2.6 座談会

 プロジェクトは総括評価の一環として、教育現場で実際にインターネットを利用した実践活動に取り組んでいる小・中・高等学校の先生、ならびに教育現場から教育委員会に異動し、教育現場の体験を踏まえ地域のネットワーク化に取り組んでいる先生を交えて、教育におけるインターネット利用の現状認識や忌憚のない意見を収集することを目的に座談会を開催した。
 なお、6名の出席者には下表の立場でご発言をいただいた。司会はCEC事務局である。

小 A 小学校教諭 小 B 小学校教諭

中 C

中学校教諭から教育委員会指導主事 中 D 中学校教諭から教育委員会管理主事
高 E 高等学校教諭から教育委員会指導主事 高 F 高等学校教諭

以下は、その座談会の記録である。

【司会】 本日のテーマは、ネットワーク利用の成果と課題ということですけれども、便宜上テーマを四つに分けてみました。1番目が地域への展開など普及面を中心に、2番目が自主的企画などの教育面と技術利用面、3番目が提言やまとめ、今後の展望についてです。それから4番目が対象校としての活動、あるいは事務局への評価というか、お気づきの点があればということです。この四つに話題を絞って、一つを30分程度で話を進めさせていただきたいと思います。

地域展開あるいは普及面の問題

【司会】 それでは、地域展開あるいは普及面の問題から入りたいと思います。

小 A
 私の地域では、自治体の規模が大きいので、学校数もかなりあります。だから、うちだけ特別扱いできないというのが、教育委員会の基本的スタンスで、そういう意味では苦労はしました。ただ、自由にやらせてもらったところもあるような気がします。あと、近所の学校にパソコン通信時代から結構やっておられる先生がいらっしゃいましたので、そんな方たちと一緒に活動したことが成果かなという気がします。多分、そんな方たちを核にして、これから環境整備が始まるんじゃないかな。1校だけでやっていたんじゃどうしようもないんですね。これを何とか広めなくちゃいけないですし、そうやったつもりなんですが。思うようにはいかなかったけど、成果ゼロじゃないよという気持ちですね。

小 B
 まず、地域ネットワークですが、大変好意的な学術ネットにつないでいただき、精神的にも技術的にも大変支援を受けました。今年の2月25日をもって接続が終わるんですが、来年度の会費を5,000円払えば、3月の末までつないでいいという許可をいただいて、最悪の場合は3月31日で切れるということになると思います。地域と相互援助関係ができていまして、土曜日、PTAの方に開放して自由に使っていただいたりと、いい関係ができております。それから、学校のサーバの中に市内の小・中学校のホームページを数校分作っております。もう一つは他校の子どもたちが学校のメディアセンターに体験学習にやってくるということもありました。

中 C
 100校プロジェクトからサーバとクライアントの提供を受けてやったけど、これを全部の市内の学校でやることはとても難しい。それで多分教育センター型とボランティア型との複合型みたいな形で進めてきたわけです。中央にセンターみたいな形でサーバを置いて、各学校にもサーバを置いて、全中学校のネットワークの配線工事を行った。今、そういう状態です。それはいいんですけれども、人の問題はぜひこの場でも議論していただきたいと思うんです。とにかくインフラは整いつつあります。コンテンツにしても、いろんな学校でも実践されつつあります。だけど、何年たっても全然人が増えない。人の問題を解決することなしに、地域への展開はあり得ないんじゃないかと思います。

中 D
 100校で補正予算によるインフラが入った。それを維持していく教員には技術が乏しかった。ただ、子どもたちに恵まれた専用線で、たった1台のクライアントがある。それを十分に使い切るのが僕らの使命だ。それを有効に活用するために、地域ネットワークがいろんな支援をしてくれた。近隣の学校の先生方も手伝ってくれた。
 そのことが、地域の学校のダイヤルアップの口として使いましょうよという話になって、交流の相手というような位置づけになっていった。行政と学校が非常に小さいコミュニティとして動きやすいということがあったし、それを見ていた近隣の村々の行政が、やっぱり学校にネットワークが必要だねという形で予算を少しずつ付け始めてきているんです。

高 E
 わが校は普通科なのにもかかわらず、情報科というものがカリキュラムとしてあった。そのうえ、数学、理科の教員が5人いたんです。だから、4月30日にサーバが届いたその日のうちに、実は22台のコンピュータと大学が全部つながってしまった。先日、地域展開の聞き取り調査で初めて知ったんですけど、府県の教育センターの中でも、技師を抱えているセンターは、数えるほどしかないということがわかった。私のところは技師が7人いて、学校側のパソコンが壊れたら、パソコンを直しに行ったり、UNIXも平然と使える水準の方が2人いた。100校計画で非常に勉強になったことは、情報の自由な発信ということ。これからの教育は情報発信教育にならないかな。

高 F
 私は別の学校に転勤したということで、2年間何もしていない。ちょっと時代の速さについていけない部分も最近感じています。高校のほうでは、非常に楽しい思いをさせていただきました。国際理解教育をやっている新設校ということで、特に100校プロジェクトを申し込んだときの学校長が非常に理解ある人で、何でも新しいことだったらやってみろという方針だったんです。もう一つ、新しいことを始める場合は、できるだけ少人数で始めたらうまくいく場合が多い。マンパワーが非常に大事であるということで、人を育てたいなという思いは最初からありました。来る者は拒まずという姿勢で、依頼があれば、中学生でも、おじいちゃん、おばあちゃんでも、講習会などを開いてオープンになっていたと思います。


行政の規模と回線スピード

【司会】 二つの点について、質問の形で申し上げますので、誰でも発言をお願いします。一つは教育行政の管轄規模について、もう一つは、回線のスピードについてです。

中 C
 私は、規模には絶対にスープの冷めない距離というのがあると思うんですよ。少なくとも最低限、人の顔と名前が一致しており、あそこの高校の誰々先生というふうでないと、本当の意味での支援はできない。先ほどヒューマンネットワークが話題になりましたけれども、単に技術的につなぐんだったら、たとえば東京から北海道につないだっていいわけですよね、リモートでメンテナンスできますから。だけど、それは多分ちゃんとしたメンテナンスじゃないと思うんです。何か問題が起こったときに、その学校に行って支援しなくては。問題が起こっているというのは機械だけの問題じゃないんですね。むしろ、それを運用する、たとえば人の組織が学校の中でできていなかったり、担当者が孤立していたりだとか、そういうさまざまな問題を抱えているわけですよ。今、言っているのはネットワークの物理的なトポロジーじゃなくて、支援体制の部分ですけれどもね。そういう部分の距離感でないと、単に問題が起これば「何、リモートでメンテナンスすればいいんだろう」と、そういう問題ではないという気がする。ですから、この規模の問題というのは、一つは回線というか、たとえばセンター型だったら、センターに収容するかどうかとか、そのための距離がどうこうという問題もあるかもしれませんが、それはトポロジーはどうでもいいと思うんです。が、人的な部分の規模という点では、やっぱり適正な大きさ、範囲というのが必ずあるだろうと私は感じているんです。それをうんと大事にしていかないと、ものすごく冷たいネットワークになってしまって、学校の管理者とか運用者がどんどん孤立していってしまったり、人のようすを見ながらの支援というのができなくなったりするのじゃないかなというふうに感じます。実際に私がやってみて、担当している地区の規模は、正直言ってちょっと大きいなと、重いなという感じはしますね。これから、もし、もっと多くの学校がつながっていくとすると。
 全部の小学校までつながっていくとすると、きめ細かな対応をしていくのには、ちょっと厳しいかなと。一方、何とかできる範囲かなというふうに思っておりますけれども。逆に県単位で全部の学校というのは、どうなのかな。そこら辺がちょっと。逆にお聞きしたいところでもあるんですが。

高 E
 今のお話に関連して。他府県から「どうして県の施設が市町村の電子メールアドレスまで出すのか」という質問があります。私は、「これはあくまで情報の県道だから誰が通行してもよいのではないか」という説明をします。このとき、接続について、今言われたように、基本的には市町村単位で行うことは大事です。しかし、市内の学校が70校規模の市では市だけでは難しく、県の支援がいりますし、逆に小さな町村では、情報システムにあてる人がいないという場合もあります。市町村と県が別々なことをするのではなく互いに協調しあうことが必要です。次にネットワークができ始めると起きるのが、学校の経営的問題です。100校の場合でも、担当者へ通産省などから直接情報が来ます。これを校長先生や委員会が知らないことがよくありました。すべての学校を接続する場合でも、メールを読まない限り情報が届かない。あたりまえのことですが、「情報は文書で来る」発想しかもたない人の場合、「どうなっているんだ」ということになります。県庁をはじめ、社会の情報化が進み、児童生徒の教育利用も進んでいく中で、教育行政の情報伝達も変わらざるを得ないのではないのでしょうか。基本的に管理と規制は違います。同様に学校管理と学校経営も違うのではないでしょうか。管理と規制、管理と経営を分けて考えているかが大事です。

小 B
 私の市では、小・中学校合わせて55校あります。7年前の話でちょっと古いんですけど、文部省からイギリスの教育現場に行かせてもらったことがあるんです。そこで現地の小学校の教育活動を視察させてもらって、向こうの情報教育を調べたんですけど、イギリスには、その当時からITコーディネータがいました。1人につき担当は5校から7校ぐらいでした。だから、日本でも1人につき10校ぐらいが限度じゃないかな、と私は思います。

中 D
 教師が片手間に面倒をみられて、維持することに労力を使うには、5〜6校。10校ぐらいになってくると、今度は維持することだけにかなりエネルギーを使っちゃうんですね。それは、僕らのマンパワーが限られているということで、ある程度で、そこまででとめてしまっているんです。その後は、大学の先生と連携して、今度はまた、某地区とかいう、そういう中核都市ですね。そこはその地区で一つ束ねてもらう。その地区でのバーチャルドメインをあげるから、そちらで提供してもらうなど、ネットワーク的な連携をそこで図っていくというような展開ですね。だから、多くても10校ぐらいだと思います。県では計1,000校、小学校600、中学校が250、高校が110校で、合計約1,000校ですね。今度教育ネットワークが立ち上がるんですけれども、このときには小中高と特殊、私立学校を含めたものを県でやるんですが、それはあくまでも支援組織としてです。いくつかの県立学校では、自分のところでドメインとって独立でやっているんです。それが最終的な姿でしょう。

高 F
 別の話題でいいですか。アメリカと、それからヨーロッパの一部の地域では、小学校、中学校、高校とも、町の中の学校区の範囲で管理されているということです。テクニカルなコーディネータの動き、対応がいいじゃないかという点で非常にうらやましいです。ですから、ヨーロッパの方でも、100校が始まった時点では、日本よりも遅れていたと私は思っていたんですが、最近は逆に追い越しているんじゃないかと思います。


専用線・ダイヤルアップ・接続料金

【司会】 2番目の話題に入る前に専用線とダイヤルアップ、料金や費用の問題について、ちょっとうかがいたいと思います。

小 B
 いつも言っているようですけれども、ダイヤルアップというのは個人向けです。専用線でサーバを維持するのは自主組織向けであるということですね。なぜこんなふうな違いがあるかというと、サーバというのは、もちろんメールサーバも含まれるわけですから、メールのアカウントを自由に発行できるわけですね。ダイヤルアップの場合は、メールアカウント1個につき最低5,000円ほどを要すということです。児童とか生徒とかのメールアカウントを発行するコストを考えたら、ダイヤルアップでの学校利用はあり得ないということですね。さらに、キャッシュサーバなどの工夫をすれば、低速の専用線でも疑似的な回線速度は十分上がりますので、できたらすべての学校でサーバを維持して専用線でつなぐべきだろうと思います。それができなかったら、まずそのサーバの管理を外部に委託するというアウトソーシングみたいなやり方もあると思います。
 今までの100校というのは点在していたネットワークだったんですが、地域の中で何校かそういう専用線を引けるところが出てくると、教育的な意義が大変広がるわけですね。というのは、地域の運動会だとか、行事だとか、そんな情報の連絡などに大変威力を発揮するわけですね。だから、拠点校に高速回線を引く時代は終えて、すべての学校に低速でもいいから専用線を引くという方向での検討が必要じゃないでしょうか。

中 D
 おそらく学校の中で、どんどん使ってよろしいものと、使えば使うほど高いといったものがある場合には、どっちにブレーキがかかりますか。当然、使えば使うほど高くなるものは、活用したいけれどもブレーキがかかっちゃうんですよね。専用線というのは、そういう面では、せっかく24時間つながっているんだから、それをうまく使いこなそうという姿勢であれば専用回線でということはあると思います。

中 C
 こういうことを言うと裏切り者と言われそうなんですけど。各学校はISDNのダイヤルアップでつないでいるんですけど、その通信トラフィックを見ているんです。その利用パターンは9時から4時までの間に集中していて、その前後は全然ないんです。ですから、回線の利用時間を見ると、いわゆる8時間以内におさまっちゃうんですよね。ですから、ISDNでも使い方しだいなんです。ただ、ISDNでつないでいても、たとえばメールなんかが来たときには、センター側からハックをして、各学校のサーバにメールを送っていますから、専用線とまったく同じ使い勝手なんです。だから、要は少なくともそういう専用線並みの使い方ができる回線なり仕組みというのが必要という点では同じですよね。いずれにしても、そういう仕組みなりを作り込んだときにしても、確かに問題になるのは接続料金ですから、やっぱりEレートは絶対必要になりますよね。そのEレートも時間制限ありで、たとえば100時間までとか、そこでその枠をつくっちゃうと、もうだめなんです。たとえば学校のある時間、8時から5時までは使いたいほうだいですよ。ただ、それ以降については料金が発生しますよとか。そういうようなサービスがないかなと思いますよね。


教育的・技術的な成果と課題

【司会】 2番目の話題にまいりたいと思います。教育的・技術的な面でどういう成果があり、どういう課題があるかを、どなたからでも結構ですから、お願いします。

小 A
 教育的な成果という意味では、私のところは多分失敗していると思います。うまくいっていない。子どもはそれなりに使いました。しかし、クライアントのコンピュータが少ないので、イベント風のお祭り的なことはできたんですが、日常的に続けられないんですよね。それと、サーバ管理などの技術面では、困ったことがあったんですけど、結果的に解決できました。もちろん、大学の先生のサポートもありましたし、ネットワーク上の知人にはずいぶん助けてもらいました。だから、自分に技術力がついたのは楽しかったですし、うれしいことと思っています。

小 B
 逆説的になるかもしれませんが、インターネットの利用研究が進めば進むほど、子どもたちは使わなくなったんです。「使わなくなった」というのはうそなんですが、使うつぼを心得てきた、すみ分けができてきたということですね。最初のころは「何から何までインターネットで」ということがあったんですが、今は、たとえば課題に応じて図書室で調べる子もいれば、インターネットを使う子もいる。電子メールを使う子もいれば、ファックスとか電話を使う子もいるというように。そういう形で、メディアとしてインターネットの透明化が進んできたというか、そういうことが成果だと思います。

中 C
 インターネットを使って何がいちばん大きな成果だったかというと、多分、今までの自分たちの学校の中だけですべて学習が完結していたのが、それだけでなくて、外部とつながることで、学習にすごく幅ができたことです。たとえば一人の教師では、とてもじゃないけど指導できないことを、ほかの学校の先生に教えてもらったりすることは確かに可能にはなったと思うんです。ただ、反面、何度もこれを繰り返して、それを可能にするコーディネートの作業というのはものすごい労力を要するんです。子どもたちには「1時間の授業をやってよかった」ですが、そのためには何時間もの裏のコーディネートの作業があるわけです。それは目の前に出てこないわけですね。つまり、そういう陰に隠れた苦労が見えてこないから、なかなか難しいんですが。逆に言えば、そういうことを乗り越えていれば、大きな教育効果があると思うんで、そういう仕組みをつくっていく必要がありますよね。それを各学校レベルで、100校の場合はやっていたわけですけれども、何らかの組織で、うまく、学校まかせでなくてやっていく仕組みが必要だと思います。

高 F
 技術的なバックアップ体制のことなんです。100校がうまくいったのは、MRI(三菱総合研究所)の方の、本当にこれも表に全然出ていないと思うんですが、このバックアップはものすごく良かったと思います。もう一つは、これもまったく表に出ない使い方なんですけど、電子メールなんかを生徒が使い始めて、あれっと思うような使い方がいくつも出てきました。私たちが知らないうちに、アメリカの学校の先生にスペイン語の添削をしてもらっている生徒とか、わけのわからないことが…。日常での非常に生きた使い方なんじゃないかなと思います。

高 E
 みんないいことばかり言っていますから、少しマイナスのところも。普通の高校で、生徒のレポートをホームページに出すときがあるんですよ。立派な読書感想文だなというので出した途端に、これは著作権だ、プライバシーが何とかだと言われたり、そういうような意見がじゃんじゃん来る。インターネット利用を機会に、著作権に関する部門をつくって、すべての情報発信をチェックするような組織が要るのかなと思うときがありました。


有害情報などへの配慮は

【司会】 今、著作権のお話が出たので、若干、補足をして、またご意見をうかがいたいと思います。

 今年、有害情報の問題をずっとやっております。情報を受信する場合の問題と発信する場合の問題に分けて我々は論じております。ご承知のように、情報を受信する場合には、いわゆる不適切な情報をどうするかという問題についても議論をいろいろいたしました。それから発信の場合には、著作権の問題とか、子どもの人格権、プライバシーをどうするかとか。メールの交換でも、実はいろいろな問題が起こっているんです。私どもとしては、教育的にどこまで配慮すべきなのか。ですから、技術的にできるフィルタリングをやっているわけですよ。だけど、潜る人はいるわけです。こうしたモラルなどの辺で何か意見がありましたら、お願いします。

高 E
 数分で言えるような問題じゃないんです。私のほうでは一括して教育NOCで切っているんですね。完全な検閲体制をとっているんです。学校の自主的な判断でなくて、かなり切って切って切りまくるんですね。不適切というのも小中高で大分違うでしょうし、100校の経験者の方はこう言われるんですね。「有害情報かどうかを、受信する生徒が判断する力を身につければいいじゃないか」というふうに。こう言われるのはよくわかるんですけど、フィルタリングをしておくから、どうぞ使ってもいいですよというふうにしておかないと、校長は了承できないぐらいというところがあると思うんですよ。

【司会】 発達段階の問題も議論しておりますと、中学生が一番難しいかなという話が出ます。小学校の先生に聞くと、「あんまり、有害情報の心配はないよ」と、こうおっしゃる方が多いんですが、いかがでしょうか。

小 B
 児童の自由度に比例して、有害情報の遮断を考えていかなきゃいけないと思います。たとえば、職員室に1台端末があるだけであれば、まったく要らないですね。ところが教室に置いてあったりとか、休み時間に自由に使っていいよとか、そういう自由度が高いところでは、フィルタリングがやっぱり必要になってくるだろうということですね。

中 C
 学校にプールがあります。プールで子どもが死ぬ事故がまれにあるじゃないですか。だけど、「プールで泳ぐのやめろ」とは言わないですよね。水泳を教えておかなければ、もっと多くの子どもが犠牲になる事故もあるわけですよね。ですから、やっぱり基本的な泳ぎ方を覚える必要がある。インターネットもプールと同じですよね。危険だからといって使わせなかったら、それこそ大変なことになるわけですよね。だから、単に有害情報を遮断すればいいとかということじゃなくて、基本的には、有害情報についてもやっぱり教える。そういった情報もあるということも含めて教えることが大事だし、いくらフィルタリングをかけても絶対に抜け道はあるし。

小 B
 話は変わりますが、学校にライブカメラを設置して、天気の勉強をする場合に使わせてもらったんですね。あれはあれでよかったと思うんですが。ただ、その反省としては、天気の勉強しか一応使えないということなんで、今年はそれを少し拡張して、ビデオクリップを使った教材作成ということで取り組まさせてもらっております。

中 D
 ライブカメラをうちもやっています。あれを使ったきっかけは、村という本当に田舎の、人もあまり行きたがらないような過疎地で、村の中に就職口がなく、卒業生が全部外に行ってしまうからですね。そんなわけで都会とか海外にも村の出身者が多いんです。そういう人たちが、検索で見つけて懐かしいってメールくれるんです。それに対しての発信でもあるんです。それでやっぱりOBどうしのつながりみたいなのが広がってはいるんです。

行政への要望、新構想・企画について

【司会】 また後で、時間が余ったら、いろいろうかがいます。それでは、3番目の話題に移りたいと思います。行政などへの要望、それから新しい構想・企画について、どなたからでも結構です。

中 D
 回線料金は安くしなくてもいいんですけれども、必要なものには正当なコストを払うべきだと思うんです。必要なものに対しては正当な予算として認め、潤沢な予算を割り当てるというのが基本的な姿勢だと思うんですよね。

高 E
 情報の流れの仕組みを、まずきちんとする。学校教育の現場では、こういうことはしてもいいんだよといったような枠が設けられないと、いつまでたっても何もさせてくれない。そこのところ、もうちょっと学校経営というものを管理するような制度というものを、ぜひ国のほうでやっていただければ。

小 B
 その辺がやっぱり問題なんですよ。人によってころころ変わるんですよ。ぜひお願いしたいのは、行政に能力のある管理職を登用して、立派なリーダーシップを発揮してほしいということですね。
 システムの問題もあるが、僕は人だと思う。
 それとセットでお願いしたいのは、地域の情報化を正当に採点してほしいということですね。

小 A
 私は行政の方にインターネットを知っていただきたい、使っていただきたいと思っています。教育委員会には端末が全然ないんですよ。使ったことがないからわからないですよね。あと、評価は私も大事だと思うんですけど、要するに、学校に個性ということでちょっと差をつけていただきたい。たとえば、通信回線をよく使う学校には。
 最初はダイヤルアップからスタートして、利用率が上がってきた学校はどんどん回線を太くすることを許す。だって、それも学校の個性化じゃないですか。うちの学校は総合的学習の時間で、これをメインにするから、どんどん行くよ。別の学校は別のことをメインにするからそれもいいよみたいなことをですね。全部どの学校も同じという時代じゃないと思うんですね。それらの評価等を含めて、公教育の教育機会の均等をくずさない範囲で学校の個性化という視点もほしいと思っています。

中 C
 県なり市町村の教育委員会の指導主事がインターネットというものを全然使っていないわけです。何で使っていないかというと、「私は専任ではないからこんなことはできないんです」と、こう言い訳にしちゃうんですよ。つまり本来の職務じゃないんです。だから、「私はやらなくてもいいんです。わからないんです。しかたがないんです。とても忙しくて時間がありません。」私も、つい言い訳にそんな言葉をを使いたくなります。今あるのは中央と学校のつながりしかないんです。その中間の部分を全部すっ飛ばしていますから。

高 E
 そこにもう一つ。今はすべて大綱なんですよ。「情報教育をやりなさい」とは言いますよ。具体的に「こういうのをやりなさい」ときちんと書かないんですね。だから、全部指導主事の肩にかかってきたり、現場は「何すればいいんですか」という。だから、今度の学習指導要領の場合でも、言っていることはわかるんだけど、具体的にどのような指導案を書くのか不明です。また、文部省と郵政省と通産省を一本化していただいきたい。文部省のほうで教育拠点計画をつくって動いているさなかに、郵政省が、今度はネットワークモデル地域事業を始めて、現場の先生にはややこしい話ですね。その辺、中央のほうも考慮してほしいですね。

高 F
 インターネットを使っていてひしひしと感じるのは、ベースにあるのは自己責任という考え方ですよね。日本の社会でも、最近は少しそういうことも言われていますけど、まだ受け入れられていないですよね。学校で何か問題が起こったら、全部学校の責任になりますよね。だから、その辺の問題では、インターネット、ネットワーク教育だけの問題ではないんじゃないかなという気がします。かといって、どこへ持っていけばいいんだということですよね。だから、学校のシステム全体をもう一度見直して、組み直さないといけないんじゃないかと思います。

中 D
 そういう一つの投げ石みたいなのが100校プロジェクトだったという趣旨だと思うんですけどね。100校はいろんな面を見せていると思うんです。気になるのは、100校でこうやって集まってきてくれる人たちもいるし、全然音沙汰ないところもあるんですね。さっきの話の中で「ITコーディネータ1人で10校」という話があったじゃないですか。そうすると、全国で4万校あるわけですから、やっぱり4,000人のそういった数のコーディネータが必要だと思うんですよね。

高 E
 ただ、人がいない。何でもそうだけど、数じゃなくて、その質なんですよね。

高 F
 情報科を教えるために、教員のスキルもできていないと。ところが、教員が使いたくても職員室にコンピュータがない学校、または足りない学校が非常に多い。その辺の手だてが必要じゃないかなと思います。インターネットも使ったことないのに、情報科で教えろというのはどだい無理な話だと思うんです。

小 B
 新しい企画として一つ言わせてもらいたいのは、やはり今でも使えるコンテンツが少ない。特に小学校の場合は未修得の漢字などが出てきて、子どもに読ませられるものが少ないという意見がやっぱり多いんです。そうなると、もう自前で作るしかないんですね。各地域の教育委員会が持っている地域教材をデジタル化して発信するように号令をかけていただいたら、結構いいものができるんじゃないかなと思うんです。

【司会】 我々は来年度以降にと、考えています。

小 B
 それはぜひお願いしたい。できたら、そのデータを2次利用できるような仕組みがあれば、なおさらありがたいです。

小 A
 それにかかわって、夢の話は翻訳プログラムの開発、大人の言葉を子どもの言葉に変えてくれるシステム。教科書会社や教材会社がネットワーク上で教材などを配布する制度もほしい。こちらが実現しやすいでしょう。

【司会】 地域の教材を国が集めようとすると、「これは県内でしか使えません」と言われたということをよく聞くんですが、そういうことはないですか。

小 B
 それは版権の問題であるんですね。

高 E
 それはあるんです。私の県でもインターネットにある情報を載せようと思ったら、「これは私のほうの県の税金で作ったものである。だから、これはあくまでも県民に向けてしか出せない」とかね。

小 B
 出す代わりに、よその県のものが使えるという仕組みを作っておいたらいいんです。

小 A
 交換ですよね。

小 B
 交換の仕組みさえあれば、ある程度、地域的な部分ができて、それで、その良さがわかったら、またそれは広がっていくと思います。

対象校・事務局の活動について

【司会】 それでは最後の話題に移らせていただきたいと思います。対象校、あるいは事務局のいろいろな活動について、少しうかがいたい。

小 A
 100校プロジェクトがよかったのは、きれいにお膳立てしなかった点ですよね。必要最低限の情報だけ来ましたね、最初は。これはよかったですね。非常にやる気を起こさせるようなシステムだったような気がします。実際、皆さん燃えましたよね。

中 C
 それは、そういう学校だったからという理由もあるかもしれないですけどね。

小 A
 そういう学校って。

中 C
 やりたいことがある人たちが応募し、選ばれた学校ばかり。

高 E
 100校は、自分から飛び込んだプロジェクトなんですよ。今嫌がっている人たちに押しつけるのと違いますよね。全然違う。熱意のある人がたくさんいた。

高 F
 1994年でしたか。8月1日にマリオン(東京・有楽町)。

高 E
 あそこに行った人がいっぱいいるんです。

高 F
 それで選ばれなかった人も、「何くそ」という気持ちでがんばった。だから、効果は大きかったですね。

小 B
 そういう意味では、いわゆる教育委員会を通した研究指定校というやり方では、選ばれにくい学校なんですね。それを選んでいただいたというのは、やっぱり……。

中 C
 それはありますね。100校プロジェクトの良かったところというのは、とにかくそういうことに着手したということですよね。公募とか企画とかを審査で選ぶというのは、今までは絶対なかったことじゃないですか。あと一つは無謀さですよね。各学校にUNIXのサーバを持ち込んで、専用線でつなごうなんて。普通だったらもっと無難なところから、とりあえず端末でも置いてとかって感じ。この2点、特に公募を全国レベルで実施したということは、これはすごいことだったと思いますよ。

高 E
 あと、もう一つ面白いと思ったのは、今から3、4年前の時代のコンピュータ教育から見ると、数年後の情報教育は情報発信型になるということをよく見抜いておられたなということですね。

小 A
 やっぱり。だから見る目があったんですよね。審査員と、飛び込んでいった人の両方にね。

【司会】 マリオンで、通産省・情報処理振興課の当時の課長補佐がいろいろお話しされてました。通産省のアイデアのひとつなんですね。課長補佐はアメリカに調査に行かれたようですね。それで、これからの日本を考える。アメリカはインターネットの先進国…。少なくともその当時いちばん盛んだった国。それを日本でどうするかというアイデアが課長補佐にあったのは事実ですね。そういう中で、補正予算がありまして、それをどう使うかというときに、「教育のインターネット利用」が出てきたんです。それも100校。100という数の学校と、インターネットとキーワードは二つ。だから100校プロジェクトです。
 それと、もう一つ忘れてはいけないのは前の年の終わりに補正予算で、慶應義塾大学の藤沢キャンパスの中にCIIという情報基盤センターを作るという予算がついた。これが一つのきっかけなんですよ。そういう中でサーバも置いたわけです。初期のころは、それなりにアイデアはあった。予算もあったわけですね。それで、公募をしたと。だけど、ネットをつなぐまでの苦労もかなりあったという記憶があります。

中 D
 あれは中央集中型でやらないで、地域にそれぞれ振り分けたというのは、ものすごく意味があったですよね。

【司会】 ただ、6ブロックに分けた中で、東北と中・四国が一局集中型なんですね。それ以外はやや分散型なんです。

高 E
 もう一つあるのは、100校プロジェクトで何でも経験してたから、いつも比喩で言ってるんだけど、自然の川の中で泳いでいたようなものですよ。それが、今度から、学校ごとのプールの中で教育しなきゃいけないんです。全部の学校にプールを準備して、プール管理人とプール指導者を養成していかなきゃいけないんです。

中 C
 だから100校プロジェクトというのは、これである程度の成果が出たでしょうし、今後はいかに展開していくかでしょう。そのときに薄める方向で展開するということも、もちろん必要なことでしょうけれども、やっぱり、ある種の、たとえばモデル的にでも先進的なネットワークを形成して実践していくことも必要なのかなとか思いますよね。

小 A
 ここでこう言っていても始まらないと思うんです。文字をいっぱい集めて、それをばらまいても多分だめなんですよ。経験者をどうやって増やしていくかということですね。だから、2001年に全部の学校がいっぺんにどーんとつながるというのは無理だと思います。最初は100校から始まったとしたら、次はもう少し増やして、さらに少し増やしてという感じで段階的にしていかないと、多分だめだと思います。いくらドキュメントをまとめていても、読むだけじゃだめだと思うんです。運転免許じゃないですが、学科と実技の両方が必要です。

高 F
 専用線の環境というのがない。体験しないとわからないことというのがやっぱりあります。ですから、指導主事の先生とか学校の先生なんかも、3日間ぐらい専用線環境に缶詰にして研修するとか、そういうのも必要なんじゃないかなと思いますね。

小 A
 いや、でも、遅くても速すぎるよりいいと思うんです。多分、適切なスピードってあるんですよね。

中 C
 今のWebの各学校のホームページ。たとえば、いろんな学校がホームページを作っていますよね。それの一番の欠点というのは学校が単位であることです。子どもたちが知りたいのは学校ごとにではなくて、たとえば「小学校の5年生の理科の何々の学習」について知りたいわけですよ。そういうところで串刺しができるシステムというのを開発しないといけない。

小 A
 
ホームページを見るだけの学習って、多分つまらないですよね。やっぱり情報発信。一方的に情報を得るだけのものだったら多分だめですね。

【司会】 Webと言ったのは、そういう仕組み、コンテンツの意味で言いましたが、我々が今考えているのは、コミュニケーションということも非常に重視しています。それで、メーリングシステム、電子掲示板を含め、一体どうやったら学校どうしや子どもどうしがコミュニケーションできるかということも考えています。


最後にひと言

【司会】 さあ、最後に感想なり、どうしても言いたいことをどうぞ。

小 A
 面白かったです、100校プロジェクトは。すばらしい企画だったと思います。多分、皆さんも同じ思いじゃないでしょうか。この事業にかかわって、人生が変わった感じがします。

小 B
 それだけに、もっとやりたいなという思いがあります。巨大な企画よりも、100校の中でまだ続けたいなと思う部分については、何とか回線の手配などもしてもらえたらありがたいなと思っています。

中 C
 いろいろなことを言いましたけれども、確かに、とにかくこの100校プロジェクトがなかったら、多分、今のこういうのってなかったですよね。そういう意味で非常に意味があったと思うんですが、逆に言えば、それなりの成果とか、課題とか、いろんなものを100校の学校それぞれが持ったと思うんですよ。それを何とか生かして地域展開を図っていく。もっとほかの学校に広めていくためにはどうしたらいいのかなって。なかなか名案も出ないところなんですけれども、制度や予算、人の問題とか、いろいろあるでしょうけれども、まずはそれをできるところから何かを発信していってやっていく。それが無駄になるかもしれないけれども、10%でも使われればいいと思うので、ぜひこうした声をいろいろなところに届けていくようなことを、ぜひしていただきたい。こういうことが要望としてあります。

中 D
 100校プロジェクトの成果って、1歩も2歩も先に走っておられるからこそあるわけですけれども、それが社会の仕組みとか教育システムの中にインパクトを与えていないんですよ。さっきの成果報告書の話じゃないけれども、それが広まっていないんですね。そこを何とかすれば。内容にはものすごいいい提言があるはずなんだけれども、それが届かないということは、もどかしいというか、残念ですね。そこを何とかできないかなと思います。

高 E
 個人的には勉強になった。特に小中学校の先生方とも勉強できてよかったです。自分としても、これがなかったら、多分普通の化学教師で、また実験だけしていたと思うんですけど、大変いろいろ勉強させていただいて、と思っております。

高 F
 言いつくした感はあるんですけど、正直言って本当に楽しかったです。それから足が洗えないなという気持ちがあります。それと、100校に飛び込むきっかけになったのは、私の学校にはアメリカに姉妹校があったんですが、その姉妹校の方に聞いた話です。20年ほど前にアメリカで教育改革があったということです。アメリカもそれ以前は、今の日本と同じ感じだったんですけど、つまり教師がすべての仕事を抱えていたわけですが、それでバーンアウトした教師が非常に増えて、社会問題になり、今は教師の仕事が非常に細分化された形の学校制度に変わっているんです。その辺のところで、今の日本は、同じような状況なんだけど、アメリカのようにダイナミックにシステムを変えられないという、そういうところに非常にもどかしさを感じています。  


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