尼崎市立教育総合センター
手づくり「子ども用地域画像データベース」
「実は、私が撮った写真もこの中に入っているんですよ」
尼崎市立教育総合センター指導主事の米田浩さんは笑いながら、そう打ちあけます。この中というのは、同センターのホームページで公開されている「子ども用地域画像データベース」です。
尼崎市ではCATV回線を利用した学校情報通信ネットワークシステムによって全市立学校(74校)が結ばれています。子どもたちがインターネットを通じて利用するこの画像データベースには「学校」、「地域」、「自然」、「風景」、「歴史」、「震災」の6つのカテゴリー別に、尼崎市を紹介する約1,000点の写真と説明が収録されています。このように地域を写真で紹介する大がかりな画像データベースを作っている自治体はあまり例がありません。
著作権者が不明になった古い写真も含まれているため、画像をダウンロードして二次利用することは市内の学校だけに限定していますが、閲覧はもちろん市外からも可能です。
この地域画像データベースは、尼崎市立教育総合センターが平成7年度から100校プロジェクトに参加し、学校間ネットワークの拠点としてのセンターの役割を研究する中から生まれました。センターの役割を大きく「地域学習情報の提供」、「カリキュラムの作成」、「利用環境の整備」の三つに整理し、地域画像データベースは地域学習情報の提供として位置づけられています。
しかも、手づくりであるのが自慢です。
4年前に子ども用地域画像データベース作成の取り組みが始まったとき、当時、園田北小学校に勤務していた米田さんも、学校から近い二つの駅前商店街の写真を担当しました。画像データベースの「風景」に収められた阪急塚口駅、園田駅周辺のスナップが、米田さんが35mmの一眼レフで撮った写真です。
写真はセンターの研究員たちが手分けして集めてきましたが、こんなエピソードが笑い話として残っています。
「警察署の建物を写していたら、怪しまれて、ちょっと来なさいと連行された人がいるんですよ。でも事情を説明すると、それだったら協力しようと、交通機動隊員が白バイにまたがっている写真まで撮らせてくれたんです。普通ならなかなか撮れない写真でしょう。そういうことがあったので、『かならず断ってから撮ろう』が合い言葉でした」と米田さん。
ちなみに、そのときの交通機動隊員が白バイにまたがった写真は「施設」の中の「警察署」の項目に、「白バイに乗っている隊員。交通機動隊員といい、交通いはんをとりしまるせんもんの警察官。せいふくが少しちがうでしょう?」という説明とともに収められています。
現場教師からの厳しい注文も
阪神工業地帯に位置し、工業の町だけでなく公害の町として全国に知られていた尼崎市は、最近では脱工業の町に変貌してきました。尼崎市で生まれ育った米田さんは、
「JRの駅前再開発などが進んで、すっかり様変わりしました」
と話します。そんな町の変遷もこの画像データベースからたどることができます。
写真を撮っただけでなく、米田さんたちは撮影場所を示すクリッカブルマップも作りました。
「今だったら、もっときちんとしたものが作れるのですが、当時はウィンドウズ95に付属するペイントソフトしかなく、マップにシルエットをつけるのでも、シルエットの部分をいちいち細く塗りつぶして描いたんです」
地域画像データベースは社会見学の下調べなど、学校の授業でも活用されています。現場の先生からは、「写真の羅列に終わっている。カリキュラムと関連付けて整理してほしい」といった注文も届いているそうです。
「サムネイルに、普通に表示する写真と同じ画像ファイルを使っているため、一覧画面の表示が重くなっています。将来はこれを分けて、さらに必要な写真は大きな画像として取ることができるよう、3段階のシステムにしたいですね。」
と米田さん。平成10年度中には、とりあえず歴史関係の写真を追加し、計1,300点に拡充する予定です。
ところで、この地域画像データベースを見て気づくのは、地域情報といえば誰でも思いつく特産品が紹介されていないことです。
「尼の生揚(きあげ)と呼ばれる醤油づくり、阪神尼崎駅周辺のランプあめ、それから酒づくりの伊丹市に近いのでこも樽づくり。特産品はあることはあるのですが、どれもマイナーなものばかりなので。でも、やっぱり入れましょう」と、データベース拡充計画に加えています。
センターのもう一つの取り組み 「出前研修」
尼崎市立教育総合センターには、もう一つユニークな取り組みがあります。市立全学校を結ぶ学校情報通信ネットワークシステムの本格稼動にそなえて、平成9、10年度に実施した「情報教育特別研修」です。これも拠点としてのセンターの役割の一つです。
学校の先生を対象にした情報教育研修といえば、普通はセンターに集まってもらって開かれますが、この情報教育特別研修では米田さんたち5人のスタッフが分担して学校に出張し、学校のパソコンを使って研修を行うのです。
しかも、研修内容は共通ではなく、全部で10の研修メニューの中から学校が選ぶことができます。「Windowsの基本操作」、「お絵かきソフトの活用」、「子ども用プレゼンテーションツールの活用」といったメニューです。小学校45校を対象に1校2回ずつの計画で実施し、最初の研修時には「小学校における情報教育」についての話がプラスされます。
「センターで操作を学んでも、機種が違う学校があるんです。その点、学校で研修を実施すると、普段から使っている同じパソコンで操作を学べるため、学校からの希望が多く、2回ずつの予定をオーバーして、3〜4回実施したところも十数校あります」
米田さんたちスタッフは10の研修メニューのどれをリクエストされても、すべてこなします。学校からの希望を聞いて、必要なテキストを用意して出かけていきますが、現場の先生たちに興味をもって聞いてもらえるよう、毎回が初舞台を踏むような緊張を感じながら、それぞれアイデアや趣向に磨きをかけているそうです。
情報教育特別研修といういかめしい名前は忘れられ、いつのまにか「出前研修」という愛称で呼ばれることのほうが多いのもうなずけます。
手作りのあたたかさが伝わってきます。