障害者にとって、インターネットはかけがえのない“窓”
障害者の自己表現や社会とのふれあいを促進する

東京都立光明養護学校・そよ風分教室

生徒たちはWebを見るより 自己表現のほうに興味
 障害をもつ子どもたちは、容易に外出することができないので、社会とのコミュニケーションも希薄になりがちです。そこで光明養護学校では、高等部の肢体が不自由な生徒を中心に、早い時期からパソコン通信を積極的に利用してきました。金森先生によれば、100校プロジェクトの募集があったのは、パソコン通信の成果も上がっていたけれど、もう少し何か違ったことはできないかと考えていた矢先だったそうです。
 「当時はまだ、インターネットがどういうものか、よくわかっていなかったので、Webで世界の情報を見てみよう、というような淡い期待で始めました。ところが実際にインターネットが使えるようになってみると、生徒たちはWebにはあまり興味を示さないんです。」
 当時はよいサイトがなかったからかもしれません。そこで、金森先生たちはホームページに作品を発表できることに着目して、何か作ってみないかと生徒たちに呼びかけました。
 「そしたら、ある生徒がパソコンで迷路を作ってきたのです。素人とは思えないすばらしい作品でした。さっそくホームページに載せると、大きな反響がありました。」(彼は1996年に卒業。作品は今も光明養護学校のページに載っている。 http://www.koumeisfh.setagaya.tokyo.jp/~koumei/seito/sotugyou/oodate/oodate.html)

 生徒たちは、Webを見て情報収集をするより、自己表現のほうに興味をもっていたのです。別の生徒は小説を発表しました。彼は運動障害のため、手で文字を書くことができなかったので、ワンスイッチで文章を打てるような入力装置が用意されました。彼の作品は、文化祭の劇の台本になり、卒業後も次々に作品を発表しているそうです。(作品は次のページで読める。http://www.koumeisfh.setagaya.tokyo.jp/~koumei/seito/sotugyou/iida/iida.html)
 全体として絵を発表する生徒が多いのですが、生徒の描いた作品を見たデザイナーが、それを使わせてくれないかと、光明養護学校を訪ねてきたこともあったそうです。
 このように、インターネットは社会とのコミュニケーションが難しかった生徒たちの閉ざされた部屋に、大きな窓を開けたのです。生徒たちは自分を広い世界に向けて表現し、それに対して確かなリアクションを得ることができるようになったのです。最初に高等部から始まったインターネットを通じた表現活動は、徐々に中学生、小学生へと広がっていきました。


テレビ会議システムを利用し 在宅で授業に参加
 しかし、知的障害をもった子どもたちには、こうした自己表現活動を行わせるのは簡単ではありません。そこで、金森先生たちはインターネットの別の機能も活かそうとしています。
 「重度の障害があって、あまり学校に来られない子どもたちがいます。その子たちのところを訪問して、インターネットを利用したテレビ会議システムで、授業に参加してもらうという試みを始めています。一般の電話回線では通信速度が遅いので、ノートパソコンとPHSを持っていって、学校と通信するのです。」
 障害をもった子どもたちの話を聞くと、この子たちにこそ優先して、パソコンやインターネットの環境を整えてあげるべきだと痛感します。これらの機器が、自己表現や社会とのコミュニケーションのレベルを格段に向上させるからです。目の不自由な人と耳の不自由な人は、面と向かうとまったくコミュニケーションがとれないそうです。ところがパソコンを介せば、インターネットを介せば、近くでも遠くでも心を通じ合えます。
 金森先生とともにプロジェクトを進めてきた本多先生の次の言葉には、非常に深いものがあるように感じました。
「インターネットでのコミュニケーションはバーチャルだといわれます。それをきっかけに、子どもたちが生身の人間と触れあうことになってくれればいいと私たちは考えます。でも、生身の人間と触れあうことが難しい人たちもいるのです。健常者にはバーチャルでも、その人たちにとってパソコンやインターネットはかけがえのない他人との接点なのです。」


長期入院中の子にとって、 インターネットは……
 「そよ風分教室」という光明養護学校の分校が、国立小児病院の中にあります。この分教室では入院中の子どもたちが、学校の勉強に遅れないようにと、十数人の先生の指導のもとで、明るく学んでいます。平成9年度は小学生から高校生まで延べ82人の子どもたちがここに在籍しましたが、治療が終わると退院していくので、常にメンバーが替わっていきます。
「この病院へ来る子は、重い病気を背負っています。幼いながらも、人生を考えざるを得ないような状態ですから、よい子が多いです。みんな優しいです。」
 こう語る赫多先生は、一般の小学校で5年間教えた後、ここへやってきました。100校プロジェクトがスタートする前からパソコンに触れていましたが、ワープロを使う程度だったうえ、スタッフにパソコンやインターネットに強い人もいなかったので、最初のうちは悪戦苦闘の連続だったそうです。
 分教室の子どもたちにとっても、インターネットは外の世界に開いた大切な窓だと赫多先生は言います。
「ときどき外泊して家に帰れる子はまだいいですが、治療の関係で何か月も缶詰状態の子もいるんです。その子たちにとって、インターネットはなくてはならないものですね。」
 子どもたちはインターネットを図書館代わりに使っています。ここには図書コーナーがあるといっても本はわずかなので、調べ学習にはインターネットが欠かせないものとなっているのです。ホームページに作品を発表する子もたくさんいます。スクールページコンテストで賞をもらったというだけあって、才能がきらきらと輝いているような作品がいくつも載っています。(http://nchsrv.nch.go.jp/~soyokaze/)絵や詩などのほか、病院のドクターにインタビューしたレポートなどもあり、ついつい引き込まれてしまいました。
 そんな子どもたちの作品が新たに掲載されるたびにメールで感想を送ってくる、ファンもいます。子どもたちはメールを受け取ると返事を書いているそうですが、こうしたやりとりは、入院している子どもにとって、忘れられない体験となるでしょう。


病室にも回線を引いてくれたら……
 病室のベッドから離れられない子どもたちがいることも忘れてはなりません。そんな子どもたちには、先生が直接行って個人授業をすることになりますが、この子たちはインターネットが使えません。ノートパソコンと携帯電話を持っていけばと思うかもしれませんが、医療機器に影響を与えるので病院内では携帯電話が使えないのです。病室にも回線を引いてくれたらというのが、ここの先生方の願いです。
 インターネットは、分教室の先生方にとっても今や大切な情報ツールとなっています。ここの先生方の役割は、入院中の子が再び元の学校に戻ったとき、スムーズに授業に合流できるように、その間の学習をみること。そのためには、子どもの学校の先生と頻繁に連絡をとりあわなければなりません。先生方は忙しいので電話ではなかなかつかまりません。相手がインターネットを利用していることが条件になりますが、電子メールならこの連絡が楽に、しかもきめ細やかなものになると赫多先生は言っています。

(取材対応者:金森克浩先生、本多真佐志先生、赫多久美子先生)


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