テクノロジーを学ぶ高校生どうしが、技術交流を目指してメール交換
ハラハラ、ドキドキ、スリリングなやりとり

石川県立小松工業高等学校

何を勉強しているのか情報交換
 小松工業高校電子情報科の生徒は、コンピュータや電子回路などに関連する勉強をしています。同じような勉強をしている海外の同年代の生徒たちと、自分たちはどんなことを勉強しているのかお互いに情報交換し合おうというのが、この企画です。電子メールによる交流が刺激になって、自分たちは世界の中でどの程度のレベルにあるのか生徒たちが気づいてくれたら、と平木先生は考えました。そして、これに「国際技術交流」というタイトルをつけ、平木先生が担任をする3年生34名が参加することになりました。
 この企画が実質的にスタートしたのは、1998(平成10)年の秋からです。交流の相手校探しは、「ePALS Classroom Exchange」という交流希望校のデータベースを利用しました。このデータベースで「テクノロジー」「コンピュータ」「プログラミング」というキーワードで検索をかけ、年齢も同じぐらいの学校を探したところ、30数校が見つかりました。そこで、各校に企画の紹介を内容とする電子メールを送りました。その結果、8校が関心を示してくれましたが、最終的には3校が残りました。この3校に、平木先生が昨年度研修で訪れた米国コロラド州の学校を含めた次の4校が、交流の相手校に決定しました。
・Easton Area High School(米国) 
・Downsview Secondary School(カナダ)
・Mt Maunganui College(ニュージーランド)
・Rocky Mountain High School(米国)
いたずらメールに困惑することも…
 交流は英語による電子メールの交換が主ですが、平木先生は英文の作成を次のような手順で生徒たちに行わせました。まず、生徒が日本語でメールの文面を書きます。つづいて、これを英文に変換しやすい形の日本語に書き直します。この日本語文を、英文作成支援ソフトの助けを借りて英文に直しました。生徒が書いたメールと向こうの生徒たちから受け取ったメールの文面が、小松工業高校のホームページに載っていますが、小松工高の生徒たちの英文もなかなかみごとなものです。平木先生の選んだ方法と指導がうまく功を奏したのでしょう。
 実際の交流では、小松の生徒と相手校の生徒でペアを決め、最初に自己紹介、つづいて自分たちが勉強していることを紹介し合うという手順で進めていくことにして、5校の生徒たちのやりとりはすべてメーリングリストに公開するようにしました。
 まず、米国ペンシルベニア州のEaston Area High Schoolへ、小松の生徒たちが自己紹介の電子メールを送って交流がスタートしましたが、開始早々にトラブルが起こりました。10月の下旬、いたずらメールが送られてきて、そこには“I will kill you. You will die”と書かれていたのです。小松の生徒たちや平木先生が大きなショックを受けたのはもちろんですが、Easton Area High Schoolの先生もこれにはおおいに困惑して、謝罪のメールを送ってきました。Eastonでは生徒ひとりひとりにメールアカウントを与えていないので、10ほどのアカウントを20人くらいの生徒が共有しながら使っていました。いたずらメールを送った生徒は部外者で、この交流が行われていることを知って、校内のどこかから共有のアカウントを無断で使用したらしいことがわかりました。平木先生は「トラブルが起きないように制限をかけるよりも、起きたことをいかに解決していくか考えていく方向で前向きに対処しましょう」と返事を書いて、一時中断していた交流は再開されました。ところが、その2日後にまた、いたずらメールが送られてきたのです。これには双方の先生方も意欲をうち砕かれ、Eastonとの交流はしばらくの間ストップすることになってしまいました。


スリリングなやりとりが続いてきた
 そのころカナダのDownsview Secondary Schoolとのメール交換がスタートすることになったので、小松工高の生徒たちはこちらに集中することになりました。今度はいたずらメールはありませんでしたが、先生をドキッとさせるようなことはありました。向こうのベトナム出身の女生徒が、小松の男子生徒に、
 「私はあなたにはこういうことを書くけど、クラスの友だちにはこんなこと話さないわ。なぜって、私はみんなを信用していないんだもん。」
と書いてきたのです。生徒たちのやりとりはすべてメーリングリストにも載ります。ということは彼女のクラスメートも全員これを見ているのです。平木先生は心配して、さっそく彼女にどうしたものか相談をもちかけました。ところが、彼女はまったく動じることなく、気にしていないから大丈夫という返事だったそうです。
 というように、あたかも国際社会の現実をみるかのようなスリリングなやりとりが続いてきましたが、12月の前半にはEastonからも交流再開の申し出があり、年が明けてから小松の生徒たちが向こうにメールを送りました。そして、返事を待っているところだそうです。


相手校と共同でプログラミングする “技術交流”が夢
 この企画では、自己紹介や教科の紹介に続いて、生徒たちが学んでいる技術に関する専門的な話題を交換するのが、当初の目的でした。しかし、これまでに技術的な内容をとりあげるところまでは到っていません。小松工高の生徒は3年生でもあり、間もなく卒業なので、この目的が達成できるか微妙なところです。
 「計画段階では、集中してメールのやりとりをする期間を設け、お互いの融通がきく範囲内で、同時に複数校と交換しようともくろんでいました。そうすればメーリングリスト上にいろいろな学校の生徒が入り乱れて盛り上がると思ったのです。ところが、実際に始めてみると日程の調整が難しいですね。お互いに独自のカリキュラムがあって、その合間をぬって授業時間をやりくりしてメール交換をするのですから、なかなか思うように進んでいきません。」
 この交流はまだ1年目ですから、来年、再来年と内容は次第に充実していくでしょう。平木先生は相手校との共同作業まで含めた“技術交流”を夢みています。「今、構想しているのはマルチユーザーのVRML(三次元空間の画像中に複数の人間の三次元画像が同時に入ってチャットできる)です。そのバーチャル空間に、たとえば日本から、アメリカから、カナダからというように、生徒たちが入って会話できるというものです。その空間の人間に動きをつけるなどちょっとした味付けをするのに、Javaという言語を使うのですが、このプログラミングを共同作業で実現できたらと考えています。」
 今年参加した生徒たちが感想を語ってくれたその声をいくつか紹介したいと思います。
「メール交換はたいへんでした。でも、楽しかった。」、「中学から英語を習ってきたけど、実際に英語を使う機会はないだろうと思っていました。この交流で、英語を習ってきたことが決して無駄ではなかったことがわかりました。これからは自分なりに会話の勉強をしたいと思っています。」、「卒業後も外国の人と電子メールのやりとりを続けていきたいと思います。将来、ヨーロッパへ行って、コンピュータ技術を活かした仕事をするというのが、僕の夢なんです。」

(取材対応者:平木外二先生)


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