3.2 教育的成果と課題(国際化重点企画を中心に)

 本重点企画は、1998年の新100校プロジェクトにおいて企画されたものであり、海外との交流や世界的なプロジェクトへの参加などによって、国際交流を活性化して国際理解教育などへのインターネット活用の可能性を模索するプロジェクトである。この重点企画は、国際理解のねらいも重要であるので、その観点から2年間の実践を通して得られた成果といくつかの課題について述べる。

 本国際化重点企画では、四つのプロジェクトの運営実施と、これらを支援するいくつかの体制作りによって構成されている。本報告では、(1)プロジェクトの成果と課題、(2)支援体制作りの二つに分ける。

 四つのプロジェクトとは、「インターネットクラスルームプロジェクト」、「アジア高校生交流プロジェクト」、「Me&Mediaプロジェクト」、「KIDLINKプロジェクト」であるが、これらの実践から得られた成果と課題を述べる。

 

3.2.1 プロジェクトの成果

(1)児童・生徒の変容

 上記の4プロジェクトの実施によって、以下のような知見が得られた。

・自分や日本という国を意識するようになった。
・英語に対する積極的な取り組みと、自分で辞書をひくようになった。
・相手の国の人々に対して、共感的な態度変容をみせるようになった。
・意見の違う相手に対しても、その意見に耳を傾けるような態度が見うけられた。
・覚えるための英語から、知るための道具としての英語というの意識が出てきて、それが学習を深め、自分で積極的に調べるような態度が出てきた。
・英語を学ぶ必要性が認識され、生徒が積極的に取り組むようになった。
・コミュニケーションには、さまざまなアプローチがあることが意識化された
・海外への関心が高くなり、かつ情報化社会を実感するようになった。
・外国人子女を受け入れている国際学級では、母国語で母国と交流できるようになったので、日本語力不足からくる不安が少なくなり、積極性が見られるようになった。

 以上から、国際理解教育の目的である相手文化の理解、自国文化の理解が促進されていると判断できる。また、コミュニケーション手段としての英語の意識が出てきて、学習態度の変容が見受けられたことの意義は大きい。

 

(2)教員の変容

・教師が「教える存在」から「アドバイス・助言する存在」としての役割を意識するようになった。
・情報担当の教員だけから、他の教員にインターネット活用の広がりが見られた。
・コンピュータを介在して、生徒と教師の会話の回数が増加して、対話形式の授業が見られるようになった。
・教員が、情報発信の授業形態を評価するようになった。

 以上から、教員の役割の変化を意識するようになったことの意義が大きい。

 

(3)プロジェクト運用上の知見

・海外と国内の教師間の事前打ち合わせが、きわめて重要である。
・何の目的で国際交流を行うかという目的意識が重要である。
・コーディネータの役割が不可欠であり、コーディネータと教員間の一種のティームティーチングであるので、人間関係が重要な要素となる。
・交流だけでなく、生徒どうしによる協同の作品作りが重要で効果的である。
・大きなグループよりも、ペアのほうがスムーズに実施できる。

 以上から、特に教員間の十分な事前打ち合わせの重要性が指摘された。

 

(4)システム上の知見

・メールは対面よりも緊張感は少ないが、実在感が少ない。対面コミュニケーションにおける身振り手振りの情報量は大きく、文字だけでは実際の交流は難しい。
・メールでは文字だけでなく、CU-SeeMeなどの映像が効果的である。
・メールの添付ファイルによるビデオメールも効果的である。
・ボイスメールも親しみがわいて、交流を促進する効果があった。

 以上から、文字だけから、マルチメディアコミュニケーションの手段を組み合わせる必要姓が指摘された。

 

3.2.2 プロジェクトの課題

(1)プロジェクト運用上の課題

・英語という単独教科だけでなく、カリキュラム全体に位置づける必要がある。
・テーマを深めて議論することは相当に時間を要するので、カリキュラム上の工夫がないと議論が深まらない。
・メールだけでなく、実際に訪問するなどの対面交流などとの組み合わせが必要である。
・言葉の壁は大きく、複雑な内容になると本当に言いたいことが言えない。
・対面交流の実現のために実際に集会を行うと、財政的な負担が大きい。
・対面集会では、連絡の仕方、役割分担などの緻密な計画が必要であり負担が大きい。
・相手校の選定の仕方、事前の準備、受け入れ窓口が必要である。
・交流だけに終わらないために、授業のデザインを綿密にする必要がある。
・交流の期間が長いときにはだらけてしまうことと、交流計画の立て方が難しい。

 以上から、カリキュラムへの位置づけ、対面交流などの組み合わせ、財政上の問題、言葉の壁、受け入れ窓口、授業の構成などの問題が指摘された。

 

(2)システム上の課題

・コンピュータ機器の操作時間が長く、授業に入りにくい。
・ハードウェアの管理やカリキュラムの問題が大きい。
・事前の打ち合わせのために、膨大なメールのやりとりをするが、その処理時間が大きく、負担が大きい。
・メールだけの交流の場合、相手の表情がわからないので、継続しにくい。

 以上から、特にハードウェアの管理や、事前打ち合わせなどの負担が大きいことが指摘された。

 

 

3.2.3 支援体制の成果と課題

(1)「交際交流のためのガイドブック作成」の成果と課題

 これから交流したい教員にとって初歩から解説してあるので、好評であったという評価がなされた。

 

(2)「翻訳支援体制」の成果と課題

成果

・翻訳ボランティアもその意義を認識できた

課題

・文字だけでは翻訳しても意を伝えにくいので、写真などの見てわかる情報も重要である。
・文法的なミスや、背景がわからなくて、翻訳しにくい。
・翻訳した結果がどうなっているのか、その反応を知らせる必要がある。
・子どもには特有の表現があり、子どもにわかるように翻訳することが難しい。
・翻訳ボランティアの人材確保が難しい。
・簡単で確実な翻訳支援の体制を作る必要がある。
・翻訳者に、依頼の時期や翻訳の分量を事前に伝える必要がある。
・ボランティアも都合があるので、事前の打ち合わせが必要である。
・薄謝でも、謝金の用意は必要である。

 以上から特に、海外の学校と国内の学校と翻訳者を結ぶ相互的な翻訳の体制作りが必要であることが、指摘された。

 

(3)「海外調査・シンポジウムの参加」の成果と課題

・積極的に海外の会議に担当者を派遣することによって、交流が促進される。
・日本側の窓口、海外側の窓口、キーパーソンが重要で、これらがないと国際交流が実現しない。

 以上のように、国際化重点企画では、総括的には今後につなげる評価を得たといえよう。

 


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