絵による国際交流の実績を踏まえWebサイトを運営
利用できる制度、資源を活用し相乗効果をねらった柔軟な企画

清水国際中学校・高等学校

文字によらないコミュニケーションとは
 清水国際中・高等学校、井柳 強先生が主催されているのは、文字によらない、絵を主体にした、子どもたちの国際交流です。絵でコミュニケーション。いったいどういうことなのでしょうか。
 たとえば、あなたが、クリスマスの時期に、飾りのないモミの木の絵を、フィンランドの友人に送ったとしましょう。その絵に載せているメッセージは「このモミの木を飾りつけたいのだけれど、君ならどうする?」なのだと、先生はおっしゃりたいのです。きっときれいなクリスマスツリーになって、かつての素っ気ないモミの木は、あなたの手もとに戻ってくるはずです。言葉で「やあ」と挨拶を交わす以外に、相手に触れることができたと感じられるだけでも、素晴らしい交流ではないか、というわけです。
 絵ばかりでは意図が伝わらない絵物語には、説明文が加わります。そういうとき、言葉のギャップは、翻訳ボランティアを募って補っています。また、絵だけを送って物語を付けてもらったり、送った絵にさらに絵を追加してもらったりと、さまざまなバリエーションがあるようです。
 こういった主旨の、12年間にわたる「地球クラブ」という実績の上に、井柳先生の「100校プロジェクト」のテーマがあります。当初は紙に描かれた絵で進められた国際交流は、インターネットという媒体上で、交流するどうしの成果物をホームページに展示し、お互いばかりでなく、誰もがいつでも見られるようになりました。


一つのものにとらわれず相乗効果をねらう姿勢
 さて、ホームページに絵を貼り付けるのは、いったんやり方を覚えてしまえば簡単ですけれど、ホームページ用の絵の作成となるとそうはいきません。色鉛筆、クレヨンといった絵を描く道具は、すべての子どもにとって馴染みのものですが、パソコンはまだまだそうではありません。ほとんどの場合、パソコンで絵を描くということをゼロから手ほどきしてやらなければならないのです。
 というわけで、井柳先生は「お絵描き教室」ならぬ、「初めてのホームページ制作」を静岡県生涯学習振興財団の学校開放講座という形で実現しました。「教室」の提供は清水国際中・高等学校。パソコンの実習室が会場です。
 講座運営にあたっては、ともかく生まれて初めてパソコンに触る子どもたちが相手ですから、講師(ここでは井柳先生)一人では収拾がつきません。在校生中からボランティアを募り、当番制で開催日の講座のサポートします。こういう体制でできあがった作品を100校プロジェクトにリンクさせ、清水国際中・高等学校に設置された、国際交流のホームページに転送します。
 井柳先生は「税金で賄われている100校プロジェクトから地域に還元したい」と考えたのだそうです。そして、学校開放講座を窓口として、近隣の小学生(地域の代表者)を募集、学校でのインターネット利用にからむ、国際交流Webコンテンツ制作を体験させたわけです。さらに、ボランティアをしてくれた在校生諸君についていえば、教科指導(中学正課クラブ活動)であったりするわけで、利用できる資源を柔軟に組み合わせることによる相乗効果をねらっています。


アットホームに盛り上がった 受講生保護者参加の「公開発表会」
 インタビュー当日は年明け早々の土曜日でした。井柳先生からは「公開発表会」にぜひ参加をとのご招待を受けていたので参じてみますと、22名の子どもたち、その保護者で、コンピュータ実習室は満杯でした。ちなみに、この会合の受付を井柳先生の奥様が、マシンの設定などを生徒ボランティアが担当と、手作り、アットホームな印象です。井柳先生は教室の前に立たれ、一人ずつ子どもを呼びだして感想を発表させた後、卒業証授与をします。月2回のペースで計13回にわたって実施された学校開放講座の卒業式です。その後、家族そろってお互いのWebコンテンツの鑑賞会となり、やがて皆さんはお帰りになりました。
 さて、子どもたちの作品群は、保護者の許諾のもと、本人であることを特定できないフォーマットで、清水国際学園のWebサイトに1年間限定で掲載されます。生徒各自のコンテンツは、1枚のページがスクロールするだけの、Windows標準添付ペイントソフトで制作した8枚程度の絵物語です。絵一つ一つには短い文が付きます。ホームページへの転送に先立って、翻訳ボランティアによる英訳がされるようです。
 プロのWebデザイナーのレベルからは確かに稚拙と言わざるをえません。ですが、生まれて初めて触れたパソコンで作った(しかも使用したソフトは機能貧弱です)ことに思いが到ると、超大作、力作ぞろいなのです。そして、井柳先生と生徒ボランティア諸君の根気よい指導に頭が下がるのです。


自主企画を支援する画期となった 100校プロジェクト
 終止笑顔でお話くださった井柳先生ですが、設備や回線の利用については、心を痛められておられるようです。
 たとえば、常時接続回線、サーバ、クライアントという、3点一式のセットは到着しました。しかし、そこから「インターネット利用環境らしい」システムを構築、拡大していっても大丈夫なのか、という点については、現在は8台のクライアントが追加され、連日生徒の利用はひきも切らずという状態ですが、当時は「100校プロジェクト」の将来像を描くことができず、できなかったといいます。100校プロジェクト導入当時の専用回線料は、まだ高額でプロジェクト終了後の維持に問題があったからです。
 しかし、決してそれが不満であるというわけではないのです。先生は「100校プロジェクト」を前代未聞であると評価されます。具体的にはこうです。「こうしたい」、「こういう夢がある」と、先生方が考えられたことについて、数枚の用紙を記入して申請するだけで、ネットワークの環境一式が提供されました。当時は、これは信じられないことだったのです。

交流のためのインターネット お見合いシステムがあれば
 国際交流というテーマについて、井柳先生が指摘する問題点は、相手をどうやって探すのか、につきます。どこの誰ともわからない人間からのメールに、あなたはどんな反応をするでしょうか。インターネットは何でもありの世界ですから、それは悪意ある誰かのカモフラージュと思われるかもしれません。お互いの信頼関係を築くのに、まず努力が必要なのです。
 もし活動する各人に時間があれば、根気よく説明できるのかもしれません。しかし、困ったことに、先生方には十分な時間がないのです。さらにいえば、せっかくコンタクトをとれた相手が望んでいるテーマと、自分のテーマとのすり合わせをいつもできるわけではないのです。
 ある学校が企画しているテーマに合致する海外の学校を紹介してくれるヘルプデスクを、100校プロジェクトに組織として設置してあったら、というのが井柳先生の考えです。お互いが身元の確かであること、お互いのテーマが共通であること、ここからスタートできたなら、日本でも、その提携先のどこかの国でも、先生方は安心して本来の作業に打ちこむことができるはずです。

(取材対応者:井柳 強先生)


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