発見しようすてきな街 盛岡

岩手大学教育学部附属小学校
対象:6年しらかば組男子20名,女子20名計40名
指導者:楳内 典明
キーワード 科学的アプローチ,ふれあい,理科,総合的な学習


インターネット利用の意図
 
国際化・情報化が進む現代社会は,以前に比べて世界同時に文化を共有しやすい環境が広がっている。同時にこのことは,メールやインターネットを通して地理的に離れている人々とも簡単にお互いの意志を伝え合うことができることでもある。
 今後,ネットワークコミュニケーションは,我々現代社会の身近な媒体として生活の中により重要性が増してくるものと考える。
 その意味において,これからの未来を生きる子どもたちにコンピュータを自由に使えるようになる技能や知識の習得は不可欠である。
 また,いろいろな学習場面でも,コンピュータを使った方がより効果的であったり,分かりやすいということがあるため,コンピュータの特性を生かしながら学習の可能性を広げていきたいと考えた。


1 発見しようすてきな街 盛岡!
(1) はじめに
 本校の子どもたちは,日頃からコンピュータに触れる機会が多い。しかし,その多くは,ゲーム的な活動内容が多く,自分で,コンピュータを駆使しながら自分に必要な情報を収集するまでには至っていない。
 そこで,学習旅行先である「北海道函館市の様子をよく知ろう!」をテーマにインターネットに取り組んでみた。
 初めのうちは,電話や手紙で情報を得ようとしていたが,あまりにも時間がかかり過ぎることと自分たちにとって必要な情報がなかなか入手できないでいたが,やがて子どもたちは,自分の必要な情報を自分の目で確かめながら入手できる手段としてインターネットを利用しはじめた。
 子どもたちが,必要感を持って取り組もうとするときこそ,初めて,コンピュータが,生きて働く道具となりうるのではないかと思われる。
 この例のように,コンピュータを取り入れることにより,子どもの意欲を高めながら,さらには,自分たちの住んでいる「盛岡・岩手」の環境問題を取り上げることにより,情報収集の一手段としてのコンピュータから一歩進め,コンピュータを表現する道具として使ったり,コミュニケーションの道具としての一側面をとらえさせていきたい。
 同時に,このような,コンピュータを使う学習を通して,情報化社会への対応と自らからから学ぶ力を育成する学習の可能性を探ることを目的とし,情報収集能力・情報発信能力を身につけ,高めていくことを目的とし,単元を構成したものである。
(2) ねらい
(a) コンピュータを情報収集する道具として活用しようとする意識を育てる。
(b) 表現力・情報収集能力を養い,情報発信への意欲を高める。
(3) 指導目標
(a) ローマ字入力ができる。
(b) デジタルカメラの使い方がわかる。
(c) 自分たちのグループに必要な情報を集めることができる。
(d) ハル君の部屋(CD-ROM)を使い,簡単なデジタル壁新聞を書くことができる。
(e) 校内LANを利用して,必要な情報を同グループに発信することができる。
(4) 利用場面
 総合的学習…学習旅行事前調査(北海道函館市)
 理科…人と環境,図工…私の好きな盛岡の風景
(5) 授業としての記録場面
 岩手の環境から学ぼう ーサケ・水・ひと・ふれあいー
(6) 利用環境
(a) 使用機種…マッキントッシュ20台(LAN),ノートパソコン1台,ネットミーティング(2回路分)
(b) 周辺機器…デジタルカメラ
(c) 稼働環境…コンピュータ室 マッキントッシュ20台,第一理科室ネットミーティング1台,第二理科室ネットミーティング1台
(d) 利用ソフト
 キッドピクス,ネットスケープ,クラリスワークス4.0
ハル君の部屋

2 指導計画

 学習内容    (時数)      学習目標
1.函館を知ろう(6)  ・ローマ字入力ができる
            ・インターネットの使い方がわかる
            ・必要な情報を選択できる力を育成する
2.函館について調べた 
 ことをまとめよう(4)・簡単なデジ壁新聞にまとめることができる。
3.環境問題を知ろう(6) ・インターネットを使って,自分の興味ある環境問題についての情報を集めることができる。
4.卒業論文の資料を   ・自分のテーマに合った情報を収集することができる。
 集めよう(8)
5.環境問題の実験に   ・自分たちでもできそうな実験方法についての資料を
 取り組もう(4)    入手し,実験してみる。
6.情報を交流しよう(2)・実験や調査の結果を交流し合う。

3 展開(上記5・6を中心に)
(1) 前時までの活動

(a) 5年生までの活動を振りかえる。
(b) 6年生の活動計画立案
(c) 中津川の水性昆虫調査
(d) 中津川の水質調査
(e) 家庭のゴミの量の調査
(f) カラスの巣の材料調査
(g) 環境に関する専門施設のしくみをビデオで学ぶ
(h) 他校の環境教育活動をビデオで見る
(i) 卒業論文への取り組み方の学習
(j) 卒業論文から発展させて

 

(2) 他教科・道徳・特別活動との関連から
(a) 社会科  ・私たちの生活から出されるゴミの種類と処理のしかた
      ・田植え体験学習
      ・農業・水産業で働く人々
(b) 理科   ・川や池などに住む小さな生き物
      ・メダカやサケの誕生
      ・サケを増やす人々の工夫
      ・人工ふ化と豊かな川や海を守る努力
(c) 家庭科  ・気持ち良く生活するために
      ・住まいの汚れとそうじ
      ・ゴミの始末と不要品の活用
(d) 学校行事 ・林間学校での自然体験
      ・水性昆虫・水源調べ
      ・樹木探索
(e) 総合活動 ・バケツ稲への取り組みと収穫祭
      ・環境ファイルの活用
      ・コンピュータの基礎技能の習得と有効活用
      ・卒業論文への取り組み
(3) 本時の展開略案

  学  習  活  動      

    支   援   活   動

 

1.課題を確認する


2.実験に必要な情報をインターネットを使った収集する

3.実験を行う
4.実験結果を交流し合う
5.テレビ会議システムを使って,専門機関から,実験に対するアドバイスを受ける
6.再実験を行う
7.実験結果をまとめる
8.他の小学校とテレビ会議システムで結び,活動の様子を交流し合う
9.学習のまとめを行う
10.環境についての活動を振り返り,新聞集にまとめる
11.事後の展開として,お世話いただいた機関や学校にお礼の手紙を書く

・卒業論文を発展させながら,盛岡の自然の豊かさと美しさを再発見するための活動であることを確認する。
・情報収集係と実験推進係に別れてグループごとの実験を行う。
・インターネットで得られた情報は,ネットミーティングを使って第1理科室や第2理科室に転送する。

・実験方法に改善点や子どもの疑問に簡単に答えていただく。
・今すぐできることと,準備が必要なものに分けて説明の内容を把握させ,新たな活動の展開ができるようにする。

・海辺の小学校や山間部の中学校とつなぎ,異なる地域環境で活躍している同年代の姿をとらえさせることにより,これからの活動に広がりを持たせたい。

・自分たちにできること,しなければならないことに分けて発表させながら,意識を高めていく。
・お礼の手紙を書くことにより,心のつながり「ふれあい」の輪を広げていきたいと考える。

 

4 実践を終えて
(1) 成 果
年間計画をもとに,コンピュータに触れる時間をなるべく多く設定することができた。
その結果,子どもたちは,今まで以上にコンピュータを身近なものとしてとらえることができたように思われる。特に,学習旅行の調べ学習として位置づけた「函館を知ろう」では,それぞれの興味・関心のあるグループごとにテーマを決めて取り組んだため,最後まで意欲的に追究することができた。
この取り組みは,インターネットに慣れることを目的に行った。初めの段階は,やみくもに,検索した情報を全て記録しようとしていた。そこで,インターネット記録用紙(はがきサイズのもの)を用意した。限られたスペースの中に記録できる情報量は限られているので,子どもたちは,何が重要であるかを考えながら記録していくようになった。
このことからも,子どもたちは,情報は,膨大な量であり,自分の回りにあふれていることと,自分にとって最も必要な情報とはなにかを考えるようになった。
さらに,卒業論文への取り組みの中で,子どもたちは,自分の決めたテーマにしたがって,情報を集めた。この活動は,科学的なアプローチの視点を基本にしながら,総合的な学習の時間を使って行われたが,一斉に指導するのではなく,個々のテーマと進度状況に合わせながら一対一で指導を行った。
このことにより,40名全員が,たっぷりと時間をかけながら確かな技能を身につけることができたと思われる。20台のコンピュータを二人一組で使うことは,見ているだけの子どもも存在してしまう恐れがあるからである。集中して取り組める環境を整えてあげることこそコンピュータに慣れ親しむ第一歩であると感じた取り組みでもあった。

(2) 授業の中に道具として位置づけることによる効果
 テーマに掲げたような実践授業を行った。
この授業では,コンピュータの他に,テレビ会議システムを使って,合計5カ所の施設と学校を結んで同時進行で授業を行った。自然環境に恵まれている岩手ではあるが,ただ眺めていたのでは本当のよさやすばらしさ,さらには,自然の尊さが見えてこないと考え実験を通して科学的にアプローチすることにより,真の自然の姿を追究することを目的に設定したものである。
 子どもたちが,コンピュータを道具として使いながら実験に取り組んでいる様子がテレビ番組や新聞などで数多く紹介された。子どもたちは,当たり前と思って取り組んでいたことが,実は,大きな意味を持つものであったことに気づいたとき,初めて,自分から取り組むことのすばらしさを体感できたように思う。
 当日は,県知事も授業の様子を視察に訪れ,子どもたちに励ましの言葉をかけてくださった。このことも,郷土岩手を愛する心の育成につながった。また,この授業の様子は,国連大学の協力をいただいて,同時通訳され,インターネットで全世界に発信された。このこともまた,子どもたちにとっては,大きな誇りと自信になったものと思われる。
(3) 今後の課題
 コンピュータを使った授業では,子どもたちに,伝達手段,情報検索と収集など,情報の受け手を十分に意識した発信のあり方とモラルを学習の中に位置づけていくことが重要であると思われる。
ただ単に,自分の思いだけを伝えようとするのではなく,読み手を意識したものこそが,真の情報となりうることを伝えなければならないと考える。
 今年度は,ホームページの作成を行おうと考えたが,学内の内規が整っていないと言うことでまだ実現していない。近い将来,子どもたちの熱い想いを発信していきたいと願っている。

ワンポイントアドバイス
 子どもたちは,5年生の後半からおよそ1年間,卒業論文という大きなテーマに取り組んだ。その際に,インターネットを使って必要な資料を収集した。自分にとって必要な情報を見つけ出すことから始まった,コンピュータの学習であった。
 子どもたちは,Yahoo!JAPANを入り口としながら検索をおこなった。
 これは,本校の卒業論文への取り組みのように40人が,40通りの追究課題に向かって取り組んでいくような学習では,入り口を一つにすることで指導の効率化が図られると考えたからである。また,入門期の児童には,アドレスを打ち込むのは,困難な作業である。
 アドレスを打ち込む作業を難しいと感じたり,時間を失うよりも,検索するときは,Yahoo!JAPANからということで,インターネット接続の利便性を体感できたと思われる。


参考文献
 
インターネットが教室になった(高陵社書店)こねっとプラン実践研究会
 小学校で卒業論文−こうして皆が書いた− (明治図書) 拙著

利用したURLなど
 公開授業の様子は,次のURLの「岩手における環境学習」の[学校(教科)]―サケ,水,ひと,ふれあい−でご覧いただけます。
http://ecology.mcon.ne.jp/