新教育課程における情報教育に向けて
― 理科の授業時間を使った情報リテラシーの育成 ―
高等学校1年 理科
茨城県立岩井高等学校
理科 入江利明,齊藤達也
irie@iwai-h.ed.jp saito@iwai-h.ed.jp http://www.iwai-h.ed.jp/
キーワード 高等学校,1年,理科,新教育課程,情報,授業実践
企画の意図
平成15年度から実施される新教育課程において導入される『情報』に向け,どのような授業を組み立てるかを探る実践研究として,在学中にコンピュータ及びインターネットを活用できるように,1年生の理科の授業時間にそのための能力を育成する授業を行う。
1 化学の授業時間を使った情報教育
(1) はじめに
岩井高校は,1学年8クラスで生徒の進路が多様であるために,2年次より主に就職希望の1類型4クラスと主に進学希望の2類型4クラスに分けている。理科の履修は,1年次は全クラス共通で化学IB(4単位),2年次は1類型では地学IBと物理IB(各4単位)の選択,2類型では生物IBと物理IB(各4単位)の選択,3年次には1類型では生物IB(4単位),2類型では化学II,生物II,物理II,他教科(各4単位)から2科目選択となっている。
一方,入学した生徒に対するコンピュータとインターネット利用のガイダンスは,100校プロジェクト当時からの主担当と副担当が理科担当であったために,この2人がここ数年担当しているクラスを中心に他のクラスについては授業時間をもらい,各クラス数時間のガイダンスを行ってきた。しかし,この数時間のガイダンスではコンピュータとインターネットの利用紹介程度にとどまり,生徒達が自分でインターネットを活用していくのには不充分であり,また,教科でコンピュータやインターネットを使うときにあらためてガイダンスが必要となるなどの問題点を感じていた。
校内では平成15年度(2003)からの新教育課程に向けてカリキュラムの編成が教育課程検討委員会を中心に進められていた。その中で,新しく導入される教科『情報』をどのように扱うか検討され各教科でも対応が話し合われた。理科の教科会でも話し合いが行われ,情報を主体的に活用できる知識や技能を身につけさせる『情報A』を選択したらどうかと話し合われ,数年後の導入に向けて実際の指導内容を具体化するために実践的な研究が必要性だということになった。そこで,今までもガイダンスを行ってきた1年生で行っている化学IB(4単位)の1単位分をこの実践研究に充てることとし,内部では時間割の中に化学C(computerの意)という科目名とし,CAI教室の使用時間割の中に固定で確保した。
このようにして,今回の企画である実践研究がスタートした。
(2) 実践のねらい
(a) 新教育課程で導入される『情報』の指導内容について実践的に検討する。
(b) この授業によってその後の高校での学習活動にコンピュータ及びインターネットを活用することができるような能力を身につけさせる。
(3) 利用環境
(a) 使用機種 NEC
PC-9801BA3 40台
(b) 周辺機器 デジタルカメラ ソニーMVC-FD88 2台
イメージスキャナ NEC PCハードウェア: CPU:486DX2,
メモリー:35.6MB,HD: 1.4GB
(c) 稼働環境 CAI教室 PC-98-1BA3 40台(128kbpsでOCNエコノミーでインターネットに接続)
(d) 利用ソフト OS:Windows95,ブラウザ:NetScape Navigator 3.1 Gold,
メーラ:AlMail,エディタ:秀丸,タイピング練習:QL1
2 指導計画
(1) 指導目標
コンピュータの基本的な操作,基本アプリケーションの操作,インターネットでメール,WWWの活用・情報収集,HTMLによる情報発信など
(2) 指導計画
期間 | 指導計画 | 留意点 |
4月〜7月 | Windows95の基本操作 ・Windows95の起動と終了 ・アプリケーションの起動 ・ウィンドウの基本操作 ・ファイルの保存と呼び出し ・コピー&ペースト,カット&ペースト ・日本語入力(ATOK) ・タッチタイピング |
・基本操作はゆっくり丁寧に解説するようつとめる。 ・タイピング練習は第1時に説明し,以降毎時のはじめにレッスンを1つずつ進めるようにした。(7月まで継続) |
インターネット利用ガイダンス ・WWWブラウザ(Netscape Navigator)の基本操作 ・情報収集の仕方 | ・インターネットの校内利用規定に基づき,WWW閲覧上の注意をする。 ・サーチエンジンを用いたキーワードによる情報の絞り込み検索ができるようにする。 | |
電子メール(AL-mail 16bit版)版の基本操作 ・パスワードの設定 ・メールの送信・受信・返信 ・フォルダの作成と受信メールの整理 ・アドレス帳の作成 ・シグネチャの作成 ・ネチケット |
・電子メールの仕組みを説明し,特にパスワードの重要性を説明する。 ・ネチケットに関しては随時解説する。 | |
9月〜12月 | HTML講座 ・基本構造 ・見だし文字,水平線,改行 ・リンク集の作成 ・リスト ・文字装飾 ・練習問題1 ・画像の貼り付け ・練習問題2 ・インデックスを作ろう |
HTMLの作成にはテキストエディタ,ブラウザを同時に開き,マルチウィンドウ環境に慣れると同時に,演習を通してコンピュータリテラシーの向上を目指す。 ・素材に関しては著作権に関して十分解説し,著作権を侵害することがないよう十分注意する。 |
1月〜3月 | WWWによる情報発信 ・画像処理の基本 ・FTPによるファイル転送 ・創作活動(ホームページの作成) |
・今までの学習の総まとめとして各自のホームページを作成し,サーバーに転送し公開する。 ・著作権の侵害,個人情報の流出がないよう注意する。 ・ページの内容などにも留意する。 |
3 学習の展開
(1) 1学期 パソコンに慣れる
1学期はまず,コンピュータに慣れ,基本的な操作を習得することにより,今後本校のネットワーク環境をさまざまな場面で活用できるようにする。Windows95の基本操作に始まり,インターネット利用のガイダンス,メールやWWWの活用を中心に授業を展開した。テキストは独自で作成したものを使用した。(図1)特にメールに関しては,基本的な送信・受信・返信のほか,アドレス帳の作成,フォルダによるメールの仕分け,シグネチャの設定なども実習し,今後メールを十分活用できるだけの能力を身につけられるよう授業を展開した。また,1学期中はタイピング練習を毎授業のはじめに10分〜15分行うようにした。
(2) 2学期 HTML講座
最終的には各自のホームページを作成し,WWWによる情報発信ができるようにするため,2学期はHTMLの学習を通して,コンピュータの情報処理能力を高めていった。テキストはサーバに校内からのみ参照できるようページを作成し,そこに各授業の展開内容,HTMLを書く上で参考になるページのリンク,素材を入手先のリンクを置き,毎時このページを参照しながら授業を展開した。(図2)
また,HTMLタグ一覧と使用例のページも自作し,サーバに置いて,授業中いつでも参照できるように準備した。他にもJavaScriptを用いたカラーサンプルのページも用意し,背景色や文字の色を参照できるようにした。「Webページを作ろう」のテキストはプリントとHTML版の2種類を用意した。内容的にはプリント版は簡潔に,HTML版は若干詳しい解説をほどこし,こちらはCAI教室のコンピュータの環境に合わせた解説のため,校内からのみ参照できる設定にした。
一例として,2学期第7時「BODY TAGと画像の貼り付け」の授業展開を示す。すでに文字のみによるページ作成の基本は終了しており,マルチウィンドウによる開発環境,ファイル操作,コピー&ペーストなどもかなり慣れてきた段階での展開である。生徒たちも画像を表示できて一気にWebページらしくなり,Webページ作りの楽しさを覚え始めてくれる時期である。
「BODY TAGと画像の貼り付け」の授業展開
学習活動 | 指導上の留意点 |
ブラウザを2つ開き,一方は化学Cのページを参照するために,もう一方は各自の作成したページを確認するために使用する。 | 今回から新しいファイルを使用するので,前回まで使用したファイルは開かなくてよい旨を事前に説明しておく。 |
化学Cのページにある「HTMLの基本構造」を表示し,フロッピーディスクにindex2.htmlという名前で保存し,ブラウザ及び秀丸で開く。 | 保存する場所を間違えないよう注意する。机間巡視して,誤操作,あるいはコンピュータの不具合がないか確認する。 |
BODYタグのbgcolorを編集し背景色が変わることを確認する。 | bgcolorについては復習になるが,各自が正しい場所にファイルを作成できたかを確認するために行う。 |
用意した背景用画像から好きなものをダウンロードし,BODYタグのbackground属性を設定し,背景の画像を変える。 | 画像をディスクに保存する方法を説明する。このとき,著作権の事にも触れておく。また,画像ファイルの種類(GIF,JPEG)についても簡単に説明する。 |
背景に合うようにtext属性を変更し,テキストの色を変える。 | テキストと背景の配色を考慮し,視認性のよいページの作成を心がけさせる。 |
用意したサンプル画像の中から好きなものをダウンロードし,IMGタグを用いて各自のページに表示する。 | アニメーションGIFについても簡単に触れる。IMGタグの属性については次回学習することにし,ここでは触れない。次回の予告をして終了。 |
(3) 3学期 創作活動
3学期は,最終的に各自のホームページを作成し,公開できるようにする。2学期にできなかった,画像処理,FTPの使い方を学び,あとは創作活動とする。ページの作成にあたっては,著作権や個人情報の流出などに十分留意し,内容についても,最低限盛り込むべき項目を提示し,創作しやすいよう配慮する。
4 成果と課題
(1) 成果
(a) 平成15年度から実施される新教育課程における「情報」に向けてある程度の方向性を掴むことができた。
(b) 生徒達がこれからの高校生活の中でインターネットを活用できる基礎的な能力を育成できた。
(2) 課題
(a) 生徒用パソコンシステムは平成6年度に整備されたもので,故障するパソコンが出てきている。また,パソコンやインターネットを授業で活用する教科が増えてきたため,現状のCAI教室1室では足りない状態になってきている。コンピュータ教室増設やシステムの更新等,設備の充実が望まれる。
(b) 1単位の授業は振替休日や学校行事等でつぶれることが多く,授業時間の確保が難しい。そのためクラスによって授業実施の時間数がばらつき,授業の進度に差が出てしまった。また,パソコン利用上必要とされるタイピング練習のための時間を授業時間内に確保することが難しかった。今回の実践のように週1時間で1年間行うのではなく,1年次の1学期に集中的に時間を確保して,高校在学中の学習活動に活用できる情報リテラシーを育成することも考えられる。また,小中学校での情報教育が今後進むことによって,指導内容を精選できるようになることも期待している。
(c) 今後も新教育課程における「情報」導入に向けて実践的研究を行い,対応していきたい。
ワンポイントアドバイス 情報リテラシー教育は,いろいろな教科のいろいろな場面で行われるべきだが,在学中の学習活動にコンピュータやインターネットを活用できるように高校1年次に指導することが重要であると思う。また,今後は中学校との連携によってより効率的な指導ができると思う。 |
参考文献等
高等学校学習指導要領 http://www.monbu.go.jp/news/00000317/km.html
普通教科『情報』試作教科書 http://www.ics.teikyo-u.ac.jp/InformationStudy/
HTMLタグ一覧 http://www.iwai-h.ed.jp/~irie/html-tag/