ネットのパワーを実感した共同研究
ケナフ全国発芽マップ

宮崎大学教育学部附属小学校

ケナフという植物が 人と人のつながりを取りもつ
 新100校プロジェクト重点企画「高度化教育企画」の中に「全国発芽マップ '97・'98」があります。ケナフという植物の種を全国一斉にまき、育て、その生育情報をもとにホームページ「全国発芽マップ」を作るとともに、電子メールや掲示板などで子どもたちの交流を図ったり、情報交換を行うことで、理科という教科の枠を越えた総合的な学習に発展しようというものです。このような大がかりな企画を始めた背景は何なのでしょうか
 100校プロジェクトのスタート時の担当者は、小学校側で2名、宮崎大学側に2名の計4名があたりました。理科の専任である根井 誠先生は「インターネットがあるから使うという教育にはしないことと、自分の教科で活かせるテーマを見つけたい」と考え、もう1人の担当者であった奥村高明先生は「いままで実現できなかった授業をインターネットを使えばできるのではないか」と考えたそうです。こういった二つの考え方をもとに、大学側の担当者も含めて企画を練って「全国各地に学校があるから植物の種をまいてみれば、生育の違いだとか地域性といった話題にも広がるのではないかという」ことで、意見がまとまりました。
 理科の生き物を育てる教育の中で、種をまき栽培して、その過程を生徒一人ひとりが記録すること自体は、教科教育としては当たり前に行われています。しかし、全国で一斉に種をまいてその成長過程を比較することで、地域や環境の違いを浮き彫りにしようという企画は斬新です。
 実際に育てながら情報交換をしていくうちに、学校どうし、教師どうし、そして生徒どうしのつながりも深まりました。たとえば、北海道の小学校では、土温度が十分でないため、うまくいかないという書き込みを見て、熊本県の湯島小中学校の生徒たちが自分たちで育てたケナフを北海道へ送るという交流もあったそうです。また、できたケナフを使って紙をすき、この紙で手紙のやりとりしたことで、紙資源や環境のかかわりといった身近な問題への興味をもち始めるということもありました。
 電子会議システムを使って、“全国発芽マップ”に参加している学校の中で、交流の深い滋賀県平野小学校、福井大学附属小学校、熊本県の人吉東小学校などと同時授業を何度か実施しました。たとえば、グループに分かれて育てたケナフを通して生物と環境との関係を明らかにし、そのかかわりについて考えさせたい場合などは、グループごとにまとめた意見を、同時授業のグループ発表の場で述べさせたり、別の学校からの意見ももらい、地域差の理解を深めました。電子会議システムを使うことで、別の学校で育てているケナフをネットワークを通してリアルタイムに確認できるというメリットもあります。また、そのケナフが後日、紙になり手紙として自分たちの手もとに届くことになります。
 栽培をした生徒どうしの共感を総合的に深めることになりました。システムが不安定で下準備のために電話でのやりとりの時間に取られたり、「画像は来てますが音声が来てません」という会話が多くて苦労したことはありましたが、効果は予想を上回りました。
 根井先生は「コミュニケーションによって結論が変わったり、ともにやってきたという気持ちが生まれ、顔を見てやりとりをしたりして、親近感がだんだん生まれてきます。まさにコラボレーションですね。ともに何かを創ろうという気持ちになったわけです。理科という教科の中にあって、理科だけにはとらわれない教育です。まさに、最初、100校プロジェクトの企画を考えていたときに、おぼろげながら考えてことが実践されたような思いがありますし、子どもたちに教えられました。また、ネットワークを使った公開研究時などでは、接続先の先生が半日もかけてテストしてくれたり、忙しい時間をさいて一緒に授業の準備をしていただくようなことが多かったです。せっかく、苦労してきたのですから、今後も継続的にやっていきたいです。しかし、回線のコストの問題、システムの保守費用の問題などお金の問題も大きく、来年以降はどこから予算を確保するのかで頭を悩ませています」と語っています。


全国発芽マップが 軌道に乗ったのは3年目から
 実は、最初の1年目はまだケナフという植物は知らなかったのでかぼちゃの種をまいたそうです。しかし、夏休みに枯れてしまったところが多かったことと、担当者のインターネットについての知識が十分でなかったため、ホームページができあがったのが夏休みの終わりごろになってしまい失敗に終わりました。
 ホームページ作りを始めたころはホームページを作るためのソフトも満足にない状況だったため、HTMLで一つ一つ記述し、不慣れなため大変な手間と時間を費やしていましたが、今日ではワープロで書いたものをHTML形式で出力すれば済むようになりました。今後、教師がホームページを作って保守していくということを考えた場合には、教師のスキルアップも必要ですが、快適に作れる環境整備やシステムの運用というのも重要な課題といえるでしょう。
 翌年はかぼちゃの失敗を生かして、栽培する植物を綿に変更したところ、発芽も生育も良好で、収穫した綿から織物が作れたそうです。また、ホームページと掲示板もできあがり、意見交換や情報交換の場として活用でき、参加校も11校から24校くらいまで増えていきました。その翌年にケナフと出会うことになります。
 参加校に「どんな植物をまきましょうか」という電子メールを送ったところ、ケナフという植物がおもしろいという情報をもらいました。ケナフなんていう植物は聞いたことがなかったので、調べていくうちに、成長が早く、3、4mにもなり、二酸化炭素をたくさん吸ってくれ、後は紙資源にできるということを知りました。ケナフを選んだときのことを振り返り、二酸化炭素を多量に吸収するという特徴から地球温暖化、紙資源になるというところから森林保護、生育の違いから地域差などさまざまな問題をテーマにできるということで、この植物を選んだわけです。
 根井先生は「参加校は最終的に77校まで増えましたが、これにはケナフ自体の特徴以外に、言葉の不思議な響きも影響しているかもしれません」と冷静に分析しておられましたが、これだけの学校に支持されたのは、関係した人たちの努力も大きな要因と言えるでしょう。ケナフの種を探していたときに知り合った「ケナフの会」の人たちだけでなく、「全国発芽マップ」を通して知り合った人との交流が増えて、宮崎に「宮崎ケナフの会」が結成されたりというような動きが出てきており、学校活動だけでは納まらないところにまで発展しています。

(取材対応者:根井 誠先生)


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