バーチャル美術館を散歩して,インターネットを自分の制作に生かそう
小学校第5学年・図画工作
仙台市立大沢小学校 Eスクエア実践グループ 代表 松本史彦
キーワード 小学校,高学年,図画工作,インターネット,絵画,描画,鑑賞
インターネット利用の意図
近年,美術館や美術愛好家によって,ホームページを通して絵画の写真や解説が公開されている。そこで,これを鑑賞と絵画制作に活用した。
まず,図画工作科における鑑賞の授業をインターネットを利用して行い鑑賞への意欲や関心を高め,次に,児童の絵画制作にコンピュータ関連機器やインターネットのホームページに掲載されている作品を活用することで,絵画制作に対する意欲の向上を図った。
1 インターネットによる鑑賞を通しての描画「身近な風景」の制作
(1) 目標
インターネットを利用して普段見ることができない絵画を鑑賞し,そのよさや美しさ に親しむとともに,インターネットのホームページを風景画の制作活動に活用する。
(2) 利用場面
この学習では,次のような場面でコンピュータ等を活用する。
(a) 絵画の画像が収録されているホームページを開いて,各自の気に入った絵を選び出す。
(b) 選んだ絵画を保存しておき,カラープリンタで印刷する。
(c) ホームページ上にある参考にする絵画を選び印刷する。
(d) 自分が描こうとする対象をデジタルカメラで撮影し,カラープリンタで印刷する。
(3) 利用機器類
(a) 使用機種 FMV-5100D6 21台 アプティバ20J 1台
(b) 周辺機器 デジタルカメラ ソニーMAVICA 1台 カラープリンタ4台
(c) 稼働環境 コンピュータ室 FMV-5100D6 21台(サーバ機がINS64でインターネットにダイヤルアップ接続,プロキシ97により子機をインターネット接続) 教室 アプティバ20J 1台(インターネット接続なし)
(d) 利用ソフト インターネットエクスプローラ4.01,キッドピクス98
2 指導計画
(1) ねらい
(a) 絵画作品を鑑賞し,そのよさや美しさに気づいて感想を持つことができる。
(b) 近景と遠景という二つの要素を表現して,遠近感のある絵画を描くことができる。
(2) 指導計画(13時間)
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3 学習の展開
(1) インターネット利用場面である第1次鑑賞(b) の展開
(a) 本時のねらい
インターネットで美術館のホームページを開き,気に入った絵画を見つけて感想を持つことができる。
(b) 指導過程
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(c) 本時を終えて
この時間は,上記のような過程で各自10枚程度の絵画を見て,その中から1〜2点を選び,よいところ・気に入った点をメモする予定だった。しかし,後に述べるように,画像が開くまで3分以上と時間がかかってしまい,一人あたり3枚程度を見るのがやっとで,メモはできなかった。インターネットにつないで見るところまでで精一杯であった。
(2) 第1次鑑賞(c)
以降の展開
(a) 鑑賞(c) 及び第2次制作(a) の展開
鑑賞(c) は,制作に直接利用できるホームページとして「楽しい絵画教室」を指定し,そこにある児童作品を鑑賞した。鑑賞する絵画は,制作の目標となる絵を4枚指定し,次のように指示した。
「ここに4枚の絵があります。この中で,一番好きなもの・気に入ったものを一つ決めなさい。画像をクリックすると大きくなるので印刷しなさい。その絵の気に入ったところ・好きだと思ったわけをメモしなさい」
児童のメモの一例を右に示す。(図1)
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制作(a) は,鑑賞した絵の構図が「近景の植物」と「遠景の建物」になっていることを見つけさせ,それにより遠近感が表されていることに気づかせ,次時からの制作計画を話し合った。
(b) 第2次制作(b) からの展開
鑑賞(b) では,表示されるのに時間がかかって意欲を失いがちだった児童たちだったが,第2次からの描画には意欲的に取り組んだ。
その要因として,次の3点があげられる。
(a) 目標となる参考作品をインターネットで鑑賞していたこと。(図1)
(b) 構図として「近くの植物」と「遠くの建物」という二つを描けば,参考作品のようにできあがるということをインターネットの鑑賞を通して学んだこと。
(c) デジタルカメラで撮影し印刷したものを頼りに描いたこと。(図2)
自信をもって筆を動かす姿は,1学期の図工の時間には見られなかった姿であった。
制作中および作品の一部は,図3〜5である。
図2デジカメ画像を頼りに
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4 まとめ
(1) 成果
(a) インターネットを使った絵画の鑑賞については,その美術館にいかなくても絵画を見ることができるという点では手軽にできる。わずかではあったが,絵画を見つめて,どんなところが自分の感性に響くのかを考えることができた
(b) 鑑賞のポイントは「よいところを見つける」であった。「葉っぱの色が少しずつ変わっているところがよい」「建物の明るいところと暗くなっているところが立体感がある」などが出され,インターネット上や級友の作品を肯定的に見つめることができた。
(c) 画像などを利用し自分にとってよいと思うところを探したことは,自分に必要な情報を探す・選ぶという情報収集の基本的なあり方を学ばせたことにもなった。
(2) 課題等
(a) インターネットを使って絵画を見る場合,接続の環境が大きく影響するということが分かった。本校の場合、稼働環境にもあるように20台のコンピュータに対してISDN回線とはいえダイヤルアップ接続1本のみで行われているために,画像が表示されるのに非常に時間がかかった。1枚あたり数分もかかっては,見ることができるのは1時限でせいぜい5〜6枚である。これでは児童の見ようとする意欲が減退してしまう。実際に待っているだけで時間が過ぎてしまい意欲を失っている姿が見られた。
(b) インターネットにある絵画を鑑賞に使う場合,始めのページに小さな絵画の画像が1 0枚程度紹介されていて,必要な場合に画像をクリックするとその絵の大きな画像のペ ージに行くという作りのサイトが使いやすいことがわかった。
使いやすいと感じたサイトは,「ふくやま美術館」「楽しい絵画教室」「こどもの絵画展」などである。国立西洋美術館など,いくつかの美術館サイトでは,目録の文が列記してあり,そこをクリックすると絵画画像になるという形になっているが,これは鑑賞の授業には使いづらい。一度見た画像が視野からなくなってしまうからである。
(c) 鑑賞のポイントは一度にたくさん見せないことだと思われた。5点とか10点程度の中から「自分の好きなところを見つける」というやり方が、特徴をつかみやすく児童にはよかった。量が多いのは考えがまとまらず効果的でない。
(d) インターネットである程度の量の絵画を見せるには,20台に1本の電話回線というような環境では,きわめてむずかしい。1枚開くのに時間がかかりすぎる。このような場合は,絵画画像をダウンロードして1カ所に保存しておいて見ることができるようにする必要がある。しかし,これでは児童にインターネットを利用させるという趣旨から外れてしまい,そのうえ教師側にそれを行う知識や技術と時間が必要となってしまう。
(e) 描画の学習においては,参考作品を見せて描かせるだけでなく,適切な支援が必要であった。参考になったサイトは「楽しい絵画教室」で,参考にした文献は酒井式描画指導法シリーズであった。描いている児童への支援はそれに基づいて行った。
ワンポイントアドバイス |
主な参考文献
1. 永野和男監修「こねっとプランの学校で気軽に使おうインターネット」高陵社書店 1999
2. 文部省「先生のためのインターネット活用ガイドブック」日本教育工学振興会 1999
3. 酒井臣吾「酒井式描画指導法4」明治図書 1994
利用したURLなど
1. 楽しい絵画教室 http://www.fsinet.or.jp/~sakai/ (1999.11.12現在) (図1内画像使用承認済)
2. こどもの絵画展 http://www.ph-hyogo.com/child/ (1999.11.5)
3. ふくやま美術館 http://www.hiroshima-u.ac.jp/japanese/fukuyama/f-museum/museum.html
(1999.11.5
4. 国立西洋美術館 http://www.nmwa.go.jp/col/col-j.html (1999.11.5)
5. ヤフーきっず http://kids.yahoo.co.jp/ArtSoup/Museums_and_Galleries/ (1999.11.5)
http://kids.yahoo.co.jp/ArtSoup/Young_Artists/ (1999.11.5)
実践グループ名簿 松本史彦,近澤裕子,熊谷裕行,伊藤勝康