東北インターネット協議会(TiA)
ネットデイとは
アメリカで生まれた「ネットデイ」という言葉は、日本ではさまざまな意味で使われています。
たとえば、インターネットに接続できるパソコンを何台か学校に持ち込んで、生徒たちに使わせるイベントもネットデイ、商店街の一角にインターネットを自由に利用できるコーナーを設ける企画もネットデイと名づけられています。
しかし、ネットデイの元々の意味は、学校がボランティアの支援を受けて、インターネット利用環境を構築する事業です。そのような形のネットデイが日本で初めて行われたのは、福島県の阿武隈高地の中央部にある葛尾村立葛尾中学校でした。そのころの生徒数82人、職員数12人、山の中の小さな学校です。
葛尾中は100校プロジェクトの指定を受け、1995年6月にインターネットに接続するための回線や機器が導入されました。しかし、提供されたパソコンはサーバとクライアント1台ずつしかなく、最初はWebを使った情報の検索と利用に使っていましたが、しだいに子どもたちや先生の要求がふくらみ、それにこたえるように、ボランティアが手伝って校内ネットワーク環境が構築されていったのです。
当時、葛尾中学校の理科の先生だった渡部昌邦さん(現・福島県教育庁)は振り返ります。
「校内ネットワーク工事を業者に頼むと、かなり費用がかかります。年次計画による段階的な整備ならまだしも、年度途中での予算措置は不可能です。しかし、そんな大人の都合で、子どもたちの意欲を削ぐわけにはいかないし、子どもたちが学校で学ぶ時間は限られています。それで、校舎を調べてみると、幸運なことに防火壁や各階をつなぐ隔壁などには配管が校舎建築当時から埋設されているんです。これだったら、自分たちで校内のネットワークを敷設する方法があるなと、村教育委員会の許可をもらったのですが、肝心のネットワークの知識も、基本的な技術も教師にはなかった。そこへ救いの手を差し伸べてくれたのが、インターネットを通じて知り合った地域ネットワークの人たちだったんです」
自然発生的に出てくるノウハウ
その中から、たくさんのノウハウが生まれています。「コタツ足」もその一つです。といっても何のことかわからないでしょう。
廊下の天井裏を通してきたLANケーブルを教室に引き込むさい、天井パネルに穴をあけて、ケーブルを引き出さなければなりません。その穴をふさいでおく方法が、名づけて「コタツ足」。ホルソーというドリル工具であけた大きな穴を、そのままにしておくことはできず、何とかしなければと考えたメンバーが、あるとき、日曜大工店などで市販されているコタツの足カバーがピッタリはまることに気づいたのです。直径30mmのホルソーには、内径28mmのコタツ足がジャストフィットとか。コタツの足カバーの中央部にケーブルが通るだけの穴をあけるのは、どの学校の理科室にもあるコルク用の穴あけ工具が使えます。天井パネルの色と合わせておくと見栄えがよく、まるでプロの仕事です。
「開通式」というイベントも、ネットデイ参加者の一体感を演出します。1998年3月に開かれた三春町立中妻小ネットデイでは、ケーブルにプラグを取りつける講習に、校長先生みずから熱心に取り組んでいました。それを見たメンバーが「やっていただこう」とひらめいたのが、配線工事の最後に残されたケーブルにプラグを取りつける作業です。
サーバなどの設定も、配線工事もすべて終わり、図書室に集まった参加者全員がじっと見守っている中、校長先生は汗まみれになって最後のケーブルにプラグを取りつけました。1回目は失敗。ため息が漏れます。しかし、2回目には成功。中妻小の校内ネットワークは晴れて開通し、盛大な拍手に包まれました。
ネットデイといっても、配線が終わったあと、調達した高価なLANテスターを使って、配線したケーブル1本1本の性能を厳しくチェックします。ボランティアによる配線工事は、ただお金をかけないだけで、専門業者による配線工事以上の水準に達しているのです。
こうした手づくりのノウハウも、人のネットワークを通して全国に広がっています。