学びを開くインターネットの活用
小学校第4学年・社会科及び学活
越谷市立宮本小学校 麦倉 芳信
内田 文雄
キーワード 小学校,4年,学校間交流,インターネット,社会科,調べ学習
インターネット利用の目的・意図
今回の「学びを開くインターネットの活用」は,大きく2つの実践に分けられる。1つ目は,Eメール交換を中心とした学校間交流,2つ目は,社会科の調べ学習におけるインターネットの利用である。社会科は,本校が長年にわたって取り組んでいる研究教科でもあり,今までの成果に加えてインターネットをどれだけ有効利用していくかが実践の鍵となってくる。また,両者の実践は全く別個のものではなく,お互いに影響し合いながら進められてきた。両者とも,インターネットを通じて児童の学びが広がっていくことを最大の目的としている。
1 実践内容
(1) 利用環境
(a) 使用機種
コンピュータ室 富士通FM-TOWNSII22台
富士通FMV-DESKPOWER1台(ISDN64kでインターネット接続)
職員室 Iiyama F500JS1台 (ISDN64kでインターネット接続)
(b) 周辺機器 ワイヤレスTA/デジタルカメラ3台/
カラープリンタA4対応10台(児童用)A3対応1台(教師用)
(c) 利用ソフト 絵本ライター/CU-See Me/Office2000/一太郎ver.10/ボイスATOK
(2) 実践内容
(a) インターネットを利用した学校間交流
第4学年においては,インターネットを利用して富山県立富山養護学校高等部との学校間交流を試みた。中心となるのは宮本小学校4年1組(担任 麦倉芳信,児童数 男子19名,女子17名,計36名)と富山養護学校石崎級(担任
石崎康弘,生徒数 男子3名,女子1名,計4名)との学級間交流である。
以下,順を追って実例も示しながら交流の軌跡を述べる。
(9月,10月)
富山養護学校への学校間交流のお願い。富山養護学校の石崎先生とは顔見知りであり,すぐに快諾して下さった。
メール交換をはじめる。はじめはこちらから,子どもたち一人一人の自己紹介を,写真を添付して送ることからはじめた。(実例1,図1参照)
実例1 児童の自己紹介文
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図1 養護学校に送った児童の写真 |
メールを作成することのできるコンピュータが足らないため,今回は児童が手書きしたものを担任が打ちなおして送った。ただし数名の児童は自宅にパソコンがあるので,保護者と協力しながら作成してきてくれた。
数日後,富山養護学校より返信メールをいただいた。(実例2,図2参照)
実例2 富山養護学校からのメール
(富山養護学校より) |
図2 養護学校から送られてきた写真 |
互いに学校行事等で忙しく,頻繁にというわけにはいかないが,メール交換を進めていくうちに児童はそのおもしろさがだんだんわかってきたようである。「先生,メールはまだ来てませんか。」とか,「今度K子さんに質問のメールを送りたいんだけどいいですか。」といったような反応も聞かれるようになった。
また,児童に実際にコンピュータにふれる機会も増やしたいと考え,コンピュータ室にあるFM-TOWNSIIを使い,絵本ライターソフトを利用してメッセージカードを作成し,添付ファイルで送るようにした。簡単な絵と文章の作成だが,マウスやキーボードに慣れるよい機会となっているようだ。
(11月,12月)
社会科の学習で「山地のくらし」の学習に入った。今までの学習では市内や県内など,身近な地域の事柄を学習してきたが,日本各地の学習は児童にとって初めてである。教科書では高知県池川町を山地のくらしの例として取り上げているが,富山県の山地の様子も学習に役立つと考え,児童に養護学校に質問メールを送ってみるように促したところ,児童は絵本ライターでカード形式の質問メールを作成した。以下,その質問と返答である。(実例3参照)
実例3 児童の質問メールとその返答
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「山地のくらし」の学習発表会では,質問をした児童たちは上記の返答を十分に生かして発表を行っていた。社会の調べ学習でのインターネット活用は,1−(2)−(b)の「社会科の調べ学習でのインターネット活用」でくわしく述べる。
また,デジタルカメラで撮影した児童の作品を,添付ファイルで送った。富山養護学校から感想のメールが来るのが児童にとってとてもうれしいようである。
(3学期)
3学期は,従来通りメール交換を進めていくとともに,新たな試みも進めていきたい。たとえばCU-See Meソフトを使ってのテレビ会議などはたいへん興味深いが,相手校にはまだCU-See
Meソフトが入っていないため,今年度中には実現しない可能性が高い。そのかわり越谷市内の鷺後小学校にはCU-See Meソフトが入っているため,2月までにはテスト的にテレビ会議を行ってみる予定である。今後も活発なインターネット交流に向けて活動を進めていきたい。
また,3学期の社会科では「あたたかい地方のくらし」と「雪国のくらし」の学習を行う。「あたたかい地方のくらし」では,次項でくわしく述べるインターネット上の情報を有効に活用するとともに,和歌山県の有田ユースホステルとのインターネット交流も計画している。「雪国のくらし」の学習では,富山養護学校はもちろん,長野県松本市立伊那北小学校との情報交流も計画中である。
(b) 社会の調べ学習でのインターネット活用
本校では社会科の授業研究に力を入れている。社会科の授業では,児童の調べ学習が中心となる。その際,以下に示すように,各学年ともインターネット上の情報を有効に利用してきている。
第3学年…地域の特産品についての情報(だるま産業等)
第4学年…葛西用水を中心とする川や用水の情報,日本各地の地域情報(山地のくらし,低地のくらし,あたたかい地方のくらし,雪国のくらし)
第5学年…情報産業に関する情報
第6学年…歴史上の人物についての情報や,政治に関する情報
以下,第4学年における実践をくわしく述べたいと思う。
前項でも述べたように,第4学年では日本各地の暮らしの様子を学習するが,その際の資料収集にはインターネット上の情報がたいへん有効である。
「山地のくらし」の学習では,教科書には高知県池川町の様子が紹介されている。池川町は町ぐるみでインターネットが盛んなところらしく,町のホームページも実に充実したものである。児童に池川町のホームページを紹介したところ,児童は積極的に様々な情報を集め,学習発表会ではそれらが有効に活用されていた。また,池川町の情報とあわせて交流校である富山養護学校からも情報をもらったのは,前項で述べたとおりである。
これまでの学習発表会では,児童は新聞,紙芝居,人形劇などの形で発表を行ってきた。今回は初めてそこにコンピュータを使った発表形式を取り入れてみた。絵本ライターソフトを使って絵をかいたり,絵をつなげて絵本を作ってテレビ画面上で発表を行った。今まで行ってきた紙芝居での発表がテレビ画面に移っただけかもしれないが,コンピュータなら絵が苦手な児童でも容易に描くことができるし,また,コンピュータに慣れ親しむという視点からも有効であったと思う。また,絵本ライターで作成した絵本はFM-TOWNSIIでしか見ることができないが,作成した絵をTIFファイル形式で保存すればEメールの添付ファイルで送ることもできる。
学習のまとめでは池川町の人たちに向けてメッセージを作成し,Eメールで池川町のホームページに送った。(実例4参照)児童たちは返事が来るのを楽しみにしている。
実例4 池川町へのメッセージ
私は、インターネットを見て、池川マップや虫送りの資料、人口の変化、椿山のことがよくわかって社会の発表会がよくできました。ありがとうございました。(女子) |
2 成果と課題
インターネットの利用を意識した学習研究を進めてきて,児童はどのように変化してきたであろうか。
Eメール交換を中心とした学校間交流では,最初は興味関心が薄かった児童もいたが,回を重ねるごとに,そのおもしろさが実感できたようである。Eメールならではの良さ,すなわち,送受信が早いということも魅力の一つであろう。先にも述べたが「K子さんに質問のメールを送りたい」とか,「メールを送りたいので教えて下さい」というような声もだんだんと聞かれるようになってきた。
社会科の調べ学習では,最初はインターネット上の情報は教師の方から示すだけであったが,最近は児童の方から積極的に情報を活用しようとしている。社会科の調べ学習や発表会で,インターネット上で見つけた情報を活用したり,また,コンピュータを使って発表するグループも増えてきた。このように,コンピュータやインターネット上の情報を学習の一つの手段や道具として,自然な形で使えるようになってきたようである。(図3・4参照)
図3 コンピュータを使った発表 |
図4 コンピュータ室の利用 |
今回の実践で障害となったのは,児童数に対するコンピュータの不足である。本校のコンピュータ室のFM-TOWNSIIでは,今回のような教育実践においては利用方法も限られてくる。また,児童が自由に利用できるインターネット接続パソコンが1台しかないことも,障害となった。今後は,限られた設備の中でそれらをどのように最大有効利用するかが課題となるであろう。
しかし今回,絵本ライターソフトでカードを作ったり,キーボード操作に慣れさせるという点では,コンピュータ室のコンピュータも有効に利用できた。また,1台のインターネット接続コンピュータからの情報が,社会科の学習や学校間交流の窓口となって,児童の学びを大きく広げることができた。
今後は,コンピュータやインターネットを利用した学習がますます盛んになってくるであろう。コンピュータやインターネット上の情報を道具や手段として利用していくことも大切であるが,そこには機械だけでなく,人々の心や思いが込められていることも考えていきたいと思う。そして今回の実践にもあるように,インターネットを通して遠く離れた人たちとも心の交流ができるし,学びを広げることができるということも忘れずにいたい。
ワンポイントアドバイス |
協力校・協力者
富山県立富山養護学校/越谷市立鷺後小学校/ 和歌山県有田ユースホステル/松本市立北伊奈小学校
利用したURLなど
高知県池川町ホームページ(http://www.ikegawa.to/indax.html)