのではないでしょうか。

将来のネットワーク市民のために
 「全国おたずねメール」を始めてほぼ3年が経過しました。この3年を振り返って石原先生は、「全国おたずねメールはちょっと早すぎたかなと思っています。インターネットの普及が遅れていることと、子どもたちの文字入力のスキルが育っていない、その2点で教師の思いが先行してしまったプロジェクトだったと思います。
 大人の間では、電子メールは、すでに一般的なツールとして定着し始めていますが、小学生が自分の質問をメールで送るというのは、まだまだ敷居が高いようです。しかし、将来ネットワーク市民として、マナーや義務、責任を全うするためにも、小学校段階からメール利用を始める必要があると考えています。
 また、この全国おたずねメールは、インターネットがまだ牧歌的な知的共同体の様相をもっていた頃に生まれたものです。インターネットを利用するうえで、セキュリティの問題、教育上不適切な情報などさまざまな問題が出てきた今、一つのローカルな学校で運営する時代ではなくなってきました。今後は、公的な機関で運営をするのがベストではないでしょうか。」と語っています。
 「全国おたずねメール」は、中学校からの要望もあり、メールボランティアの方の了解をとって対象を中学校まで広げています。
 人間関係の希薄さが、コンピュータエイジともいわれる今の若者を通して再びクローズアップされてきています。教育の場では、人と人とのつながりを重視する方向に、今以上に変えていかなければならないでしょう。情報教育でも同じです。インターネットは決してコンピュータを相手にしているわけではありません。ネットワークでつながったコンピュータの前には必ず人がいます。ネットワーク共同体は、知識を共有できるだけでなく、人とのつながりを密にする部分も持ち合わせています。そういったネットワークのよさを「全国おたずねメール」を通して子どもたちに伝えることも必要でしょう。

(取材対応者:石原一彦先生)


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