遠隔教育用ソフトウェアによるコンピュータサイエンス教育事業
中学校第2学年・技術家庭(情報基礎)
福島県会津若松市立一箕中学校
教諭 石井雅彦
キーワード 中学校,技術家庭,情報教育,インターネット
インターネット利用の意図
会津大学雪田修一助教授と有限会社トライネットがIPA(情報処理振興事業協会)の「情報教育サポート事業」で開発した遠隔教育用ソフトウェアVSS(Visual
Simple Spread Sheet)を活用して,技術家庭における情報教育を実施する。
具体的には,延べ8時間のカリキュラムを設定し,視覚的に表計算の基本原理を理解できるVSSをインターネットを通じて配信され,これを担当教諭とインストラクターが共同で指導することにより,情報処理の基本的な仕組みと活用方法を習得する教育を実践する。
1 単元名「技術家庭・情報基礎」
(1) ねらい
これまでの情報教育では,いかにコンピュータを使用するかというリテラシー優先の教育が主流を占め,コンピュータの作動内容そのものを理解し,コンピュータサイエンスの基本にふれるという領域には,ほとんど関わりを持つことがなかった。今回の実践では,ソフトウェアの作動状況をできるだけ単純化し,かつ視覚的に理解する教材=VSSを使用することにより,ソフトウェアそのものの習得とあわせて,コンピュータの仕組みや内部処理過程にも興味を持たせることを目的とする。
(2) 指導目標
表計算の基本手順である「セルへの入力」「移動や削除」「計算」の理解に加え,「内部処理過程」「関数」などの理解を通じ,情報処理の基本原理を習得することを目標とする。
1) Lesson1:表計算の概要
手計算とVSSによる表計算の比較を習得させる。
2) Lesson2:VSSの操作方法
VSSの操作方法を習得させる。
3) Lesson3:セルへの入力など
セルへの入力や移動,削除,挿入などの操作手順を習得させる。
4) Lesson4:VSSでの計算
VSSでの計算を実際に行わせる。
5) Lesson5:内部処理過程(2時間)
VSSにより,表計算の内部処理過程を理解させる。
6) Lesson6:関数(2時間)
多種多様な関数をVSSで計算し,その過程を視覚的に把握し,関数の概念を理解させる。
(3) 利用場面
この学習では,全ての学習場面でコンピュータを活用する。
1) 使用機種
FMV-6266DX 20台
FMV-6300TX 1台
GRANPOWER5000 1台
Astrike B400 1台
UNIXサーバ 1台
2) 周辺機器
スキャナ EPSON GT-9500 1台
レーザカラープリンタ EPSON LP-8000C 1台
インクジェットカラープリンタ EPSON PM-2000 2台
レーザー白黒プリンタ Fujitsu XL-5300 3台
3) 稼動環境
GRANPOWER5000(サーバ)
Astrike B400(インターネット用サーバ)
FMV-6300TX(教師用)
FMV-6266DX(生徒用)
以上がコンピュータ室の環境で,専用回線でインターネット接続
4) 利用ソフト
IE4.0,ハイパーキューブ2,Windows98
VSS(Visual Simple Spread Sheet),Windows NT 4.0
2 指導計画
指 導 計 画 |
留 意 点 |
1 Lesson1:表計算の概要 |
・手計算の結果とVSSでの結果が一致することを理解させる。 |
2 Lesson2:VSSの操作方法 |
・インストラクターの数を確保し,できるだけ小人数に教える形態が効率的である。 |
3 Lesson3:セルへの入力など |
・インストラクターの数を確保し,できるだけ小人数に教える形態が効率的である。 |
4 Lesson4:VSSでの計算 |
・実際の例題を多用し,実践的にVSSを理解させる手法が効率的である。 |
5 Lesson5:内部処理過程 |
・最も重要なLessonであり,生徒一人一人が内部処理過程を理解するまで時間をかけて習得させると,その後の理解度は飛躍的に高まる。 |
6 Lesson6:関数 |
・様々な関数の概念を理解させるが,Lesson5での理解度の高い生徒は, 大きな理解を示す。 |
3 学習の展開
(1) 具体的な場面や内容
指導計画で設定したカリキュラムに沿った学習が行われた。
(2) エピソード
インストラクターが現役の大学院生のため,VSSに限らず様々な情報教育やコンピュータサイエンスの指導を得ることができ,予想外の出会いの場となった。
(3) 効果
IPAの情報教育サポート事業では,コンピュータクラブを対象とした実験を行ったが,それと比較して技術家庭の授業ではコンピュータにあまり慣れてない生徒が対象であり,いささかの不安を感じて臨んだ。しかし,ほぼ全員がVSSを習得し,予想外の結果を得ることができた。
4 成果と課題
(1) 総論
これまでインターネット環境への接続がなく,スタンドアローン状態であった本校でインターネット環境が整備されたのは,IPA(情報処理振興事業協会)の情報教育サポート事業の実証実験校となったからである。その意味で学校外との協力関係を築いたことが当校における情報教育の大いなる前進を導いたものである。さらに,IPAの実証実験にとどまらず,一般の生徒を対象として技術家庭でも同様な情報教育を行ったのがこのプロジェクトである。
当初は,クラブ活動とは異なり多様な生徒を対象とするため,はたしてVSSの有効性が示されるか不安を感じていたが,インストラクターとの協力関係を築くことによって,予想をはるかに超える成果をあげることができた。
(2) 学習意欲の向上などの成果
生徒にとって,ソフトウェアやコンピュータに対する不安感が除かれ,情報教育の学習への意欲が生じたことは第一の成果である。
また,インストラクターである大学院生との交流を通じて,コンピュータサイエンスの無限の可能性を垣間見たことは,これからの生徒の進路にとって,大きな示唆を与えたものと感じている。
さらに,いわゆる数学嫌いの生徒において,VSSを通じた学習が数学への興味を呼び起こしたことは全く期待していなかった成果と言える。
(3) 今後の課題
このプロジェクトは,IPAの実証実験校,そしてEスクエアでの採択という外部要因が大きな役割を占めている。これが,はたして学校単独で実施できたかと考えれば,そこには疑問がある。
有限会社トライネットのような民間企業の力を借りるためには,何といっても最低限の資金が必要であり,それを用意できない学校にとってはいかなる優れたソフトウェアであっても何の意味も持たない。そのような観点から見れば,情報教育はもとより,学校教育に対する周囲の理解が何よりも大切であり,西暦2001年における新学習指導要領の実施へ向けて,教育現場と行政が一体となった環境整備が重要である。
使用したVSSについては,インターネットからのダウンロードが本当に必要なのか,CD化などによりパッケージ化する方策も考えられると感じた。また,遠隔教育を本当に実現するには,インストラクターを不用とする学習支援システムの開発が求められていると感じた。
ワンポイントアドバイス |
参考文献
中学校・選択と総合的学習の新展開(明治図書)水越敏行・木原俊行編著
これからの情報教育(高陵社書店)永野和男編著
ネットワーク時代の新しい授業の創造−いま始まった遠隔共同教育
(高陵社書店)永野和男編著
利用したURLなど
Yahoo!きっず http://kids.yahoo.co.jp/
大坂教育大学 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/educ/
葛尾中学校ホームページ http://katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/
星と友達になろう http://www.lwnn.or.jp/wnn-u
平和博物館 http://www.peace-museum.org/
福島県会津工業高校 http://www.asaka.ne.jp/~aitech0/