一歩一歩取り組んだ教科でのインターネット活用

福島県双葉郡葛尾村立葛尾中学校

よい出会いがよいシステム環境を作る
 葛尾村立葛尾中学校は、各教科はもちろんのこと道徳、特別活動など幅広くインターネットとネットワークを活用していることで知られています。そんな葛尾中学校に1台目のサーバが設置されたのは、平成6年から始まった100校プロジェクトがきっかけでした。設置された当初からサーバの運用にあたった校内の担当者はコンピュータの専門家ではなく普通の教員です。時間もスキルも不十分で、サーバはなかなか安定しませんでした。
 きちんと運用できるようになったのは、教師のスキルアップだけでなく、人と人とのコミュニケーションがきっかけでした。当時の担当者は、CECが実施した夏休みの途中経過発表会に参加し、東北インターネット協議会のメンバーと偶然に会うことになります。
 この東北インターネット協議会のメンバーに、サーバが安定しない状況をお話したところ「リースが終了して戻ってきたサーバを貸してあげましょう」という、うれしい申し出でとともに付き合いが始まり、コンピュータ関係や通信関係の方と知り合うようになったそうです。この人と人との出会いが、サーバ1台のシステムから現在の葛尾中学校のシステムへと発展したといっても過言ではありません。
 その後、システムを拡張していくわけですが、教師自ら校内LANの敷設、各教室へのクライアントパソコンの設置を実践していきます。校内にLANケーブルを張り巡らせたり、クライアントパソコンとの接続については、それほど難しいことではありませんが、設定を行ったり、システムの入れ替えや増設、ISDN回線への移行とシステム拡張などは、専門知識が必要で、東北インターネット協議会のメンバーやその周辺の方々によってコンサルティングやサポートを、無償で受けられたのは幸運だったといえるでしょう。トラブルや増設の相談などは電話や電子メールのやりとりが中心ですが、どうしてもうまくいかない場合には無償で機材を持ってきていただくようなこともありました。
 校内のサーバ運用について、原中校長は「システムの拡張などは、かなり専門的な知識が必要で、一般の教員では難しいです。サーバの管理・運用についても、可能な教員は2人しかいないのが現状です。サーバのメンテナンスを、一般企業に頼むことはコスト的に難しいですから、ボランティアの方々に頼っています。頭が下がる思いです」とその大変さを語っています。学校にサーバを置く場合には、メンテナンスや相談できる先があるかどうかという、教育とはまったく関係ない部分が、教育にインターネットを活用できるかどうかの分かれ目になってしまう状況は好ましくありません。今後、ネットワークやインターネットを学校に導入する場合、葛尾中学校がしてきた苦労をしないですむような仕組みや支援体制の整備は必須といってよいでしょう。
 最近は、システムの拡張が一段落し、葛尾中学校に地域内向けサーバを置き、葛尾小学校や隣の三春町立三春中学校、同御木沢小学校とISDNで接続しました。地域の教育イントラネットとして機能するようにシステムが拡張する阿武隈地域展開プロジェクトを実施しています。また、葛尾小学校とは無線LANを使った接続実験に入っています。


調べ学習から情報発信へ
 100校プロジェクトの2年目に葛尾中学校に赴任した前田勇治先生は、
 「接続したての頃は、ホームページを使った調べ学習が中心でした。当時は、授業の前に教師側が教科の中で利用できるホームページを探していたため大変な時間がかかりましたが、今では自由に利用させるようになっています。ただ、1授業時間で考えると、教材研究は2時間くらいで済むのですが、準備や点検、教材の準備や教材作りなどは膨大な時間を必要とします。市販の教材が使えないので自作したり、関係者にインターネットでネゴシエーションを取るなど、1か月前くらいから準備していないと難しいですよね。さらに、指導研究も必要となります。」
と実践への用意周到性を強調します。
 各教科の先生が教育現場でのインターネットの活用について、それぞれ研究して、教科の部屋というサイトで、理科、保健体育、国語、社会、数学、美術、音楽、技術、道徳、学級活動など教科ごとの取り組みを紹介しています。教科によって、効果のあるものとないもの、さらには、インターネットならではの教育というものがあります。また、授業のどこで使うのかも大切です。学習の始めに使うとか、問題解決の真ん中で使うとかしたいのですが。機器操作が難しいためにのべつまくなしに使ってしまうとパソコンの授業になってしまいますと、その配慮事項を指摘します。
 こういった問題を一つずつクリアした葛尾中学校のノウハウが、新しくインターネットを使った教育を始める学校で活用できるようにする手立ては、行政レベルで考えていく必要があるかもしれません。
 現在は、調べ学習を通して情報をもらうことばかりではなく、情報を発信したいと考えるようになっています。情報を発信しようと考えた場合、どのように情報提供するのか、何を誰に対して、どのように表現するのかといった表現力や判断力が問われます。
 そこで、
・自分を表現しようとする意欲を高めるインターネット活用
・情報を正確に判断する能力を高めるためのインターネット活用
・自分の情報を正確に伝える能力を高めるインターネット活用
という三つの要素を重視した学習を中心に行おうとしているそうです。
 原中校長は「CECさんには、平成6年から4年間も面倒をみてもらい、とても感謝しています。今後、文部省関係でコンピュータが入ってくる際の基盤作りに役立ったと思います。また、役立たせるようにしていきたいと思っております」と100校プロジェクト事業の意義と今後の抱負を熱っぽく語ります。
 インターネット、LANなどのネットワークの設定や運用などはコンピュータのハードウェア、ソフトウェアの進化によってわかりやすくなることは間違いありません。しかし、コンピュータ関連技術の進化が止まるわけではなく、複雑な社会システムの中に溶け込むように、ネットワークとソフトウェアの機能強化が進むため、当面は専門的な知識なしにネットワークをきちんと運用、維持するということは、難しいかもしれません。一方、インターネットの活用や運用については、メインとなるビジネスやコンシューマー市場と違って、学校が中心もしくは学校を中心として研究する必要があります。この部分をどのように埋めるか、割り切るかは大変重要な問題でしょう。また、インターネットを活用していく人の考え方も、いままでになくすばやく変化していくでしょうが、この変化についていく柔軟かつスピード感のある対応が必要でしょう。

(取材対応者:原中信雄先生 前田勇治先生)


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