「継続は力」をどう実現するかが課題
子どもたちの意欲・関心の喚起に効果

広島大学附属福山中・高等学校

「環境教育の推進」主体の実践をめざす
 この企画は1995年に100校プロジェクトの企画の一つとして、福山中・高等学校が事務局となって同プロジェクトの参加校を中心に参加を募ってスタートしたものです。実施にあたっては「森林の衰退の研究」を行っている広島大学総合科学部の中根周歩教授が「測定内容の統一が必要では」と、雨を集める「レインゴーランド」と「pHメーター」を自費で提供してくださるなど、全面的な支援をしてくださいました。参加校は、平成7年度が40校、平成9年度が47校で各校が測定したデータを三菱総合研究所のバックアップのもとに完成したホームページに送信、データベースとして蓄積してこれらのデータを各校が授業で活用するという方式で進めていきました。
 プロジェクトのねらいは二つです。一つは広域ネットワークを学校教育の中に取り入れていくための諸問題を明らかにすること。そして広域ネットワークという新しい手段を使った環境教育のあり方の実験でした。「まずはこのプロジェクトへの参加によってインターネット利用の経験を積み、学校教育活動にインターネットを位置づけるための手法を探っていく。つまりインターネット教育利用の可能性の摸索です。
 そして二つ目はインターネットという今日的な手法の導入によって生徒の活動を意欲的にし、環境教育をより効果的なものにしたいという環境教育の推進をメーンとしたものです」と長澤先生。実際に3年間を経過した段階では「参加校にアンケートを行うなどした結果、どちらかというとこのプロジェクトは、インターネットの教育利用の可能性を摸索するための実証実験という色彩が強かったと考えています」と分析します。ただ今後は新学習指導要領の「総合的な学習」の新設など、環境教育の推進に力点が置かれる可能性が増すことも予想されることから「二つ目の観点からのアプローチを積極的に考えていきたいですね」と語っています。
 そもそも「酸性雨調査プロジェクト」は、広島大学の「環境教育を行う上で酸性雨の計測が最も扱いやすいテーマで、子どもたちの関心も喚起できるのでは」という考えをもとに100校プロジェクトに応募して実現したもの。「1校単位で実施するには、夏休みもあるし、しかも毎日雨が降るわけではないことから継続はむずかしいので、多数の学校のデータを授業に活用できれば充実した環境教育になるのでは?」(長澤先生)とインターネット活用に至った経緯があったといいいます。そのため新100校プロジェクトでは、原点に戻って「環境教育の推進」に力点を置いた実践を心がけたそうです。

生徒に「何とかしよう」という意識を醸成
 インターネットはまさしく情報の宝庫です。全国各地の50近い学校から観測データが寄せられることから、酸性雨の実態がより正確に把握でき、しかも全国的な共同学習が実現したことは高く評価できると長澤先生は強調します。「酸性雨は身近な現象ではありますが、因果関係を解明するのは非常にむずかしいという特徴をもっています。しかし全国のデータを比較・検証できることから、生徒たちに『何とか原因を追求しよう』という意欲が芽生えはじめました。自動車の排気ガス、工場の煙など原因として考えられるものごとにグループを編成して追求しました。『少しでもくい止めるためにはどうしたらよいか』という積極的な意識が育っていきました」。同時に自分たちが調べたデータをインターネットで公開することで、「全国の生徒に見てもらうんだ」という意欲が生まれ、非常に励みになったといいます。生徒たちは電子メールでデータの分析結果をお互いに検討したり、意見交換を行うなどして連帯感を高めていったようです。「環境問題は全員で考えていく必要があります。今回のプロジェクトは生徒たちの意識の中に『環境問題はみんなが手を取り合って対処していかなければならない』という意識を醸成することができました」と長澤先生は分析しています。


今後の実践活動に課題も
 約4年間実践してきたわけですが、クリアしなければならない課題も明らかになってきました。まずは豊富なデータをどのように授業に活用していくかという点です。当初は各校から送られてきたデータを一切加工せずに提供し、利用する学校独自で授業内容に合わせてグラフ化するなど、独自にデータを加工し、自由に活用するシーンを考えていたといいますが、学校によっては「とてもそこまでは不可能」と学習活動に活用しないケースが徐々に増えていったといいます。また長期間にわたって観測体制を維持することが困難という点も出てきました。継続が難しいということです。学校の教育活動が1年単位で区切られていることから、担当教師の異動や熱心な生徒の卒業などが大きな障害になったといいます。「前者についてはCECと三菱総合研究所がデータを選んだら自動的にグラフ化するソフトを開発しました。各校に使ってもらっている状況で、ある程度問題は解決しそうです。後者についてはプロジェクトの推進方法に何らかの工夫を凝らすことが必要だと思います」と長澤先生は訴えています。
 酸性雨の観測期間は、長ければ長いほどデータの有効性が増してきます。またデータを有効に活用することで当然授業にも厚みがでてきます。そのため長澤先生は今回のプロジェクトが終了してもこの実践を継続していきたい意向をもっています。「今回のプロジェクトは、課題があったにしても予算的にも、運営の仕方でもある程度順調にいったと思います。CECには相談窓口も設けられ、立派な報告書も出していただけたし、そうした意味でも画期的なプロジェクトだったと思います」と高く評価していますが、「酸性雨の計測は長年の継続こそが命です。まさに“継続は力なり”です。今後これを具現化していくためにはさまざまな努力の積み重ねが必要でしょうね」とプロジェクト以後の実践研究のあり方をどうしたらよいのか、真剣に考えています。


情報環境の整備も課題の一つ
 そのために長澤先生が望んでいることの一つに先生たち個人のコンピュータ普及があるといいます。「参加校の先生あてに電子メールを出す場合、多くが個人のコンピュータを持たないために学校のコンピュータに出さざるを得ません。しかし学校に出しても電子メールを常時チェックできませんので、連絡事項を再度郵便で出すという現実があるのです。せめて教員1人1台のコンピュータを持つような環境が実現すれば交流もより深めることができるのではないでしょうか」。豊かな感受性や見識をもった人づくりを行うためには、情報環境のさらなる整備も必要だと強調しています。

(取材対応者:長澤 武先生)

 
CEC HomePageインターネット教育利用の新しい道