少し変わった応募理由

岐阜県輪之内町教育委員会

当選すればパソコンがもらえる
 揖斐川と長良川の二つの大きな流れにはさまれた岐阜県安八郡輪之内町。大薮小学校は生徒数200人たらずの小さな学校です。町の人口も1万人にとどきません。
 輪之内町のすべての学校(3小学校、1中学校の計4校)は、今では教育委員会を中心とする情報教育ネットワークで結ばれ、小学校では教室からインターネットが利用できるようになりました。
 そのきっかけとなったのは、平成6年に大薮小が100校プロジェクト(Bグループ)の指定を受けたことでした。管内の100校プロジェクト参加校の先駆的な取り組みが引き金になって、教育ネットワーク整備に乗り出した全国で最初の自治体です。
 しかし、大薮小で当時、情報教育を担当していた岩田諦慧さん(現・輪之内町教育委員会指導主事)は、100校プロジェクトに応募したいきさつを、次のように振り返ります。
 「じつをいうと、インターネットがどういうものか、全然知りませんでした。100校プロジェクトの指定を受けると、当時、最高のスペックの新しいパソコンを2台もらえる。これは、当たったらもうけものだ。それだけの理由で応募したんです。そしたら、通ったんですよ」
 そういって、照れたように笑います。
 岩田さんが輪之内町に着任したのは、今から10年前のことです。大薮小学校は三つめの学校でした。
 「平和な学校だな」
 それが岩田さんの第一印象でした。
 というのも、それまでは中学校で国語科を教えていたのですが、問題行動を起こす生徒がいたりして目が離せず、学校から帰宅しても晩酌する余裕はありませんでした。大薮小に来て初めて、落ち着いて何かに取り組めるようになったことがうれしかったそうです。
 岩田さんは大薮小で情報教育を任されました。夜遅くまでパソコンを触って、コースウェア作成ソフトのKITで方言や敬語の教材などを作りました。やっと自分のものになるテーマに出会った気がして、少しも苦にならなかったそうです。
 100校プロジェクトの募集が始まった平成6年には、岩田さんは岐阜大学教育学部に研修に出ていましたが、前年から始めたばかりのパソコン通信の会議室で募集要項が公開されていることを知り、すぐに大薮小に戻って「応募しよう」と相談しました。
 MS-DOSしか動かない古いパソコンが40台のほかに、Windows3.1が動くのは4台だけ。それが当時の大薮小のパソコン環境でした。Windows3.1を授業で使うためにはパソコンが最低でも8台ほしいと思っていた矢先だけに、100校プロジェクトで提供される「パソコン2台」は大きな魅力だったのです。
 そんな経緯だったそうです。


本格的な校内ネットワークの構築まで
 100校プロジェクトの指定を受けて、大薮小にやって来たのは、サーバのUNIXワークステーション1台、クライアントのパソコン1台、そしてモデムとアナログ専用回線(3.4KHz)です。
 ワークステーションはたまたま研修先の岐阜大学教育学部で立ち上げを手伝ったものと同じ機種だったので「ラッキー」と喜んだのですが、ビックリしたのはインターネットでした。インターネットという言葉は耳にしていましたが、岩田さんにとって初めて体験するものでした。
 「メールはどこに出していいかもわからなかったし、インターネットといっても、せいぜいWebを見るだけでした。最初に見たのはNTTのホームページです。アナログ専用線ですが、重たい画像だと5分ほどじっと待たされました。ほかの先生にどう教えるか、授業でどう使うかなど、インターネットを理解するのに半年ぐらいかかりました」
 それでも生徒と一緒にインターネットを使って修学旅行先のデータを調べたり、インターネットの活用は確実に広がっていきました。同じ100校プロジェクト参加校である大津市立平野小学校の全国特産品MAP作りに協力するため、県庁各課をかけまわって岐阜県のデータを集めたことも、いまでは懐かしい思い出の一つです。
 活用が広がるにつれ、サーバとクライアント1台ずつの最初の環境から、複数のパソコンで利用できるよう手作りでネットワークをつないで、インターネットを利用できる台数を増やしていきました。
 そして、100校プロジェクトが終了する平成9年1月には、輪之内町の予算で64Kbpsの専用回線に変更するとともに、ケーブルのプラグを差し込むだけでインターネットが利用できる情報コンセントを校内11か所に設置しました。本格的な校内ネットワークを構築することができたのです。


輪之内町情報教育の将来
 大薮小のその恵まれた環境を、町内の全学校に広げたのが、輪之内町情報教育ネットワークです。いまは教育委員会指導主事として、みずから情報教育ネットワークを担当する岩田さんは、
 「町内の生徒を全部足しても約1,000人。サーバ1台で面倒をみられる数ですから、4校でうまく使おうと、大薮小1校に与えられたネットワーク環境を教育委員会の管理下に移行し、行政が前面にネットワークを運用・管理するようにしたわけです。」
と説明します。
 新しいパソコンがほしい。そんな応募理由から始まった取り組みが町を動かし、2000年までには小中学校のすべての教室がインターネットにつながる予定です。
 輪之内町は小さな町ですが、町全体が1中学校区というのは恵まれていると、岩田さんは言います。
 「ユーザー登録を1回やれば小中学校を通して9年間維持できますし、情報リテラシーも発達段階に合わせて育成できます。しかも小学校3校が同じ環境、同じレベルになる。教育ネットワークはこれぐらいの規模で運営するのがベストかなと思います。将来は先生が教えるのではなく、小学生には中学生が、中学生には卒業生やボランティアが教えるようになってほしい。」
 それが岩田さんの夢です。

 
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