河内町立岡本北小学校 大西 誠
okakita@apricot.ocn.ne.jp
キ−ワ−ド 小学校,3年,インタ−ネット,環境,食物,電子会議室
インターネット利用の意図
新指導要領では,総合的な学習の時間を地域や学校,児童の実態に応じ,各学校が創意工夫を生かして実施するよう定めている。しかしながら,現在試行段階でありどのように進めていけばよいのかはっきりした方向が見えていない。児童の関心が何に引き寄せられるかも未だ曖昧である。また自ら学び,自ら考える「生きる力」をはぐくむ児童の活動形態も見えていない。
そこで,日常の教科で行う学習の中で少しずつ自分たちを取り巻く身近な環境に目を向け,その場で感じた素朴な疑問・意見から児童と教師が一緒に考え,学習を進めていくことが,初期としてはよいと考えた。
授業を進めるに当たっては,立場の異なった人の見方や種々の情報が必要であるが,時間・空間的に限界がある。ここでインターネットを利用することにより,より多くの情報を入手し,学習の幅を広げることができる。また,学習の成果を発信し,それに対する様々な立場の人々の新たな見方・考え方に触れることにより,新しい学習課題を設定することが期待できる。
以上の点から,今までの学習に少し環境的な目を向け,インターネットを利用していくことで本主題を追求していこうと思う。
1 テ−マについて 「食物について考える」
(1) ねらい
人が生きていくために最低限必要なのが,水,空気,食物である。この中で児童が身近に感じ,興味を持ちやすいと思われる素材は,具体的に目で見て,臭いを感じ,そして味わうことのできる食物ではないかと考えた。また,児童がどのような素材に大きな関心を抱くか,はっきりしていない現状の中では,児童と教師が共に学習課題を設定していきやすいテ−マと思い設定した。
また,「環境教育の目的は,自己を取り巻く環境を自己のできる範囲内で管理し,規制する行動を,一歩ずつ確実にすることのできる人間を育成することにある」(1972年国際連合人間環境会議)とあるが,同じ生活環境の中で育つ児童だけでの学習では環境についての考え方が一面的な見方となり,偏った結論となる危険性がある。そこで,課題設定から結論の発表まで,インターネット,地域の人材,専門的知識のある人などを活用し学習を進めていくことが有効である。
このように人と人との関わり合いを通して児童が関心を抱き,真の探求すべき課題を設定し,環境的な側面からも多様な考え方に触れさせたい。そして自ら学び,自ら考え探求していく中で今後の自己のあり方を見つめ直す学習を創造したい。
(2) 地域・児童の実態
栃木県のほぼ中央に位置し,北に那須の連山,西に男体山,西に鬼怒川と自然に恵まれた平坦な地域である。学区は南北に鬼怒川によって作られた段丘で区切られ,土地の低い西側は田園が広がり,東側は台地の上に団地,工業団地が広がっている。団地の増加によって18年前に新しく作られた学校で,児童数280名余りである。近年また新たな団地が作られ児童数は再び増加している。
校内のコンピュータ室は昨年度末整備され,利用可能となった。また,8月になって職員室にインターネットが利用可能なコンピュータが1台設置され,これから情報教育について取り組んでいく体制を整えていく状況である。したがって,今年度は児童と教師が学習ソフト,ワ−プロソフトに触れ,コンピュータに慣れ親しんで有効な活用方法を探っていくことを学校全体の目的として取り組んでいる。これら校内の環境・児童の実態から,今回はインターネットで受け取る情報は,マウスで児童に検索・閲覧させるが,送る情報については教師側で援助し,送信していきたい。更に,児童が自分たちで送る情報についてもコンピュータで作成し,送信したいと望む学習に進んでほしいと望んでいる。
(3) 利用場面
インターネットを利用する場面として,以下の場で活用できるようにした。ただし,情報を検索・閲覧し,プリントアウトするのは児童が行っているが,児童が調べた情報を作成し送信するのは,主に教師側で行っている。
(a) ニフティサ−ブのワ−ルドネットワークフォ−ラムの電子会議室を舞台に,国内外の団体と食べ物をテ−マに実践していることをオンライン上で議論し,学びを深める。
(b) 疑問に思ったテーマについて必要な情報を検索し,調べる。
(c) ワ−ルドスク−ルネットワ−クのホ−ムペ−ジを利用し,調べている活動の経過を掲載する。
(d) 生きていく知恵を求めて北海道から東京までを徒歩で縦断中の冒険者グレゴリ−・マイケルに本校を訪問してもらい,児童が見つけた知恵を報告し意見交流を図る。更に,冒険者によって報告される「知恵だより」レポ−トを電子会議室(ニフティサ−ブのワ−ルドネットワ−ク)に報告してもらい,それについて他団体と意見交流をすることにより,新しい課題作りを図る。
(4) 利用環境
(a) 使用機種 (b) 周辺機器 (c) 稼働環境 (d) 利用ソフト |
SOTEC Micro PC STATION 1台 デジタルカメラ SONY Digital Mavica 1台 コンピュ−タ室 (NEC Mate NX MA23C 21台) 職員室(SOTEC 1台64kインタ−ネット接続) Picture Gear3.2 インタ−ネットエクスプロ−ラ5 |
2 活動内容と経過(小学校第3学年)
過程 | 主な活動内容と児童の気づき | 教師のはたらきかけと経過 | |
畑作りの体験を通して,食物にふれる | 作物を作って見よう ・教材園にサツマイモ苗の植え付けを行う。 ・桑の葉を採集し,蚕の飼育をする。 ★インタ−ネットの利用 |
・食べ物を育てる体験を通して,食のサイクル・作物の生命力・様々な生物がそこにいることを感じ取らせる。 | |
食物に関する疑問を持つ | 遺伝子組み替え食品とは,何だろう ★インタ−ネットの利用 |
・遺伝子組み替え食品について偏った意見や恐怖心を抱かせぬようテレビ,新聞等でどのように伝えられているか,児童に提示する。 ・茄子やピーマン,トマト,胡瓜,二十日大根などの収穫が始まり子どもたちは喜んでいたが,遺伝子組み替え食品を知る。トマトピーマンの苗を栽培している子がそれを食べるか否かで悩み議論となる。1ヶ月後,苦労して作ったのだから,結局食べようということになった。 電子会議室には児童の生の声を支障ない限り,できるだけ原文のまま送信した。 | |
食物について調べる | おやつのとりかたについて考えよう おやつについて調べるテ−マを決め,調べ学習をする。 フランスとアメリカの食べ物論争 ★インタ−ネットの利用 |
朝食や夕食は家庭での配慮,昼食は栄養上管理される給食など,児童が主体的に食物のとりかたについて行動をおこすことが難しい。そこで話し合い,おやつについて考えていくことに決めた。 調べ学習やまとめ方についてまだ,慣れていない。そこで集めた資料や情報はグル−プごとにテ−マに沿って調べ学習をするが,クラス全体にその都度提供し,意見を聞いていった。 活動の予告をすることで,児童は電子会議室で前もって,資料提供を呼びかけ,送られた資料を生かした学習を進めることができた。 予想していない方々からの資料提供があり,児童の活動に活気がでてきた。ただ,内容的に難しい資料もあり,援助を必要とした。 資料提供していただいた方々には,電子メ−ル,電子会議室等で児童からのお礼の言葉を送った。 | |
食物についてまとめる | おやつについて調べたことを発表しよう 調べた結果を整理し,まとめる方法を考える。 グル−プごとにまとめ方を工夫しながら,表現する。 リハ−サルを行い,クラスで意見交換し,アドバイスをする。 授業参観で,自分たちの調べたこと,願いを保護者に訴えかけ,ともに考える。 冒険者グレゴリ−・マイケルに見つけた知恵として,調べたことを発表し,冒険者との交流の中で自分たちの活動を振り返る。 ★インタ−ネットの利用 |
授業参観で保護者に訴えかけることを目標に,内容をまとめさせていく。 児童の興味を生かし,紙芝居,劇,イラスト等を使った多様な表現方法を促す。 授業参観の様子をビデオで録画記録し,児童と保護者のやりとりを電子会議室に載せ,学習のまとめとして他の団体に知らせる。 アメリカ人として,冒険者としての意見を率直に述べるよう冒険者と事前に打ち合わせておく。 冒険者の通過経路,ビデオレタ−等を事前に児童に提示したり,電子会議室での意見・質問の交換をしたりすることで児童の興味を持続させる。 冒険者との交流,その後の電子会議室での他団体との議論の中で,新たな課題作りをねらう。 | |
更に食物について考え,活動する |
・ 野山で採れるおやつを探す。 |
昔のおやつについて調べた時,昔は畑で採れる作物,野山にある実などを食べていたとわかった。春に,食べた野イチゴや桑の実のことを思い出し,食べ物探しが始まる。季節が秋なので,ないことがわかると図鑑で調べ,アケビ採りが始まった。 東海村原発事故後の作物は安全であるとの報道が出たが,不安に思う児童もいた。一方で生産者は作物が売れずに困っている話を聞き,話し合いの結果,募金を行うことにした。校長先生や児童会に働きかけ,赤十字社を通して東海村に募金をした。 遺伝子組み替え食品について話題提供してくれたフランスの方に何かしたいということで,遺伝子組み替え食品について考える学芸会用の劇を作り,送ることになった。 |
3 実践を終えて
この学習を始めるに当たって,食物の生産の苦労を実体験させ,それによって考えを広めることを意図し,耕作体験をさせた。このことが,それまで経過を載せてきた電子会議室の議論された時,体験を通しての真の意見提示ができる支えになったと感じる。更に,そのコメントを読んでくれた人たちの興味・関心をよせ,たくさんの返事となって返ってきたことは児童にとって大いなる喜びとなった。国内だけでなく,遠く離れた外国の方との交流ができたことは,児童のやる気を喚起させた。また,地域・考え方・立場の違う人々が同じテ−マで考え,議論していくことで児童の物事に対する見方に変化を与えることができた。
今後の課題としては,文章のみで通信する電子会議室や電子メ−ルでは,児童の活動や思いが十分に相手に伝えきれないことを感じた。今後,画像での交流もできるホ−ムペ−ジの作成をして,他団体との更に活発な情報交換を図っていきたい。
私たちはめざましい進歩によって,生活の便利さ、快適さを手に入れた。しかし,環境破壊という落とし穴があった。自然と共生することで生活を営んでいたかつての人間の暮らしが,地球環境を守っていく上で理想であるのだが,今の私たちにとってそれは不便であり,厳しいものである。現代において,これからを生きる子どもたちは,地球環境を鑑み自分はどのように生きるべきかを追求していかなければならない。そこで,オンタイムで多種多様の情報を受け止め,自分の思考を豊かに広げながら正しい判断のできる児童を育成するために,インタ−ネットを利用することは有効である。そのような立場にたって,今後も環境的な側面から,総合的な学習の時間について更に研究を深めていきたい。
ワンポイントアドバイス 環境教育に関する学習をインタ−ネット上で進めていくには,ワ−ルドスク−ルネットワ−クという団体を利用すると有効である。現在,野生生物・ゴミ・平和・水・食のサ−クルに分かれ,議論していく中で学習を進めている。 |
利用したURLなど
ワ−ルドスク−ルネットワ−ク(http://www.wschool.net/)
ワ−ルドスク−ルジャパンフォ−ラム(http://iw.nifty.com/iw/nifty/fwschool/index.html)
東京都衛生局食品保健課(http://www.tokyo-eiken.go.jp)