インターネットを活用した国際理解教育の指導
副題 〜タイ日本人学校との交流〜

 

仙台市立第一中学校 曽根 秀樹 福嶋 政一 横山 裕 第1 学年

キーワード 中学校T年,国際交流・情報教育,タイ,ドイツ,デンマーク,ポジションペーパー


インターネット利用の意図

 国際化が進む中にあって,次代に生きる日本人を育成するためには,これからの学校教育において,自分たちの国の文化と伝統を大切にする態度を重視するとともに,諸外国の人々の生活や文化を理解し尊重する必要がある。

 このため,各教科等の改善にあたり,日本人としての自覚やものの見方,考え方についての基礎を培うとともに,世界と日本の関わりに関心をもち,国際社会に主体的に生きる日本人としての基礎的資質を養うことが重要であると考える。

 また,最近のコンピュータの活用は文字情報のみならず,音声・映像・グラフィック等の多様な表現メディアを統合的に利用したり,対話的にやりとりのできるネットワーク化が進んできた。活用範囲も一層広まり,学校・家庭・地域はもとより国内外との情報のやりとりが可能になってきている。今後は教科等の特性に応じてコンピュータを手段や道具として活用し,情報及び情報手段を主体的に選択し,活用していくための個人の基礎的資質を育成することが重要であると考える。


1 国際理解〜タイ日本人学校との交流〜
 今後,必要とされる基礎的資質である国際理解と情報教育の二つを組み合わせ,インターネットを活用した国際理解に取り組むことにした。
 具体的にはドイツ,デンマーク,タイの3カ国について取り上げる。ドイツについては,1年1組の保護者にドイツに住んでいた経験のある保護者がおり,先日もドイツに行ってきたばかりで,身近な情報を知ることができる。デンマークについては,同じく保護者にデンマーク語を翻訳する方がおり,文化や伝統に詳しい。タイについては本校出身の教員が日本人学校の教師として派遣されており,タイの日本人学校との生徒とも交流することが可能な状況にある。
 今回は第1次から第4次に分けて単元を組んだ。第1次から第2次は電子掲示板を用い,生徒の意見の集約し,それを元にドイツやデンマークについて保護者からそれぞれの国の様子を聞き,国際理解を深めることにした。電子掲示板はネットワークにつながっているコンピュータから文字の書き込みや写真が掲載できるホームページである。意見のやりとりの様子が記録され,誰がどういう発言をしたのかがわかる。意見の集約方法として,ポジションペーパーを用い,ある課題に対して自分の考え方や立場を述べることにする。そうすることにより,活発な意見交換がなされると考える。
 第3次については,電子掲示板の使用,意見の集約の方法等は第1次から第2次と同じである。違う点はネットワークを用いて情報を収集することである。保護者から直接,話を聞くのもいいが,頻繁に学校に来ていただくのも限るがある。電子掲示板の場合,それぞれが都合のいい時間に質問の受け答えを行えばいいので,幅の広い情報のやりとりが期待できる。
 第4次は情報発信である。第1次から第3次までは,保護者やタイ日本人学校の生徒や教師から情報を受信する方である。情報を発信する側の態度の育成も重要な基礎的資質と考える。具体的にはタイの日本人学校の生徒が感じている仙台の情報を元に,校外学習の活動の中で,取材をしたり,写真を撮ってきたりして,1年1組の独自のホームページを作成することにする。こうした活動を通して,情報モラルを習得させていきたい

2 ねらい
(1) 国際理解分野における目標
(a) 異なる文化や習慣をもった人々と偏見を持たずに交流し,ともに生きていくための資質や能力の育成
(b) 歴史,文化,伝統,習慣の理解と尊重
(c) コミュニケーション能力の形成

(2) 情報教育分野における目標
(a) あふれる情報の中で情報を主体的に選択し,活用できる資質や能力の育成
(b) 情報を受信したり,発信したりする能力の育成
(c) 情報機器の活用
(d) 情報モラルの習得

3 指導計画(9時間扱い)
表1

段階

題材名

題材のねらい

指導内容

時数

第1次

ドイツについて知ろう

国際理解1),2)

情報教育1),3)  

・ドイツの文化や習慣に対する理解と関心を深める。

・電子掲示板を用い,ものの見方,考え方についての基礎を培う。

2

2次

デンマークについて知ろう

国際理解1),2)

情報教育1),3)

・デンマークの文化や習慣に対する理解と関心を深める。

・電子掲示板を用い,ものの見方,考え方についての基礎見方,考え方についての基礎を培う。

 

2

3次

タイについて知ろう

国際理解1),2),3)

情報教育1),2),3

 

・インターネットを活用し, タイの文化や習慣に対する理解と関心を深める。

2

本時1/2

4次

情報を発信しよ

国際理解3)

情報教育2),3) ,4)

・タイの日本人学校から寄せられた情報を元に,ホームページを作成する。

3

               

4 指導の実際及び結果
(1) 第1次並びに第2 次の指導の実際及び結果
(a) 題材名「ドイツ(デンマーク)について知ろう」
(b) 題材のねらい
・ドイツ(デンマーク)の文化や習慣に対する理解と関心を深めることができる。・電子掲示板に自分の意見や考え方を記入することができる。
(c) 活動の展開
・電子掲示板を用い,各国の授業の様子,昼食の様子,放課後の様子について,仮想データを記入する。それを基に,ポジションペーパーを用い,意見交換を行う。
・事前に保護者とそのやりとりのデータを見せ,次時に授業の様子,昼食の様子,放課後の様子を講演していただく。その後,生徒に感想を書かせる。

(2) ドイツについて
(a) 授業について(仮想データ)
・1 日6 時間以上授業がある。休み時間は5 分,昼休みは10 分ぐらいだと思う。
・学校は制服である。私服の学校もある。
・数学,音楽,体育,英語,社会,科学等の教科がある。
(b) 昼食について(仮想データ)
・パン,ジャガイモ,牛乳,肉,サラダを食べている。
・教室で,みんな同じ物を食べている。
・食堂で食べるところもある。
・主食は野菜,パンで,魚介類はたべていないそうである。
(c) 放課後について(仮想データ)
・部活動を頑張っている。
・塾へ行っている。
・買い食いをしている。
・恋人と帰る。
(d) 意見交換の内容は
 http://www2s.biglobe.ne.jp/~msmf/link/rsb2/rsn.cgi?./k2.dat を参照。
(e) 保護者の講演の要約
・6 歳になると小学校に入学する。
・小学校4 年生になると,ギムナジウム(中学校)にいくか,リアルシューレ(2 番目のレベル)に行く。
・ギムナジウムやリアルシューレに進学できない時はハウプシューレに進学する。
・ギムナジウムに進学するには大変な競争がある。試験はなく,小学校4 年生までの成績で決まる。
・ギムナジウムの生徒だけが大学に進学することができる。
・大学に入学できるのは,19 歳からである。博士号を取って,大学を出ると28 歳になる。
・授業科目は日本とほぼ同じである。
・外国語は英語である。そして,第2 外国語も習っている(フランス語,古代ラテン語,スペイン語,イタリア語,ロシア語)。外国語にとても興味のある生徒は第3 外国語(日本語,中国語,古代及び現代ギリシャ語,オランダ語,スウェーデン語,フィンランド語,ノルウェー語)も習う。
・家庭科は学校では教えない。女子は母親から教わる。
・宗教の時間がある。但し,強制ではない。
・制服は無い。古い大学では,何人かは制服を着ている。
・授業は7 時40 分からで,45 分授業である。
・午前中に授業は終わる。
・昼食は家に帰って食べる。学校で昼食をとってもよい。
・午後2 時まで家で勉強している。よその家に遊びに行ってはいけない習慣がある。その後は,街に行ったり,サッカーをしたり,水泳をしたり,自由である。
・塾はドイツに無い。勉強は自分で頑張るか年上の子どもに聞く。アルバイトでお金を払って勉強を教えてもらうこともある。
・テレビはあまり見ない。見ても月〜金曜日は1 時間程度,週末は2 時間程度である。
(f) 生徒の感想(一部抜粋)
・テレビのことで,あまり面白いテレビが無くてかわいそうに思った。
・ドイツのパンは堅いそうで,日本とやっぱり違うなと思った。
・大人になったら,ドイツに是非,行ってみたい。
・テレビを見る時間が少なく,ドイツの子は頭がいいのかなぁと思った。
・食事がほとんど堅い物しか食べないと聞いたとき驚いた。
・ドイツについて,ヒットラー,ベルリンの壁しか知らなかった。
・学校制度は,子どもの未来をきちんと考えているなぁと思った。こんな生活がいやだなぁと思うけど,ダラダラ遊ぶよりきちっとした生活を送るドイツの人々は未来が期待できるなぁと思った。
・ドイツには午後の授業がないことがうらやましかった。でも,その分,自分で勉強するということが偉いなぁと思った。
・英語の他にいろいろな国の言葉を習うと聞き,ドイツの学校でなくてよかったと感じた。
・試験はしないで,今までの成績で大学に行ける,行けないが決まってしまうのは,いつも緊張していないといけないような気がする。

5 次の指導の実際及び結果
(1) 題材名「タイについて知ろう」

(2) 題材のねらい
・タイの文化や習慣に対する理解と関心を深めることができる。
・電子掲示板に自分の意見や考え方を記入することができる。

(3)活動の展開(表2 参照)
(a) タイについて
(b) 授業について(仮想データ)
・午前中に勉強が終わりそうである。
・みんな静かに授業を受けている。
・休み時間は5 分,昼休みは3 分である。
・科目は,国語,数学,英語などである。
・部活動は5 時間で,もう大変である。
(c) 昼食について(仮想データ)
・給食が無く,家で食べている。
・昼は,パン,サラダ,牛乳,肉類を食べている。
・もし,給食があったら,食堂でおしゃべりしながら食べている。
・いや,タイは給食で食堂はなさそうである。
・昼はカレー,パン(ナンのようなもの)やサラダを食べていそう。
・給食は45 分ぐらいである。
・カレーの中身は主に野菜,肉など。
(d) 放課後について(仮想データ)
・勉強している。
・塾へ行っている。
・彼女とデートしている。
・部活動を頑張っている。
・みんなで遊んでいる。
・3 〜4 時間,テレビを見ている。
・お風呂に入って,疲れて寝る。
・ゲームをしている。

図1          保護者の講義の様子     図2

4)活動の展開

表2

段階

  活動の内容

生徒の予想される活動

 指導上の留意点

 評価など

活動の導入

1.挨拶をする。

2.本時の活動内容を知る。

3.コンピュータのスイッチを入れる。

 

 

 

 

活動の展開

4.電子掲示板にアクセスする。

5.班の代表に仮想な考えを発表し,それに基づき,意見交換を行う。

1)タイの授業の様子について,ポジションペーパーを元に意見交換を行う。

2)タイの給食についについて,ポジションペーパーを元に意見交換を行う。

 

3)タイの放課後の様子について,ポジションペーパーを元に意見交換を行う。

 

 

・暑いから授業時間が短い

・科目は少ない

・宿題は無い

 

・辛いものがでる。

・アイスも出そう。

・給食は無い。

・塾に行って勉強する。

・テレビを見て,過ごす。

・電力があまり無いので,すぐ寝る。

40台,一斉にアクセスする回線が混乱するので,2人で1大使用させる。

・タイからインターネットを通して情報が入ってきた場合,意見交換を行う。

・タイに情報について知りたい分野があったら,電子掲示板を通して,質問してもいいことにする。

・時間によって,3)についてふれることができないことが予想される。そのときは次時に行うようにする。

・電子掲示板にアクセスすることができたか

・電子掲示板に自分の考えや意見を記入することができたか。

活動のまとめ

6.本時のまとめ

・本時の感想を電子掲示板に書かせる。

7. コンピュータのスイッチを切る。

8.挨拶をする。

・おもしろかった。

・タイは不思議な国だ。

 

・タイの文化や習慣に対する理解と関心を深めることができたか。

・いす,マウス等をきちんと元に戻すことができたか。

 

意見交換については
http://www2s.biglobe.ne.jp/~msmf/link/rsb2/rsn.cgi?./k3.dat参照。

6 考察及び今後の課題
本実践では,中学校1学年の生徒に対し,インターネットを活用し,国際理解教育を行ってみた。以下では,その結果を考察する。

7 情報教育についての検討
コンピュータに触れることにより実践前と変容した点は次の通りである。
・3 人で1 班で活動を行ったので,わからない点は教え合うようになってきた。
・ローマ字打ちの指導も行ったので,テキストが早く打てるようになった。ポジションペーパーを用い,意見交換を行ったので,自分の考えをしっかり表出できるようになった。
・発言の大切さを知り,言葉を選んで発言するようになった。
・他人の意見に対し,賛成や反対の意見を言えるようになってきた。
・普段,授業に手を挙げない生徒が意見をたくさん書くようになってきた。
・コンピュータに数多く触れることにより,苦手意識が薄らいできたようである。

8 国際理解についての検討
この実践を通して,変容した点は以下の通りである。
・外国に対する興味関心が広まった。
・共通点,違う点を見つけだすようになってきた。
・日本と対比して,物事を考えるようになった。
・外国の制度に疑問を持つようになってきた。
・日本の未来に対し,危惧する意見があった。

9 今後の課題
今回の実践は,総合学習を鑑み,指導実践を行ったきた。所期の課題は達成された。しかし,指導上の内容については課題の精選やネットワーク環境の設定に課題を残した。総合学習への試み,緒についたばかりである。ホームページの作成は指導時間の関係で,今回の実践から割愛させていただく。資料3 を使用し,実践を継続していきたい。

ワンポイントアドレス

1 コンピュ−タ室、利用時間の確保

2 交流学校(日本人学校、保護者)との打ち合わせむを綿密に行う

  http://www.yamazaki-kk.com/~soft3/cross/sk2.htm(参考)


 参考文献
 「ポジションペーパーの書き方」(ネットワーク版)
 兵庫教育大学学校教育研究センター 成田 滋 

利用したURL
 
バンコク日本人学校の紹介のHPです
  http://www.inet.co.th/cyberclub/kosum/

タイレポート(現地校)
  http://www.ace.or.jp/poem/thai/thai_report.html

レポートの書き方
  http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp/naritas/syllabus/report.html