徳島県徳島市立徳島中学校
世界を視野においた取り組みを
「生徒たちの国際的な視野を広めよう」という目標で取り組んだのが、徳島中学校の「バーチャルクラスルーム」の実践です。これはAT&T社が主催するコンテストで、地球上の離れた場所にある教室どうしを結んで共同学習をし、世界中の子どもたちが国際的なコラボレーションの能力を身につけることを目的としたものです。
海外の2か国の学校とTV会議や電子メールを通じて交流していきますが、徳島中学校の場合、初年度はアメリカの「The Ross School」とインドの「St.Columba's
School」とチームを組みました。
「せっかくインターネットが利用できる環境が整ったのですから実際に実践するにはぜひその特性を最大限に生かしたいと考えて、世界を視野においた取り組みをめざし『AT&T バーチャルクラスルーム・コンテスト'97』に参加することとしました」と香川先生。
▽10月1〜7日「顔合わせ」
▽10月8〜22日「自己紹介セッション」
▽10月23〜11月5日「プランニングセッション」▽11月6〜1月31日「ワークセッション」
▽2月1日〜「レビューセッション」
という日程で実施していったそうです。「その間、テレビ会議で話し合ったり電子メールでやり取りしたりしながら、最終的な目標である共同作品のホームページ『マルチメディアマガジン』の作成に向けて作業を行っていったのですが……。実は開始してから大きな問題があることがわかったのです」確かにインターネットは“教室を世界に開く窓”の役割をもっていますが、そこには実際に実践を始めてから気がつく大きな問題があったと香川先生は振り返ります。
時差や学校制度の問題も
それと相手国も大きな問題だと香川先生は指摘します。「初年度はアメリカとインドでしたが、インドの場合は情報網の整備が遅れているのかインターネット回線が不安定で、テレビ会議のような同時双方向はほとんど不可能で、結果的にはアメリカとだけ交流していたのが実情です。また2年目はオランダとオーストリアを相手国に選びましたが、しかしここにも大きな障害がありました。両国ともドイツ語圏ということもあって英語が苦手。苦手どうしが英語で交流するのですから……。結果は想像できると思います。当初は相手の学校名さえ正確に発音できなかったくらいです」。
また時差や学校制度も問題だったといいます。テレビ会議の相手校がニューヨークにあるため、時差が14時間。双方にちょうど適した時間を選びましたが、それでも日本が朝の8時、ニューヨークが前日の夕方6時と学校活動外の時間しか取れませんでした。一方、学校制度については日本の4月入学、3月卒業がネックになったといいます。「海外の多くの国は、9月に入学して翌年の6月に卒業ですし、日本は年が明けると、3年生は高校受験が迫るので実質的には日本の2学期の間しか交流ができません」と香川先生。インターネットで国際交流を行う場合は、こうした多くの障害を事前に把握・理解し、対応策を立ててから取り組むことが必要だとアドバイスしてくれました。
生徒たちに国際理解への芽生えが
しかし、まったく成果がなかったわけではありません。多くの試行錯誤はあったものの参加した生徒には、立派に国際的な視野が育ったといいます。まず生徒たちにアンケートをとったところ「英語に興味をもった」という回答が目立ったそうです。「協力してくれた英語の先生方が驚いていましたが、生徒たちが実にこまめに英語の辞書を引くようになりました。みなさん『英語の授業ではほとんど自分から辞書を引こうとしないのに、積極的に辞書を引く姿を見て感心しました』と声をそろえています。また海外に関しての興味が増したようで、将来は世界を相手とした仕事につきたいという希望をもった生徒も出てきています。その意味で国際理解の第1段階、興味づけという点では成果があったように思います」と香川先生。今回の参加生徒の中から国際分野に進学する生徒が出るのではと期待を込めています。
さまざまな障害があった「バーチャルクラスルーム」ですが、このように生徒の興味・関心を喚起するという点では成功だったと香川先生は分析します。「本当はお互いに話し合ったり、メールの交換をしたりして企画を立て、共同して具体的な作品を創るところまでいけたらよかったのでしょうが、そこまでは到りませんでした。しかし少しでも生徒たちの目が海外に向き、興味と関心をもたせることができたのなら、教師としては不満足な点が多々残りますが、成功だったのではないでしょうか」。
昨年「フルブライト育英資金」の事業で徳島中学校にアメリカから先生20人が視察に訪れましたが、先生方が帰国した後、生徒たちは「先生たちにメールを出そう」と自主的に取り組みはじめました。こうした意識が芽生えたのも今回の取り組みの成果といえるかもしれません。
(取材対応者:香川 朗先生)