日本人学校を結んだ『スクールニュースプロジェクト』と
ネットワーク環境を支える『インターネットつなぎ隊』

群馬県前橋市立第四中学校

イラスト入りのメッセージが言葉の壁を越えた
 前橋第四中学校で100校プロジェクトがスタートしたころ、同校の文化委員会はフランスの核実験をテーマに取り組んでいたところでした。世界で唯一の被爆国である日本とフランスとでは、核実験に対する意見や反応がどう違うのか。これをぜひ調べたいという活動と、整備されたばかりのインターネット環境とがここで結びつきました。
 「日本語・英語版のアンケートをつくって、インターネットのメーリングリストで国内外に投げかけたところ、多数の回答があったので、あわてて学校のホームページをつくりました。フランスの科学者を始め1週間で何百通、全部で2,000を超えるほどの回答が集まり、これには子どもたちも私も本当にびっくりしました。」
 こう当時を振り返るのは、100校プロジェクトを担当した折田一人先生。前橋四中のインターネットは、こんなふうに当初から国際交流を活動テーマとしてスタートしていったのです。その後、エイズ問題についてのアンケートなどに発展。年度の後期から国際交流委員会を新たに作り、活動を継続していったのですが、2、3回テーマを追っていくなかで、壁にぶつかってしまいました。
 「やはり言語の問題が大きかったですね。カナダやイギリスなどいろいろなところと交流が始まって、お互いに自己紹介をしたり質問をしたりと、1、2回はうまくいくんですが、そこから先となると相手の英語のレベルが高すぎて、なかなか深まらない。ティームティーチングをしたりALTの先生に入ってもらったり、いろいろ工夫したんですが。」
 思い悩んでいた先生は、ここで『GAKKOS』というプロジェクトに出会います。「イギリスの科学者が“クジラはなぜ海に戻ったのか”というようなことを英語で書いていて、内容はよくわからなかったがおもしろそう」とこの『GAKKOS』に、美術部の参加を得ました。「言葉がネックならイラストや写真が入ればいいのでは…」という発想からです。このアイデアが、大当たり。クジラや植物などのイラストに英語のコメントをつけたメッセージは、海外の人々にもおおいに喜ばれました。

スクールニュースを通じて 在外日本人学校の生徒と交流を深める
 「ところが、これもトピック的な展開になりがちで継続するには難しい。年間を通した長期的なスケジュールがあり、しかも一つひとつは息切れしないで簡単にできるものはないか」といろいろ模索する中で、出会ったのが、在外教育施設等のインターネット利用プロジェクトです。海外にある日本人学校と日本国内の学校を結んで交流しようという企画で、折田先生は、どちらの学校の生徒にとっても意義のあるプロジェクトだと考え、コーディネータ役を引き受けました。問題は、“どのような活動を通して交流するか”です。あまり壮大なテーマでは長続きしにくいとみて選んだテーマは、スクールニュースでの交流。各参加校が、毎月決めたテーマに沿ったニュースをホームページに載せ、それをもとに質問するなどの交流を図ろうというものです。これなら自分の住んでいる国や学校を紹介することで、子どもたちがその国の大使や特派員になった意識をもつことができる。しかも、日本語なので言葉の障壁の心配もない。ということで、『日本人学校スクールニュースプロジェクト』が始まりました。100校プロジェクトは、開始から2年を経ていました。
 とはいえ、最初からホームページを立ち上げられる海外の学校はほとんどありません。そこで、最初は手紙と写真を郵送で送ってもらったり、電子メールで画像と文章を送ってもらうことにしました。前橋四中の生徒がそれぞれ担当校を決め、四中のホームページに載せるという仕組みです。当然、前橋四中のホームページづくりにも力が入ります。
 そうこうするうちに、海外の参加校でもホームページをつくってみようという気運が高まって、最終的には全校で子どもたちがホームページをつくりあげたのです。
 「それぞれ個性的なホームページができ上がり、どんどんホームページづくりに力が入っていきました。ところが、そうなると今度は、ホームページづくりコンテストのようになって、プロジェクト本来のねらいである交流という側面がおろそかになりがちになってきたのです」。「そろそろ何かしなくては」と思い始めたのが1998年の秋から初冬のこと。折しもクリスマス、お正月が近い時期であったことから、交流の原点に戻って年賀状やプレゼントの交換を思いつきました。それぞれの参加校に、年末年始の行事紹介を兼ねて、航空便を使った現物の交換が呼びかけられていきました。
 その結果…。急な話にもかかわらず、7校がこの呼びかけに賛同。前橋四中の生徒の手もとには、中国の美しい切り絵のカード、プラハからハチの蝋でつくった珍しいキャンドルなど、お国がらを反映した心温まるプレゼントが集まりました。この交流を通して、子どもたちは相手をより身近に感じ再びコミュニケーション意欲が高まってきたということです。


地域のボランティア 『インターネットつなぎ隊』が行く
 プロジェクトの推進にあたっては、ハード上の問題や予算面での問題も少なくありませんでした。「子どもたち1人に1台のネットワーク環境を整備しようと、苦労の連続でした」と語る。まず、自分で部品を購入して1台ずつパソコンを組み立てながら、6台をつないで授業に活用。その成果をもって、教育委員会に頼み込み、コンピュータ室に20台のコンピュータ導入を実現したのです。さらに、各教室でもインターネットを使える環境にするため、メーカーから試作に終わったネットワークコンピュータを格安で分けてもらうことになりました。問題はネットワークの工事です。地域の人たちに協力を呼びかけることにしました。1998年の夏休み、地域に住むコンピュータ技術者などボランティアが前橋四中に集合し、13時間を費やして、ついに教室内にネットワークを敷く工事を完成させたのです。『インターネットつなぎ隊』の立ち上げです。この『インターネットつなぎ隊』は、その後活動を他校にも広げ、地域の学校にインターネットを敷く活動を展開し、前橋市教育情報ネットワーク(menet)の構築を支えていきました。
 「大きな課題は、推進体制ですね。教育委員会としての役割もありますが、私は地域の人材を生かし、幅広い人のネットワークで人材を育てていく必要があると考えています」
 文化委員会の活動を起点に、国際交流委員会、美術部、英語、理科の授業と広がった前橋四中のインターネット利用は、海外日本人学校との国際交流活動とあわせて、地域のネットワークづくりに発展しています。さらなるネットワーク展開が期待されるところです。

参考URL
・インターネットつなぎ隊 http://www.tsunagi.org/
・前橋市教育情報ネットワーク http://www.menet.ne.jp/
・前橋市立第四中学校 http://www.menet.ne.jp/jhs/daiyon/

 

(取材対応者:折田一人先生 現前橋市教育委員会)


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