オンラインディベート・パッケージの開発
―より参加しやすい企画を目指しての工夫・検討―

宮城県私立東北学院中学高等学校 名越 幸生
キーワード ディベート,学校間交流,インターネット,電子メール


インターネットの利用の意図
 実際に参加してオンラインディベートを体験しない限り,企画のメリットは生徒たちに伝わらない。この当たり前のことに,企画側として謙虚に着目する必要がある。「さあ,いらっしゃい」という受け身,もしくは「さあ,この通りにやりなさい」という押し付けの姿勢では,企画が閉じてしまい,より良い教育実践としての発展が見込めないのではないだろうか? そこで,オンラインディベートをマニュアル化して形式を整えることと,参加者のニーズに応え,より多くの参加が得られるための方法を模索する。


1 「オンラインディベート」を進化させねばならない
(1) 「オンラインディベートの多様化」のねらい
ディベートのすべてのコンテンツをネットワーク上で行なう『オンラインディベート(以下,オンDとする)』は,1997年の開始以来,生徒たちで4回,教員同士で1回の計5回が行なわれ,新しいネットワークコミュニケーションのあり方を提示しつつ,ディベートをより手軽に取り組める企画として発展してきた。
 今までは,ほぼ同じ年代の高校生同士で行ってきたが,今回,生徒たちの交流の幅を広げるべく,4種類のオンDを開始した。
(a) 中高生ディベート
対象は中高生である。今まで通りのディベートである。
(b) オープンディベート
 子どもから大人まで,参加者の年齢制限を設けず,対等な立場で議論してもらう。IRC(インターネットリレーチャット)による質疑応答が可能なことを参加条件とする。
(c) マイクロディベート
 立論と反駁の作成を助けるフォーマットを利用することに加えて,作文の量自体も短くし,短時間で終了できるディベート,また小学生でも参加できるディベートを目指す。

★ 立論フォーマット(ラベルを1つのみとする) ★
私は,テーマに(賛成します|反対します)。
その理由を一言にまとめると,『  (ラベル:20文字以内)  』です。
これをくわしく説明すると, 〜〜〜 (400文字以内) 〜〜〜。
だから『  (はじめと同じ)  』となります。
このことはとても大切で,なぜかというと,〜〜〜 (400文字以内) 〜〜〜。

 反駁フォーマット 
あなたは『 (相手の20文字以内のラベル) 』と言いました。
しかしそれは 〜〜〜 (200文字以内) 〜〜〜と思います。
そう思う理由は 〜〜〜 (400文字以内) 〜〜〜です。
だからあなたの意見より,私の意見『(自分の20文字以内のラベル)』の方が大切です。

(d) 小論文対策ディベート
 高校生を対象とする。過去に出題された大学入試における小論文の論題について,メールで出題年,大学名,学部・学科名を知らせてもらい,その内容に深く関わるディベートの論題を作成し,オンDを行なう。
 実際にその論題について調べ,考え,作文をし,互いの文章を交換すること,またディベートで勝つために,より良い論理展開を考案することが,総合的に小論文対策となる。

 

立論

反駁

質疑応答

中・高生ディベート

1,200文字以内

800文字以内

公開質問状方式
100文字以内で5つ以内

 

2,000文字以内

1,200文字以内

公開質問状方式
100文字以内で5つ以内
+IRCによる質疑応答10分

マイクロディベート

ラベルは1つのみ800文字以内

600文字以内

公開質問状方式
100文字以内で3つ以内

小論文対策ディベート

1,200文字以内

800文字以内

公開質問状方式
100文字以内で5つ以内


(2) 「オンラインディベート・パッケージ(オンDパック)」作成のねらい
 
オンDパックとは,オンDへの参加者と運営側の作業負担を軽減するために,HTMLとCGI , JAVA等で開発された補助的インターフェイスプログラムのパッケージである。
オンDパックの開発の狙いは,以下の3つである。
(a) 論題と判定意見を幅広く収集するためのフォーマットを提供し,企画自体のマンネリ化を打破し,常に質を向上させつつ,新鮮な議論を展開する効果がある。
(b) 参加者の興味・関心をスムーズに反映させることにより,不本意なディベートの対戦を極力避け,参加者のディベートへの参加意欲を保つ効果がある。
(c) 運営側の負担軽減し,複数のオンDを同時に展開することを可能とする。
(3) 指導目標
 
オンDを参加しやすい形に改善することにより,以下の二点の実現を目標とする。
(a) ネットワークコミュニケーションの体得のための優れたドリルとなる
 
オンDは,ネットワークやその関連アプリケーションを使う必要があるので,ディベートを楽しみながらそれらの活用を体験する好機となる。また,オンDに繰り返し参加すること自体が,ネットワークコミュニケーションの訓練となる。加えて,判定基準の提示が,望ましいネットワークコミュニケーションのあり方の提示となっている。オンDでの経験が次のネットワークコミュニケーションに活かされること期待する。
 
加えて,様々な形のディベートの経験が,ログとして蓄積され,かつ閲覧できることは,インターネットの活用が広がる今日に,教科書的な役割を果たす。
(b) 幅の広い方々とのコミュニケーションによる,人間形成や心の教育の場とする
 
インターネットによるオープンな企画は,世代・環境・境遇の違う人たちとのコミュニケーションを可能とする。そこには多少の障害が生じるが,ディベートのフォーマットがコミュニケーションを成立させるように作られており,加えてメーリングリスト等によるサポート態勢も整っているので,最後まで議論の意欲を保ち続けることができる。このようにして行われる相手とのコミュニケーションこそが,自らの成長を促すと考える。
(c) 利用環境心配ご無用!ハードやソフトに依存しない企画を目指して!
 オンDへの参加のために必要なものは,以下の2つである。
・WEBブラウザ(ブラウザの種類の指定はない)
・メールアカウント(メールソフトの種類の指定はない)
・(オープンディベートに参加の場合のみ)IRCソフト
・その他,OSや使用機種,及び学校のパソコン保有台数に依存しない。
 オンDのWEBページは,フレームやスタイルシートに対応していないブラウザを利用しても不都合なく参加できるように,また,特に福島盲学校の参加に支障がないように,アクセシビリティー対応のページを用意するなど,運営側でも注意を払っている。
 なお,オープンディベートに参加するためのIRCソフトはフリーソフトである。IRCサーバは,東北学院高校で稼働中である。
(4) 利用場面
本企画では,全てが様々なインターネット技術を活用した学習活動となる。
(a)  WEBブラウザの活用
 オンDの要項の確認から,他の人たちのディベートの様子を見て参考にするなど,WEBブラウザを用いて入手する情報は多い。教員が特段指導をしなくても,生徒たちはWEBブラウザを活用,その使用方法を体得している。
(b)  メールソフトの活用
 参加の手続きから,実際のディベートの際に相手と意見をやり取りするまで,全ての発言はメールソフトを用いての発信となる。生徒たちを見ていると,メールソフトの使い方を知っている生徒が,知らない生徒に使い方を少し教えるだけで,あとはオンDに参加しているうちにメールソフトの扱いになれていくようである。
(c)  メーリングリストによるコミュニケーションの体験・活用
 特定の相手とメールのやり取りすることと,メーリングリストに発言を投稿し,複数のメンバーで意見を交換し合うのとでは,生徒の負担が違うようである。そこで,メーリングリストで発言できるようになるまでは,教員のサポートが必要になる。
 オンDでは,肯定側・否定側のそれぞれのメンバーでメーリングリストを作り,ディベートの行き詰まりを相談したり,作戦を共有できるようになっている。
(d) 証拠資料の検索
(e) 手元にある証拠資料をまとめ,プレゼンテーション用のファイルを作成する
(f) 証拠資料のアップデート
 デジタル化した証拠資料を利用できるのは,オンDならではである。論証に必要な証拠資料を,インターネットを用いて検索し,それを立論や反駁からハイパーリンクすることも可能である。また,手元にある証拠資料を表計算ソフトを用いてグラフ化したり,説明に有効なイラストを作成し,提示することも,議論の説得力を増す場合がある。あとは生徒のアイディア次第である。このようなネットワークの活用は,それだけでメディアリテラシーの評価対象となる。オンDでは,このような論証に対して特別加算して推奨し,より効果的なネットワーク活用のみられるディベートが多く展開されることを期待する。
(g) IRGを用いた質疑応答
 オープンディベートでのIRGによる質疑応答では,制限時間内で相手から効果的に回答を引き出したり,タイピングの速さが求められたりなど,高度な技術を必要とする。

2 指導計画・利用場面

指導計画 
全てインターネットを活用

留意点

(1) 論題を投票する(1)

・やってみたい論題を,あらかじめ聞いておく

(2) 参加者登録を行なう(2)

・メールソフトの使い方を確認する

(3) 参加したい論題にエントリーを行なう(3)

・論題に対する興味・関心の高さや,予備知識の有無などを考慮して,生徒に論題を選択させる

(4) メーリングリストに参加する(3)

・大人数でメールのやり取りをすることに慣れていない生徒がいるので,メーリングリストへ発言することを教員側で補助する。

(5)日程の確定

参加者同士の相談で日程を確定させる。
個々に確定した日程をWEB化する。

(6) ディベートを行う

・スケジュール通りにディベートが進行するように補助する

(7) 判定を募集する(4)

・できれば生徒に,他人の対戦を判定させると良い。

(8) アフターディベートを行う

・勝敗に固執しないように,生徒にはたらきかける。

※1 論題募集時に提供してもらう項目(企画運営側が内容を検討してから公表)
ディベートの論題
論題の対象(=難易度)
(小学生向け|中学・高校生向け|大学生・社会人向け|小論文対策(高校))
その論題はディベート向きか否か?(7段階で評価 4段階が普通)

※ディベートに不向きな論題とは,
 ・肯定側,否定側のどちらかが,議論の際に有利になる
・論題に対して,肯定or否定の立場を明確にした議論をしにくい

※2 参加者登録時に提供してもらう項目
○参加者の名前(ハンドル名も可)(小・中・高校生は,本名・学校名・学年)
参加者のメールアドレス
参加者の所属 (小学生|中学生|高校生|大学生・社会人)

※3 参加エントリー
 論題ごとに参加者が確定した段階で,肯定側・否定側を機械的に割り振り(),対戦相手を決定する。また,割り振った肯定側・否定側のメンバーによる相談用メーリングリストも運営側で作成する。(今後自動化の予定)
 なお,肯定側・否定側を,参加者の希望に関係なく割り振ることは,本来のディベートのあり方に沿うものである。教育的には,自分の意見とは異なった立場の意見を真剣に考える好機になると評価されている。

※4 判定投票
 ディベートを評価する客観的判定基準に基づいた採点結果を提供してもらう。最終的には担当審判が投票を参考に判定する。
【観点1】文章は読みやすく,理解しやすいか 
【観点2】文章の論理性は優れていたか    
【観点3】相手と議論をかみ合わせていたか  
【観点4】資料が議論に活かされていたか
インターネット上にあるデータをリンクし,証拠資料として用いた時には4点以上を配点する。
主張の内容を説明するイラストを作成し,それをWEB上に公開して,発言からリンクさせた時には,4点以上を配点する。
手元にある証拠資料をまとめ,オリジナルのプレゼンテーション用デジタルデータを作成し,それをWEB上に公開して証拠資料とした時には,5点以上を配転する。
【観点5】字数オーバーや非礼行為がなくディベートの秩序が守られていたか。 
以上,各7点満点(
普通が4点)
【観点6】ディベートの最後まで残り,主張を支持する良い働きをした,説得力があった論点を書いて下さい。また,その論点にプラスの点数を付けて下さい。なければ0点として下さい。
肯定側・否定側に関してそれぞれ,論点をテキストにより自由記述。
 記述された論点に対して点数を付ける。点数は0〜10点
【観点7】ディベートの途中で,相手側に否定されてしまい,主張しきれなかった論点を書いて下さい。また,その論点にマイナスの点数を付けて下さい。なければ0点として下さい。
肯定側・否定側に関してそれぞれ,論点をテキストにより自由記述。
 記述された論点に対して点数を付ける。点数は−10点〜0点
【観点8】その他,オンラインディベートとしてユニークであり,誉められる点を特別加算して下さい。なくても構いません。
     特別加算は,肯定側と否定側の点数計が5点以内とする。
肯定側・否定側に関してそれぞれ,判定者の着眼点をテキストにより自由記述。
 記述された論点に対して,合計で5点以内の点数を付ける。

3 今後の予定
 現在,新しい形のオンDフォーマットを提示するために,WEBページを更新している最中である。それが整い次第,マイクロディベートのテストマッチを行なう予定である。オンDの経験者・OBのほか,宮城県の小学校の先生方に検討をお願いしている。
 本報告をご覧の方から是非,御意見や御助言を賜りたいと願う次第である。

ワンポイントアドバイス
 
各々の参加者の日程調整をするのに困難があった。複数の学校で一つの企画を行なうということは難しいので,綿密な計画と連絡の取り合いが大切である。そんな中,運営側の状態に依存しなくとも企画が進行するための土台作りのための相談が,メーリングリストでなされた。個人ベースの参加と学習を基本とした学校間交流の模索である。
 また,企画側は,外部の協力者を受け入れ,十分に連携を取り,タスクが集中することを避けつつ,自然と全体が動くようにすることが大切であると思われる。


参考文献
 
マイクロディベートの指導・20のコツ(学事出版)授業作りネットワーク別冊

利用したURLなど
オンラインディベートホームページ(http://www.jhs.tohoku-gakuin.ac.jp/debate/ond/)