テーマを持ち、考える、新しい学級
英語学習だけにとどまらない、相互理解の場

帝塚山学院泉ケ丘中・高等学校

テーマに従ったやり取りが目標
 帝塚山学院泉ヶ丘高校は、国際科コースが設置されていることからもわかるとおり、英語学習、国際理解などの教育にもかなり力を入れています。同校は、平成7年の地域情報交換プロジェクトLIEPによって、国際科とコンピュータクラブの生徒を中心に環太平洋地域の国際交流を推進してきました。今回、その発展形である、インターネットクラスルームプロジェクト(ICP)への参加は、同地域での交流をさらに継続し、生徒たちの英語学習と国際社会、情報化社会についての理解に役立てようというものでした。
 平成9年度は、英語の授業の中にこのプロジェクトを取り込み、主にテーマに従ったメールの交換を目標にしました。同校には、インターネット接続が可能な50台のコンピュータを備えたPCL教室があり、環境面ではそれほど問題はなかったのですが、まず大変だったのが、コンピュータ操作の基礎を生徒たちに教えることだったと辻先生は回想します。
 「コンピュータの電源の入れ方、タイピング、ワープロソフトの使い方、メールの設定、ブラウザの使い方など、インターネット関連の操作に必要なひと通りのことを教えるのにかなり時間がかかってしまいました。限られた授業の中でここに時間を割くのはやはりつらいです。」
 また、始めてわかったのは、メールを主体にした交流を継続することの難しさでした。このプロジェクトでは、マッチングをしなかったため、生徒によってはやり取り続かなくなり、興味が薄れてしまったようです。授業中に友達どうしでメールを回したり、ホームページを見て回り、自分の趣味に合ったものをどんどんプリントアウトしたり、コンピュータクラブの部員の間ではなかったでき事が起きたりもしました。
 もちろん、プラス面もあります。たとえば、国語の授業でグループによる研究課題が与えられた際、必要な調査を図書館ではなくインターネットでやるという生徒たちも出てきました。生徒たちも、インターネットでは個々の本音がわかりやすく、主張がはっきり出ているため、調査がしやすく、また自分の意見を述べるための勉強にもなったと言います。


相互理解と議論をめざしたものの
 平成10年度のICPのねらいは「マルチメディアを使った掲示板」ということになりました。技術的な面は、同校のコンピュータクラブが中心となって運営をしています。「Guess What」、「Diary」、「Video Mail」、「World News」などの掲示板を、参加各校がそれぞれ担当して運営していますが、いずれも相互理解が深まるようなテーマ作りの努力をしています。しかし、なかなか深い議論にはならなかったようです。その理由と対策について、辻先生は次のように語ります。
 「たとえば、『Guess What』では、交流相手のうち韓国は文化圏が同じで近いこともあって、日本のことをよく知っています。また、オーストラリアやハワイの交流相手も日本語のクラスなので、日本についてよく知っているため、『これ知ってますか?』と呼びかけても『知ってる』で終わってしまいます。また、『Video Mail』は掲示板方式でメールをやり取りできるふれあいの場にしようということだったのですが、ここでは言葉の問題が大きく、やり取りの障害となったようでした。交流校の生徒たちが日本語でメールを書いてきても、『私は何歳で、兄弟が何人で……』といった、こちらの生徒からすると返事をするにはつまらない内容だったようです。しかし、これは逆もまた同じで、日本の生徒のつたない英語では討論に深みが出ないんですね。言葉の負担をなるべく軽くするために、韓国語に関しては翻訳ソフトを、また英語は小さな辞書を導入することにしました。」

多方面の能力を活かす場ができた!
 生徒が意外な使い方をする等、さまざまな問題を抱えながらもICPをやってきてよかったと思うのは、それまで気付かなかった、生徒たちの能力を発見することができたからだと。
 「英語は苦手だけど発表は得意とか、コンピュータの扱いがうまいとか、ホームページ用のイラストをグラフィックソフトで描くのが得意とか、英語以外の面での才能を発揮する生徒がいたんです。生徒の能力は実にさまざまですよ。インターネットを取り入れたことで、そうした多方面の能力を活かす場ができたんです。」
 交流する上でのノウハウの蓄積もできてきました。
 たとえば、海外とやり取りをするときはお互いの技術的な背景を知っておく必要があるといったことです。校外からアクセスすると、回線容量の問題でコンピュータクラブが利用する放課後や土曜日の午後などは、読み出しも書き込みも遅くなります。これを解消するために、なるべく写真や動画を軽くしてアップするように工夫するうち、Real VideoなどはMacintoshのバージョンによっては見られなかったりすることもあるということがわかってきたのです。
 また、参加国によって、取り組みへの温度差があることもわかりました。海外の学校は、マッチングをした一対一のメールによる交流をしたがる傾向がありますが、ICPはテーマをもつプロジェクトなので、その点を理解してもらうのに苦労したそうです。やはり、国によって学期も違いますし、生徒も移り変わっていきますから、顔を合わせて話をする機会を設けるなど、継続していくには先生どうしのコンタクトも重要だと感じたと言います。


「詰め込み」から「刺激的」な授業へ
 4月以降もこのプロジェクトを続けて、生徒のさまざまな能力を発表する一つの場にしていきたいという辻先生は、こうした国際交流プロジェクトについてこう言います。
 「やはり、生徒が中心になって引っ張っていく形でないと続きません。生徒たちが中心でないと、本当のプロジェクトとはならないし、そのためには日本の子どもたちが苦手とする議論修得の場を与えていかないとダメだと思います。また、生徒たちに関心をもち続けさせるには、交流相手と定期的に対面することも必要です。テレビ会議システムの活用などももっと考えていくべきだと思います。各学校の授業のもち方によって、こうしたプロジェクトの活用度も違ってきますから、長期的に続けていくのは難しいです。中だるみさせないためには、イベントと絡めるなどの工夫も必要なのではないでしょうか。」
 このプロジェクトのおかげで、生徒たちの、学校に対する見方も変わってきています。国際科の生徒たちに聞いてみたところ、インターネットの利用を授業に取り入れるまでの学校の印象は、大半が「英語を詰め込まれている」というものでした。しかし、インターネットの利用を授業に取り入れてからは「楽しい、刺激的、ここに入学してよかった」という意見が増え、学校の好感度も上がってきているようです。

(取材対応者:辻 陽一先生)


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