「あなたも遊具がつくれます!!」

秋田市立川尻小学校 藤谷 健一

キーワード 小学校,生活科,体育科,特別活動,総合的学習の時間,ふるさと教育,遊具,ものづくり,インターネット



インターネット利用の意図

 子供たちは,「〜ができる遊具があれば楽しいのにな…」「この遊具,(つくりが)〜になっていれば〜ができるのにな……」と思いながらも,「でも,自分じゃ作れないし,かといって作ってくれる人もいないし…」ということであきらめていることが多い。
 これはある意味では仕方のないことであった。遊具の製作にはそれなりの構造力学的な知見,製作に関するノウ・ハウや技能,予算等が必要になってくるからである。しかし,インターネット環境の普及に伴って,遊具を含めた「ものづくり」に必要な知見やデータの取得,専門分野の人たちとの情報交換や交流による技術的情報やノウ・ハウの取得等が可能になってきた。
 今回,このような背景を踏まえながら,遊具模型及び遊具の製作を通して,「自分たちでも遊具づくりに参加できるんだ!!」「ぼくたちでも遊具が作れるんだ!!」という効力感を味わわせ「ものづくり」に対する興味・関心を高めるため,インターネット環境を活用した遊具や遊具模型の製作に取り組むことにした。また,これにより,力学的な知見
やノウ・ハウ,技能を体系的に培うカリキュラムの在り方,即ち,「ものづくり」を大事にした教科や「総合的な学習の時間」のカリキュラムの在り方も明確になると考えた。



1 遊具はこうやって作るんだよ!!
(1) ねらい
(a)  児童に関して
(ア)インターネット環境を活用して遊具の製作に必要な情報(知識,データ等)を取得したり,情報交換したりしながら遊具模型や遊具を製作する。
(イ)遊具模型や遊具の製作を通して実際の遊具の構造や活用の在り方についての興味・関心を高めたり,見方・考え方を広げたりする。
(ウ)遊具づくりに参加したり,遊具の活用の仕方を考える。
(b)  教師に関して
(ア)環境を生かした遊具の作り方や活用法等をインターネット環境を活用して公開・交換することで,原体験をより豊かにしていくための「遊具づくり」の在り方を追究していく。
(イ)保護者,地域の教育力を活用した「遊具づくり」の在り方を追求していく。
(2) 指導目標
(a) 環境の特性を見極めながら,学校生活を楽しくする遊具を考える。
(b) 安全性の確保が遊具づくりにおいて最も重要な条件であることに気付く。
(c) 遊具の安全性確保のため,部材の強度や組み立て方,施工の仕方などが問題になってくることを知る。
(d) 実際の遊具の構造や施工の仕方に関心をもつ。
(e) インターネット環境を活用して必要な知識やデータを取得したり,見方・考え方を交換できることを知る。
(3) 利用場面
(a) 遊具製作に必要な知識やデータを取得したり,製作過程において必要な情報を交換する場面   → 「どんな遊具を」「どう」作っていったらよいのか
(b) 実際の遊具の力学的な構造についての情報を取得し,遊具についての見方を広げたり興味・関心を高めたりする場面
(c) 遊具の活用の仕方を考える場面
(4) 利用環境(以下は児童が使用したもの)
(a) 使用機種  PC9821-Ce2(8台),PC9821-Xa20(2台),VAIO PCV-R30(1台),
  PROTON MX433CS-S(1台)
(b) 周辺機器  デジタルカメラ(8台),MO(2台),イメージスキャナ(2台)
(c) 稼働環境  コンピュータ室,図書室
(d) 利用ソフト ハイパーキューブJRシリーズ(キューブペイント,キューブワード,キューブカルク,キューブプロジェクター),インターネットエクスプローラ4.0,ネットスケープナビゲータ3.01,ピクチャーギア3.2,スマートキャプチャー2.1

2 指導計画

 

 

児   童   の   活   動

 

 

支  援  活  動  等

 

 


遊具アイデア募集
6H

<企画委員会児童,サイエンスクラブ児童>


・現在の遊具活用状況の把握と校内環境の調査に基づく遊具建設場所の選定
→ 設置可能な遊具にどんなものがあるのか,HPを閲覧したりしながら参考例を見ておくよう にする★
 
・遊具アイデア募集の呼びかけ実施(放送,ち らし等で)
→ キューブシリーズの活用によるちらしやプ レゼンテーションの作成☆


 
<学年・学級>
・場所を考えてアイデアスケッチを作成する。

 

・遊具づくりに対する意欲を喚起する情報を提供する(遊具の人気度と校地の利用状況等)


・リンク集を作成しておく★

・遊具や校地の現状等の写真をデジカメで撮り,放送で示しながら訴えるようにする。☆Picture Gear3.2 → 場所の特徴を生かした遊具製作のため
・ちらしや放送用のプレゼンテーションの作り方☆

・木製遊具をつくることを示す。

 

 


製作する遊具の決定
7H

 

<各学年・学級>

・アイデアスケッチの代表作決定(3枚,学級会 等で)
<サイエンスクラブ児童>
・遊具アイデアの骨組みを実際に組み立ててみ ながら,強度や固定法等,製作で重視すべき力 学的な視点の意味をとらえる。(図1)
・遊具製作では,安全確保のため,部材の強度や組み立て方,施工の仕方等が大事になってくることを紹介する。
<企画委員会児童>
・サイエンスクラブの情報も考慮して,実際に作ってみたいアイデアスケッチを決定する。
・製作が決定した遊具の特徴を紹介する

 

・可能な遊びの種類や数,遊具の周囲のものとうまく組み合わせて遊べるか等を考えて決めるように助言する。


・遊具製作に必要になってくる視点を豊かにできるように,専門家や他校児童との情報交換の機会を設定する(HP,E-mailやTV会儀システム(Phoenix)の活用により)。★
・サイエンスクラブ員が作成したプレゼンテーションを活用する☆
・校内放送を活用する。

 

 


遊具模型及び遊具の製作
11H

 

<サイエンスクラブ児童>
・作ることに決まった遊具模型を製作しながら,部材の選定や組み立て方,施工の仕方等のモデル実験をする。


 設計図作成,実験結果のまとめ等作成
・遊具模型の製作やモデル実験の結果等をまとめる。(プレゼンテーション)
Cb プロジェクター
<企画委員会児童>
・サイエンスクラブの児童が提供してくれる情報を参考にしながら,実際に遊具を製作する業者や保護者と製作について相談する。
・製作過程を見て,今後の活用法を考える。


<各学年・学級>
・「夢祭り」での遊具の活用を考える。

 

 

・材料(部材や締結材等)の種類や組み立て方によって強度が異なってくることをとらえることが出来るように,資料を提示したり,HPを閲覧すればよいことを示唆・助言したりする。★
・キューブシリーズ活用 ☆

・E-mailやTV会儀システム(Phoenix)等の活用により,業者や遊具づくりを行っている学校と情報交換しながら製作活動を進めるように示唆・助言する★

・各部分の機能を生かした活用法を考えることができるよう相談に応じたり,助言したりする。

 

 


遊具
模型

の活用
9H

 

 

 

<各学年・学級,企画委員会,サイエンスクラブ>

・「川尻っ子 夢祭り」の実施・評価(図2)
<企画委員会児童,サイエンスクラブ児童>
・「川尻っ子 夢祭り」の様子をHPやE-mail,TV会議システム(Phoenix)等で紹介
  → CbワードやプロジェクターのHP書き出し機能を活用して様子を紹介したり,情報交換したりする。★☆
・遊具模型の製作や模型の強度実験の様子などをHP化する。→ HP書き出し機能活用★☆

 

・遊具の活用の仕方を評価する。★☆

 

・デジカメなどで活動の様子の記録を取っておくことを助言する


・資料として何を使ったらよいのか等,助言したり相談に乗ったりする。

 

・3で作成したプレゼンテーションの構成を吟味・検討して作成する 。☆★


・他校等との情報交換結果も参考にしながら評価を行うように助言する。

 


 


今後の活動計画作成
6H

<サイエンスクラブ,企画委員会,各学年・学級>

・遊具の活用法の追求(事例の蓄積)
・今回作成したもの以外の遊具模型及び遊具の開発
  
 活用事例や開発遊具のHP掲載による情報交換や交流の促進★☆
  
 秋田市立上北手小学校,河辺町立戸島小学校等,今回情報交換を行った学校の情報も紹介 していく。

・遊具開発に資するデータベースの充実
 開発の相談に対応できるようにする★☆

 

・校内放送等のメディアも活用して,ユニークな活用法を紹介していく。☆

・動きが必要になってくる活用に関しては,動画で記録するようにする。☆Smart Capture2.1
動画の提供方法も工夫・教科,特別活動,「総合的な学習の時間」等における活用法を,類型ごとに整理し指導計画にも位置づけながら進める。

 


3 学習の展開
 以下に,指導計画3及び4について,展開の様子を紹介することにする。
(1) 指導計画3(「遊具模型及び遊具の製作」)から
(a) 目標
 部材の材質,寸法,形状,組み立て方等によって,遊具(構造物)の強度がどう変わってくるのか,実験により調べる。
 実験結果をもとに,安全で楽しい遊具をデザインする。
(b)  展開(11時間扱いのうち9時間分)

 

 

 

児   童   の   活   動

 

 

支 援 活 動 等

 


つかむ
1H

 



立てる
1H
 
 




追究する
3H


まとめる
3H


広げる
1H

 

1 各学級の代表作からさらに絞られ製作が決定した遊具をベースとして,設置場所の条件を加味しながら実際に製作する遊具のアイデアスケッチを作成する。
 ・写真を参照して設置場所の特性を押さえながら考 える。
Picture Gear3.2
 ・必要に応じて,実際の木製遊具を参照



2 木製遊具の組み立て,施工を行っている運動具店の方に,重視している点等についてインタビューする。
・使用条件の見極め(負荷の見積もり)
 ・部材の強度確保(寸法,形状,材質 等)
 ・部材の組み立て方 
 ・部材の固定の仕方(施工法 等)
 ・部材劣化の見積もり(自然条件)等

3 重要なポイントの影響を実験により調べてみる
 部材の組み立て方,固定の仕方等
 ・デジカメで実験の様子等を記録

 



4 実験の結果をまとめる。
 ・キューブシリーズを活用
☆★


5 製作しようとしている遊具のアイデアスケッチを見直し修正する。


6 遊具を作って活用している学校や専門家にE-mailの添付ファイルとしてまとめのデータとそれをもとに修正した遊具のアイデアスケッチを送って意見をもらう。

・設置場所調査時の写真をデータベース化しておき,求めに応じた参照を可能にしておく。☆


・児童の構想に有意義な関連HPのリンク集を作成しておく。


・安全性確保のための留意点を中心としてわかりやすく話していただけるように,児童の実態などを知らせる等,事前に打ち合わせをしておく。
・話のポイントの理解を促進する実物模型や写真等を準備する。


・つくりの簡単なものから実験を行っていけば,組み立て方の違いによる強度の違いがよくわかることを示唆・助言
・測定の信頼性向上のため,部材の連結には市販のネジを使用

・デジカメの記録写真を有効に活用して作成するように助言する。

・アイデアスケッチの作成者に修正個所の必要性を説明する。

・児童の願いや実態に応じたコメントがもらえるように,情報交換先と事前に打ち合わせをしておく

 

 

(2) 指導計画4(「遊具模型及び遊具の活用」)から
(a) 目標
 「川尻っ子 夢祭り」の紹介による交流や情報交換を通して,遊具の使い方を多様な視点から評価・検討する。
 他校との情報交換等も参考にしながら,活用の仕方を改善したり,新しい活用法を工夫したりする。

(b) 展開(9時間扱いのうち6時間分)

 

 

児   童   の   活   動

 

 

支  援  活  動  等

 

追究する


2H
 
 


 

まとめる
2H
 
 


 

広げる
1H

 


1 「川尻っ子 夢祭り」における遊具の使い方について検討する。
 
 効果的だった点,これからの課題等
 
 記録映像を活用Picture Gear3.2等

2 効果的だった点,これから課題となる点等を説明する際に利用できる映像資料や感想文を選択する。
Picture Gear3.2 等

3 「川尻っ子 夢祭り」を紹介するためのシナリオ,及びシナリオを構成する各部分のテキストや資料を作成する。
 
4 キューブプロジェクターを用いてプレゼンテーションを作成する。




5 Html形式に変換(HP書き出し機能を使用)


6 作成したプレゼンテーションを用いた交流や情報交換を行う(HPやE-mail,TV会儀シシテム等で)。


・遊具の各部分の特徴を十分使っていたか,どの学年で使うのがよいのか等々,視点を明確にもって評価することを助言する


・記述が具体的に理解できるような資料を用いることを示唆・助言する。

・シナリオの各部分を構成するフレームに対応したカードを準備し,これを用いて作業を進めるようにする
・カードの並べ替え等で十分吟味してからプレゼンテーションのつながりをつけていくのがよいことを示唆・助言する。


・情報交換で得た意見や見方・考え方を活用法の改善に生かしていくように助言する。

 

 

<写真資料:指導計画3に関して>

 

 

 

1 組み立て方の効果を調べている様子

 

2 「川尻っ子 夢祭り」の様子

 

 

<児童の感想文から>

 

川尻っ子の遊具 5年 K・S

 ぼくは,夢祭りの時,初めて遊具を見て「川尻小にぴったりだ!!」と思いました。
緑の多い川尻によく合っていると思ったのです。川尻小のちびっ子が遊ぶというイメージが遊具から感じられたので,勝手に遊具の名前を元太と呼ぶことにしました。元太は色を塗らなくてもいいと思うけど,ぬるなら水色や黄緑がいいと思いました。
 このまわりで1年から4年までは「川尻おんど」をおどり,ぼくたち5年生は「おとなのマーチ」を歌った。こんな元気なぼくたちに元太はぴったりの遊具だ。


4 成果と課題
(1) 成果について
<児童に関して>
(a) ホームページ,E-mail等のインターネット環境やTV会議システムを活用していくことで,目的を達成するために必要な情報(知識やデータ等)を効果的に取得できるということが実感でき,物事に対する取り組みが積極的になってきた。また,その過程で,「今,何が課題なのか?」「課題解決へのステップは?」「それぞれのステップの課題解決に必要な情報は?」「必要な情報をどこからどう取得したらよいのか?」「課題解決のための役割分担は?」等々,システマティックな問題解決の能力が高まってきた。
(b) 遊具模型の製作やその力学的な特性の測定実験により,力学的なつくり(構造)の楽しさを実感するとともに,実際の遊具のつくり(構造)や活用の在り方についての興味・関心が高まってきた。
(c) 実際の遊具の製作・施工は大人が主体となって進めたが,遊具模型の製作体験,強度の測定体験があったため,自分たちも遊具づくりに参加したという意識をもつことができた。今後この意識を活用法の改善・開発に生かしていきたい。
<教師に関して>
(a) 遊具模型や遊具の製作を通して,インターネット環境を活用した「ものづくり」の在り方に関する知見の獲得とカリキュラム開発が可能となってきた。(「総合的な学習の時間」に対する取り組みにもつながる)
(b) 「遊具づくり」に子供を参加させる手だての在り方が明確になってきた。
(2) 今後の課題
(a) 休み時間はもちろん,生活科,特別活動,総合的学習の時間 等で活用できる遊具の作り方を,求めに応じて提供できるようにする。即ち,活動の目的や活動形態に即した設計の仕方(強度計算,部材の選定,寸法の決定 等々),施工の仕方(組立法,基礎の作り方等),日常的及び長期的な保守点検の仕方 等々に関する情報を提供していく。
 この際,学校の環境(植生の状況,飼育している動物,校舎の状態や立地条件等)を生かした,環境にやさしい遊具づくりという視点を大事にする。
12年度以降も,データベースのソフトウェアとしての機能を改善していくと共に,照会に対応できる遊具の種類を増やしていく。もちろん,これらの使用例,活用例も充実させていく。なお,使用例,活用例は,教科・領域,総合的学習の時間の指導計画に組み込んでいくようにする。
(b) 遊具を使った活動例,そこにおける子どもの声,併用する活動支援資料等の公開と交流を通してよりよい遊具づくりの在り方を追究していく。

ワンポイントアドバイス
 どんな部材をどう組み合わせ,どう設置していったらよいのか?構造力学や施工法に関する知見のない子供でも,インターネット環境を活用して必要な情報を取得しながら遊具模型製作を行うことで,「ぼくたちでも遊具が作れるんだ!!」という実感と自信を獲得することができる。

 


利用したURLなど
 
建築資料館(http://www.ath.co.jp/index.html)佐賀県立聾学
 校(http://www.saga-ed.go.jp/school/edq10040/等))