個が生き,共に生きるたくましい生徒の育成

中学校全学年・全教科,領域
つくば市立手代木中学校
 島田 常
キーワード 中学校,全校,全教科,領域,校内LAN,インターネット,外部講師


インターネット利用の意図
 
1学年では,環境教育を進める過程で筑波大の環境グループ「エコレンジャー」との情報交換を行い,授業の打ち合わせから授業の内容・環境保全に関する情報交換をする。
 
2年生では,国際理解教育を進める過程で,外国の機関に直接アクセスして,情報を収集する。また,学習したことを学校間,研究所へ発信して情報交換を行う。
 3学年では,福祉教育を進める過程で,福祉施設へアクセスし,現状を把握し学習計画の参考にする。


1 研究のねらい
 横断的・総合的な学習や生徒の興味関心等に基づく学習などを通して,学習指導法の改善を推進し,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てる。

研究の方針
(1) 総合的な学習の内容
 総合的な学習の内容としては,国際理解・情報・環境・福祉・健康などがあげられるが,本校では,国際理解・環境・福祉に重点を置いた。昨年度,今年度とも1学年が環境,2学年が国際理解,3学年が福祉の学習を進めている。学年が進むにつれ環境−国際理解−福祉と系統的に課題に取り組んでいる。
 このようなサイクルにしたのは,1学年で,自分たちの身の回りの地域の環境に関心 興味を持ち環境に関する課題に取り組み身近な地域を知り,2学年ではさらに視野を広げ,世界へ目を向け,国際社会の中の日本について学習する事により,お互いの立場を理解し,尊重できる能力を養い,3学年では1,2学年での学習をもとに,人と人との関わりの中で,奉仕の精神や,将来の職業生活へのつながりなど,人間としての陶冶を視野に入れて学習を系統的に展開したいと考えたからである。
 また,本年度はインターネットへの接続が可能になり,校内LANも構築されることから,情報活用能力との関連も図っていきたい。
(2) 研究の方針(総合的な学習を試行する基本的な考え)
(a) 体験的な活動を多く取り入れ,生徒の主体的な活動を大切にする。
(b) テーマにそったねらい(どのような生徒像を目指すのか)を明確にすると共に,教科,道徳,特別活動の関連を検討し,教科・領域関連図を作成し学習に取り組む。
(c) 学期ごとの展開目標に沿って,具体的展開方法の明確化。
(d) 学年の活動目標に沿って,分担内容の明確化。
(e) 地域との関連,人材バンク,社会施設等の積極的な利用。
(3) 各学年の取り組みの視点
 前述の研究方針(1)総合的な学習の内容で述べたような学習を進めていくことにより,「学び」(自ら獲得していく学習)を習得し,課題解決能力,自己学習力を身につけ,実践していける力が養われであろうし,また,自らを律しつつ,他人と協議し他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性が育成されると考える。そのことにより,「共生」を根底に持ち,21世紀を力強く生き抜く生徒−「個が生き,共に生きるたくましい生徒」の育成が図られるであろう。各学年により,環境,国際理解,福祉とそれぞれに中心になる学習内容は違っても,学習を進めていく過程ではどの学年も総合的な学習が目指している国際理解・情報・環境・福祉・健康などすべての内容と重なり合う。特に情報教育はすべての学習内容の基礎となるものであると考える。
 そこで研究を進めていく上で各学年で共通する方法として,次のようなことを考えた。
(a) すべての学習内容の基礎となる情報教育を積極的に進め,生徒の情報活用能力を高め,実践する。
 そのためには,校内の情報教育環境の整備が必須であり,本校はつくば市の新しい試みであるNTTボランティアグループ(ネットピング隊)を中心として,他のボラン ティアとも協力をして情報教育環境を整備するという事業のモデル校として,現在整備が進みつつある。(現在は校内LAN構築,イントラネットの整備を進めている。)
 今年度の生徒会のリーダ講習会(生徒対象)では,コンピュータの講習を行い,その生徒たちが中心となり他の生徒へ伝達し生徒同士でコンピュータの活用を進めていく。
(b) 体験的な活動を多く取り入れ(特に1学年),生徒の主体的な活動を大切にする。
(c) テーマに沿ったねらい(どのような生徒像を目指すのか)を明確にすると共に,必修教科・道徳・特別活動との関連を検討し必修教科・領域関連図を作成し,学習に取り組む。
(d) 地域の人材バンク(本校ではヒューマンファンドと呼んでいる),学園都市の研究機関や公的機関の協力を積極的に受け,地域と一体となり研究を進める。
(e) PTA本部を中心に保護者の協力を得,協同で研究を進める。
(f) ホームページを開設し,学校間や研究機関と情報を公開しあい,意見の交換を行う。このような研究が進んでいけば,多くの人と情報,意見を交換しあいながら,幅広く課題に対する解決方法を探っていける。また,インターネットを活かした協同学習を進めることによって,身近な地域のみならず,世界と一体となった学習の方法への道が開かれる。

1学年 活動概要

1 テーマ  「身近な環境を考える」

2 ねらい
 環境の現状を認識し,問題を把握しながらよりよい環境づくりのために環境の保全に配慮して生活していこうとする実践的な課題解決能力を育成する。

3 学習の経緯
(1)
環境問題の現状を知る
 学習に入る前に,環境に関する意識調査をしたところ,ゴミ問題,水質汚染,大気の汚染,自然に関する環境破壊などに興味・関心が高かった。そこで,もっと身近なことに目を向け自分たちの課題づくりの手がかりとするために「野外観察体験」を実施した。この活動で生徒は,道端の植物の種類に注目したり,公園のゴミ箱の数に関心を持ったりと,環境に対する新たな疑問を見いだす機会となった。
 次に,環境問題に取り組んでいる機関をグループに分かれて訪問した。環境研究所,くらしとJISセンター,筑南クリーンセンター,市役所の環境課などで実態を知る活動を進めていった。
 また,保護者にも生徒たちが学習している内容を知らせると,講演をしてくれるという連絡を得ることができた。平素研究しているエネルギーに関することをさまざまな資料を用いて説明してもらって,少しずつ環境問題の深刻さを実感してきた。その後,親子対話集会を開いて環境問題を話し合う機会を持った。身近にいながら親の環境への取り組みを知らずにいたことの反省や便利さばかりを求めたことが自然環境を壊す原因に なっていることなどの意見交換を活発に行った。これが家庭でも考え合うことにつながったようである。
 さらに,筑波大学のエコレンジャーの話を聞く機会を得た。体験談や活動事例などを 聞き,最後に「すぐに結果を求めずに,とにかくやってみることが大事なことだ」とい う熱い呼びかけにかなり共感して,夏休みの自由研究に取り組む参考となった。
(2) 問題解決の方法を調べる
 自由研究の内容からもっとテーマを絞って,各グループごとに追究を進めていった。文献で調べるグループは図書館へ,インターネットで調べるグループはコンピュータールームで,詳しく話を聞きたいところは研究所や市役所へ行くなど,自ら先方とコンタクトをとって活動することができるようになった。学校の理科室で水質調査を行った後,研究所の協力を得てもっと細かい実験を行ったグループもある。
(3) 環境保全のためにできることを考える
 これまで学習してきたことを振り返りながら,環境のために自分たちができることを考えてきた。その一部が,学校周辺のゴミ拾い,環境保全の提言,石鹸作り,再生紙作り,リサイクル品の作成,堆肥作り,校内の樹木の名札付け等である。さらに,グループごとに活動計画を立てて取り組んできている。

 今後の課題
 生徒の環境に対する意識や行動の変化を見るために,10月に入り,2度目のアンケートを実施した。その結果は次のようであった。「環境」について学習してきて,以前より「環境に関心を持ち,何かをしよう」という気持ちを持ってきている。具体的に自分ができることを考えている生徒も多くなった。
 環境に関するアンケートから一部抜粋
・待機電力のことも考えて,節電するようになった。
・再生紙を利用したものやエコマーク商品を探して買うようにしている。
・水道をこまめに止めて,水を無駄づかいしないようになった。
・ゴミを捨てるとき,分別を考えて捨てるようになった
・新聞や雑誌の中に出ている環境に関する記事を前より読むようになった。
・道路にゴミや空き缶などが捨ててあると気になるようになった。
 以上のように,環境問題を自分の問題としてとらえているのがうかがわれる。今まで学習してきたことが行動にまで結びつくことが大切であるならば,もっともっと,生徒たちの身近なところで広がっていくことを,まずは期待したい。
 次に,「環境」の学習全般を振り返ると,下記のような問題点が残る。
 ひとつは継続して追究できる課題を考えることができない生徒や,課題を立てることができても目的意識を持って追究できない生徒もいる。このような学習意欲や能力の差を,教師の支援でどう解決していくかを考えていく必要がある。
 ふたつめは体験活動であるが,生徒自身が「学び方」を身につける上で効果的であった。より効果的に進めるために,教師がネットワークをフルに活用して,体験活動先を開拓し,生徒が自分の課題に応じて選択できるように仕組むだけの余裕があるとよい。同様に,地域の人材を有効に生かすため,環境保護活動をしているボランティア団体やナチュラリストなどの人材を発掘し,人材リストを整備しておくと,生徒が自分で資料を得る機会となるのではないか。
 今後は,よりいっそう課題追究する力を育むという観点から,内容面と活動面の見直しを進めて取り組んでいきたい。

第2学年活動概要

1 テーマ  「開け,世界のとびら」(国際理解)

2 ねらい
 広く世界に目を向け,さまざまな国や人々の存在を知り,国際社会に生きる日本人としての,ものの見方や考え方を育む。

3 学習の経緯
(1) 第1ステップの活動「社会体験学習に行こう」
 国際理解学習を始めるに当たって,テーマを全員で話し合うと共に,生徒の実行委員会を組織した。テーマ「開け,世界のとびら」を決定し,世界に目を向けるため,1泊2日の社会体験学習に東京へ出かけることにした。まず,社会科でブラジルに関する学習を行い,さらに,ブラジル大学教授であり保護者でもある方を招いて,ブラジルに関する講演会を開催した。その後に,130名の生徒は男女混合の6名から8名のグループをつくり,班ごとの活動目標を話し合って,その目標を達成するための見学地探しを開始した。東京を中心とした見学・体験箇所は大使館,JICA(国際協力事団),ユニセフ,博物館,美術館,寺院などであったが,それぞれの目標「日本文化を見す」「世界のボランティア活動を知る」などに沿って観たり聞いたり体験したりこれまでの学習で,疑問に思ったことを明らかにしようという目,活発にグループ活動をすることができた。2日目は3コースに分かれ,A.歌舞伎などの日本の伝統に触れる,B.横浜で外国との接点を探る,C.JICAでの体験活動をそれぞれ展開した。
 次に,それらの体験を発表するため,班ごとに資料づくりを行った。発表会は4教室で同時開催し班ごとの発表,個別自由見学,また保護者参観とした。発表グループの内容一覧から各個人が見学する教室を決め,自分の体験に他の班の体験を重ね合わせたり,付け加えたりして,世界を知る手だてがたくさんあることを知り,さらに学習を広げることができた。
(2) 第2ステップの活動「日本と世界を見つめよう」
 さらに新しい目標を見つけるため,ワークショップとして外国人や活動家の体験を聞いたり,いっしょに作業をしたりする活動をした。 タイ料理教室,中国の方とのサッカー大会,ブラジルの模擬誕生会とピニャータ(くす玉)づくり,グルジアのゲームとケーキづくり,海外協力隊員の指導による「異文化体験シュミレーションゲーム」がその内容である。
 その活動から新しい目標を見つけ,調べ学習や調査活動を行うことになった。実行委員会で話し合って5つのテーマ(学習活動案の資料参照)を設定し,新しい分科会グループづくりをすることになった。各分科会では5人程度のグループをつくり,その課題解決に向けてどの方向から学習を進めるかを考え,それぞれの下部テーマを決めて調査活動を開始した。調査方法はインターネット活用(実行委員が指導者として活躍),つくば市立中央図書館からの団体貸し出しの利用(600冊まで6ヶ月間),外国人へのインタビュー,自分たちの手による創作,グループ討論などである。調査の間に討論会を数回行い,いろいろな考え方があることを知って,さらに自分たちの活動を深めていった。その活動成果をもとに,世界各地で活動している人と,いろいろなテーマについて自由討論をしたいと考え,外国人や活動家を招いてグループ国際集会を開くことにした。
(3) 第3ステップの活動「まとめをしよう」
 まとめとして,一人一人が自分の思いを記録し,自分の活動を振り返って,それらの活動から気がついたことや得たことを再確認できるようにしたい。また,日々の生活に「共に生きる知恵」を発揮していけるような意識付けも続けようと考えている。

 今後の課題
(1)
社会体験学習に関する自己評価の結果
(a) 体験学習中に生徒が考えたことは,「世界や日本の文化」より「外国との関係」「国際協力」が多かったが,課題から外れたことを考えていた生徒もいたようである。宿泊を伴う学習では行動そのものに気をとられがちになるので,その面への配慮不足は反省点であっ た。
(b) 2日間の活動で興味をもった事項は,目的に沿った「見学」が多いが,「友達関係」「交通機関」「時間の使い方」など,活動自体に関心が向いた生徒も多い。友達関を深める良い機会となった。
(c) 事前学習である「ブラジル講演会」について,体験学習に役立ったと答えた生徒は約4分の1であり,それらの生徒の大半は大使館やボランティア団体見学者であった。外国に目を向けて自分の課題を見つける動機づけとなったと思われる。一方,役立たなかったと答えた生徒もいて,導入として選択する内容や展開方法をもっと工夫する必要があったようである。

第3学年活動概要

1 テーマ「人と人」 (明日に生きるために)

2 ねらい
 福祉の現状について理解を深めるとともに,人が人間らしく生きるための,人とのかか わりを模索しながら,感謝や思いやりの心を持って,主体的にボランティア活動に取り組 める態度を育てる。

3 学習の経緯
 この学習は,現3年生が2年生の折,文化祭で発表した「国際理解」の学習をさらに身近な所で積み上げて,実践してきたものととらえたい。昨年は,テーマが広すぎたりグループの数が多すぎたりして,個別には十分対応しきれなかった。またグループによって追究の仕方に大きな格差が出てしまい,大変熱心に追究するグループと問題意識の低いグループとに分かれてしまった。
 本年度は昨年の反省を下に,テーマは生徒の独自性が見られる範囲で絞り込み,職員が一人一人の思いに支援できるよう,課題設定等への支援の研修を深めた。また学習全体の骨組みを明確にし,要所,要所に意図的に体験活動を織り込み,生徒の自由さも損なわないようにしてみた。全体の流れは,まず生徒から代表委員を募り,学年全体の問題点の討議や,生徒の興味関心の調査などから,福祉についての関心が高いことにより,3学年のテーマを「福祉」に決定した。
 課題設定においては,生徒と担当職員とが十分な話し合いを持ち,目的意識を明確にして取り組めるよう助言してきた。まず外部施設(11カ所)に出ての「ふれあい体験学習」を行った。これにより生徒は多くのことを感じ,考えを深めたようである。ふれあい体験学習(お年寄りと共に)それまで思い描いていたイメージを払拭するような人との出会いもあったようで,この学習が続く調査活動の根底にあるイメージづくりにはたいへん有効であった。「楽しかった。うれしかった。自然にふれ合えた。また是非行きたい。」等の感想が出ており,次の学習に有効であった。
 次に不自由さを体験するという目的で「福祉移動教室」を実施した。内容は,アイマスク,車椅子,シニア(擬似老人体験),手話,点字についてであり,社協の方や地域のボランティアの方に指導頂いた。課題追究においては,外に出ての調査や聞き取り活動を多彩に展開した。外部機関への依頼等は各自で行った。これらの体験や調査活動をもとに自分の考えをまとめ,主張を明確にした分かりやすい表現を工夫しながら,発表会を行う予定である。この発表会を通して,互いがさらに考えを深め合い,意見を交換しあいながら,それぞれの自己決定が促されることを期待したい。

4 今後の課題
 手探り状態で,点から始まったこの活動も,個々の生徒の中に程度の差はあれ,少しずつ線を結びながら形を作り始めている。当初は,あれもさせては?これもいい経験になりそう・・と思いつきでの教師主導型の展開で精一杯であったが,いつのまにか気付いた頃には生徒は,しっかりと自分の道を見つけ歩みだしていた。
 一人一人の興味,関心を大切にするということで個々の課題設定から出発すべきなのか,教科との関連性を重視して適所に授業を織り込むために全体テーマを絞ってグループ化した方がよいのか,当初たいへん迷って出発したが,個々から入った活動も今では少しずつ固まり(グループ)を作りつつある。
 活動を振り返ると,生徒の意識の高まりは,様々な体験活動の中で人と出会い,人に教えられ共に時間を過ごす中で変容してきたといえる。心を揺さぶるような出会いを体験した生徒は,意欲を持って学習を組みたてていくことができる。どんな出会いをどのような流れで設定していくか,これも大きな課題であろう。それも,ただ外部からの客としてのふれ合いなのではなく,時間を共有する中で,互いの目を見て心の言葉で語り合い,共に働くことで,人間としての感動が生まれると考える。
 また,課題設定から調査活動に至るまで, 生徒の意欲の差にどう対応していけばよいかが私たちの大きな課題であったが,個別に面談を繰り返し助言することで少しずつ生徒は前向きになってきた。一人一人を生かすには面接指導が大切であることが痛感させられた。
 また,知るための気づきの時間(一斉の形態),自分の方向性を決める時間(選択の形態),個別に調査活動する時間(個人の形態),共有化する時間(一斉の形態)をどう授業と関連付け,学習計画の中に織り込んでいくかも私たちの今後の課題であると考える。更なる研修を積み重ねていきたい。

ワンポイントアドバイス
 いろいろな分野の外部講師(人材バンク)をバンク化することが必要。それにより活動にかなりの幅がでてくるので,生徒の活動意欲が高まる。また,インターネットを利用して,調査活動を行う場合,校内LANは有効な手段となり,情報の収集・情報の共有の面で能率的な活動が期待できる。


利用したURLなど
 ふくしネットワークいばらき (http://www.ibaraki-welfare.or.jp)
 国際ボランティア計画    (http://www.unv.org/japanese/
 JICA            (http://www.jica.go.jp/)
 日本ユニセフ協会      (http://www.unicef.or.jp/)
 自転車発電器マニュアル   (http://www2s.biglobe.ne.jp/)